先天性難聴せんてんせいなんちょう
先天性難聴は、生まれつき聞こえにくさを持っている状態で、出生1,000人あたり1〜2人と比較的多い病気です。早期に見つけて補聴器・人工内耳・ことばの訓練などを始めることで、ことばやコミュニケーションの発達をしっかり支えていくことができます。
目次
⚫︎先天性難聴とは?
先天性難聴とは、生まれつき、あるいは生後まもない時期から聞こえにくさ(難聴)がある状態をいいます。
- 両耳とも聞こえにくい場合と、片方の耳だけ難聴がある場合があります
- 聞こえにくさの程度も、全く音が分からない重い難聴から、小さな声や離れた場所の声が聞き取りにくい軽い難聴まで様々です
日本では、生まれてくる赤ちゃんのおよそ1,000人に1〜2人の割合で先天性の難聴があるとされ、他の先天性の病気と比べても頻度は少なくありません
難聴に気づかれずに成長すると、「呼びかけに振り向かない」「ことばがなかなか出てこない」など、ことばの発達やコミュニケーションに影響が出ることがあります。逆に、赤ちゃんのうちに見つけて適切な支援を始めれば、ことばや学習、対人関係の発達をしっかり支えていくことができます
⚫︎先天性難聴の原因
先天性難聴の原因は1つではなく、いくつかのタイプに分けられます。
遺伝子の変化(遺伝性難聴)
耳の働きに関わる遺伝子(設計図)の一部に変化があり、その結果として生まれつき難聴になるタイプです。先天性難聴のうち、約半分〜6割が遺伝性とされています。家族に難聴の方がいない場合でも起こりうるものです。
お母さんの妊娠中の感染症
妊娠中にかかった一部の感染症が、赤ちゃんの耳の発達に影響することがあります。
例)先天性サイトメガロウイルス感染症、風疹、トキソプラズマ症など。特に先天性サイトメガロウイルス感染は、先天性難聴の原因として重要と考えられています。
お産のときや新生児期のトラブル
出生前後の強い酸素不足(新生児仮死)、重い黄疸、未熟児での合併症などが、耳の神経や脳に影響して難聴を起こすことがあります。
⚫︎先天性難聴の症状は?
赤ちゃんは自分から「聞こえにくい」と訴えることができないため、周りの大人が様子から気づいてあげる必要があります。
乳児期(0〜1歳くらい)にみられやすいサイン
- 大きな音にビクッと驚かない、目を覚まさないことが多い
- 後ろから名前を呼んでも振り向かないことが多い
- テレビやおもちゃの音にあまり反応しない
- 6〜9か月を過ぎても「あー」「うー」などの喃語(赤ちゃんことば)が少ない
幼児期(1〜3歳以降)で気づかれることが多いサイン
- 名前を呼んでも気づかないことが多い
- 耳元で話せば聞こえるが、少し離れると反応が薄い
- いつもテレビの音量が大きい
こうしたサインがすべて難聴のせいとは限りませんが、複数当てはまる場合は、耳鼻咽喉科や小児科で相談すると安心です。
⚫︎受診の目安
次のような様子が気になるときは、早めに小児科や耳鼻咽喉科に相談しましょう。
- 赤ちゃんが大きな物音にあまり驚かない、呼びかけに振り向かないことが多い
- 1歳を過ぎても意味のあることばがなかなか出てこない
- テレビや音楽の音量をとても大きくしないと聞こえない様子がある
- ことばがはっきりしない、聞き返しが多いと保育園や幼稚園で指摘された
- 新生児聴覚スクリーニングで「要再検査」「要精密検査」と言われたが、その後の受診がまだ
「心配しすぎかな」と感じても、早めに相談しておくことで安心できますし、必要であれば早期の支援につながります。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
先天性難聴では、「早く気づき、早く支援を始める」ことがとても重要です。
- 新生児期:出産後まもなく「新生児聴覚スクリーニング検査」で難聴の可能性をチェックします
- 生後3か月頃まで:要精査となった赤ちゃんには、耳鼻咽喉科での精密検査を行い、難聴の有無と程度を詳しく調べます
- 生後6か月頃まで:難聴が確認された場合、補聴器の装用やことばの訓練などの療育を開始することが望ましいとされています
そのうえで、原因を詳しく調べ(遺伝子検査・感染症検査など)、補聴器・人工内耳・手話や口話・文字などを組み合わせて、その子に合ったコミュニケーション手段を一緒に考えていきます。
▶︎先天性難聴の診断
1)問診・診察
- 妊娠中や出産時の状況(感染症、薬の使用、早産・合併症の有無など)
- 家族や親戚に難聴の方がいるかどうか
- 赤ちゃんの音への反応、ことばの発達の様子
などを詳しくうかがい、耳や全身の診察を行います。
2)聴力検査(聴覚の精密検査)
赤ちゃんや小さなお子さんには、年齢や発達に合わせた検査方法を組み合わせて行います。
自動ABR(聴性脳幹反応)
頭に小さな電極をつけ、音に対する脳の反応を測定する検査です。眠っている間にも行えます。
OAE(耳音響放射)
耳の中に小さなプローブを入れ、蝸牛(音を感じる部分)の反応を調べる検査です。
3)原因を調べる検査
- 遺伝子検査:難聴の原因となる既知の遺伝子の変化がないかを調べます
- 感染症の検査:出生後早期であれば、先天性サイトメガロウイルス感染などの有無を評価することがあります
- 画像検査:CTやMRIで耳の構造(内耳や聴神経など)の形を確認し、手術や人工内耳の適応判断にも役立てます
▶︎先天性難聴の治療
