加齢性難聴かれいせいなんちょう
加齢性難聴は、年齢とともに内耳や聴神経の働きが弱くなり、少しずつ聞こえにくくなる病気です。高い音や会話が聞き取りにくくなり、テレビの音量が大きくなる、人の話を聞き返すことが増えるのが特徴です。完全に元に戻す治療はありませんが、補聴器や生活の工夫で日常生活の不便を大きく減らすことができます。
目次
⚫︎加齢性難聴とは?
加齢性難聴は、加齢に伴って少しずつ進む難聴で、多くは両耳に左右ほぼ同じ程度に起こります。
- 主に内耳(音を感じる「蝸牛」という部分)や、耳から脳へ音を伝える神経の老化が原因で起こる感音難聴の一種です
- 高い音から聞こえにくくなり、「音量」というより「ことばの聞き取り(明瞭さ)」が低下するのが特徴です
- ゆっくり進行するため、ご本人は「年のせい」「相手の声が小さい」などと考え、病気としては気づきにくいことがあります
高齢になるほど頻度は高くなり、日本でも65歳以上の方の多くが何らかの聞こえの低下を抱えているとされ、国全体の課題と考えられています。
⚫︎加齢性難聴の原因
主な原因は「耳や神経の老化」ですが、いくつかの要因が重なって生じます。
内耳の感覚細胞の老化
音を電気信号に変える「有毛細胞」と呼ばれる細胞が、年齢とともに減ったり傷んだりしていきます。その結果、特に高い音が聞き取りにくくなります。
聴神経や脳の聴覚中枢の変化
耳から脳へ音を伝える神経や、音を理解する脳の働きも加齢で弱くなり、「聞こえるけれど何と言っているか分からない」という状態につながります。
長年の騒音暴露(大きな音の影響)
仕事での騒音、イヤホン・ヘッドホンやカラオケ・ライブなど、大きな音に長年さらされることも、耳への負担を増やします。若い頃からの影響が、年齢とともに表に出てくることがあります。
⚫︎加齢性難聴の症状は?
ゆっくり進行するため、「気づいたら聞こえづらい」という形で現れることが多いです。
会話の聞き取りづらさ
- 家族の声が聞き取りにくい
- 特に女性や子どもの高い声が聞きにくい
- 早口の会話が分かりにくい
騒がしい場所での聞き取りにくさ
- 居酒屋、レストラン、会議など、周りがざわざわしていると話が聞き取れない
- 複数人で話していると内容についていけない
テレビや電子音の聞こえにくさ
- テレビやラジオの音量が以前よりも大きくなっている
- インターホン、電子レンジ、アラーム音などの高い電子音が聞き取りにくい
こうした症状から、外出や人との会話がおっくうになり、社会的なつながりが減ってしまうこともあります。
⚫︎受診の目安
次のような場合は、耳鼻咽喉科などへの受診を検討してください。
- 家族から「テレビの音が大きい」とよく言われる
- 人の話を聞き返すことが増えた、会話が聞き取りにくい
- 特に騒がしい場所で話が分かりにくい
- インターホンや電子音が聞こえにくくなった
- 難聴に加えて、耳鳴り・めまい・耳の痛み・耳だれなどがある
「年齢のせいだから仕方ない」とあきらめず、一度聴力検査を受けて、加齢性難聴なのか、他の病気がないかを確認することが大切です。適切なタイミングで補聴器や生活の工夫を取り入れることで、聞こえのストレスを軽くし、日常生活の質を保つことが期待できます。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
診断では、「本当に加齢性難聴なのか」「他の病気が隠れていないか」を確認することが重要です。そのうえで、難聴の程度に応じて補聴器などの治療や、生活の工夫を組み合わせていきます。
- まず耳鼻咽喉科で診察と聴力検査を受け、聞こえの状態を数値として把握します
- 耳垢の詰まりや中耳炎など、治療によって改善する原因がないかを確認します
- 加齢性難聴と判断された場合、補聴器や聞こえのリハビリ、生活習慣の見直しなどで「聞こえの質」を高めることを目指します
▶︎加齢性難聴の診断
1)問診・診察
- いつ頃から、どんな場面で聞き取りにくさを感じるか
- 耳鳴り・めまいの有無、片耳だけか両耳か
- そのうえで耳の中を観察し、耳垢の詰まり、鼓膜の状態、中耳炎などがないかを確認します
2)聴力検査(純音聴力検査・語音聴力検査など)
純音聴力検査
ヘッドホンから「ピー」という音を聞いてボタンを押す検査で、聞こえる音の大きさを周波数(高さ)ごとに測定します。加齢性難聴では、高い音から左右ほぼ対称に低下するパターンが多くみられます。
語音聴力検査
人の声(単語や数字)がどれだけ聞き取れるかを調べる検査で、「音は聞こえるがことばの明瞭さが悪い」状態を評価できます。
3)必要に応じた検査
- 鼓膜や中耳の状態を調べる検査(ティンパノメトリーなど)
- 一側性難聴や急速に進行する場合には、内耳や聴神経に異常がないかを調べる画像検査(CT・MRI)などを行うことがあります
「加齢性難聴だと思っていたら、耳垢の詰まりや中耳炎が原因で、治療により改善した」というケースも少なくありません。自己判断せず、一度は専門医の評価を受けることが大切です。
▶︎加齢性難聴の治療
A. 基本方針
- 加齢性難聴そのものを完全に元に戻す薬や手術は、現時点では確立されていません
