側頭骨骨折そくとうこつこっせつ

側頭骨骨折は、耳のまわりの頭蓋骨が強い衝撃で折れるけがです。耳からの出血や聞こえにくさ、めまい、顔面神経麻痺、髄液耳漏(うすい水のような耳だれ)などを伴うことがあり、頭部外傷の中でも慎重な経過観察が必要です。

⚫︎側頭骨骨折とは?

側頭骨は、耳のまわりにある頭蓋骨の一部で、外耳・中耳・内耳や顔面神経など、とても大切で繊細な構造を包んでいます。
交通事故や転落などで頭を強く打つと、この側頭骨にひびや骨折線が入り、「側頭骨骨折」と呼ばれる状態になります。多くは、他の頭蓋骨の骨折や脳のけがと一緒に起こるほど強い衝撃によるものです。

側頭骨には

  • 外耳道(耳の穴)
  • 鼓膜や耳小骨(音を伝える小さな骨)
  • 内耳(三半規管などのバランス・聴覚の器官)

などが集中しています。

そのため、骨折すると

  • 難聴(聞こえにくさ)
  • めまい、ふらつき

など、さまざまな症状が出る可能性があります。

⚫︎側頭骨骨折の原因

側頭骨骨折は、主に次のような「強い頭部への衝撃」で起こります。

交通事故

自動車・バイク・自転車の衝突や、歩行者がはねられる事故などで、頭部を強くぶつけたときに起こります。

高所からの転落や転倒

階段・脚立・屋根からの転落、スキー場や山での転落など。高齢者では、家の中での転倒だけでも骨折につながることがあります。

スポーツやレジャー中の外傷

サッカー・ラグビーなどコンタクトスポーツや格闘技、スキー・スノーボード・自転車競技などで頭を強打した場合です。

暴力や事故による殴打

殴打や物がぶつかるなど、側頭部にピンポイントで強い力が加わったときにも生じることがあります。

多くの場合、側頭骨だけでなく、脳や他の頭蓋骨のけがも合併しています。「頭を強く打った」場合は、症状の有無にかかわらず早めの受診が大切です。

⚫︎側頭骨骨折の症状は?

骨折の場所や広がり方によって症状はさまざまですが、代表的なものは次の通りです。

耳からの出血

外耳道や鼓膜の裏側で出血し、耳から血が出ることがあります。鼓膜の奥に血がたまると、鼓膜が青黒く見えることもあります。

さらさらした水のような耳だれ

無色〜うすい黄色の水のような耳だれが続く場合、脳脊髄液(のうせきずいえき)が耳から漏れている「髄液耳漏」のことがあり、髄膜炎のリスクがあるため注意が必要です。

聞こえにくさ(難聴)や耳鳴り

耳小骨のズレや損傷、内耳の障害などで、片側の聞こえが急に悪くなったり、耳鳴りが出たりします。「音がこもる」「遠く聞こえる」といった感じで自覚されることもあります。

めまい・ふらつき・吐き気

内耳(三半規管など)が傷つくと、ぐるぐる回るようなめまい、ふらつき、吐き気・嘔吐が出ることがあります。

⚫︎受診の目安

次のような場合は、「様子を見る」のではなく、救急外来の受診や救急車の利用を検討してください。

  • 頭や顔を強く打ったあと、耳や鼻から出血している
  • 頭を打ってから、耳から水のような液体がにじむ・止まらない
  • 片側の聴力低下や耳鳴り、めまいが急に出現した
  • 片側の顔が動かしにくい、口元がゆがむ、目が閉じにくい
  • 強い頭痛、吐き気、意識がぼんやりする・会話がかみ合わない

「少し休めば治るだろう」と自己判断してしまうと、頭蓋内出血や髄膜炎など、命にかかわる合併症を見逃す危険があります。気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。

⚫︎診断方法と治療方法(全体像)

まずは、頭全体の状態を確認することが最優先です。問診・診察で症状や外傷の状況を確認し、CTなどの画像検査で骨折や脳のけがの有無を調べます。耳の状態、聴力、顔面神経の動き、髄液漏の有無などもあわせて評価します。

治療は大きく分けて

  • 安静や薬による症状コントロールなどの「保存的治療」で様子を見る場合
  • 顔面神経の重い麻痺や髄液漏、難聴などに対して「手術治療」が必要になる場合

のいずれか、もしくは組み合わせになります。

状態によって、脳神経外科・耳鼻咽喉科など複数の診療科が共同で対応することが一般的です。

⚫︎側頭骨骨折の診断

1)問診・診察

  • けがの原因(事故の状況、高さ、スピードなど)
  • 耳からの出血や耳だれ、難聴、めまい、顔面の動かしにくさ
  • 頭痛、吐き気、意識状態

などを詳しく確認します。耳の中や鼓膜、顔の動き、神経の働きなどもくわしく診察します。

2)画像検査(CT検査が中心)

