耳硬化症じこうかしょう

耳硬化症は、中耳の耳小骨のひとつであるアブミ骨が硬くなり、音がうまく伝わらなくなることでゆっくり進行する難聴を起こす病気です。主な症状は難聴と耳鳴りで、思春期以降に両耳または片耳から始まり、手術や補聴器で聴こえの改善が期待できます。

⚫︎耳硬化症とは?

耳硬化症は、中耳にある3つの小さな骨(耳小骨:ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)のうち、もっとも内側にある「アブミ骨」が徐々に硬くなり、動きにくくなる病気です。アブミ骨は、鼓膜から伝わった振動を内耳(蝸牛)に伝える重要な役割を担っていますが、ここが固まってしまうと音が十分に届かず、伝音難聴(音の通り道のトラブルによる難聴)を起こします。

耳硬化症は思春期〜若年成人頃から少しずつ進行することが多く、最初は片耳だけでも、時間とともに両耳に広がっていくこともあります。日本では「ややまれ」とされますが、決して珍しい病気ではなく、特に中年期以降に「片方だけ聞こえにくい」「家族からテレビの音が大きいと言われる」などをきっかけに見つかることがあります。

女性に多く、妊娠・出産を契機に難聴が進んだと感じる方もいます。原因は完全には分かっていませんが、アブミ骨周囲の異常な骨の代謝(骨がつくられたり壊されたりするサイクル)が関係すると考えられています。

⚫︎耳硬化症の原因

耳硬化症には、「これが原因」と断定できるものはありませんが、次のような要因が関係すると考えられています。

アブミ骨周囲の異常な骨の病気

アブミ骨の周囲に新しい骨が異常に増え、海綿状の柔らかい骨から次第に硬い骨へと変化していくことで、アブミ骨が固まり動きにくくなります。

遺伝的な体質

家族内で耳硬化症がみられることがあり、遺伝的な要因が関係していると考えられています。

女性ホルモンの影響

女性に多く、妊娠や出産をきっかけに難聴の進行を自覚するケースがあることから、ホルモンバランスの変化が骨の代謝に影響している可能性があります。

その他の要因(仮説)

ウイルス感染や自己免疫反応など、さまざまな仮説が研究されていますが、現時点で決定的な原因は証明されていません。睡眠不足や体調不良が耳管開放症の引き金になることがあります。

⚫︎耳硬化症の症状は?

耳硬化症の代表的な症状は、ゆっくり進行する難聴と耳鳴りです。

徐々に進む難聴

思春期〜30〜40代にかけて、少しずつ聞こえが悪くなります。多くは低い音から聞き取りにくくなり、会話では「相手の声は聞こえるけれど、ことばがはっきりしない」と感じることがあります。

両側性または片側性の難聴

典型的には両耳に出ますが、片耳だけの方もいます。病気の進み方や左右の程度には個人差が大きいです。

耳鳴り

「ジー」「シー」という高めの音や、低いゴーッという音がする耳鳴りを伴うことがあります。難聴の程度と必ずしも比例せず、静かな場所で気になりやすくなります。

自分の声が響く・音がこもる

自分の声が頭の中で響く感じや、音全体がこもって聞こえることがあります。

⚫︎受診の目安

次のような症状があれば、耳鼻咽喉科での相談をおすすめします。

  • 数ヶ月〜数年かけて、片耳または両耳の聞こえが少しずつ悪くなっている
  • 家族から「テレビの音が大きい」と言われることが増えた
  • 周りの人には普通の音量でも、自分だけ聞き取りづらい
  • 難聴とともに耳鳴りが続いている
  • 若い頃から難聴があり、家族にも似た症状がある

特に、

  • 片耳だけ急に聞こえにくくなった
  • 激しいめまいや、ろれつが回りにくい、手足のしびれなどを伴う場合は、突発性難聴や脳卒中など別の病気の可能性もあるため、早急な受診が必要です

⚫︎診断方法と治療方法(全体像)

診断は、

問診・耳の診察に加えて、聴力検査や鼓膜・中耳の状態を調べる検査を行い、「耳硬化症らしい難聴かどうか」を確認します。さらに、必要に応じてレントゲンやCT、手術中の所見(アブミ骨が実際に固着しているか)などを総合して診断します。

治療の柱は、

  • 補聴器による聴こえの補助
  • アブミ骨手術(アブミ骨を人工の部品に置き換える手術)

の2つです。難聴の程度、年齢や全身状態、仕事・生活スタイルのご希望などを考慮して、最適な方法を一緒に選んでいきます。

▶︎耳硬化症の診断

1)問診・診察

いつ頃からどの程度聞こえにくくなったのか、片耳か両耳か、家族に難聴の方がいるかなどを詳しく伺います。耳鏡で鼓膜を観察すると、多くは正常に見えますが、ごく一部では鼓膜の奥がピンク色に見える「シュワルツェ徴候」と呼ばれる所見が出ることもあります。

