ボツリヌス症ぼつりぬすしょう
ボツリヌス症は、ボツリヌス菌が作る毒素により起こるまひ性の食中毒です。物が二重に見える、まぶたが下がる、飲み込みにくい、息苦しいなどの症状が出たときは、すぐに医療機関を受診することが大切です。
目次
⚫︎ボツリヌス症とは?
ボツリヌス症は、ボツリヌス菌という細菌が作る強い毒素(ボツリヌス毒素)が、神経の働きをブロックすることで起こる病気です。手足のしびれではなく、「力が入りにくい・まぶたが下がる・物が二重に見える」などの神経まひの症状が特徴です。
「食べ物に混じった毒素を飲み込んで発症するタイプ(食餌性ボツリヌス症/ボツリヌス食中毒)」のほか、乳児特有の「乳児ボツリヌス症」、ケガの傷口から菌が入って起こる「傷口ボツリヌス症」、医療で使うボツリヌス毒素製剤の投与が原因になる「医原性ボツリヌス症」など、いくつかのタイプがあります。
適切な治療を受ければ回復が期待できますが、進行すると呼吸の筋肉までまひし、命に関わることもあるため、早めの受診がとても重要です。
⚫︎ボツリヌス症の原因
主な原因は次のとおりです。
食餌性ボツリヌス症
野菜の瓶詰めや真空パック食品、自家製の缶詰・発酵食品など、酸素が少ない状態で保存された食品の中でボツリヌス菌が増え、そこで作られた毒素を摂取することで起こります。膨らんだ缶詰や異臭のする瓶詰めなどは特に危険です。
乳児ボツリヌス症
生後1歳未満の赤ちゃんが、芽胞(がほう:固い殻に包まれた「菌のタネ」のようなもの)を含む食品や土壌などを取り込み、腸の中で菌が増えて毒素が作られることで起こります。原因食品として有名なのがハチミツで、「1歳未満の乳児にはハチミツ厳禁」とされる大きな理由です。
傷口ボツリヌス症
深い傷や汚れた傷にボツリヌス菌が入り込み、傷の中で菌が増えて毒素が作られることで起こります。土や泥で汚れた外傷、注射薬物の使用部位などがきっかけになることがあります。
⚫︎ボツリヌス症の症状は?
ボツリヌス症の潜伏期は数時間〜数日(多くは12〜36時間)、乳児では数日〜数週間かけて進行します。吐き気や腹痛などの消化器症状のあと、物が二重に見える・まぶたが下がる・飲み込みにくい・手足に力が入らない・息苦しいといった神経まひが出るのが特徴です。乳児では、便秘、哺乳量低下、泣き声が小さい、ぐったりして首や手足がだらんとするなどのサインがみられたら、早めの受診が必要です。
潜伏期
- 数時間〜数日(多くは12〜36時間)
- 乳児では数日〜数週間かけて進行
おとなの主な症状
- 吐き気・腹痛・便秘などの消化器症状
- 物が二重に見える、まぶたが下がる
- 飲み込みにくい、ろれつが回らない
- 手足に力が入らない、息苦しい
乳児の注意サイン
- 便秘が続く
- 母乳・ミルクを飲む量が減る
- 泣き声が小さい、ぐったりしている
⚫︎受診の目安
次のような場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください。
- 急に物が二重に見える、まぶたが下がる
- ろれつが回らない、飲み込みにくい、むせやすい
- 首や手足に力が入りにくい、脱力感が強い
- 息苦しさ、胸の圧迫感、浅い呼吸がある
- 赤ちゃんで、便秘や哺乳力低下、ぐったり感が続く
特に、「呼吸が苦しい」「急に立てない・歩けない」「飲んだものがのどにつかえる」などの症状が急に出た場合は、救急受診や救急車の利用をためらわず検討してください。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
診断は、いつからどのような症状が出たか、どんな食品を食べたか、ケガや医療行為の有無などを詳しくうかがい、神経学的な診察を行ったうえで、血液・便・胃内容物・原因と疑われる食品などから毒素やボツリヌス菌を見つける検査を組み合わせて行います。
治療の柱は
- 毒素の働きを中和する「抗毒素薬」の投与
- 呼吸や全身状態を支える「集中治療・支持療法」
- 必要に応じた外科的処置や抗菌薬治療(傷口ボツリヌス症など)
症状が疑われた場合、「検査結果を待つ前に」抗毒素薬を投与することもあります。呼吸が弱くなっている場合は、人工呼吸器による呼吸管理が必要になることもあります。
⚫︎ボツリヌス症の診断
1)問診・診察
- 発症のきっかけ(どんな食品をいつ食べたか、自家製保存食の有無、ハチミツ摂取歴、深い傷や汚れた傷、ボツリヌス毒素製剤の注射歴など)を確認します。
- 眼の動きやまぶたの状態、顔や舌の動き、手足の筋力、反射など、神経の診察を丁寧に行います。
2)血液・便・胃内容物・食品の検査
- 血液、便、胃の中身(胃内容物)や、原因と疑われる食品などから、ボツリヌス毒素やボツリヌス菌を検出する特殊な検査を行います。
- 乳児ボツリヌス症では、便からボツリヌス菌や毒素を確認します。
3)その他の検査
- 呼吸機能検査や血液ガス分析などで、呼吸の状態を評価します。
