破傷風はしょうふう

破傷風は、土の中などにいる破傷風菌が傷口から入り、神経に作用する毒素を出すことで起こる重い感染症です。口が開きにくい、体がこわばる、けいれんする、息苦しいといった症状が特徴で、ワクチンと傷の適切な処置で多くは予防できます。

⚫︎破傷風とは?

破傷風は、「破傷風菌(Clostridium tetani)」という細菌が作る毒素によって起こる感染症です。破傷風菌は芽胞(がほう)という殻に包まれた強い状態で土壌や動物のフンなどに広く存在し、傷口から体内に入ることで感染します。
菌そのものが全身に広がるというより、傷の中で増えた菌が毒素を作り、その毒素が神経に作用して全身の筋肉を硬くしたり、強いけいれんを起こしたりします。放置すると呼吸が止まることもあり、致死率の高い病気ですが、ワクチン接種と適切な傷の処置でほとんどのケースは予防が可能です。
人から人へうつることはなく、「土に汚れた傷」「深い刺し傷」などがきっかけとなるのが特徴です。

⚫︎破傷風の原因

主な原因は次のとおりです。

原因菌

破傷風菌は土壌や動物のフンなどに広く存在する嫌気性菌(酸素の少ないところで増える菌)で、熱や乾燥に強い芽胞の形で生き残ります。

感染のきっかけとなる傷

次のような傷は特に注意が必要とされています。

  • 土や泥、さびた金属片などでできた傷
  • 1cm以上の深い刺し傷や切り傷

予防接種歴が不十分な場合

乳幼児期〜学童期に定期接種される三種混合(DPT)・四種混合ワクチンや、11~12歳ごろの二種混合ワクチン(DT)の接種が不十分な方、あるいは最終接種から長期間(おおむね10年以上)経過している方では、免疫が落ちて発症リスクが高くなります

新生児破傷風

衛生状態がよくない環境で臍帯処置が行われた場合などに、新生児のへその緒から菌が入って発症することがあります。日本ではワクチンと周産期医療の整備により、現在は極めてまれです。

⚫︎破傷風の症状は?

菌が体に入ってから症状が出るまでの期間(潜伏期)は、通常3〜21日程度(平均10日前後)といわれています。傷の場所が頭部や首など中枢に近いほど、潜伏期が短く重症になりやすい傾向があります。

典型的には、次のような症状がみられます。

  • 初期症状
  • 口が開けにくい(開口障害)
  • 顎がこわばる、奥歯をかみしめているような感じ
  • 首や肩、背中のこり・張り

症状が進行するとみられる症状

  • 顔の筋肉がひきつり、笑っていないのに引きつった笑顔のように見える(痙笑)
  • 全身の筋肉が硬くなり、少しの音や光、触れられる刺激で強いけいれんが起こる
  • 体が弓なりに反り返るようなけいれん(後弓反張)

けいれんは非常に強い痛みを伴うこともあり、放置すると呼吸筋(息をする筋肉)が動かなくなって呼吸が止まってしまう危険があります。

⚫︎受診の目安

次のような場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください。

  • ここ数日〜3週間以内に、土や泥・さびた金属などで傷を負った
  • 深い刺し傷や噛み傷、汚れた大きな傷、やけどがある
  • 怪我をして数日〜2週間ほどしてから、口が開けにくい、顎がこわばる、首や背中の強いこりを感じる
  • ちょっとした刺激で筋肉がつる、勝手に体がこわばる
  • 飲み込みにくい、話しづらい、息苦しいなどの症状がある
  • 予防接種歴が不明・不十分で、心配な怪我をした

「もしかして破傷風かも」と心配になったら、内科・外科・救急外来などを早めに受診しましょう。特に、息苦しさや強いけいれんがある場合は、救急車の利用も検討してください。

⚫︎診断方法と治療方法(全体像)

破傷風は、「典型的な症状」と「汚れた傷の既往」「予防接種歴」などから総合的に診断されることが多い病気です。
決定的な検査が難しいこともあり、「疑った時点で治療を開始する」ことが重症化を防ぐために重要です。

治療は大きく次の4本柱で行われます。

  • 毒素を中和する薬(抗破傷風免疫グロブリンなど)
  • 破傷風菌そのものを減らすための抗菌薬と傷の処置
  • けいれんや呼吸状態、自律神経症状の管理
  • 回復後のワクチン接種による再発予防

⚫︎破傷風の診断

1)問診・診察

  • いつ、どこで、どのような怪我をしたか(傷の汚れ具合や深さ、受けた処置)
  • 乳幼児期〜学童期のワクチン接種歴、11〜12歳での二種混合ワクチン、成人になってからの追加接種の有無
  • 口が開けにくい、筋肉のこわばり、けいれん、飲み込みにくさ、息苦しさなどの症状の出方と進み方

これらを詳しくうかがい、全身の筋肉の硬さやけいれんの程度、呼吸状態、血圧や脈の状態などを診察します。

2)血液検査・画像検査

  • 炎症の程度、腎臓や肝臓の働き、電解質(ナトリウム・カリウムなど)を確認し、全身状態を把握します。
  • 胸部レントゲンやCTで肺炎や他の合併症の有無を調べることもあります。

