機能性難聴きのうせいなんちょう
機能性難聴は、耳の構造や神経に明らかな異常がないのに、聞こえにくさを自覚したり、検査で難聴の結果が出る状態です。ストレスや心理的な要因が背景にあることが多く、適切な説明や心のケアで改善が期待できることが少なくありません。
目次
⚫︎機能性難聴とは?
機能性難聴は、「耳の中や神経の検査では大きな異常が見つからないのに、聞こえにくさがあるように見える(検査でも難聴の結果が出る)」状態の総称です。
耳の病気で起こる難聴(中耳炎や加齢性難聴など)を「器質性(きしつせい)難聴」と呼ぶのに対し、機能性難聴の特徴は以下です。
- 耳の構造や聴神経に目立った異常がみられない
- 心の状態やストレス、人間関係などの影響が大きい
子ども(特に小学生〜思春期)に多くみられ、学校や家庭のストレス、いじめ、成績や部活動のプレッシャーなどが背景にあることもあります。大人でも、強いストレスや心理的負担が続いたときに起こることがあります。
⚫︎機能性難聴の原因
機能性難聴の「原因」は、単一の病気というより、いくつかの要素が重なって起こると考えられています。
心理的ストレス・心因的要因
学校・職場・家庭でのストレス、人間関係の悩み、いじめ、不安や抑うつ(気分の落ち込み)などがきっかけになることがあります。本人が自覚していない場合もあります。
環境の変化
進学・転校・引っ越し・クラス替え・職場異動など、大きな環境の変化があったあとに症状が出てくることがあります。
コミュニケーション上の問題
周囲との会話についていけない、叱られることが多い、家庭内でのトラブルなどがあると、「聞こえない」ことで自分を守ろうとする心の動きが影響している場合もあります。
⚫︎機能性難聴の症状は?
機能性難聴の症状は人によってさまざまですが、次のような特徴がよくみられます。
「聞こえにくい」と訴えるが、状況によって差が大きい
- 診察室では聞き返しが多いのに、待合室では普通に会話している
- 小声には反応しないが、思いがけない音には振り向く
両側の難聴として訴えることが多い
片耳だけのこともありますが、両耳とも「聞こえにくい」と訴えるケースがよくみられます。
耳鳴りや耳の違和感を伴うこともある
「ずっと音が鳴っている」「ふさがった感じがする」など、具体的な表現をすることもあります。
学校での聞こえの問題
- 授業中の先生の声が聞き取りにくい
- 聴力検査でひっかかることがきっかけで受診する
といった形で見つかることが多いです。
全身症状や心のサインを伴うことも
頭痛、腹痛、朝起きられない、食欲不振など、ほかの心身症状を同時に抱えていることもあります。
⚫︎受診の目安
- 聞こえにくさがある
- 学校健診で難聴を指摘された
- 検査結果にばらつきがある
- 耳に大きな異常がないのに聞こえにくさが続いている
このような場合は、耳鼻咽喉科への受診をご検討ください。
機能性難聴を含め、まずは耳そのものの病気がないかを確認することが大切です。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
機能性難聴では、以下のような点を総合的にみながら診断・対応を行います。
- 耳そのものの病気(器質性難聴)がないかを確認する
- 生活環境や心理的な背景を確認する
- 本人や家族へわかりやすく説明する
- 必要に応じて学校や職場と連携する
- ストレスや心理的負担への対応を行う
薬だけで改善を目指すというより、環境調整や心のケアを通じて、症状の軽減を図っていきます。
▶︎機能性難聴の診断
1)問診・診察
- いつから聞こえにくさを感じているか
- 左右差はあるか、どんな場面で困るか
- 学校や家庭、職場での変化やトラブルはないか
などを詳しく伺います。耳の中(外耳道や鼓膜)を診て、中耳炎や耳垢などがないかも確認します。
2)聴力検査
純音聴力検査(一般的な聴力検査)
さまざまな高さの音を聞き取り、聞こえのレベルを調べます。機能性難聴では、検査結果と日常の様子が合わない(検査上は重い難聴なのに、日常会話がほぼ問題ない など)ことがヒントになります。
他の客観的な検査
- OAE(耳音響放射):内耳の働きをみる検査
- ABR(聴性脳幹反応):脳幹に伝わる音の反応をみる検査
など、本人の「反応」に依存しない客観的な検査を追加し、器質的な異常がないかを確認します。
3)他の診療科との連携
心理的な要因が強く疑われる場合や、学校への不適応、長引く心身の症状がある場合は、小児科・心療内科・精神科などと連携し、全体としての状態を評価していきます。
▶︎機能性難聴の治療
A. 説明と安心の提供
病気の性質をていねいに説明
「耳が壊れているわけではなく、検査では大きな異常がないこと」「心と体のバランスの乱れが、‘聞こえにくさ’という形で出ている可能性があること」を、責めることなく、安心できる言葉で説明します。