2)聴力検査

純音聴力検査で、低い音を中心とした伝音難聴(音の通り道の障害)を認めることが多く、一部では「カーハートノッチ」と呼ばれる特徴的な骨導(こつどう)聴力のくぼみがみられます。これらのパターンが耳硬化症の診断の手がかりになります。

3)耳小骨筋反射などの検査

大きな音を聞かせたときに耳小骨が反射的に動くかどうかを調べる検査(耳小骨筋反射)があり、耳硬化症が進むとこの反応が出なくなっていくことが知られています。

4)画像検査・手術による確認

CTで内耳周囲の骨の変化を認めることもありますが、軽い段階では写らないことも多く、画像だけで診断がつかない場合もあります。実際に手術を行い、鼓室(中耳)の中を開けて、アブミ骨が固着していることを確認して初めて確定診断となるケースもあります。

▶︎耳硬化症の治療

A. 補聴器による治療(非手術療法)

軽度〜中等度の難聴

まだ日常生活に大きな支障がない場合や、ご高齢の方、手術を希望されない方では、補聴器が有効です。伝音難聴は補聴器が効きやすく、適切に調整すれば会話がかなり楽になることも多いです。

B. アブミ骨手術(外科治療)

耳硬化症の基本的な治療

動かなくなったアブミ骨を一部または全部取り除き、その代わりに細い人工耳小骨(ピストンなど)を入れる手術です。鼓膜を通して耳の中を操作し、アブミ骨の底板にごく小さな穴を開けて人工の部品を固定します。

期待できる効果

適切な症例では、8〜9割前後の方で聴力の改善が期待できると報告されており、特に伝音難聴が主体のケースでは良好な結果が得られやすいとされています。

C. 進行した耳硬化症に対する治療

ごく一部では、耳硬化症が進行して高度難聴〜ろうに近い状態になることがあります。その場合は、人工内耳埋め込み術などを検討することもあります。

⚫︎耳硬化症の予後

耳硬化症は「ゆっくり進行する難聴」を起こす病気ですが、適切な時期に補聴器やアブミ骨手術などの治療を行うことで、会話の聞き取りや日常生活の質を大きく改善できる可能性があります。

難聴の進み方には個人差があり、放置しても急に命に関わることはほとんどありませんが、長期間放置すると高度難聴に進むこともあるため、「困っていないから」と我慢し続けるのではなく、早めに相談し、聴こえの状態を定期的に確認していくことが大切です。

⚫︎耳硬化症の予防

耳硬化症そのものを確実に防ぐ方法は、現時点では分かっていません。遺伝的な体質や骨の代謝の問題が関係していると考えられているため、生活習慣だけで完全に予防することは難しい病気です。

ただし、次のような点を意識することで、早期発見・進行の抑制につながる可能性があります。

  • 片耳だけ聞こえにくい、耳鳴りが続くなどの症状を放置しない
  • 難聴を自覚したら、早めに耳鼻咽喉科で聴力検査を受ける
  • 大きな音(ライブ会場や工事音など)に長時間さらされると、別のタイプの難聴のリスクが上がるため、耳栓や音量調整などで耳を守る

⚫︎耳硬化症に関連する病気や合併症

難聴(中等度〜高度難聴)

進行すると、会話の聞き取りが大きく妨げられ、日常生活や仕事に支障をきたすことがあります。

耳鳴り

難聴に伴う耳鳴りは、ストレスや不眠の原因になることがあります。

手術に伴う合併症

アブミ骨手術後に、一時的なめまい、味覚の違和感(鼓索神経という味覚の神経への影響)、ごくまれに高度難聴などのリスクがあります。

鑑別が必要な他の耳の病気

メニエール病、突発性難聴、聴神経腫瘍など、難聴や耳鳴りを起こすさまざまな病気との見分けが必要です。これらは診断や治療方針が異なるため、専門的な検査が重要になります。

⚫︎まとめ

耳硬化症は、中耳のアブミ骨が硬くなり、ゆっくり進行する難聴や耳鳴りを起こす病気です。

原因は完全には分かっていませんが、遺伝やホルモン、骨の代謝の異常などが関係していると考えられています。

補聴器やアブミ骨手術などの治療により、聴こえの改善が期待できるため、「最近聞こえが悪い」「片耳だけ聞き取りづらい」と感じた段階で早めに相談することが大切です。

気になる症状があるときは、一人で悩まず耳鼻咽喉科で検査を受け、ご自身に合った治療や耳の守り方を一緒に考えていきましょう。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック

大阪大学 医学部 卒

東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。

患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。

  • 公開日:2026/03/31
  • 更新日:2026/03/31

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