腸チフス/パラチフスちょうちふす/ぱらちふす

腸チフス/パラチフスは、チフス菌・パラチフス菌に汚染された水や食べ物からうつる細菌感染症です。1〜2週間の潜伏期の後に高熱・強いだるさ・頭痛・腹痛・下痢や便秘が続き、重症化すると腸出血や腸に穴があくこともあるため、海外渡航後の長引く発熱は早めの受診が大切です。

⚫︎腸チフス/パラチフスとは?

腸チフスは「チフス菌(サルモネラ・タイフィ)」、パラチフスは「パラチフスA菌(サルモネラ・パラチフィAなど)」という細菌による全身感染症です。どちらもサルモネラ属の細菌で、人の腸管に感染し、そこから全身に広がります。
ヒトだけが感染源で、患者さんや保菌者(症状はないが便に菌を出している人)の便で汚染された水や食べ物を介してうつります。

世界的には、特に南アジア・東南アジア・アフリカ・中南米などで多く、年間約2,000万人が腸チフスにかかっているとされています。日本では患者数は年間数十〜100例程度で、その多くは流行地域への渡航中または帰国後に発症する「輸入感染症」です。

⚫︎腸チフス/パラチフスの原因

原因となるのは、次の2種類の細菌です。

  • 腸チフス:チフス菌(Salmonella Typhi)
  • パラチフス:パラチフスA菌など(Salmonella Paratyphi A など)

これらの菌は、患者さんや保菌者の便の中に大量に存在し、次のような経路で口から入ります。

汚染された水や飲み物

  • 消毒が不十分な水道水や井戸水
  • 氷(製氷に使った水が汚染されている場合)

汚染された食べ物

  • 十分に加熱されていない食品
  • 汚染された水で洗った生野菜・果物
  • 不衛生な環境で調理された料理や屋台の食べ物

手指や調理器具を介した感染

  • トイレの後にきちんと手洗いをしない
  • 便で汚れた手で料理をする
  • 汚れたまな板や包丁を使い回す 

日本のように上下水道が整い、食品衛生管理が進んでいる国では日常生活での感染リスクは高くありませんが、衛生環境が不十分な地域への旅行では注意が必要です。

⚫︎腸チフス/パラチフスの症状は?

菌が体に入ってから症状が出るまでの潜伏期は、腸チフスでおおよそ7〜14日(6〜30日とする文献もあり)、パラチフスではやや短いとされています。

主な症状は次のようなものです。

  • 高熱(38〜40℃前後の熱が数日〜1週間以上続く)
  • 強い倦怠感(体のだるさ)・食欲不振
  • 頭痛
  • 腹痛、お腹の張り
  • 下痢または便秘(腸チフスでは便秘が目立つこともあります)
  • バラ疹(胸やお腹に薄いピンク色の小さな発疹が、短時間だけ出たり消えたりする)
  • 咳やのどの不快感が出ることもある

「熱が高いわりに脈がそれほど速くない(比較的徐脈)」という特徴的な所見がみられることもあります。

⚫︎受診の目安

次のような場合は、自宅で様子を見るのではなく、早めに医療機関を受診してください。

  • 1週間以上続く発熱(38℃以上)がある
  • 海外旅行(特に南アジア・東南アジア・アフリカ・中南米など)から帰って1〜3週間以内に、高熱・倦怠感・食欲低下が出てきた
  • 熱が高いのに、インフルエンザなどの検査が陰性で原因がはっきりしない
  • 強い腹痛や下痢・便秘が続いている
  • 顔色が悪く、ぐったりしている、意識がぼんやりしている

特に「海外渡航歴+長引く高熱+強いだるさ」は注意が必要です。乳幼児・高齢者・基礎疾患(心臓病、腎臓病、糖尿病など)がある方では重症化しやすいため、早めの受診を心がけてください。

⚫︎診断方法と治療方法(全体像)

診断は

  • 症状と経過
  • 海外渡航歴や飲食状況
  • 血液・便など

の検査を組み合わせて行います。

  • 腸チフス/パラチフスが疑われる場合、血液培養(血液に菌がいるか調べる検査)や便の培養検査で、チフス菌・パラチフス菌を直接確認します。
  • 治療の中心は抗菌薬(抗生物質)です。症状の重さや薬剤耐性の状況によって使用する薬は変わりますが、ニューキノロン系や第3世代セフェム系などが使われることが多く、数日〜数週間にわたって内服・点滴を行います。
  • あわせて、点滴や経口補水による脱水の改善、解熱鎮痛薬での症状緩和など「全身状態を整える治療」も重要です。

⚫︎腸チフス/パラチフスの診断

1)問診・診察

  • 発熱の期間、最高体温、解熱の有無
  • 頭痛・倦怠感・腹痛・下痢/便秘・発疹などの症状
  • 最近1か月ほどの海外渡航歴(行き先・日程)
  • 現地での飲食内容(屋台・生水・生野菜・氷など)
  • 周囲で似た症状の人がいないか