本人と家族の不安を和らげる
「本当に聞こえていないのでは」「サボっていると思われるのでは」といった不安を共有し、周囲の理解を得ながら見守っていくことが大切です。
B. 学校・職場・家庭での支援
- 座席の調整(前方に座るなど)
- 大事な説明はゆっくり、はっきり、繰り返してもらう
- 過度な叱責を減らし、安心して質問できる雰囲気を作る
といった環境調整で、本人の負担が軽くなることがあります。
C. 心のケア
カウンセリング
学校カウンセラーや心理士による面談で、日頃の不安やストレスを話せる場を作ることは、症状の改善に大きく役立ちます。
心療内科・小児精神科との連携
不安や抑うつが強い場合には、専門的な治療(心理療法や薬物療法)が検討されることもあります。
D. 薬物療法
機能性難聴そのものを「薬で治す」治療は基本的にありません。ただし、不眠や強い不安などがある場合には、それらに対する薬が併用されることがあります。
⚫︎機能性難聴の予後
多くは改善が期待できる
耳の構造自体は保たれているため、適切な説明と環境調整、心のケアによって、時間とともに症状が軽くなっていくことが少なくありません。
経過が長引く場合も
ストレスの原因が続いている、周囲の理解が得られていないなどの理由で、症状が長引くこともあります。難聴だけでなく、頭痛や腹痛、不登校など、ほかの心身の症状が加わることもあります。
再発することもある
いったん落ち着いても、新たなストレスがかかったタイミングで、再び聞こえにくさを訴えることがあります。その場合も、「前にも良くなった経験」を一緒に振り返りながら対応していくことが大切です。
⚫︎機能性難聴の予防
機能性難聴を完全に防ぐことは難しいですが、次のような工夫でリスクを減らすことができます。
日頃からストレスや不安をため込みすぎない
家族や友人、学校・職場の先生などに相談しやすい環境を作ることが大切です。
子どものサインを見逃さない
- 「頭が痛い」「お腹が痛い」と訴える
- 朝起きられない
- 学校に行きたがらない
といった心身のサインが増えてきたときは、「怠け」と決めつけず、背景に不安やストレスがないかを一緒に考えてあげることが重要です。
早めの受診・相談
聴力検査で異常を指摘されたり、「聞こえにくさ」が続く場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診し、必要に応じて他の専門家とも連携してもらうと安心です。
⚫︎機能性難聴に関連する病気や合併症
心因性難聴
機能性難聴の中でも、心理的要因が強く関わると考えられるタイプです。
不安障害・うつ病などの心の病気
不安や抑うつが強い場合、難聴以外にもさまざまな身体症状が出ることがあります。
身体表現性障害・心身症
検査では説明しきれない身体症状が、ストレスの影響であらわれる状態で、機能性難聴もその一つの表れとしてみられることがあります。
不登校・学校拒否
子どもの場合、機能性難聴の背後に学校生活の困難さや不登校が隠れていることもあり、学校側との連携が大切です。
⚫︎まとめ
機能性難聴は、耳の構造に大きな異常はないのに、「聞こえにくさ」があらわれる状態で、ストレスや心の状態が深く関わっていることが多い病気です。
責めたり「仮病」と決めつけたりするのではなく、背景にある不安やつらさに目を向けることが、改善への第一歩になります。
耳鼻咽喉科で器質的な病気の有無をしっかり確認しつつ、必要に応じて心療内科や学校との連携を図ることで、少しずつ症状が落ち着いてくることが期待できます。
心配な症状が続くときは、一人で抱え込まず、早めに医療機関へ相談してみてください。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- BYOMIE JOURNAL vol.1
(https://www.byomie.com/products/vol1/) - ユビー病気のQ&A(トップページ)
(https://ubie.app/byoki_qa)
■ この記事を監修した医師
岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック
大阪大学 医学部 卒
東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。
患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。
- 公開日:2026/03/31
- 更新日:2026/03/31
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