- そのため、「聞こえの補償」と「生活の工夫」「こころと社会の支援」を組み合わせることが治療の中心になります
B. 補聴器などの聴覚補償
難聴の程度に応じて、耳鼻咽喉科医や補聴器専門店と相談し、適切な補聴器を選択します。最初は「うるさく感じる」「疲れる」こともありますが、調整と慣れが重要です。自己判断で安価な機器を通販や量販店で購入するのではなく、医師や補聴器相談医に相談してから選ぶことが勧められます。
難聴が高度で補聴器でも日常会話が難しい場合には、人工内耳という電気刺激で聴神経を直接刺激する装置が検討されることもあります。年齢だけであきらめず、全身状態や生活状況を含めて専門医と相談します。
C. 聞こえのリハビリ・コミュニケーションの工夫
- 言語聴覚士による聞き取り訓練
- 家族や周囲の人が、はっきりゆっくり話す、顔を見て話す、短く区切って話すなどの工夫
D. 生活習慣の見直し
- 大きな音を避ける、テレビや音楽の音量を控えめにする
- 高血圧・糖尿病などの生活習慣病をきちんと管理する
⚫︎加齢性難聴の予後
加齢性難聴は、基本的にゆっくりと進行し、元の聴力に戻すことは難しい病気です。ただし、適切な時期に補聴器を導入し、リハビリや生活の工夫を行うことで、会話や生活の質を大きく保つことができます。
一方、難聴を放置すると
- 会話が負担になり、人付き合いを避けるようになる
- 趣味や外出が減り、社会的に孤立しやすくなる
- 気分の落ち込み(うつ状態)や認知機能の低下と関連する可能性が指摘されています
といった影響が報告されています。
早めに耳鼻咽喉科を受診し、必要に応じて補聴器や支援を導入することが、長い人生をいきいきと過ごすうえでとても大切です。
⚫︎加齢性難聴の予防
完全に防ぐことは難しいものの、次のような工夫でリスクや進行を抑えることが期待できます。
耳に優しい生活を心がける
- テレビや音楽の音量を必要以上に大きくしない
- イヤホン・ヘッドホンは「音量」「時間」を控えめにする
- 工事現場など大きな音がする環境では耳栓や防音保護具を使う
生活習慣病の管理
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症の治療を続ける
- 減塩・バランスのとれた食事、適度な運動を心がける
全身の健康づくり
- 禁煙・節度ある飲酒
- 十分な睡眠とストレスケア
定期的な聴力チェック
- 「聞こえにくい気がする」「家族からテレビの音が大きいと言われる」などがあれば、早めに耳鼻咽喉科で聴力検査を受ける
これらは厚生労働省なども推奨している予防・対策の基本です。
⚫︎加齢性難聴に関連する病気や合併症
加齢性難聴そのもののほか、次のような関連が指摘されています。
認知機能低下・認知症
難聴があると会話や情報量が減り、脳への刺激が減ることで認知機能に影響する可能性が報告されています。難聴の改善が直接認知症予防になるかは研究中ですが、早めの対応が勧められています。
うつ状態・不安・社会的孤立
会話の困難さから、人との交流を控えるようになり、気分の落ち込みにつながることがあります。家族や周囲が病気を理解し、コミュニケーションの工夫をすることが大切です。
転倒や事故のリスク
呼びかけや警告音が聞こえにくいことで、転倒・交通事故などのリスクが高まる可能性があります。
他の耳の病気の見逃し
「年のせい」と思いこんで受診が遅れると、中耳炎や耳垢栓塞、突発性難聴など、早期治療が必要な病気を見逃すおそれがあります。
⚫︎まとめ
加齢性難聴は、年齢とともに誰にでも起こり得る、ごく一般的な病気です。
完全に元に戻す治療はありませんが、補聴器やリハビリ、生活の工夫で不便さを大きく減らすことができます。
「年のせい」とあきらめず、聞こえに不安を感じたら早めに耳鼻咽喉科で相談しましょう。
ご本人と家族、医療・福祉・地域が一緒になって支えることで、高齢になっても安心して暮らしていくことができます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 社会福祉法人 恩賜財団済生会「加齢性難聴(かれいせいなんちょう)」
(https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/presbyacusis/) - 厚生労働省「『聞こえにくさ』感じていませんか?」
(https://www.mhlw.go.jp/nanntyou/aging.html)
■ この記事を監修した医師
岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック
大阪大学 医学部 卒
東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。
患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。
- 公開日:2026/03/31
- 更新日:2026/03/31
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