2)検査

  • 血液検査:白血球数、炎症反応、肝機能、腎機能、電解質などを調べ、全身状態を把握します。腸チフスでは白血球数があまり上がらないこともあります。
  • 血液培養:発熱初期には血液中に菌がいることが多く、血液培養でチフス菌・パラチフス菌を検出します。
  • 便・尿の培養検査:腸管や胆道から排出された菌を検出し、どの抗菌薬が効くか(薬剤感受性)も調べます。

3)重症度の評価

血圧・脈拍・意識レベル・尿量などから、ショックや多臓器障害の有無を確認します。必要に応じて腹部エコーやCT検査で腸出血・腸穿孔などの合併症を評価します。

⚫︎腸チフス/パラチフスの治療

A. 初期対応(まずやること/基本方針)

安静と水分補給

脱水を防ぐため、経口補水液や点滴で水分と電解質を補います。

解熱・症状緩和

アセトアミノフェンなどで発熱・頭痛を和らげます(市販薬の自己判断使用は避け、医師の指示に従ってください)

B. 抗菌薬治療

  • 診断が疑われた段階で、重症例では血液・便の培養採取後、早期に抗菌薬を開始します。
  • 使用する薬は、地域の薬剤耐性状況や検査結果に応じて変更・調整されます。南アジアなどでは耐性菌も多く報告されており、薬の選択は専門医と相談しながら決めます。

C. 入院が必要な場合

  • 高熱が続きぐったりしている
  • 脱水が強く、飲むだけでは追いつかない
  • 腸出血や腸穿孔が疑われる(激しい腹痛・血便など)
  • 意識障害やけいれんがある

といった場合は、入院して点滴・抗菌薬・必要に応じた外科治療などを行います。

D. 回復期の管理

症状が落ち着いても、しばらくの間は便に菌が出続けることがあります。食品を扱う仕事や保育・介護職の方などは、便検査で菌がいないことを確認するまで就業制限がかかることがあります。

⚫︎腸チフス/パラチフスの予後

適切な抗菌薬治療が行われれば、多くの方は数週間で回復し、後遺症なく日常生活に戻ることができます。

一方で、治療が遅れたり、薬が効きにくい耐性菌による感染、基礎疾患を持つ方・高齢者・乳幼児では、

  • 腸出血
  • 腸穿孔(腸に穴があく)
  • 敗血症(菌が血液中に広がる)

など、命に関わる合併症を起こすことがあります。

また、一部の人では、治療後も胆のうなどに菌が住みつき「慢性保菌者」となり、便を介して周囲に感染を広げる原因になることがあります。その場合は、長期の抗菌薬治療や胆のうの評価が必要になることがあります。

⚫︎腸チフス/パラチフスの予防

腸チフス/パラチフスの予防には、特に次の点が重要です。

手洗いの徹底

トイレの後、調理前、食事の前には、石けんと流水でていねいに手を洗う。

安全な飲み水・食べ物の選択(特に海外旅行中)

  • 生水や水道水、生の氷は避け、密封された飲料を選ぶ
  • 生野菜・生の貝・生肉・屋台の食べ物など、衛生状況が不明なものは控える
  • よく加熱された(中までしっかり火の通った)料理を選ぶ

家庭や施設での衛生管理

  • オムツ交換や介護のあと、必ず手洗いをする
  • トイレや洗面所、キッチンの清掃・消毒をこまめに行う

ワクチン

腸チフスに対しては、海外渡航者向けの予防接種があります。南アジア・東南アジア・アフリカ・中南米など流行地域へ中長期滞在を予定している場合は、トラベルクリニックなどで接種の要否を相談すると安心です(日本国内の一般的な定期接種ではありません)

⚫︎腸チフス/パラチフスに関連する病気や合併症

 

腸出血・腸穿孔

高熱や炎症が続くと腸の粘膜が傷つき、出血や穿孔(穴があく)を起こし、腹膜炎に進展することがあります。

敗血症・ショック

菌が血液中に広がり、血圧低下や多臓器不全を起こすことがあります。

胆のう炎・慢性保菌者

胆のうに菌が住みつき、急性胆のう炎や長期の保菌状態を引き起こすことがあります。

鑑別が必要な病気

マラリア、デング熱、A型肝炎、つつが虫病など、海外渡航後の発熱で似た症状をとる病気が多いため、血液検査や病原体検査での区別が必要です。

⚫︎まとめ

腸チフス/パラチフスは、チフス菌・パラチフス菌による全身の細菌感染症で、特に海外の流行地域で汚染された水や食べ物を通じてうつります。
長引く高熱・強いだるさ・腹部症状が続くのが特徴で、重症化すると腸出血や腸穿孔など命に関わる合併症を起こすこともあります。
日本ではまれな病気ですが、海外渡航後の発熱では必ず候補に入れて考える必要があります。
手洗いと飲食物への注意、必要に応じたワクチン接種、そして「おかしい」と感じたときの早めの受診が、ご自身と周囲の人を守ることにつながります。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2026/03/03
  • 更新日:2026/03/03

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