深頸部膿瘍しんけいぶのうよう
深頸部膿瘍は、首の奥深いところに膿(うみ)がたまる重い感染症です。高熱や首の腫れ、飲み込みにくさ、口が開けづらい、息苦しさなどがみられ、放置すると窒息や敗血症など命に関わることもあるため、早期の受診と入院治療がとても大切です。
目次
⚫︎深頸部膿瘍とは?
深頸部膿瘍は、首の深い部分(筋肉や血管のまわりのすき間=「深頸部間隙」)に細菌感染がおこり、膿(うみ)のたまりができた状態をいいます。頸動脈や頸静脈、気管・食道など大事な臓器のすぐそばで炎症が起こるため、短い期間で重症化しやすい病気です。
もともとののどの炎症(扁桃炎や扁桃周囲膿瘍など)や歯の感染が、首の深いところまで広がって発症することが多く、強い痛みや発熱に加えて、呼吸困難や飲み込みにくさ、首のはれなどが同時にみられることが特徴です。
⚫︎深頸部膿瘍の原因
深頸部膿瘍の主な原因は細菌感染です。いくつか代表的なパターンがあります。
のどの病気から広がる
扁桃炎・扁桃周囲膿瘍、咽頭炎、喉頭炎など、のどの細菌感染が首の深いすき間に広がり、膿がたまります。
歯・口の中から広がる
むし歯や歯周病、親知らずの周囲の炎症などが、あごの骨や首の奥へと進展して膿瘍をつくることがあります。
外傷や異物
魚の骨などの異物がのどに刺さったり、手術や注射などの医療行為がきっかけとなり、細菌が深部に入り込むことがあります。
体の抵抗力が落ちている場合
糖尿病、腎不全、ステロイド内服中、がん治療中など、免疫力が低下していると感染が広がりやすく、重症化しやすくなります。
原因となる細菌は、口の中にふだんからいる連鎖球菌(れんさきゅうきん)や嫌気性菌(空気が苦手な細菌)など、複数の細菌が混ざっていることが多いとされています。
⚫︎深頸部膿瘍の症状は?
深頸部膿瘍では、次のような症状が組み合わさって出てきます。
高熱・悪寒
38〜39℃以上の発熱と、寒気やだるさが強く出ます。
首の痛み・はれ
首の片側〜両側が急に腫れて、触ると強く痛みます。皮膚が赤くなったり、熱を持つこともあります。
飲み込みにくい・のどの痛み
水や食べ物を飲み込むときの激しい痛み、つかえる感じ、よだれが増えるなどの症状が出ます。
口が開けづらい(開口障害)
あごの周りに炎症が広がると、口が指1〜2本分くらいしか開かなくなることがあります。
⚫︎受診の目安
次のような場合は、できるだけ早く耳鼻咽喉科、頭頸部外科、救急外来などの受診を検討してください。
- 数日続く高熱とのどの痛みに加えて、首がはれて強く痛い
- 飲み込みにくさや、よだれが多くなっている
- 口が開きにくく、食事や会話がつらい
- 息苦しさ、ゼーゼーする呼吸、横になると苦しい
- 顔色が悪い、ぐったりしている、意識がぼんやりしている
とくに「息苦しさがある」「横になると呼吸がしづらい」「急に症状が悪化した」といった場合は、救急車を呼ぶことも含めて、ためらわず緊急受診してください。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
深頸部膿瘍が疑われるときには
- まず気道(空気の通り道)が安全かどうかを確認し、必要があれば気道を確保する
- 血液検査や画像検査(主に造影CT)で膿のたまり具合や広がりを調べる
- 入院のうえで点滴による抗菌薬治療を開始し、必要に応じて膿を外科的に出す(切開排膿)
という流れで治療が進みます。
⚫︎深頸部膿瘍の診断
深頸部膿瘍の診断では、次のような検査を組み合わせます。
1)問診・診察
- いつから発熱や首の痛みがあるか
- のどや歯の病気、ケガ、魚骨などの異物の既往
- 糖尿病や免疫低下の有無 などを詳しくうかがいます。
口の中やのど、首のはれを観察し、触って痛みや腫れの範囲を確認します。
2)血液検査
白血球数やCRP(炎症の強さを見る値)が高くなり、重症の感染症であるかどうかの目安になります。腎機能や肝機能もあわせてチェックします。
3)画像検査
造影CT検査
首の断面を詳しく撮影する検査で、膿がたまっている場所や広がり、気道の狭さ、縦隔(胸の奥)への波及の有無などを判断します。深頸部膿瘍では、診断と治療方針を決めるうえで非常に重要な検査です。
超音波検査(エコー)やMRI
状況に応じて、子どもや妊娠中の方では放射線被ばくの少ない検査が選ばれることもあります。
4)膿の検査
切開排膿を行った際に、膿を採取して細菌の種類と、どの抗菌薬が効きやすいか(感受性検査)を調べ、後から抗菌薬の調整に役立てます。
⚫︎深頸部膿瘍の治療
A. 初期対応(まず行うこと)
気道の確保
息苦しさが強い場合や、のどの腫れで気道が狭くなっていると判断される場合は、気管挿管や気管切開で先に「呼吸の通り道」を確保します。命を守るために最優先される処置です。
入院・全身管理
