耳小骨離断じしょうこつりだん

耳小骨離断は、鼓膜の奥にある「耳小骨」のつながりが外傷などで切れたり外れたりし、片耳の急な伝音難聴を起こす病気です。耳かき事故や平手打ち、頭部外傷、爆発音などが原因となり、聴力検査と画像検査で診断します。保存的に様子を見る場合もありますが、多くは鼓室形成術(耳小骨再建手術)で聴こえの改善が期待できます。

⚫︎耳小骨離断とは?

耳の奥には、鼓膜のすぐ先に「ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨」という3つのとても小さな骨(耳小骨)が並び、鼓膜の振動を内耳へバトンタッチする役目を担っています。

耳小骨離断(耳小骨連鎖離断)とは、これら耳小骨どうしの関節や連結が、

  • 外傷(ケガ)
  • 強い圧力変化

などをきっかけに外れてしまったり、骨折した状態を指します。

鼓膜までは音が届いているものの、その先で「バトン」が途中で途切れてしまうため、伝音難聴(音の通り道のトラブルによる難聴)を起こします。多くは片耳に生じ、受傷直後またはしばらくしてから、「その耳だけ急に聞こえが悪くなった」と感じることが多い病気です。

⚫︎耳小骨離断の原因

耳小骨離断の主な原因は外傷です。外力のかかり方で、大きく次の2つに分けられます。

直達外力(耳の中を直接ぶつけるタイプ)

耳かきや綿棒、ペンなどが耳の奥まで入りすぎて鼓膜やその奥を傷つける場合です。

  • 耳掃除中にぶつかられた
  • 子どもが耳に棒状のおもちゃを入れてしまった

 といった状況で起こることがあります。

介達外力(頭や耳の周りからの衝撃)

耳そのものを突いたわけではなく、頭全体や側頭部にかかった力が、耳小骨に伝わって起こるものです。

  • 平手打ち、拳で殴られる
  • スポーツ中の衝突・転倒
  • 交通事故での頭部外傷

⚫︎耳小骨離断の症状は?

耳小骨離断に多くみられる症状は次のようなものです。

片耳の聞こえが急に悪くなる

外傷を受けた側の耳で、急に聞こえが悪くなります。小さな声が聞き取りにくい、電話の音が遠く感じる、テレビの音量を一段階上げたくなる、といった形で気づかれることが多いです。

耳のつまった感じ(耳閉感)

耳に綿が入ったような、ふさがる感じが続きます。

耳鳴り

「ジー」「シー」などの高い音や、「ゴー」といった低い音が聞こえることがあります。外傷直後は強く、しだいに落ち着く場合もあります。

⚫︎受診の目安

次のような場合は、できるだけ早く耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。

  • 耳をぶつけたり強い音を聞いたあとから、片耳の聞こえが急に悪くなった
  • 耳掃除の最中に強い痛みや出血があり、その後から聞こえが悪い
  • 外傷性鼓膜穿孔(鼓膜に穴があいた)と言われ、その後も難聴や耳鳴りが続いている
  • 外傷後にめまい・ふらつきや吐き気を伴う

特に、

  • 突然の難聴がある
  • めまいや嘔吐が強い

⚫︎診断方法と治療方法(全体像)

診断は、

  • 外傷の状況や症状を詳しく伺う問診
  • 耳の中の状態を確かめる診察
  • 聴力検査
  • 鼓膜や中耳の状態をみる検査(ティンパノグラムなど)

を組み合わせて行います。

治療は、

  • 軽度で自然回復が見込める場合には、一定期間経過観察
  • 伝音難聴がはっきり残る場合には、鼓室形成術(耳小骨再建を含む手術)

が中心となります。難聴の程度、日常生活への支障、内耳障害の有無を総合的に判断し、手術を行うかどうかを決めます。

▶︎耳小骨離断の診断

1)問診・診察

  • いつ、どのような状況で耳を打ったか
  • すぐに難聴を自覚したか、後から気づいたか
  • 耳の痛み・出血・めまいの有無

などを詳しく伺います。

拡大耳鏡や顕微鏡で鼓膜を観察し、

  • 鼓膜穿孔があるか
  • 血のかたまりや感染がないか

場合には、耳小骨離断を強く疑います。

2)聴力検査

純音聴力検査で、伝音難聴の程度(気導と骨導の差=気骨導差)を確認します。

  • 気骨導差が大きい
  • 難聴が一定期間続いている

場合には、耳小骨離断を強く疑います。

3)ティンパノグラム(鼓膜の動きの検査)