3)細菌学的検査

  • 傷口の分泌物などから破傷風菌を培養する検査が行われることもありますが、陰性でも破傷風を否定できるわけではありません。
  • そのため、検査結果だけでなく「症状と経過」を重視して診断します。

⚫︎破傷風の治療

A. 初期対応(まずやること/基本方針)

  • 破傷風が疑われた時点で入院治療が必要になります。
  • 症状の悪化やけいれん、自律神経症状が出やすいため、光や音などの刺激を減らした静かな環境で管理します。

B. 抗毒素薬(抗破傷風ヒト免疫グロブリンなど)

  • 血液中に出ている破傷風毒素を中和する目的で、抗毒素薬をできるだけ早く投与します。
  • すでに神経に結合してしまった毒素の働きを完全に消すことはできませんが、「これ以上悪化させない」ためにとても重要な治療です。

C. 破傷風菌に対する治療

  • 抗菌薬(ペニシリン系やメトロニダゾールなど)を使って、傷の中の破傷風菌を減らします。
  • 同時に、傷の洗浄や汚れた組織の切除(デブリードマン)を行い、菌が増えにくい環境に整えます。

D. けいれん・自律神経症状・呼吸状態の管理

  • けいれんや筋肉のこわばりを抑えるために、筋弛緩薬や鎮静薬を使います。
  • 呼吸が弱くなったり、強いけいれんが続く場合には、気管挿管を行い人工呼吸器で呼吸をサポートします。
  • 血圧や脈の変動が大きい場合には、点滴や薬で細かく調整します。

⚫︎破傷風の予後

破傷風は、現在の医療でも致死率が一桁〜二桁パーセントに達することがある重い感染症です。特に、高齢の方、基礎疾患がある方、発症までの潜伏期が短い(重症化しやすいとされる)方では注意が必要です。
一方で、早期の診断と適切な集中治療、人工呼吸管理、けいれんコントロールが行われれば、時間はかかりますが少しずつ筋肉のこわばりが改善し、日常生活に戻れる方も少なくありません。
回復には数週間〜数カ月ほどかかることがあり、その間はリハビリテーションや栄養管理、合併症の予防がとても大切です。

⚫︎破傷風の予防

破傷風は、「ワクチン」と「傷の正しいケア」で大きく予防できる病気です。

1)ワクチンによる予防

乳幼児期〜学童期

四種混合ワクチン(DPT-IPV)などを決められた回数・間隔で接種することで、破傷風への基礎免疫がつきます。

11〜12歳

二種混合ワクチン(DT)を1回接種し、免疫を補強します。

成人以降

最終接種から10年以上経っている場合、怪我をする機会が多い職業や趣味(農作業、ガーデニング、アウトドア、災害復旧作業など)がある場合は、追加の破傷風ワクチン接種を検討します。
 怪我をしたときに、最後の破傷風ワクチンがいつか分からない場合も、医療機関で相談しましょう。

2)傷の適切な処置

  • 怪我をしたら、まずは流水でしっかり洗い流し、土や砂、異物をよく落とします
  • 深い傷、汚れた傷、噛み傷、大きなやけど・凍傷などは、自分だけで判断せず、早めに医療機関で診てもらってください。
  • 災害時や農作業、DIY作業では、手袋やしっかりした靴、長袖・長ズボンなどで怪我を予防することも重要です。

3)災害時の注意

  • 地震や水害の後片づけなどでは、がれきや泥に鋭利な物が混じっていることがあります。
  • 長靴、厚手の手袋、防護服などを着用し、できるだけ肌の露出を少なくして作業するようにしましょう。

⚫︎破傷風に関連する病気や合併症

呼吸不全・低酸素血症

呼吸に必要な筋肉がけいれん・硬直することで十分に息ができなくなり、命に関わる状態になります。

誤嚥性肺炎

飲み込みにくい状態で食事や唾液が気管に入り、肺炎を起こすことがあります。

骨折・筋損傷

非常に強いけいれんの際、背骨や手足の骨折、筋肉や腱の損傷が起こることがあります。

自律神経障害

血圧や心拍数が乱れ、不整脈やショック状態を起こすことがあります。

⚫︎まとめ

破傷風は、嫌気性菌である破傷風菌(Clostridium tetani)が汚染された創傷部位から侵入し、産生される強力な神経毒素によって強直性痙攣等を惹起する重症感染症です。初期症状として開口障害や頚部硬直がみられ、進行すると全身性の筋肉の強直や呼吸困難を呈し、予後を左右することもあります。

本症の予防および管理においては、過去のワクチン接種歴に基づいた追加免疫(ブースター接種)の検討と、受傷直後のデブリードマンを含む適切な創傷管理、そして早期の医療機関受診が極めて有効です。臨床症状から本症が疑われる場合や、汚染の強い外傷を負った場合には、遅滞なく専門医にご相談ください。患者様一人ひとりの状態に合わせ、抗破傷風ヒト免疫グロブリンの投与などの最適な対応方針を検討してまいります。

 

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2026/03/06
  • 更新日:2026/03/06

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