ウイルス性出血熱ういるすせいしゅっけつねつ
ウイルス性出血熱は、特定のウイルスが全身に広がり、高熱や全身倦怠感に加えて皮下出血や鼻血、消化管出血などを起こしうる重い感染症の総称です。多くはアフリカや南米など特定地域でみられ、日本では主に渡航者が対象となり、疑われた場合は速やかな専門医療機関での対応が必要です。
目次
⚫︎ウイルス性出血熱とは?
ウイルス性出血熱は、いくつかのウイルスのグループ(アレナウイルス・フィロウイルス・ブニヤウイルス・フラビウイルスなど)によって起こる病気の総称で、「病名ひとつ」ではなく、いくつかの病気をまとめた言い方です。代表的なものに、エボラ出血熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、南米出血熱、黄熱などがあります。
これらの病気はいずれも
- 高い熱(高熱)
- 全身の強いだるさ
- 嘔吐や下痢などの消化器症状]]
日本では非常にまれですが、感染症法上「一類感染症」に分類されており、疑われた場合は保健所への連絡と、特定の医療機関での厳重な管理が必要と定められています。
⚫︎ウイルス性出血熱の原因
ウイルス性出血熱の原因となるウイルスは、主に動物や吸血昆虫を介して人に伝播します。
主な感染源・感染経路の例
- げっ歯類(ネズミなど):ラッサ熱などでは、ネズミの尿や糞で汚染された食品や環境から感染することがあります。
- コウモリ:エボラウイルスやマールブルグウイルスなどの自然宿主(ウイルスが元々住みついている動物)と考えられています。
- ダニ・蚊:クリミア・コンゴ出血熱ではマダニ、黄熱や一部の出血熱では蚊が媒介します。
⚫︎ウイルス性出血熱の症状は?
病気の種類やウイルスによって差はありますが、おおまかな経過は共通しています。
初期症状(風邪やインフルエンザに似た症状)
- 38〜40℃前後の高熱
- 頭痛
- 筋肉痛・関節痛
進行した場合にみられる症状
- 吐き気・嘔吐、腹痛、下痢などの強い消化器症状
- 皮膚の点状出血、あざが増える鼻血、
- 歯ぐきからの出血、血便・黒色便(消化管出血)
すべての患者さんで出血が目立つわけではなく、「ウイルス性出血熱」という名前ですが、実際に明らかな出血症状が出るのは一部(およそ2割程度)とされています。
⚫︎受診の目安
次のような場合には、特に早めの医療機関への相談が必要です。
- 流行地域(アフリカや南米の一部など)への渡航歴があり、帰国後3週間以内に高熱が出た
- 高熱に加えて、強い頭痛、筋肉痛、嘔吐・下痢などが続く
- 鼻血や歯ぐきからの出血、皮下出血(あざ)が増える、黒色便が出る
- 急な意識の変化、極度のだるさ、呼吸が早い・苦しい感じがある
日本では非常にまれであり、多くの「発熱+下痢」はウイルス性出血熱ではありませんが、
「最近流行地域に行った」「現地で動物や病人の体液に触れた」などの事情がある場合は、受診前に電話で保健所や医療機関に相談し、指示に従ってください。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
ウイルス性出血熱が疑われた場合、通常の外来ではなく、感染症指定医療機関などでの厳重な感染対策のもとで診断と治療が行われます。
診断は
- 症状と経過
- 渡航歴、動物や患者との接触歴
- 血液検査、ウイルス遺伝子(PCR)検査
などを組み合わせて総合的に判断します。
治療は
- 多くの病型で「特効薬」はなく、点滴や輸血、臓器の働きを支える治療(集中治療)が中心
- 一部の病気では、研究段階の抗ウイルス薬や抗体医薬が用いられることがある
- 黄熱のようにワクチンがある病気もあり、予防の面で重要な役割を果たします
致死率の高い病気が多いため、「疑った時点で感染対策と全身管理をすぐに始める」ことが、治療の大きなポイントです。
⚫︎ウイルス性出血熱の診断
1)問診・診察
- 発症時期、症状の順番や強さ
- 過去3〜4週間の渡航歴(特にアフリカ・南米など)
- 動物(コウモリ・げっ歯類・家畜など)やダニ・蚊の刺咬歴
これらを詳しく確認したうえで、全身状態や出血の有無、意識レベル、脱水の程度などを診察します。
2)血液検査
- 血小板減少(血小板:出血を止める役割をもつ血液成分)
- 肝機能・腎機能の異常
- 炎症反応、電解質バランスの乱れ
3)ウイルス学的検査
- 血液や一部の体液を用いて、PCR検査でウイルスの遺伝子を検出
- 必要に応じて抗体検査(体が作るウイルスに対するたんぱく質)も行い、診断の補助とします。
4)画像検査・その他