鼓膜や中耳の圧の状態をみる検査です。耳小骨離断では、鼓膜の動きが大きく出る「Ad型」と呼ばれるパターンを示すことがあり、診断の手がかりになります。

4)画像検査(CTなど)

側頭骨CTで、耳小骨の位置や骨折の有無、側頭骨骨折の有無などを確認します。ただし、軽度の離断や関節の外れは画像で分かりにくいこともあり、聴力検査や手術所見とあわせて総合的に判断します。

▶︎耳小骨離断の治療

A. 初期対応(まずやること/基本方針)

耳を濡らさない

鼓膜穿孔を伴う場合は、耳の中に水が入ると感染のリスクが高まるため、入浴時は耳栓や防水対策を行います。

炎症・感染の予防

必要に応じて、抗菌薬の点耳薬や内服薬を使用することがあります。

内耳障害が疑われる場合

ひどいめまい、耳鳴り、急激な高度難聴がある場合には、内耳を保護する目的でステロイド投与などが検討されます。

B. 経過観察

鼓膜穿孔のみ、もしくは軽度の伝音難聴の場合

鼓膜が自然にふさがるのを待ちつつ、数週間〜数か月かけて聴力の経過をみることがあります。

それでも気骨導差が大きく残る場合には、耳小骨離断の可能性が高くなり、手術の検討を行います。

C. 手術治療(鼓室形成術・耳小骨再建術)

伝音難聴がはっきり残る、日常生活に支障がある場合

鼓膜を小さく切開する、あるいは耳の後ろを少し切開して中耳に到達し、耳小骨の状態を直接確認します。

外れている関節を元に戻す

手術は顕微鏡や内視鏡を使って行われ、多くは入院のうえで実施されます。術後は数日〜1週間ほど安静にし、強く鼻をかむ・重い物を持つなどの負担を控えます。

D. 補聴器の併用

  • 手術が難しい場合
  • 手術後も軽い難聴が残る場合

には、補聴器で聴こえの補助を行うこともあります。

⚫︎耳小骨離断の予後

耳小骨離断は、適切なタイミングで手術を行うことで、伝音難聴が大きく改善することが期待できる病気です。

一方で、

  • 内耳障害を合併している場合
  • 受傷から手術まで長期間経過している場合

には、聴力が完全には戻らず、ある程度の難聴や耳鳴りが残ることもあります。

外傷後の難聴や耳鳴りを「そのうち治るだろう」と放置せず、早めに耳鼻咽喉科で評価を受けることが、聴力の予後を良くするポイントになります。

⚫︎耳小骨離断の予防

耳小骨離断を完全に防ぐことは難しいですが、次のような点に気をつけることでリスクを下げることができます。

  • 耳かきや綿棒を耳の奥まで入れない(耳掃除は入り口付近だけ、力を入れない)
  • 小さな子どもに棒状のおもちゃや耳かきを持たせたまま歩かせない
  • 平手打ちや殴打など、頭部への暴力を避ける
  • スポーツや格闘技ではヘルメット・防具を適切に使用する
  • 花火や爆発音など、強い音圧に近距離でさらされないようにする

「耳はとても繊細な器官である」という意識を持ち、日頃から大切に扱うことが重要です。

⚫︎耳小骨離断に関連する病気や合併症

外傷性鼓膜穿孔

鼓膜に穴があいた状態で、耳小骨離断と同時に起こることがあります。耳の痛み・出血・難聴・耳鳴りなどがみられます。

外リンパ瘻(がいりんぱろう)

内耳の液体(外リンパ液)が中耳に漏れ出る状態で、難聴や強いめまいを伴います。耳小骨離断と一緒に起こることがあり、手術が必要になることがあります。

内耳障害

強い衝撃で内耳そのものがダメージを受けると、感音難聴(内耳側の難聴)を合併し、伝音難聴だけの場合より聴力の回復が難しくなります。

慢性中耳炎

鼓膜穿孔が長く残ったり、感染を繰り返した場合に、中耳炎が慢性化して鼓室形成術が必要になることがあります。

⚫︎まとめ

耳小骨離断は、耳の奥の小さな骨の連結が外れてしまい、片耳の伝音難聴を起こす病気です。耳かき事故や平手打ち、スポーツ外傷、交通事故、爆発音などがきっかけになることがあります。

聴力検査やCTなどで診断し、必要に応じて耳小骨を再建する手術(鼓室形成術)で聴こえの改善が期待できます。外傷後に「片耳だけ急に聞こえが悪い」「耳鳴りや耳のつまり感が続く」と感じたら、早めに耳鼻咽喉科で相談しましょう。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック

大阪大学 医学部 卒

東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。

患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。

  • 公開日:2026/03/31
  • 更新日:2026/03/31

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