コレラこれら
コレラはコレラ菌に汚染された水や食べ物からうつる急性の下痢症です。突然始まる大量の水のような下痢で、短時間に重い脱水を起こすことがあり、流行地域への渡航歴がある場合は早めの受診と補液がとても大切です。
目次
⚫︎コレラとは?
コレラは「コレラ菌」という細菌(ビブリオ属に属する細菌)が、小腸の表面で毒素を出すことによって起こる急性の下痢症です。感染症法では「三類感染症」に分類されており、診断した医師は保健所へ届け出る義務があります。
汚染された飲み水や氷、生の魚介類・十分に加熱されていない食べ物などを通して感染します。
特に上下水道や衛生環境が十分でない国・地域で流行しやすく、日本国内での患者さんは、海外の流行地域からの帰国後に発症する「輸入感染症」がほとんどです。
コレラ菌に感染しても、多くの人は無症状か軽い下痢で済みますが、一部の人では短時間で命に関わるほどの脱水を起こすことがあるため、「早めの補液(点滴や経口補水)」が何より重要な病気です。
⚫︎コレラの原因
原因となる菌
コレラは、毒素を産生するコレラ菌(Vibrio cholerae O1/O139)が腸に感染することで起こります。菌そのものというより、「コレラ毒素」が腸の表面に作用し、大量の水分と電解質(塩分など)が腸管内に引き出されることで、激しい水様性下痢が生じます。
うつる経路
主な感染経路は「経口感染(口から入る)」です。
- コレラ菌に汚染された飲み水・氷
- 生の魚介類(特に貝類)や十分に火が通っていないシーフード
- 汚染水で洗った生野菜や果物
- 調理者や家庭内の人の手指・食器類を介した二次汚染
コレラ菌は便とともに環境中に出て、水源や食べ物を汚染します。そのため、上水道・下水道の整備が不十分な地域や、災害・紛争などで衛生状態が悪化した地域で大規模な流行が起こりやすくなります。
⚫︎コレラの症状は?
潜伏期間
汚染された水や食べ物を口にしてから症状が出るまでの期間(潜伏期間)は、数時間〜5日程度、一般的には1〜2日と言われています。
主な症状
典型的には、次のような症状が突然あらわれます。
- 大量の水のような下痢
- 白く濁った「コメのとぎ汁」のような便で、1日に何リットルもの水分が失われることがあります。
- 吐き気・嘔吐
- 激しいのどの渇き
- こむら返りのような痛みを伴う筋肉のけいれん(特に足)
⚫︎受診の目安
まず受診したほうがよいとき
- 水のような下痢が何度も出て、半日〜1日以上続く
- 強いのどの渇きや尿量の減少、立ちくらみがある
- コレラ流行地域から帰国後数日以内に激しい下痢・嘔吐が出た
とくに早めの受診が必要な人
- 乳幼児・高齢者・妊娠中の方
- 心臓病・腎臓病・糖尿病などの持病がある方
救急受診・救急車を考えるサイン
- ぐったりして呼びかけに反応しにくい
- 立てないほどのめまい・ふらつきがある
- 手足が冷たい、冷や汗が出る、唇や爪の色が悪い
迷ったときは、地域の救急相談窓口やかかりつけ医に電話で相談してください。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
診断は、海外渡航歴や飲食歴などの問診・診察に加え、便の検査(便培養)でコレラ菌を検出することで確定します。日本では、コレラが疑われた場合、専門の検査機関で菌の有無や毒素の産生性なども調べられます。
治療の柱は次の2つです。
脱水の補正
→ 経口補水液や点滴による水分・電解質(ナトリウム・カリウムなど)の補給
抗菌薬(抗生物質)
→ 症状の重さや年齢、地域の耐性菌の状況などを踏まえ、適切な抗菌薬を短期間使用します。これにより下痢の期間や排菌期間を短くできます。
適切な補液と抗菌薬治療が行われれば、死亡率は1%未満とされ、予後は良好です。一方、治療が遅れた場合には、数時間〜1日ほどで命に関わることもあります。
⚫︎コレラの診断
1)問診・診察
- いつから、どのくらいの回数・量の下痢・嘔吐があるか
- 発熱の有無(コレラではあまり高熱にならないことが多い)
- どの国・地域へいつ渡航したか、どんなものを飲食したか
- 同じものを食べた人に似た症状が出ていないか
- これらを確認し、脱水の程度(脈拍・血圧・皮膚の状態・尿量など)を診察します。
2)血液検査
- 電解質(ナトリウム・カリウムなど)のバランス
- 腎機能(BUN・クレアチニン)
- 血液濃縮の程度(ヘマトクリット)
を確認し、脱水や腎障害の有無・程度を評価します。
3)便の検査
- 便培養検査:便からコレラ菌を分離・同定し、コレラ毒素産生性を確認します。
- 必要に応じて、他の細菌・ウイルス性腸炎との鑑別のための検査が行われることもあります。
4)公的な対応
