薬物性難聴やくぶつせいなんちょう
薬物性難聴は、薬の副作用で耳の奥(内耳)が傷つき、耳鳴りや聞こえにくさが出る状態です。抗生物質や抗がん剤、利尿薬などが原因となることがあり、中には一度起こると元に戻りにくい難聴もあります。薬の中止・変更を含め、早めの相談が大切です。
目次
⚫︎薬物性難聴とは?
薬物性難聴(薬剤性難聴)は、ある薬を飲んだり点滴したりしたことがきっかけで、耳の聞こえに障害が出る状態をいいます。多くは「内耳(ないじ)」と呼ばれる耳の奥の部分が傷つく感音難聴(かんおんなんちょう:音を電気信号に変える部分の障害)です。
代表的な原因薬として、以下のようなものが知られています。
- アミノグリコシド系抗菌薬(ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、ハベカシンなど)
- 白金製剤(シスプラチンなどの抗がん剤)
- サリチル酸製剤(アスピリンなどを高用量で使用した場合)
- ループ利尿薬(フロセミド、トラセミド、ブメタニドなど)
これらの薬は、命に関わる病気や重い病気の治療に必要なことも多く、「絶対に使ってはいけない」というものではありません。ただし、使い方や量、もともとの体質などによっては耳に強い負担となり、難聴が残ってしまうことがあるため、注意深い経過観察が必要です。
⚫︎薬物性難聴の原因
薬物性難聴は、「どの薬を・どのくらい・どんな状態の人に使ったか」によって起こり方が変わります。主な原因のポイントは次の通りです。
耳に毒性(耳毒性:じどくせい)のある薬
アミノグリコシド系抗菌薬や白金製剤は、とくに強い耳毒性で知られており、一度難聴が完成すると元に戻りにくい(不可逆的)とされています。
血中濃度が高くなりすぎた場合
サリチル酸製剤(アスピリンなど)やループ利尿薬は、過量投与や急速な点滴などで血液中の濃度が高くなると、一時的な難聴や耳鳴りを起こすことがあります。多くは薬をやめれば改善する可逆性の難聴です。
腎機能が悪い方や高齢者
薬が体からうまく排泄されないと、同じ量でも血中濃度が高くなりやすく、耳への負担が増します。腎機能障害や高齢者では特に注意が必要です。
⚫︎薬物性難聴の症状は?
薬の使用中、次のような症状が出てきたら要注意です。
耳鳴り
「キーン」「ジー」といった高い音が聞こえることが多く、「アスピリン耳鳴」と呼ばれることもあります。多くは両耳ですが、片耳だけのこともあります。
耳がつまった感じ(耳閉感)
飛行機に乗った時のような、耳にふたをされた感じ・こもった感じが出ることがあります。
聞こえにくさ(難聴)
- 高い音(電子音、アラーム、鳥の声など)が聞こえにくくなる
- 人の声がぼやけて聞こえる、特に騒がしい場所で会話が聞き取りにくい
- アミノグリコシド系や白金製剤では、高音域からの感音難聴が多いとされている
⚫︎受診の目安
次のような場合は、薬を自己判断で中止せず、処方を受けた医療機関や耳鼻咽喉科に早めに相談してください。
- 薬の使用中に耳鳴りが出てきた、または強くなった
- 耳がつまった感じが続く
- 聞き返しが増えた、テレビの音を以前より大きくしないと聞こえない
めまい・ふらつき、歩きにくさが出てきた
- 抗がん剤や強い抗生物質、利尿薬などを大量・長期で使用している最中で、「聞こえ方が変だな」と感じる
- 難聴を指摘されている方で、新しい薬を開始した後にさらに聞こえが悪くなった
薬によっては、命に関わる病気の治療中であることも多く「すぐ中止」が難しいことがあります。まずは自己中断をせず、担当医に症状を詳しく伝えることが重要です。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
診断では、
- どの薬を
- どのくらいの期間、どのくらいの量で
- いつからどんな耳の症状が出てきたか
を丁寧に確認し、聴力検査の結果と合わせて「薬物性難聴の可能性が高いか」を総合的に判断します。
治療の基本は、
- 疑わしい薬の中止または変更の検討
- 残った聴力を守るための騒音回避や生活調整
- 必要に応じた補聴器や人工内耳などの使用です。アミノグリコシド系抗菌薬や白金製剤による難聴は、一度完成すると元に戻りにくく、確立した薬物治療はないとされています
▶︎薬物性難聴の診断
1)問診・診察
- 現在使用中、または最近まで使っていた薬(名前・種類・量・期間)
- 耳鳴り、耳閉感、難聴、めまいなどの症状が出たタイミング
- 過去に同じ薬で耳症状を起こしたことがないか
を詳しく確認します。外耳道や鼓膜を診て、耳垢や中耳炎など別の原因がないかもチェックします。
2)聴力検査
純音聴力検査
さまざまな高さの音を聞き取り、どの周波数でどの程度聞こえにくいかを調べます。薬物性難聴では一般に、両側性の高音域障害が多いとされます。
語音聴力検査
言葉の聞き取りやすさを調べ、日常会話への影響を確認します。
3)必要に応じた検査
- めまいが強い場合は平衡機能検査
- 他の内耳疾患(メニエール病、突発性難聴など)を疑う場合は、追加の検査や画像診断
