先天性囊胞せんてんせいのうほう
深頸部膿瘍は、首の奥深いところに膿(うみ)がたまる重い感染症です。高熱や首の腫れ、飲み込みにくさ、口が開けづらい、息苦しさなどがみられ、放置すると窒息や敗血症など命に関わることもあるため、早期の受診と入院治療がとても大切です。
目次
⚫︎先天性囊胞とは?
先天性囊胞とは、生まれつき身体の一部にある「袋状のふくらみ(嚢胞)」の総称です。中には液体やゼリー状の内容物が入っており、首の真ん中や横、あごの下、耳の前後など、頭頸部(頭〜首まわり)に見つかることが多いです。
耳鼻咽喉科の領域でよく見られる先天性囊胞には、次のようなものがあります。
- 正中頸嚢胞(甲状舌管嚢胞)
- 側頸嚢胞(鰓裂嚢胞)
- 皮様嚢胞(皮膚の成分を含む嚢胞)
- リンパ管腫
多くは良性で、命に関わることはまれですが、感染して腫れたり、場所によっては呼吸や飲み込みの妨げになることがあります。また、きわめてまれに腫瘍(がん)を合併するタイプも知られており、適切な診断とフォローが大切です。
⚫︎先天性囊胞の原因
先天性囊胞は、「お腹の中にいるとき(胎生期)」の発達の過程で、もともと一時的に存在していた管やすき間が完全には消えずに残ってしまったために生じます。
代表的なものを例にすると
正中頸嚢胞(甲状舌管嚢胞)
のどの奥から甲状腺が本来の位置へ下りてくる途中にできる「甲状舌管(こうじょうぜっかん)」という通り道が、消えずに一部残ったところに袋が形成されます。
側頸嚢胞(鰓裂嚢胞)
首の横側は、胎生期に「鰓(さい)」と呼ばれる溝やふくらみが作られてから消えていきますが、その過程で一部の溝が完全に閉じず、袋状に残ったものが嚢胞となります。
皮様嚢胞・リンパ管腫など
皮膚やリンパ管の一部が、発達の途中で異常に増えたり残ったりすることで、袋状の構造をつくることがあります。
遺伝的な要因が関わることもありますが、多くの場合「なぜ自分に生じたのか」を個人レベルで特定することは難しく、親の生活習慣や妊娠中の行動のせいと考える必要はありません。
⚫︎先天性囊胞の症状は?
症状は、嚢胞の種類や大きさ・場所によって変わります。代表的なパターンは次の通りです。
首の真ん中ややや真ん中寄りの「ぷよぷよした、しこり」
正中頸嚢胞では、のどぼとけのあたり〜あごの下の真ん中付近に、やわらかい腫れとして見つかることが多いです。飲み込むと一緒に上下に動くのが特徴です。
首の横側のしこり
側頸嚢胞では、耳の下から首の側面にかけて、丸くてやわらかい腫れとして触れることが多いです。ふだんは痛みのないことが多いですが、感染すると急に赤く腫れて熱を持ちます。
赤く腫れて痛む、熱が出る
嚢胞に細菌が入り込むと、中の液が膿(うみ)状になり、痛み・発赤・発熱を伴います。皮膚が薄くなって、内容物が外に出てくることもあります。
⚫︎受診の目安
次のような場合には、耳鼻咽喉科や小児科、小児外科などへの受診をおすすめします。
- 首やあごの下に、柔らかいしこりが数週間以上続いている
- しこりが少しずつ大きくなっている
- しこりの部分が赤く腫れて痛い、熱が出た
- しこりのところから、膿のようなものが出てきた
特に
- 発熱や強い痛みを伴う
- 呼吸がしにくい、ゼーゼー・ヒューヒューする
- 乳児・小児で顔色が悪い、哺乳ができない
といった場合は、救急外来での対応が必要になることがあります。迷ったときは、早めに医療機関に相談してください。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
診断では
- しこりの位置・性状・経過から「先天性囊胞らしいかどうか」を見極める
- 他の病気(リンパ節の腫れ、甲状腺の病気、腫瘍など)と区別する
