心臓腫瘍しんぞうしゅよう

心臓腫瘍は、心臓に発生するまれな腫瘍で、良性と悪性に分類されます。最も多いのは左心房にできる心臓粘液腫で、塞栓症や弁閉鎖障害の原因となります。症状は多様で、心エコー検査によって診断され、手術で治療されます。

心臓腫瘍

心臓腫瘍とは?

心臓腫瘍は、心臓に発生する原発性あるいは転移性の腫瘍を指します。非常にまれな疾患であり、全身の腫瘍の中でも1%未満の発生頻度とされています。腫瘍は「良性」と「悪性」に大別され、良性腫瘍の方が頻度としては高く、特に成人では「心臓粘液腫」が最多です。

良性腫瘍であっても、心臓の構造や血流に影響を及ぼす位置にできると、重篤な症状を引き起こすことがあります。一方、悪性腫瘍(心臓肉腫など)は進行が速く、予後が不良なことが多いため、早期発見と治療が極めて重要です。

原発性腫瘍は心臓そのものから発生しますが、肺がんや乳がん、悪性リンパ腫などからの転移性腫瘍の方が実際には多く見られます。これらは心膜、心筋、あるいは心腔内に浸潤し、心機能の障害をきたすことがあります。

心臓腫瘍は、心エコーやMRIなどの画像診断によって発見されることが多く、症状が乏しい例もあれば、突然死を引き起こすこともあります。

原因

心臓腫瘍の原因は、原発性か転移性か、また良性か悪性かによって異なります。多くの症例では明確な原因は不明とされていますが、いくつかの要因が知られています。

原発性良性腫瘍の原因

  • 心臓粘液腫:左心房に発生することが多く、粘液状の細胞成分から構成される
  • 遺伝性疾患との関連が指摘されており、カルニー複合(Carney complex)などが知られている
  • その他、線維腫、脂肪腫、血管腫などがある

原発性悪性腫瘍の原因

  • 心臓肉腫(血管肉腫、未分化肉腫など):進行が早く、浸潤性が強い
  • 明確な原因は不明であるが、染色体異常や分子レベルの異常が関与しているとされる

転移性腫瘍の原因

  • 肺がん、乳がん、食道がん、腎がん、悪性黒色腫、リンパ腫などが心臓に転移する
  • 転移の経路は、血行性、リンパ行性、心膜腔への直接浸潤がある
  • 原発巣の進行に伴って心膜や心筋に浸潤し、心機能に影響を与える

医原性・その他の要因

  • カテーテル留置、心臓ペースメーカーなどの医療機器の刺激による腫瘍様病変
  • 心膜への放射線照射や慢性炎症も発生の引き金になることがある

心臓腫瘍の発症メカニズムはまだ完全には解明されておらず、遺伝的要因や体内環境の影響が複雑に絡み合っていると考えられます。

症状

心臓腫瘍の症状は、腫瘍の部位、大きさ、性質によって異なります。多くの症例で症状が非特異的であるため、診断が遅れることがあります。

代表的な症状

  • 動悸:心腔内に腫瘍があると血流が乱れ、異常な心拍を感じる
  • 息切れ:心室や心房に腫瘍が存在し、心拍出量が低下することで呼吸困難が出現
  • 失神:腫瘍が弁口を塞ぐなどして一過性に脳血流が低下することがある
  • 胸痛:心膜への浸潤や心筋の血流障害により生じる
  • 心雑音:腫瘍が弁の動きを妨げ、異常な血流音が生じる
  • 体位依存性の呼吸困難:心房粘液腫などでは体位で症状が変化するのが特徴的
  • 脳塞栓症:腫瘍の一部がはがれて脳血管を塞ぐことにより、脳梗塞やTIA(一過性脳虚血発作)を起こす

悪性腫瘍に特有の症状

  • 発熱、体重減少、倦怠感などの全身症状
  • 心膜浸潤による心膜炎や心タンポナーデ
  • 右心不全や心房細動などの不整脈

身体的変化と機序

  • 心臓粘液腫では、左心房から左心室への血流を遮断し、心拍出量が低下
  • 腫瘍の可動性が高い場合、弁を塞ぐことで突然の循環不全や失神が発生
  • 悪性腫瘍では心筋への直接浸潤によって心機能が著しく低下する