多くのケースで入院が必要です。点滴で水分・栄養を補い、解熱鎮痛薬で痛みや熱を和らげながら、血圧や呼吸状態をモニターします。
抗菌薬治療(点滴)
口の中の菌に広く効くタイプの抗菌薬を、まずは経験的に点滴で開始し、膿の培養結果を見ながら薬を調整します。
B. 膿を出す治療(排膿)
切開排膿
CTなどで膿のたまりがはっきりわかる場合は、局所麻酔または全身麻酔で首を切開し、膿を外に出して洗浄します。膿が大きい、広い範囲に広がっている、抗菌薬だけで改善しない場合に行われます。
針で吸い出す方法
場所や状態によっては、皮膚から針を刺して膿を吸い出すことが選ばれることもあります。
C. 原因の治療と再発予防
- 歯が原因なら、歯科での抜歯や歯周病治療を行います。
- もとの扁桃炎や扁桃周囲膿瘍が繰り返される場合には、扁桃摘出術が検討されることもあります。
⚫︎深頸部膿瘍の予後
適切なタイミングで診断され、抗菌薬と排膿による治療が行われれば、多くの方は数週間の入院で回復が期待できます。
一方で
- 気道が急にふさがって窒息を起こす
- 縦隔炎(胸の奥まで感染が広がる病気)
- 敗血症やショック
- 頸動脈周囲への波及による血栓・出血
など、命に関わる合併症に進行することもあるため、「少し様子を見よう」と先送りにするのは危険な病気です。糖尿病や高齢の方、免疫が落ちている方では、軽い症状でも早めの受診がより重要になります。
⚫︎深頸部膿瘍の予防
完全に防ぐことはできませんが、次のような工夫でリスクを下げることができます。
口腔ケア
毎日の歯みがき・デンタルフロス、定期的な歯科受診で、歯や歯ぐきの感染を予防します。
のどの感染症の早期受診
高熱や強いのどの痛みが続くときは、自己判断で市販薬だけで様子を見続けず、早めに医療機関を受診しましょう。
抗菌薬の自己中断をしない
処方された抗菌薬は、医師の指示どおりの期間きちんと飲み切ることが大切です。
生活習慣病・基礎疾患のコントロール
糖尿病、腎臓病、ステロイド治療中などの方は、主治医のもとで血糖や基礎疾患の管理をしっかり行うことで、重い感染症のリスクを減らせます。
⚫︎深頸部膿瘍に関連する病気や合併症
扁桃周囲膿瘍・咽後膿瘍
扁桃や咽頭の周りに膿がたまる病気で、深頸部膿瘍のきっかけになることがあります。
縦隔炎
首から胸の奥(縦隔)まで感染が広がる状態で、強い胸痛や呼吸困難を起こし、集中治療が必要になることがあります。
敗血症・敗血症性ショック
細菌が血液中に広がり、全身の臓器が障害される状態です。高熱や意識障害、血圧低下などを伴い、命に関わります。
内頸静脈血栓症(レミエール症候群など)
首の太い静脈に血栓(血のかたまり)ができる病気で、肺塞栓症などの原因になることがあります。
気道狭窄・窒息
のどのまわりの腫れが強くなると、空気の通り道が塞がれて窒息の危険が生じます。
⚫︎まとめ
深頸部膿瘍は、歯原性感染や咽頭炎等を契機に、頸部の筋膜間隙へ炎症が波及・膿瘍形成を来す重篤な細菌感染症です。炎症が縦隔(胸の奥)や気道へ及ぶと致死的な合併症を引き起こすリスクがあるため、迅速な対応が不可欠です。
診断においては、造影CT等の画像検査による膿瘍の範囲特定が極めて重要となります。管理においては、強力な抗菌薬の静脈内投与に加え、必要に応じた外科的切開排膿、および安全な気道確保を最優先に計画します。
嚥下困難や頸部腫脹、呼吸不全を伴う症例では、一刻も早い耳鼻咽喉科専門医または救急医療機関への受診を推奨いたします。適切な医療介入により、重症化の回避と早期回復を目指してください。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 兵庫医科大学病院 みんなの医療ガイド「頸部膿瘍」
(https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/99) - Clinical Sup JP「深頸部膿瘍・咽後膿瘍」
(https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1807)
■ この記事を監修した医師
岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック
大阪大学 医学部 卒
東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。
患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。
- 公開日:2026/03/31
- 更新日:2026/03/31
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