これらの情報から、「薬物性難聴が主な原因なのか」「他の病気の関与が大きいのか」を見極めます。
▶︎薬物性難聴の治療
A. 基本方針
疑われる薬の中止または変更
薬物性難聴が疑われる場合、原則として原因薬の投与中止が基本とされます。原疾患(がんや重い感染症など)の治療状況とバランスを見ながら、他の薬への切り替えや投与量の調整が検討されます。
耳への負担を減らす
騒音環境を避ける、ヘッドホン・イヤホンの使用を控えるなど、残された内耳の細胞を守る生活上の工夫も重要です。
B. 難聴そのものへの対応
薬物療法
薬物性難聴に対して、ステロイドなどの薬物療法が明らかに有効というエビデンスは乏しいとされています。一方で、内耳血流改善薬やビタミン製剤などが補助的に使われることがありますが、あくまで補助的な位置づけです。
補聴器
中等度の難聴では、適切に調整した補聴器がコミュニケーションを助け、生活の質を大きく改善します。
人工内耳
高度〜重度の両側難聴で補聴器の効果が乏しい場合は、人工内耳が選択肢になることがあります。
C. 耳鳴り・心理的負担への対応
耳鳴りが強い場合には、
- 必要に応じた薬物療法(睡眠薬・抗不安薬などを含む)
- 音響療法(小さな音を流すことで耳鳴りを目立たなくする方法)
- カウンセリング
などを組み合わせることがあります。
⚫︎薬物性難聴の予後
不可逆的な難聴となる場合
アミノグリコシド系抗菌薬や白金製剤などによる難聴は、一度完成すると改善が難しいことが多く、「元の聞こえ」に戻れないケースも少なくありません。
可逆的な難聴となる場合
サリチル酸製剤やループ利尿薬による難聴の多くは、薬を中止すれば改善する可逆性の難聴とされています。ただし、まれに回復が不十分な例も報告されており、油断はできません。
日常生活への影響
難聴や耳鳴りが長く続くと、仕事・家事・人付き合いに支障が出たり、気分の落ち込みや孤立感につながることもあります。補聴器や支援制度の活用も含め、早期に対策を取ることで、生活の質を保ちやすくなります。
⚫︎薬物性難聴の予防
完全に防ぐことは難しいものの、次のような工夫でリスクを抑えることができます。
耳毒性のある薬を使う前に、リスクを説明してもらう
抗がん剤やアミノグリコシド系抗菌薬などを使うときは、主治医から副作用や注意点の説明を受け、少しでも耳の異変を感じたらすぐに伝えるようにしましょう。
腎機能や全身状態の確認
腎機能が悪い方や高齢者では、血中濃度が上がりやすいため、定期的な採血や投与量の調整が大切です。
長期・高用量の使用をできる限り避ける
必要最小限の量と期間での使用を心がけ、やむを得ず長期使用となる場合は、定期的に聴力検査を行って早期に変化を捉えることが望ましいです。
もともと難聴のある方は特に注意
既に難聴や耳鳴りがある方は、耳毒性薬剤の使用前に耳鼻咽喉科と相談し、必要に応じてベースラインの聴力検査を受けておくと安心です。
⚫︎薬物性難聴に関連する病気や合併症
感音難聴全般(加齢性難聴、騒音性難聴など)
他の原因による感音難聴と重なることで、聞こえの悪化が早く進むことがあります。
メニエール病・突発性難聴などの内耳疾患
めまい・耳鳴り・難聴を伴うため、薬物性難聴と症状が似ていることがあります。両者が重なると症状が強くなることもあり、慎重な鑑別が必要です。
耳鳴りに伴う不眠・不安・抑うつ
耳鳴りが続くことで睡眠障害や不安が生じる場合があり、心身両面でのサポートが重要です。
⚫︎まとめ
薬物性難聴は、薬の副作用として起こる耳の障害で、中には一度起こると元に戻りにくい難聴もあります。
抗がん剤や強い抗生物質、利尿薬などを使っている最中に、耳鳴りや聞こえにくさを感じたら、自己判断で薬を中止せず、すみやかに主治医や耳鼻咽喉科に相談してください。
薬の調整や補聴器などの活用、生活上の工夫によって、聴力の悪化を抑え、日常生活の質を保つことが期待できます。
不安を一人で抱え込まず、気になる症状があれば早めに受診し、納得のいく説明と方針を一緒に考えていきましょう。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- BYOMIE JOURNAL vol.1
(https://www.byomie.com/products/vol1/) - ユビー病気のQ&A(トップページ)
(https://ubie.app/byoki_qa)
■ この記事を監修した医師
岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック
大阪大学 医学部 卒
東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。
患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。
- 公開日:2026/03/31
- 更新日:2026/03/31
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