食道潰瘍しょくどうかいよう
食道潰瘍は、胃酸や薬剤、感染などの影響で食道の粘膜が傷つき、深い炎症やただれを起こす病気です。胸やけや痛み、嚥下時の違和感などが主な症状で、重症化すると吐血や出血を伴うこともあります。原因に応じた治療が必要であり、薬物療法や生活習慣の見直しが中心となります。適切な対応により、多くの場合は治癒が可能ですが、再発を防ぐための継続的な管理が大切です。
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食道潰瘍とは?
食道潰瘍とは、食道の粘膜が深く傷つき、潰瘍(ただれ)を形成した状態を指します。これは食道粘膜が何らかの強い刺激にさらされた結果、炎症が進行し、表層を超えて深層まで組織が損傷した状態です。
胃や十二指腸にできる潰瘍に比べると発症頻度は低いものの、重症化すると出血や穿孔(穴があく)を起こす可能性もあり、注意が必要な消化管疾患の一つです。
食道潰瘍はさまざまな原因で発症し、その背景によって治療方針も異なります。胃酸の逆流によるもの(逆流性食道炎が進行したケース)、薬剤によるもの(薬剤性食道潰瘍)、感染によるもの(ヘルペスウイルス、真菌など)などに分類されます。
症状が軽度の場合は気づかれにくいこともありますが、適切な治療と生活管理を行うことで改善が期待できます。原因の特定と早期の対処が予後の改善に直結します。
原因
食道潰瘍の原因は多岐にわたりますが、最も一般的なのは胃酸の逆流によるものです。胃の内容物が食道へ逆流し、強い酸によって食道粘膜が慢性的に傷つくことで潰瘍が形成されます。これは逆流性食道炎の重症例に見られる典型的な経過です。
次に多いのが「薬剤性潰瘍」で、特にテトラサイクリン系抗生物質、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、ビスホスホネート製剤、カリウム製剤などは食道粘膜に強い刺激を与えることがあります。これらの薬剤を水分が不十分なまま服用したり、就寝前に服用した場合に、錠剤が食道内に停滞して粘膜を傷つけやすくなります。
また、免疫力が低下している人に見られる「感染性潰瘍」もあります。ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、カンジダ菌などによる感染が原因で、がん治療中やHIV感染者などで発症しやすくなります。
その他、化学物質の誤飲、胃管の機械的刺激、放射線治療後の合併症なども稀な原因として報告されています。
症状
最も一般的な症状は「胸の痛み」や「胸やけ」です。これは食道粘膜が傷ついて炎症を起こすことで、みぞおちや胸の中央部に焼けるような痛みや不快感が現れるためです。
「嚥下時の痛み(嚥下痛)」もよくみられる症状で、食事や飲み物を飲み込んだときにしみるような感覚や痛みを感じることがあります。特に熱いものや酸味のあるものを摂取したときに強く感じやすいです。
潰瘍が深くなって出血を起こすと、「吐血」や「黒色便(タール便)」が出現することもあります。出血量が多い場合には貧血症状(疲労感、めまい、動悸など)を伴うこともあります。
慢性的な症状が続く場合は、食事量の低下や食欲不振による体重減少がみられることがあります。また、声のかすれや咳、誤嚥症状などを伴うケースもあり、これらは潰瘍が咽頭側や気道近くに及んだ場合に生じることがあります。
診断方法と治療方法
診断には、まず患者の症状や服薬歴、生活習慣を詳しく確認します。そのうえで、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を行い、食道粘膜の状態を直接観察します。潰瘍の有無、大きさ、数、出血の有無などを確認し、場合によっては組織の一部を採取して病理検査を行います。
感染が疑われる場合には、ウイルス抗体検査や真菌の培養検査を行うこともあります。また、貧血が疑われる際には血液検査でヘモグロビン値を測定することも重要です。
治療の基本は「原因に応じた対応」です。胃酸逆流が原因であれば、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)などの胃酸分泌抑制薬を使用します。薬剤性潰瘍では、原因となった薬の中止や変更、水分を十分に摂った正しい服薬方法の指導が行われます。
感染性潰瘍の場合は、抗ウイルス薬や抗真菌薬が使用されます。出血が強い場合には、内視鏡での止血処置(クリップ、凝固法、局所注射など)が行われることがあります。
予後
適切な治療を受ければ、多くの食道潰瘍は数週間から数ヶ月で改善します。特に胃酸分泌抑制薬を中心とした薬物療法は有効で、潰瘍の治癒率は高いとされています。
しかし、原因が取り除かれていない場合や治療を中断した場合には再発することがあり、慢性的な炎症により食道が狭くなる「食道狭窄」や、出血を繰り返すことで貧血状態が持続することもあります。
薬剤性潰瘍では、再発予防のために服薬方法の見直しや薬剤の変更が必要となります。感染性潰瘍においては、免疫状態の改善や基礎疾患のコントロールが予後を左右します。
潰瘍が長期間治癒せず、慢性化することで悪性化(がん化)する可能性が指摘されることもありますが、これは極めてまれです。長引く症状がある場合は、医師による継続的な評価と内視鏡検査のフォローアップが必要です。
予防
食道潰瘍を予防するには、原因となる要素を避けることが基本です。まず、胃酸の逆流を防ぐために、食べ過ぎを避け、食後すぐに横にならない、就寝前2〜3時間は食事を控えるといった生活習慣が重要です。
飲酒や喫煙は粘膜を刺激し、潰瘍のリスクを高めるため、できるだけ控えるようにしましょう。また、辛いものや酸っぱいものなどの刺激物は、食道粘膜に負担をかけることがあるため注意が必要です。
薬剤性潰瘍を予防するには、特定の薬を服用する際には十分な水で飲む、就寝前に薬を飲まない、服用時に姿勢を起こして飲むなどの工夫が必要です。とくに高齢者や複数の薬を服用している方は、医師や薬剤師と相談してリスクを最小限に抑えるよう心がけましょう。
感染性潰瘍の予防には、免疫力の維持や持病のコントロールが大切です。規則正しい生活、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠などの基本的な健康管理が予防につながります。
関連する病気や合併症
食道潰瘍は単独で発症することもありますが、関連する消化器疾患との合併が多くみられます。最も関連が深いのは「逆流性食道炎」であり、これが重症化した結果として潰瘍が形成されることがあります。
「食道狭窄」は、潰瘍の治癒過程で粘膜が瘢痕化し、食道の内腔が狭くなる状態で、嚥下困難の原因となります。また、「出血性潰瘍」では大量の出血による貧血、失神、ショックなどが起こることもあります。
感染性潰瘍では、ウイルスや真菌による「食道炎」との鑑別が必要です。HIV感染者やがん治療中の患者では、こうした感染症に伴って潰瘍が出現することがあり、免疫低下が背景にあるケースでは予後への影響も大きくなります。
さらに、潰瘍の慢性化によって「食道がん」のリスクが増加する可能性があるため、長引く症状や難治性の潰瘍がある場合には慎重な経過観察と必要な検査が求められます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「消化性潰瘍診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
厚生労働省e-ヘルスネット「胃食道逆流症(GERD)」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
順天堂大学医学部附属順天堂医院 消化器内科「食道潰瘍」(https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/shokaki/)
国立国際医療研究センター「上部消化管出血」(https://www.ncgm.go.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/06/25
- 更新日:2025/06/26
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