結節性多発動脈炎(PAN)けっせつせいたはつどうみゃくえん
結節性多発動脈炎(PAN)は、中くらいの太さの動脈に炎症が起こり、全身の臓器に障害をきたす希少な膠原病です。発熱や体重減少、皮疹、神経症状、腎障害など多彩な症状がみられますが、ステロイドや免疫抑制薬による早期治療で予後の改善が期待できます。
目次
⚫︎結節性多発動脈炎(PAN)とは?
結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)は、中型の動脈(心臓から出て各臓器に血液を送る“幹”のような血管)に炎症と傷み(壊死性血管炎)が起こる病気です。血流が悪くなることで、皮膚、筋肉、神経、腎臓、腸、心臓など全身のさまざまな臓器に症状が出ます。
国内では指定難病に含まれる、比較的まれな疾患で、患者さんは全国でも数千人規模とされています。40〜60歳代に多いものの、若年から高齢まで幅広い年代で起こりうる病気です。男女差は大きくありません。
人から人へうつる感染症ではなく、「自分の免疫が自分の血管を攻撃してしまうタイプの病気(自己免疫疾患)」の一つと考えられています。
⚫︎結節性多発動脈炎(PAN)の原因
原因の多くは「よく分かっていない」
結節性多発動脈炎は、膠原病や自己免疫疾患全般に共通するように、多くの症例で明らかな原因は分かっていません。免疫のバランスが崩れ、血管の壁を「異物」と誤認して攻撃することで炎症が起こると考えられています。
ウイルス感染との関連
一部の方では、B型肝炎ウイルスなどのウイルス感染をきっかけに免疫が暴走し、PANを発症することが知られています。ただし、日本ではB型肝炎ワクチンや輸血の安全性向上により、このタイプは比較的まれとされています。
遺伝や生活習慣との関係
家族内に同じ病気が集中することは少なく、遺伝病ではないと考えられています。また、喫煙・食事などの生活習慣が直接の原因になるわけではありませんが、高血圧や血管への負担は合併症を悪化させる要因になり得ます。
⚫︎結節性多発動脈炎(PAN)の症状は?
PANは「どの臓器の血管が傷むか」によって症状が大きく変わります。典型的には次のような症状が組み合わさって、ゆっくり〜比較的急に進行していきます。
全身症状
- 長引く発熱(微熱〜高熱)
- 強い倦怠感(いつもだるい)
筋肉・関節の症状
- ふくらはぎや太もも、腕などの筋肉痛
- 関節痛(腫れを伴うこともある)
皮膚の症状
- 皮膚の下にコロコロ触れるしこり(血管の炎症による結節)
- 点状出血や紫斑(小さな内出血のような赤紫色の斑点)
注意ポイント
・皮膚だけに症状が限られる「皮膚動脈炎(皮膚型PAN)」もあり、この場合は全身症状が軽いことがあります。
・「熱が続く」「体重がどんどん減る」「しびれや腹痛など症状があちこちに出る」といった状態が重なるときは、早めに膠原病内科やリウマチ科での精査が必要です。
⚫︎受診の目安
次のような場合は、早めの受診が重要です。
- 発熱が続き、体重減少や強いだるさが数週間以上続いている
- 原因がはっきりしない筋肉痛・関節痛にくわえ、皮膚のしこりや紫斑(内出血のような赤紫色の斑点)が出てきた
- 手足のしびれや焼けるような痛みが続く、片側の足首だけ力が入らない(足首が落ちる感じがある)
- 食後の腹痛が続く、血便や黒色便が出る、原因不明の強い腹痛がある
胸の強い痛み、突然の片麻痺やろれつが回らない、我慢できないほどの激しい腹痛・吐血・血便、意識がもうろうとする、といった症状がある場合は、救急外来を受診する緊急のサインです。自己判断で様子を見ず、すぐに医療機関を受診してください。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
診断は
- 症状(頭痛・視力障害・あごの痛み・全身症状など)
- 血液検査(炎症反応や自己抗体)
- 画像検査(エコー、MRI、PETなど)
- 側頭動脈生検(組織検査)
を組み合わせて行います。
治療の中心は、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど)による炎症の早期コントロールです。視力障害や脳梗塞などの重い合併症を防ぐため、多くの場合は疑いの段階からステロイドを開始し、その後検査結果を見ながら確定診断を進めます。
難治例や再燃を繰り返す場合には、トシリズマブ(IL-6阻害薬)などの生物学的製剤とステロイドを併用する治療も行われています。
⚫︎結節性多発動脈炎(PAN)の診断
1)問診・診察
- いつからどのような症状が始まったか(発熱、体重減少、しびれ、腹痛、皮疹など)
- B型肝炎を含む肝炎の既往やワクチン歴、薬剤服用歴 などを詳しくうかがいます。
- 皮膚の状態、筋肉の圧痛、神経の働き(感覚・力)、血圧などを丁寧に診察します。
2)血液検査・尿検査
- CRP、赤沈(ESR)など炎症反応の上昇
- 貧血や白血球・血小板数の変化
- 腎機能(クレアチニン)、肝機能
- B型肝炎ウイルスなどのウイルス検査
- 尿検査でたんぱく尿・血尿の有無を確認します。
- 顕微鏡的多発血管炎など他の血管炎と区別するために、ANCA(好中球細胞質抗体)の検査も行いますが、PANでは陰性であることが多いです。
3)画像検査(血管の形や血流をみる検査)
- 造影CT、MRI、MRA、CTアンギオ、超音波検査などで、腎動脈や腸間膜動脈などの中〜小型動脈に「こぶ(動脈瘤)」や狭窄・閉塞がないかを確認します。
- 必要に応じてカテーテルを使った血管造影を行い、典型的な多発動脈瘤などの所見を探します。
4)組織検査(生検)
- 皮膚、筋肉、末梢神経、腎臓など、症状が出ている部位から小さな組織を採取し、顕微鏡で血管の炎症や壊死の状態を確認します。