日本ではコレラは三類感染症として定められており、診断した医師は直ちに保健所へ届け出ることが義務付けられています。周囲での感染拡大を防ぐために、保健所が飲食店・家庭などの調査や指導を行います。
⚫︎コレラの治療
A. 初期対応(まずやること/基本方針)
脱水の評価と補液開始
- 軽症:経口補水液(ORS)を少量ずつ頻回に飲む
- 中等症〜重症:静脈点滴で速やかに水分・電解質を補う
血圧・脈拍・尿量のモニタリング
→ ショック(血圧低下)や急性腎障害を早期に見つけるために、こまめな観察が必要です。
B. 抗菌薬治療
コレラでは補液だけでも救命可能ですが、抗菌薬を併用することで下痢の量や期間、便から菌が出る期間を短くできます。
- ニューキノロン系抗菌薬(例:レボフロキサシンなど)
- 耐性が問題となる地域ではアジスロマイシンなどのマクロライド系
- 小児・妊婦などでは年齢や妊娠週数に応じて薬剤を選択
投与期間は通常1〜3日程度と短く、医師が症状・基礎疾患・渡航先の耐性情報を踏まえて選択します。
C. 合併症への対応
- 重い脱水・ショック:集中治療室での管理が必要な場合もあります
- 電解質異常(低カリウム血症など):点滴や内服で慎重に補正します
- 急性腎障害:尿量の管理、必要に応じて一時的な透析療法など
⚫︎コレラの予後
適切な補液と抗菌薬治療を受けた場合、コレラの多くは数日〜1週間ほどで改善し、後遺症を残すことはあまりありません。
一方、治療が遅れたり、医療機関へのアクセスが難しい地域では、重度の脱水からショックや腎不全を起こし、命を落とすこともあります。世界的には今も毎年多くの患者さんと死亡例が報告されており、公衆衛生上重要な感染症とされています。
⚫︎コレラの予防
コレラは、個人の努力だけでなく、水道・下水道整備など社会全体の対策が重要な病気です。そのうえで、私たちができる予防策として、次のポイントがあります。
- 流行地域への渡航時
- 水道水をそのまま飲まず、密封されたボトル入り飲料水を利用する
- 氷や、生の野菜・果物(特に皮をむかないもの)は注意する
日常生活での一般的な予防
- トイレの後、オムツ交換や調理前後は、石けんと流水で丁寧に手洗い
- 生ものと加熱した食材はまな板・包丁を分けて扱うワクチンについて
日本国内で承認されたコレラワクチンは現在なく、定期接種も行われていません。ただし、海外で使用されている経口コレラワクチンを輸入して接種している医療機関(主にトラベルクリニック)もあり、流行地域に長期滞在する場合などに検討されることがあります。
⚫︎コレラに関連する病気や合併症
重症脱水・ショック
大量の下痢により血圧低下や意識障害を起こし、治療が遅れると致命的になることがあります。
急性腎障害
脱水で腎臓に十分な血液が行かなくなると、尿が出にくくなり「急性腎障害(急性腎不全)」を起こします。
電解質異常
カリウムやナトリウムなどのバランスが崩れ、不整脈や筋肉のけいれん、倦怠感の原因になることがあります。
低血糖・栄養不良
特に小児では、食事摂取量の低下と下痢の影響で、短期間でも栄養状態が悪化しやすくなります。
これらの合併症は、早期の補液と適切な治療によって多くが防ぐことができます。
⚫︎まとめ
コレラは、コレラ菌(Vibrio cholerae)が産生する毒素によって、腸管から大量の水分と電解質が失われる急性の消化器感染症です。適切な輸液管理(補液)および抗菌薬療法により予後は良好ですが、未治療の場合、重度の脱水からショック状態に陥るリスクがあります。
流行地域における予防策としては、手指衛生の徹底に加え、飲食物の加熱処理、安全な飲料水の確保が不可欠です。
なお、本解説は一般的な情報提供を目的としています。激しい下痢症状を認める場合や、流行地への渡航歴がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。実際の診断や治療方針については、個々の臨床症状に基づき、医師と相談の上で決定していくことが重要です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 厚生労働省「コレラ」
(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-01.html) - 厚生労働省検疫所 FORTH「コレラ(Cholera)」
(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/name05.html)
■ この記事を監修した医師
赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2026/03/03
- 更新日:2026/03/03
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