  • 頭部CT:脳出血や脳挫傷、他の頭蓋骨骨折の有無を確認します。
  • 側頭骨の高分解能CT:耳の周囲の細かい骨折線、耳小骨のズレ、内耳や顔面神経の周囲の状態を詳しく評価します。

3)聴力検査

どの程度の難聴があるか、外耳〜中耳の問題による「伝音難聴」か、内耳・神経の問題による「感音難聴」かを調べます。

4)神経学的検査

顔面神経の動き(額・目・口元など)を細かく評価します。必要に応じて、顔面神経の電気生理検査で神経損傷の程度を調べます。

⚫︎側頭骨骨折の治療

A. 急性期の対応(まずやること/基本方針)

安静・頭を高くして休む

ベッド上で安静とし、枕を高くすることで頭のうっ血や髄液漏を減らすことが期待されます。

痛み・めまい・吐き気のコントロール

頭痛に対する鎮痛薬、めまいや吐き気に対する薬を使って、できるだけ楽に過ごせるようにします。

B. 特に注意が必要な症状に対する治療

顔面神経麻痺

軽い麻痺では、腫れが引くのを待つ「保存的治療(経過観察+薬)」で改善することも多いとされています。重い麻痺で神経の反応が乏しい場合には、耳の奥で顔面神経を圧迫している骨を削ってスペースを作る「顔面神経減圧術」が検討されます。

髄液耳漏・髄液鼻漏

多くは安静などの保存的治療で自然に止まりますが、数日〜1週間以上続く場合や量が多い場合には、手術で骨や硬膜の穴をふさぐ処置が行われることがあります。髄膜炎予防のために抗菌薬を使うかどうかは、症状やリスクに応じて判断されます。

C. 回復期のリハビリと生活上の注意

バランス訓練やめまいリハビリ

めまいが続く場合は、リハビリテーションで少しずつバランス機能を鍛え、ふらつきを軽減していきます。

顔面神経麻痺のリハビリ

表情筋のストレッチや軽い運動、必要に応じて専門的なリハビリを行うことで、顔の動きの改善を目指します。

⚫︎側頭骨骨折の予後

  • 多くの方で、骨折自体は時間とともに癒合し、全身状態も改善していきます。
  • 一方で、難聴や耳鳴り、軽いめまいが長期間残るケースもあります。顔面神経麻痺も、時間をかけて改善することが多いものの、完全には元に戻らないこともあります。
  • 混合型の骨折や、頭蓋内出血・髄液漏・髄膜炎などの合併症がある場合は、入院期間が長くなったり、後遺症が残るリスクが高くなります。
  • 子どもや高齢者では、転倒や軽い外傷に見えても重いけがが隠れていることがあるため、慎重な経過観察が必要です

⚫︎側頭骨骨折の予防

完全に防ぐことはできませんが、次のような工夫でリスクを減らすことができます。

シートベルト・チャイルドシートの着用

自動車では全席でシートベルトを着用し、子どもは年齢・体格に合ったチャイルドシートやジュニアシートを使用します。

自転車やバイクでのヘルメット着用

転倒時の頭部への衝撃を大きく減らす効果が期待できます。

スポーツ時の安全対策

ルールやマナーを守り、防具(ヘルメットなど)がある競技ではきちんと着用しましょう。

高齢者の転倒予防

段差を減らす、手すりをつける、滑りにくい靴を履く、必要に応じて杖を使うなど、日常生活の工夫も重要です。

⚫︎側頭骨骨折に関連する病気や合併症

難聴・耳鳴り

耳小骨の損傷や内耳障害により、一時的または永続的な難聴や耳鳴りが残ることがあります。

めまい・前庭機能障害

内耳が傷つくと、ふらつきや姿勢の不安定さが長引くことがあります。

顔面神経麻痺

笑顔が作りにくい、まぶたが閉じにくいなどの症状が続くことがあり、眼の乾燥や見た目の面での悩みにつながることもあります。

⚫︎まとめ

側頭骨骨折は、聴器・平衡器、および顔面神経が走行する極めて複雑な解剖学的領域に生じる外傷です。難聴やめまい、顔面神経麻痺に加え、髄液耳漏に伴う上行性感染(髄膜炎)などの重篤な合併症を惹起するリスクを有します。
現在は、画像診断の進歩と治療体系の確立により、早期の適切な評価に基づいた介入を行うことで、予後の改善と機能温存が十分に期待できます。

外傷後に聴覚障害や顔面表情筋の運動不全、耳漏等の症状を認める際は、速やかに耳鼻咽喉科や脳神経外科等による精査を受けてください。事前に緊急時の医療アクセスを確保しておくことが、救急医療における安全性の向上に寄与します。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック

大阪大学 医学部 卒

東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。

患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。

  • 公開日:2026/03/31
  • 更新日:2026/03/31

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