- 中小動脈に壊死性血管炎がみられ、他の血管炎(ANCA関連血管炎など)が否定できれば、PANと診断されます。
⚫︎結節性多発動脈炎(PAN)の治療
A. 初期対応(まずやること/基本方針)
- 炎症を抑えるため、ステロイド薬(プレドニゾロンなど)の内服を開始します。重症の場合は入院して点滴(ステロイドパルス療法)を行うことがあります。
- 高血圧、痛み、感染症など、合併している症状に対する治療も同時に行います。
- 腎不全や消化管穿孔(腸に穴があく)、心筋梗塞など命に関わる合併症が疑われるときは、集中治療が必要になることがあります。
B. 中等症〜重症例の治療(免疫抑制療法)
- ステロイドだけでは不十分な場合や、腎臓・消化管・中枢神経・心臓などの重大な臓器障害がある場合には、
サイクロフォスファミドなどの免疫抑制薬を併用して、より強力に炎症を抑えます。 - B型肝炎ウイルスが関係しているPANでは、抗ウイルス薬や血漿交換療法などを組み合わせることもあります。
- 症状が落ち着いてきたら、免疫抑制薬をアザチオプリンやメトトレキサートなどに切り替えて、再発を防ぎながらステロイドの量を少しずつ減らしていきます。
C. 日常生活の注意と再発予防
- ステロイドや免疫抑制薬の影響で、感染症(肺炎、帯状疱疹など)にかかりやすくなるため、手洗い・うがい、ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌など)は主治医と相談しながら計画します。
- 骨粗しょう症や糖尿病、高血圧など、治療薬の副作用に対する予防・管理も並行して行います。
- 症状が落ち着いても、急な体重減少・しびれの悪化・腹痛・息切れなどが出た場合は、再発や合併症のサインの可能性があるため、自己判断で薬を減らさず、早めに受診しましょう。
⚫︎結節性多発動脈炎(PAN)の予後
治療法がなかった時代には、PANは数か月〜数年で命に関わることも多い病気でしたが、現在はステロイドや免疫抑制薬の普及により、適切な治療を受けた方の5年生存率は80%前後とされています。
一方で
- 腎臓(腎不全)
- 消化管(腸の壊死・穿孔)
- 心臓(心筋梗塞・心不全)
- 中枢神経(脳梗塞・脳出血)
など重要な臓器の障害が強い場合は、予後が悪くなることが知られています。
症状が落ち着いても、末梢神経障害によるしびれや筋力低下、腎機能の低下などの後遺症が残ることがあります。そのため、「早期診断・早期治療」とともに、「再発の有無や臓器の状態を長期的にフォローしていくこと」がとても大切です。
⚫︎結節性多発動脈炎(PAN)の予防
PAN自体は原因がはっきりしないことが多く、「これをすれば確実に防げる」という方法はありません。
ただし
- B型肝炎ウイルスがきっかけとなるPANは、B型肝炎ワクチンや安全な輸血体制の整備により減ってきているとされています。ワクチン接種歴が不明な場合は、かかりつけ医と相談すると安心です
- 強い免疫抑制療法を受けている場合は、一般的な感染症予防(手洗い、マスク、人混みを避けるなど)や、主治医と相談したうえでのワクチン接種が重要です。
- 高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病は、血管全体への負担を増やすため、日ごろからのコントロールが大切です。
「完全な予防」よりも、「早めに病気を見つけて、きちんと治療し、再発や合併症を減らす」ことが現実的な対策となります。
⚫︎結節性多発動脈炎(PAN)に関連する病気や合併症
血管炎の仲間(鑑別が必要な病気)
- 顕微鏡的多発血管炎(MPA)
- ANCA関連血管炎(多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 など)
- IgA血管炎(旧・アレルギー性紫斑病)
同じ「血管炎症候群」というグループに入る病気であり、血液検査や画像、組織検査で丁寧に見分ける必要があります。
PANに伴って起こりうる合併症
- 高血圧・慢性腎不全
- 心筋梗塞、心不全、不整脈
- 消化管出血・消化管穿孔(腸に穴があく)
関連する限局型
皮膚だけに症状が限られる「皮膚動脈炎(皮膚型PAN)」は、全身型PANと比べて予後が良いとされますが、将来的に全身型に移行しないかどうか、定期的なフォローが必要です。
⚫︎まとめ
結節性多発動脈炎(PAN)は、中型の動脈に炎症が起こり、全身にさまざまな症状が出る希少な膠原病です。
原因不明の発熱や体重減少、皮疹、しびれ、腹痛、高血圧などが重なっているときは、早めに膠原病内科・リウマチ科での精査が必要です。
現在は、ステロイドや免疫抑制薬などの治療により、多くの方で症状のコントロールや予後の改善が期待できるようになっています。
一人で不安を抱え込まず、気になる症状が続くときは、遠慮なく医療機関に相談してください。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学「結節性多発動脈炎」
(https://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu06-4.html) - 日本血管炎学会「結節性多発動脈炎」
(https://www.vas-mhlw.org/kaisetsu-iryo/2-1/)
■ この記事を監修した医師
赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2026/03/11
- 更新日:2026/03/11
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