A. 初期対応(まずやること/基本方針)
- 難聴の程度と左右差を把握し、家族と一緒に今後の方針を相談します
- 補聴器や人工内耳だけでなく、ことばの訓練や家族の関わり方など、「チームで支える」ことが大切です
B. 補聴器・人工内耳などの医療的支援
- 補聴器
軽度〜高度難聴では、まず補聴器を装用し、聞こえ方を確認しながら調整していきます。小さな耳掛け型や耳穴型など、子どもの成長に合わせたタイプが選ばれます。
- 人工内耳
補聴器をつけても言葉の聞き取りが十分でない重い難聴では、1歳代〜幼児期に人工内耳手術を検討することがあります。耳の奥に電極を入れて音の情報を電気信号として直接伝える装置で、聴こえ方の訓練と合わせてことばの発達を支えていきます。
C. 療育・リハビリテーション(ことばとコミュニケーションの支援)
- 言語聴覚士によることばの訓練(聴覚口話法)
- 手話や指文字、ジェスチャー、文字によるやりとり
- 保育・教育機関(難聴児通園施設、特別支援学校・学級など)との連携
聴こえの補償(補聴器・人工内耳など)と、ことば・コミュニケーションの訓練を組み合わせることで、その子の力を最大限に伸ばしていきます。
⚫︎先天性難聴の予後
先天性難聴があっても、
早い時期に見つけて適切な機器(補聴器・人工内耳など)を使い、継続した療育・教育を受けることで、ことばの発達や学校生活、社会生活に十分に適応している方が多くいます。
一方、発見や対応が遅れた場合には、
- ことばを理解したり話したりする力がゆっくりになる
- 学習面でつまずきやすくなる
- 人とのコミュニケーションに苦手意識を持つ
といった影響が出ることがあります。先天性サイトメガロウイルス感染による難聴など、一部のタイプでは、成長とともに難聴が進行することも知られており、定期的な聴力検査とフォローが大切です。
⚫︎先天性難聴の予防
先天性難聴を完全に防ぐことは難しいですが、リスクを減らしたり、早期発見につなげたりすることはできます。
妊娠前・妊娠中の感染症対策
風疹ワクチンの接種歴を確認する、妊娠中に小さな子どもの唾液や尿に注意して手洗いを徹底する(先天性サイトメガロウイルス予防)などが勧められています。
妊娠中の生活管理
不要な薬剤の使用を避ける、主治医と相談しながら持病の治療を行う、バランスの良い食事と休養をとることも大切です。
新生児聴覚スクリーニングの活用
すべての赤ちゃんが生後1か月までに新生児聴覚検査を受けることが推奨されており、「予防」という意味でも非常に重要な仕組みです。
⚫︎先天性難聴に関連する病気や合併症
先天性難聴は、耳だけの問題として起こる場合もあれば、全身の病気の一部として現れることもあります。
全身の症候群の一部としての難聴
心臓の病気、腎臓の異常、目の病気、成長や発達の遅れなどを伴う遺伝性疾患の一症状として、難聴がみられることがあります(例:一部の遺伝性症候群)。
先天性サイトメガロウイルス感染症など
難聴のほかに、低体重出生、発達遅延、けいれん、視覚の障害などを伴うことがあります。
発達・学習面の影響
ことばの理解・表現のしづらさから、読み書きの苦手さや学習面の遅れが出ることがあります。早くから支援を受けることで、こうした影響を最小限にすることが期待できます。
心理・社会的な影響
コミュニケーションの難しさから、自己肯定感の低下や対人不安につながることもあります。家族や周囲が病気を正しく理解し、環境を整えることが大切です。
⚫︎まとめ
先天性難聴は、生まれつきの聞こえにくさですが、早く見つけて適切な支援を始めれば、ことばや生活の発達をしっかり支えることができます。
新生児聴覚スクリーニングや乳幼児健診をきっかけに、気になるサインがあれば耳鼻咽喉科などに相談することが大切です。
補聴器や人工内耳、ことばの訓練、手話など、さまざまな手段を組み合わせて、その子に合ったコミュニケーション方法を一緒に考えていきます。
ご家族だけで抱え込まず、医療・福祉・教育の専門家と連携しながら、長い目で子どもの成長を見守っていきましょう。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 厚生労働省「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針」
(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000902484.pdf) - 厚生労働省「新生児聴覚検査から療育まで 遅滞なく円滑に繋ぐための事務連絡」
(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000796871.pd)
■ この記事を監修した医師
岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック
大阪大学 医学部 卒
東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。
患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。
- 公開日:2026/03/31
- 更新日:2026/03/31
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