嫌気性菌けんきせいきん
嫌気性菌は「酸素が苦手な細菌」の総称で、口の中や腸、膣などにふだんから住んでいる常在菌の大部分を占めます。粘膜や皮膚が傷つき深い部分に入り込むと、膿瘍(うみのたまり)や肺膿瘍、腹膜炎、骨盤内感染症、ガス壊疽など、重い感染症の原因になることがあります。早期の受診と、適切な抗菌薬と膿の排出(ドレナージ)が重要です。
目次
⚫︎嫌気性菌とは?
嫌気性菌(嫌気性細菌)は、その名のとおり「酸素がある場所では増えにくく、むしろ酸素がない・少ない環境を好む細菌」です。好気性菌(酸素が必要な細菌)と対になる概念で、どちらも人の体内に存在します。
嫌気性菌は
- 口の中(歯ぐきのすき間・歯垢)
- 腸の中(特に大腸)
- 膣の中
など、空気が届きにくい粘膜の奥に大量に住んでいる「常在菌(ふだんからいる菌)」の中心です。
代表的な嫌気性菌としては、バクテロイデス属、フソバクテリウム属、クロストリジウム属(破傷風菌・ボツリヌス菌・ガス壊疽の原因菌など)があります。
⚫︎嫌気性菌の原因
ここでの「原因」は、嫌気性菌が病気を起こしやすくなるきっかけや背景と考えてください。
- 粘膜・皮膚のバリアが壊れる
- 深い虫歯や歯周病、口内環境の悪化
- 誤嚥(食べ物や唾液が気管に入る)による肺への細菌の侵入
- 虫垂炎・大腸憩室炎・消化管穿孔などで腸の中身が腹腔内に漏れる
- 婦人科手術や分娩、器具留置(IUDなど)後の骨盤内感染
- 糖尿病、動脈硬化、褥瘡(床ずれ)などで血流が悪く、酸素が届きにくい組織がある
- 大きなけがややけど、深い刺し傷(土や泥が入り込むなど)
嫌気性菌は、もともと口や腸などに住んでいる「自分の菌」が原因となることが多く、これを「内因性感染」といいます。
⚫︎嫌気性菌の症状は?
嫌気性菌は体のいろいろな場所で感染を起こし、部位ごとに症状は違いますが、共通して
- 発熱・悪寒・だるさ
- 痛みや腫れ、熱感(あたたかい)
- 膿がたまりやすい、悪臭を伴う分泌物
といった特徴がみられます。
主な部位と症状のイメージは次のとおりです。
- 口・あご:歯痛、歯ぐきや顔の腫れ、口臭
- 肺・胸:発熱、咳、悪臭のある痰、胸の痛み、息切れ
- お腹:強い腹痛、発熱、お腹の張り、吐き気
- 骨盤内・婦人科:下腹部痛、発熱、異常なおりもの、性交痛
⚫︎受診の目安
発熱とともに、どこか一部の強い痛み・腫れ・悪臭を伴う膿がある
- 肺炎や虫垂炎などのあとに、熱や痛みが長引いている
- 糖尿病や免疫低下があり、傷や潰瘍がなかなか治らない、黒くなってきた
- 「なんとなくおかしい」と感じる体調不良が続き、感染症が心配なとき
→ こうした場合は、一般内科・外科・各専門科で相談してください。早めの受診と、適切な検査・治療が重症化を防ぐ大切な一歩です。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
嫌気性菌感染症の診断は
- 症状や経過、基礎疾患、手術歴・外傷歴などの情報
- 血液検査や画像検査(レントゲン・CT・エコーなど)
- 膿や分泌物、血液の培養検査
を組み合わせて行います。
治療の柱は
- 膿や感染源を取り除くこと(切開・ドレナージ・壊死組織の切除など)
- 嫌気性菌に効果のある抗菌薬を使うこと
- 脱水や栄養状態、基礎疾患を整える全身管理
の3つになります。
⚫︎嫌気性菌の診断
1)問診・診察
- 発熱の有無、痛みの場所と性状、膿の有無・におい
- 最近の歯科治療・虫垂炎・消化管の病気・手術・外傷・分娩・婦人科疾患など
- 糖尿病・がん・透析・ステロイドや免疫抑制薬の使用など、免疫を弱くする疾患や薬の有無
を詳しく確認します。
2)血液検査
白血球数、CRP(炎症の強さをみる指標)、肝機能・腎機能、電解質などを確認し、重症度や全身状態を評価します。
3)培養検査(膿や分泌物・血液など)
膿や分泌物を採取して「培養(ばいよう)検査」を行い、どの細菌がどの抗菌薬に効くかを調べます。
嫌気性菌は空気に弱いため、採取方法や検査室までの運び方に工夫が必要で、実際には「検査で菌が出てこなくても、臨床的には嫌気性菌感染を強く疑う」ということも少なくありません。
4)画像検査
- 胸部レントゲンやCTで肺膿瘍や膿胸を確認する
- 腹部CTやエコーで、腹腔内・骨盤内の膿瘍を確認する
⚫︎嫌気性菌の治療
A. 初期対応(まずやること/基本方針)