- 胸部X線、心エコー、腹部エコーなどで、臓器障害の程度を評価
- 重症例では集中治療室で、血液ガス分析や各種モニタリングを継続して行います。
⚫︎ウイルス性出血熱の治療
A. 初期対応(まずやること/基本方針)
- 防護具(手袋、ガウン、マスク、ゴーグルなど)を用いた厳格な感染対策
- 点滴による水分・電解質補正、血圧・呼吸の安定化
- 強い嘔吐や下痢への対応(制吐薬・整腸・必要に応じて輸液量の調整)
B. 集中治療・支持療法
- 出血傾向が強い場合は、必要に応じて血小板輸血や新鮮凍結血漿の投与
- 腎臓が悪くなった場合は透析、呼吸状態が悪い場合は人工呼吸管理
- 心臓や循環が不安定な場合は昇圧薬(血圧を支える薬)などを使用します。
C. 特異的治療(病型により異なる)
黄熱には有効なワクチンがありますが、発症後は対症療法が中心です。
エボラ出血熱などでは、近年一部で抗体医薬などが使用されるようになりましたが、まだ限られた施設・状況での治療です。
治療の中心はあくまで「全身状態を支える治療」であり、早期の集中治療が予後を左右します。
⚫︎ウイルス性出血熱の予後
ウイルス性出血熱の予後は
- 原因となるウイルスの種類(エボラやマールブルグでは致死率が数十%に達することもあります)
- 治療開始までのスピード
- 患者さんの年齢や基礎疾患の有無
などによって大きく異なります。
重症のウイルス性出血熱では、致死率が高い一方、適切な支持療法により回復する方も少なくありません。回復した後も、しばらくは疲れやすさ、筋力低下、集中力の低下などが続くことがあり、経過観察やリハビリテーションが大切です。
⚫︎ウイルス性出血熱の予防
ウイルス性出血熱は、発症してからの治療よりも「かからないようにすること」が非常に重要です。
主な予防策
- 流行地域への渡航前に、厚生労働省検疫所(FORTH)や外務省の海外安全情報で最新の流行状況を確認する
- 黄熱など、推奨されているワクチンは適切な時期に接種する
- 流行地域では、動物(特にコウモリやげっ歯類、家畜)の血液や体液に触れない
- ダニ・蚊の対策として、長袖・長ズボン、虫よけ剤、蚊帳などを活用する
日本国内では一般の生活で感染することはほとんどありませんが、海外渡航歴のある方は、帰国後3週間程度は体調の変化に注意し、異常があれば早めに医療機関へ相談してください。
⚫︎ウイルス性出血熱に関連する病気や合併症
敗血症・多臓器不全
感染に対して体が強く反応しすぎることで、血圧低下や意識障害、腎不全などが同時に起こる危険な状態です。
DIC(播種性血管内凝固症候群)
血液が体の中であちこち固まりやすくなり、その結果として出血もしやすくなる状態で、ウイルス性出血熱の重症例でみられることがあります。
二次感染
免疫力が低下することで、細菌による肺炎やその他の感染症が重なり、さらに状態が悪化することがあります。
⚫︎まとめ
ウイルス性出血熱は、特定のウイルスが全身に感染して、高熱や消化器症状、出血、臓器障害などを引き起こす重い感染症の総称です。多くはアフリカや南米など限られた地域で発生し、日本では主に流行地域からの渡航者で疑われます。
疑いがある場合は、周囲への感染を防ぐための厳重な対策と、専門的な医療体制のもとでの評価・治療が必要です。多くのタイプでは特効薬がないため、点滴や輸血、必要に応じた集中治療など、全身状態を支える治療が中心になります。
予防の基本は、流行地域へ渡航する前に最新情報を確認し、必要に応じてワクチン接種を受けることです。現地では動物や昆虫との接触を避ける工夫を行い、帰国後もしばらくは体調の変化に注意することが大切です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 国立感染症研究所 バイオテロ対応ホームページ「詳細ーウイルス性出血熱」
(https://h-crisis.niph.go.jp/bt/disease/4summary/4detail/) - 福岡市保健環境研究所「ウイルス性出血熱について」
(https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/hokensho/kansensho/sonota/ebora.html)
■ この記事を監修した医師
赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2026/03/10
- 更新日:2026/03/10
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