- どのタイプの先天性囊胞かを見分ける
ことがポイントになります。
治療は
- 炎症を起こしていない時期に計画的に手術で取りきる
- 炎症を起こしている場合は、まず腫れや痛みを抑える治療をしてから手術を検討する
という流れが一般的です。
多くの先天性囊胞は、一度きちんと摘出できれば再発の可能性は低く、良好な経過が期待できます。
⚫︎先天性囊胞の診断
1)問診・診察
- しこりに気づいた時期(生後まもなくだったのか、幼児期なのか、成人してからか)
- 大きさの変化(風邪のたびに大きくなるか、だんだん増大しているか)
- 痛みや熱の有無
などを確認します。
診察では
- しこりが正中(真ん中)か側方(横)か
- 押すとやわらかいか、弾力があるか、固くなっていないか
- 飲み込みや舌の動きと連動して動くかどうか
などを丁寧に触り分け、正中頸嚢胞・側頸嚢胞などの見当をつけます。
2)画像検査
超音波検査(エコー)
被曝がなく、子どもにも優しい検査です。嚢胞の中身が水か、粘り気のある内容物か、血の混じりはないかなどを確認します。また、リンパ節の腫れなど他のしこりとの区別にも役立ちます。
CT・MRI
嚢胞の位置や大きさ、周囲の血管・神経との位置関係を詳しく知るために行います。手術前の「地図作り」のようなイメージです。
3)造影検査・内視鏡検査(必要に応じて)
皮膚の開口部(小さな穴)から嚢胞内へ細い管を通し、造影剤を入れてレントゲンを撮ることで、瘻孔(細い管)の走行を調べることがあります。咽頭・喉頭側から内視鏡で中の様子を見ることもあります。
⚫︎先天性囊胞の治療
A. 感染していない場合(落ち着いている時期)
症状が軽くても、多くの先天性頸部嚢胞は「将来的な感染や再燃を防ぐ」目的で、適切な時期に手術による摘出がすすめられます。
正中頸嚢胞(甲状舌管嚢胞)の手術
甲状舌管は舌骨(じぜつこつ:のどの奥にある小さな骨)の真ん中の部分にくっついていることが多く、嚢胞だけを取るとそこから再発しやすいことが分かっています。そのため、嚢胞に加えて、舌骨の中央部分も一緒に切除する「シストランク法(Sistrunk手術)」が標準的な方法です。再発率を下げるうえでとても大切なポイントです。
側頸嚢胞の手術
側頸嚢胞は、嚢胞本体と、もし瘻孔があればその管も含めて、ひとかたまりとして切除します。
手術はいずれも全身麻酔で行い、数日の入院を必要とすることが多いです。
B. 感染を起こしている場合
- しこりが赤く腫れ、触ると強い痛みがある
- 熱が続いている
- 膿がたまっている
といった急性炎症があるときには、まず抗菌薬で細菌感染を抑えます。
膿が溜まりきっている場合には、局所麻酔をして小さく切開し、膿を外に出す処置(切開排膿)を行うこともあります。
C. その他の先天性嚢胞性疾患
嚢胞性リンパ管腫(リンパ管腫)など、内容物が細かい袋状になって広がっているタイプは、すべてを手術で取るのが難しい場合があり、硬化療法(嚢胞内に薬剤を注入してつぶす治療)を併用することもあります。治療法の選択は、病変の大きさ・場所・年齢などによって変わります。
⚫︎先天性囊胞の予後
- 適切な手術で嚢胞や瘻孔をきちんと取り除ければ、多くの場合、その後の生活に大きな制限はなく、見た目の問題も最小限に抑えられます。
- 一方で、嚢胞の一部が残っていたり、甲状舌管嚢胞で舌骨の切除が不十分だった場合などには、同じ場所に再発することがあります。再発した場合も再手術で改善することが多いですが、最初の手術で丁寧に摘出しておくことがとても重要です。
- 甲状舌管嚢胞のごく一部では、嚢胞壁の中に甲状腺がんが発生することが報告されています。頻度は非常に低いものの、摘出した組織は病理検査でしっかり確認し、必要があれば追加の検査や治療が行われます。