- 発熱や疼痛に対して、解熱鎮痛薬を使いながら、安静と水分・栄養補給を行います。
- 呼吸状態や血圧、尿量などを確認し、重症度に応じて入院の要否を判断します。
B. 抗菌薬による治療
嫌気性菌に効果のある抗菌薬を選んで、点滴や内服で治療します。代表的なものには
- メトロニダゾール(フラジール)
- βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン(アンピシリン・スルバクタムなど)
- カルバペネム系抗菌薬
などがあり、感染部位や重症度、疑われる菌の種類に応じて組み合わせます。
C. ドレナージ・外科的治療
- 膿がたまっている場合は、抗菌薬だけでは治りにくく、針を刺して排出したり(穿刺ドレナージ)、チューブを入れて持続的に出したり、場合によっては手術で膿瘍を切除したりします。
- 壊死した組織(黒くなって血流が途絶えた部分)は、菌が増えやすく薬も届きにくいため、切除が必要になることがあります。
D. 基礎疾患・生活背景への対応
- 糖尿病がある場合は血糖コントロールを見直す
- 口腔内が原因と考えられる場合は、歯科での治療や口腔ケアを行う
⚫︎嫌気性菌の予後
- 適切な抗菌薬と、必要なドレナージ・外科的治療が行われれば、多くの嫌気性菌感染症は改善が期待できます。
- しかし、膿胸・腹腔内膿瘍・重症壊死性軟部組織感染症・ガス壊疽などは、治療が遅れると命に関わることがあります。
- 糖尿病やがん、透析中など免疫が弱っている方は、軽い症状から急激に悪化することもあるため、早期受診と入院治療が重要です。
- 脳膿瘍や骨髄炎など、部位によっては長期の抗菌薬治療が必要となり、完治まで数か月かかることもあります。
⚫︎嫌気性菌の予防
- 毎日の歯みがき・舌の清掃・定期的な歯科受診で口の中を清潔に保つことは、肺膿瘍などの予防につながります。
- 糖尿病など生活習慣病のコントロール、禁煙・節度ある飲酒・適度な運動で全身状態を整えることが、感染症全般の予防に役立ちます。
- 深い傷や土・泥が入った傷は自己判断で放置せず、早めに医療機関で洗浄・処置を受けることが大切です。
- 抗菌薬は自己判断で中止せず、医師の指示どおりに飲み切ることで、再発や薬が効きにくい菌(耐性菌)の増加を防ぎます。
⚫︎嫌気性菌に関連する病気や合併症
嫌気性菌は、次のようなさまざまな病気に関わっています。
- 口腔・歯科領域:歯周病、歯周膿瘍、顎顔面膿瘍など
- 呼吸器:肺膿瘍、膿胸、誤嚥性肺炎の一部
- 消化器:虫垂炎や大腸憩室炎後の腹腔内膿瘍、肝膿瘍
- 婦人科:骨盤内炎症性疾患(PID)、細菌性膣症
- 皮膚・軟部組織:壊死性筋膜炎、ガス壊疽、糖尿病足潰瘍の感染
中には、ボツリヌス症・破傷風・クロストリジウム・ディフィシル腸炎(抗菌薬関連の腸炎)など、特別な位置づけの病気も含まれます。いずれも早期診断・早期治療が重要です。
⚫︎まとめ
嫌気性菌は、酸素が少ない環境を好む細菌で、私たちの口や腸などにふだんから住んでいる身近な存在です。
しかし、粘膜や皮膚のバリアが壊れて体の深い部分に入り込むと、膿瘍や肺膿瘍、腹膜炎、ガス壊疽など重い感染症を引き起こすことがあります。
悪臭を伴う膿や、長引く発熱・痛みがあるときは、早めに受診して、適切な抗菌薬治療と膿の排出を受けることが重要です。
日頃の口腔ケアや生活習慣病の管理、傷の早期受診が、嫌気性菌感染症を防ぐ大切なポイントになります。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- MSDマニュアル家庭版 嫌気性細菌についての概要
(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/16-感染症/細菌感染症-嫌気性細菌/嫌気性細菌についての概要) - MSDマニュアル専門家向け版 嫌気性細菌の概要
(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/13-感染性疾患/嫌気性細菌/嫌気性細菌の概要)
■ この記事を監修した医師
赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2026/03/06
- 更新日:2026/03/06
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