- 他の神経筋疾患(ギラン・バレー症候群など)との区別が必要な場合、神経伝導検査や画像検査を行うこともあります。
⚫︎ボツリヌス症の治療
A. 初期対応(まずやること/基本方針)
- ボツリヌス症が疑われたら、入院のうえで経過観察と治療を行います。
- 症状の進行が早い場合や呼吸状態が不安定な場合は、集中治療室(ICU)で管理されることがあります。
B. 抗毒素薬(抗ボツリヌス毒素)
- 早期に抗毒素薬を投与することで、これから新たに神経に結合する毒素の働きを抑え、症状の進行を防ぐことが期待されます。
- 一度神経に結合してしまった毒素の効果を完全に元に戻すことはできないため、「疑ったら早く投与する」ことが重要です。
C. 呼吸・循環のサポート(支持療法)
- 呼吸が弱い場合は、酸素投与や人工呼吸器による呼吸管理を行います。
- 水分・栄養補給を点滴などで行い、必要に応じて心臓や血圧を支える薬を用います。
D. 傷口ボツリヌス症に対する治療
汚染された傷の洗浄・デブリードマン(感染した組織の切除)を行い、ペニシリンやメトロニダゾールなどの抗菌薬を使用することがあります。
⚫︎ボツリヌス症の予後
適切な治療と全身管理を行えば、多くの方は時間をかけて回復が期待できます。ただし、神経の働きが回復するまでには数週間〜数カ月かかることもあり、その間リハビリテーションを続けながら、ゆっくりと筋力を取り戻していきます。
重症例では
- 長期間の人工呼吸管理
- 入れ替わる感染症や血栓症などの合併症
が問題になることもあり、早期からの集中的な治療・看護・リハビリが重要です。
乳児ボツリヌス症も、多くは適切な管理により回復しますが、重症化すると命にかかわるため、「1歳未満のハチミツを避ける」という予防策がとても重要です。
⚫︎ボツリヌス症の予防
完璧に防ぐことは難しいものの、次の工夫でリスクを大きく下げることができます。
1)食品の取り扱い・保存
- 自家製の瓶詰め、缶詰、発酵食品、真空パック食品などは、レシピどおりに十分な加熱・塩分・酸味(pH)を保つことが大切です。
- 膨らんでいる缶詰や、異臭・変色のある瓶詰め、真空パック食品は食べないようにしましょう。
2)ハチミツと乳児ボツリヌス症の予防
- 1歳未満の赤ちゃんには、ハチミツやハチミツ入りの飲料・お菓子などは一切与えないようにしてください。
- ボツリヌス菌の芽胞は熱に強く、家庭での加熱では完全に死なないため、「加熱すれば大丈夫」ということはありません。
3)土壌やほこりへの配慮
- 土や砂が多い場所で遊んだあとは、手をよく洗うようにしましょう。
- 野菜や果物などは、調理前に流水でよく洗うことが勧められています。
4)傷の管理
- 深い傷や土・泥で汚れた傷は、早めに医療機関で洗浄・処置を受けましょう。
- 自己判断で放置したり、消毒だけで済ませるのではなく、「中が汚れていないか」を確認してもらうことが大切です。
⚫︎ボツリヌス症に関連する病気や合併症
呼吸不全
呼吸筋がまひし、十分に息が吸えなくなる状態です。人工呼吸器によるサポートが必要になることがあります。
誤嚥性肺炎
飲み込みが悪くなることで、食べ物や唾液が気管に入り、肺炎を起こすことがあります。
長期臥床に伴う合併症
筋力低下、関節拘縮、血栓症(エコノミークラス症候群のような状態)などが生じることがあり、リハビリと予防が重要です。
乳児ボツリヌス症後の発達遅延
重症例では、回復後もしばらく筋力や運動発達がゆっくりになることがあります。早期からのリハビリや定期フォローが大切です。
⚫︎まとめ
ボツリヌス症は、ボツリヌス菌が作る毒素によって起こる、まひを主体とした重い食中毒です。
物が二重に見える、飲み込みにくい、息苦しいといった症状が急に出たときは、早めの受診が何より大切です。
1歳未満の赤ちゃんにはハチミツを与えないこと、自家製保存食や缶詰・瓶詰めの扱いに注意することで、多くの発症は防ぐことができます。
少しでも不安があれば、我慢せず医療機関に相談してください。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 厚生労働省「ボツリヌス症について」
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-32.html) - 食品安全委員会「ボツリヌス症(Botulism)」ファクトシート
(https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_10botulism.pdf)
■ この記事を監修した医師
赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2026/03/06
- 更新日:2026/03/06
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