- 乳児期に大きな嚢胞があった場合でも、早期に適切な治療が行われ、気道や飲みこみの機能が保たれていれば、その後の成長・発達に大きな影響を残さずに済むことがほとんどです。
⚫︎先天性囊胞の予防
先天性囊胞は胎児期の発生過程と関係しているため、現時点で「これをすれば完全に防げる」という予防法はありません。
ただし、次のような点は、悪化や合併症を防ぐうえで役立ちます。
首のしこりに気づいたら早めに受診する
「そのうち消えるかも」と様子を見すぎず、一度は専門家に診てもらい、性質を確認しておくと安心です。
感染をくり返す前に手術時期を検討する
何度も腫れたり膿んだりすると、周囲の組織が硬くなり、手術が難しくなることがあります。医師と相談しながら、無理のないタイミングでの摘出を考えていきましょう。
風邪やのどの感染症をこじらせない
先天性嚢胞がある場合は、とくに首のあたりの腫れや痛みに注意し、気になる症状があれば早めに受診することが大切です。
⚫︎先天性囊胞に関連する病気や合併症
嚢胞性リンパ管腫(リンパ管腫)
リンパ管が袋状に広がる先天性の病変で、頸部に多く、やわらかい多房性の腫れとしてみられます。感染や出血で急に大きくなることがあり、呼吸の苦しさの原因になることもあります。
頸部リンパ節炎・頸部膿瘍
嚢胞に二次的に細菌感染が起こると、リンパ節や周囲が腫れて膿がたまり、頸部膿瘍と呼ばれる状態になることがあります。抗菌薬や切開排膿が必要になることもあります。
異所性甲状腺・甲状腺疾患
正中頸嚢胞と似た位置に、本来とは別の場所に甲状腺組織が存在すること(異所性甲状腺)があり、術前に甲状腺の位置や機能を確認しておくことが重要です。
気道狭窄・呼吸障害
嚢胞が大きくなると、気道を圧迫して呼吸困難の原因になることがあります。特に乳児の頸部・舌根部に大きな嚢胞がある場合は、慎重な経過観察と早めの対応が必要です。
⚫︎まとめ
先天性囊胞(正中頸囊胞や側頸囊胞など)は、胎生期の器官形成過程における上皮性組織の閉鎖不全や遺残に起因する良性疾患です。
本症は緩徐に増大し、感染を併発すると膿瘍形成や周囲組織への癒着を来すため、根治には外科的摘出が推奨されます。特に炎症を繰り返すと手術の難易度が高まり、再発リスクが増大するため、消炎後の安定した時期に計画的な手術を施行することが肝要です。
頸部正中や側方に弾力性のある腫瘤を認める際は、画像診断等による鑑別が必要です。速やかに耳鼻咽喉科・小児外科等の専門医を受診し、解剖学的走行を考慮した最適な治療方針を策定してください。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 病気がみえる vol.13 耳鼻咽喉科(頸部腫瘤・先天性頸部嚢胞/瘻 など
(https://www.byomie.com/products/vol13/) - 日本形成外科学会 一般向け情報「正中頚嚢胞」「側頚嚢胞」(https://jsprs.or.jp/general/disease/umaretsuki/kubi/seichukei.html)
■ この記事を監修した医師
岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック
大阪大学 医学部 卒
東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。
患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。
- 公開日:2026/03/31
- 更新日:2026/03/31
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