発症のタイミング

  • 症状は比較的緩徐に進行する場合が多いが、突然死の原因になることもある

非特異的症状が多く見逃されがちであるため、画像診断を通じた早期発見が重要です。

診断方法と治療方法

診断

  1. 心エコー検査(経胸壁・経食道)
    ・最も有用な初期検査。腫瘍の大きさ、位置、動き、血流への影響を評価
    ・可動性の高い粘液腫では、体位による変化が観察される
  2. 心電図
    ・不整脈や伝導障害の有無を確認
    ・非特異的な所見も多い
  3. 胸部X線
    ・心陰影の拡大や肺うっ血の有無を確認する
  4. 心臓MRI・CT
    ・腫瘍の形態や心筋・心膜への浸潤の程度を詳細に評価
    ・悪性腫瘍の鑑別や外科手術の術前評価に有用
  5. PET-CT
    ・悪性腫瘍や転移性病変の評価、全身検索に用いられる
  6. 心臓カテーテル検査
    ・冠動脈との関係や血行動態を評価する目的で行われることがある
  7. 生検(病理診断)
    ・悪性が疑われる場合には、心膜や他臓器の病変からの組織診断が重要

治療

  1. 外科的切除
    ・良性腫瘍(特に粘液腫)は原則として外科的切除が第一選択
    ・早期手術により予後は良好
  2. 悪性腫瘍の治療
    ・完全切除が困難な場合も多く、手術+化学療法+放射線療法の組み合わせとなる
    ・進行が速いため、集学的治療が必要
  3. 緊急処置
    ・心タンポナーデや重度の血流障害がある場合、ドレナージや緊急手術が行われる
  4. 内科的対症療法
    ・不整脈に対して抗不整脈薬、心不全に対して利尿薬や血管拡張薬を使用
    ・塞栓症予防として抗凝固薬を使用する場合もある

心臓腫瘍の治療は、腫瘍の性質・位置・全身状態を考慮して個別に判断されます。

予後

心臓腫瘍の予後は、腫瘍の種類(良性か悪性か)、大きさ、部位、合併症の有無によって大きく異なります。

良性腫瘍の予後

  • 心臓粘液腫などは手術で完全切除できれば予後は非常に良好
  • 再発率は低いが、定期的な心エコーによるフォローアップが推奨される

悪性腫瘍の予後

  • 進行が速く、再発や転移が多いため予後は不良
  • 5年生存率は低く、特に未分化肉腫や血管肉腫は診断から数か月以内に急速に進行する例もある

再発・合併症による影響

  • 手術後の弁機能障害、不整脈、塞栓症などが予後を左右する
  • 悪性腫瘍の場合、治療による一時的な安定が得られても、再発が多い

突然死のリスク

  • 弁閉鎖障害や心室流出路閉塞による急性循環不全が原因

長期管理の必要性

  • 良性腫瘍でも再発や機能障害の可能性があるため、術後も定期的な検査が必要

腫瘍の性状に応じた迅速な対応が、予後改善の鍵を握ります。

予防

心臓腫瘍の多くは予防が難しいですが、特に転移性腫瘍や合併症のリスク低減に向けた対策が有効です。

一次予防は困難

  • 原発性心臓腫瘍は発症原因が不明であり、特定の予防法は確立していない

定期健診・画像診断

  • 家族歴がある場合や心雑音、不整脈などが見られる場合には心エコー検査を積極的に実施
  • 他疾患フォロー中に偶発的に発見されることも多いため、精密検査を怠らない

転移性腫瘍の予防

  • がんの早期発見・早期治療により転移の可能性を下げる
  • 悪性腫瘍の定期フォロー中は心臓浸潤の有無をチェック

医原性リスクの回避

  • カテーテルやペースメーカーなどの留置時は感染や刺激による異常組織形成に注意
  • 放射線療法のリスクを医師と十分相談する

心臓腫瘍の予防は難しいが、定期的な検査とリスク管理が早期発見と重症化回避につながります。

関連する病気や合併症

心臓腫瘍は、その性質と位置によりさまざまな合併症を引き起こします。以下に代表的なものを示します。

塞栓症

  • 心房内腫瘍の一部がはがれて、脳や末梢動脈に飛ぶことにより、脳梗塞や臓器虚血を引き起こす

不整脈

  • 心筋内腫瘍や刺激伝導系の近傍にある腫瘍によって心拍リズムが乱れる
  • 心房細動、房室ブロック、心室性頻拍など

心不全

  • 心腔の閉塞や弁障害により、慢性の心拍出量低下が生じる

心タンポナーデ

  • 腫瘍が心膜に浸潤し、心膜液貯留が起こると心拍出量が著しく低下する

突然死

  • 心室流出路の閉塞、不整脈、心停止が突然死の原因となる

心膜炎・心膜癒着

  • 悪性腫瘍では心膜炎や心膜線維化により心臓の動きが制限される

全身性症状

  • 悪性腫瘍では発熱、体重減少、貧血などの非特異的症状が長期的に持続する

早期発見と適切な治療により、これらの合併症の多くは予防または管理が可能です。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

日本心臓血管外科学会「心腫瘍の診療ガイドライン」(https://www.jsvs.org/)

 MSDマニュアル プロフェッショナル版「心腫瘍」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)

 厚生労働省 e-ヘルスネット「心疾患」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)

  • 公開日:2025/06/26
  • 更新日:2025/06/26

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