NSAIDs潰瘍えぬせいずかいよう
NSAIDs潰瘍は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用によって胃や十二指腸の粘膜が障害され、潰瘍を生じる薬剤性消化管障害です。みぞおちの痛みや黒色便、出血を伴うこともあり、重症化すると穿孔やショックを起こすこともあります。特に高齢者では無症状のまま進行する例もあるため、予防薬の併用や定期的な検査が重要です。
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NSAIDs潰瘍とは?
NSAIDs潰瘍とは、鎮痛薬や解熱薬として広く使用されている「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」によって引き起こされる胃や十二指腸の潰瘍のことです。NSAIDsは痛みや炎症を和らげる効果が高いため、関節リウマチや変形性関節症、腰痛、頭痛、外傷後の炎症など、さまざまな疾患で用いられています。
しかし、NSAIDsには胃の粘膜を保護する働きをする「プロスタグランジン」の合成を抑える作用があり、その結果、胃酸による刺激に対して粘膜が無防備になり、潰瘍が形成されやすくなります。
NSAIDs潰瘍は、使用開始後数日以内に発症することもあれば、数週間〜数ヶ月かけて徐々に進行する場合もあります。特に高齢者や過去に消化性潰瘍の既往がある人では、NSAIDs潰瘍の発症リスクが高く、慎重な管理が必要です。
原因
NSAIDs潰瘍の主な原因は、NSAIDsが「プロスタグランジン(PG)」の合成を阻害することです。PGは胃の粘膜を守るために重要な物質で、胃酸の分泌を抑えたり、粘液や重炭酸イオンの分泌を促すなどの保護的な働きを持っています。
NSAIDsはこのPGの合成酵素(COX:シクロオキシゲナーゼ)を阻害することで効果を発揮しますが、同時に胃粘膜の防御機構を低下させてしまうため、胃酸によって粘膜が傷つきやすくなり、潰瘍を形成します。
また、NSAIDsには血流を減少させる作用や、胃の上皮細胞の再生を妨げる作用もあるため、粘膜の修復が遅れやすく、潰瘍が治りにくくなることもあります。
リスクを高める要因には、加齢、ピロリ菌感染の有無、潰瘍の既往、NSAIDsの種類・用量・服用期間、喫煙・飲酒、ステロイドや抗血小板薬との併用などがあります。複数のリスクが重なると、発症・再発の可能性がさらに高くなります。
症状
NSAIDs潰瘍は、みぞおちの痛みや胃の不快感といった典型的な消化器症状を呈することがありますが、特に高齢者では「無症状」で進行するケースも多く、出血や穿孔といった合併症をきっかけに初めて診断されることもあります。
自覚症状がある場合は、「胃もたれ」「腹部膨満感」「吐き気」「げっぷ」「食欲不振」「軽い胃痛」などがみられます。
潰瘍が進行して出血を起こすと、「黒色便(タール便)」や「吐血」「めまい」「顔面蒼白」「立ちくらみ」「倦怠感」などの貧血症状が出現し、出血量が多ければ「ショック状態」になることもあります。
また、潰瘍が深く進行して胃や腸に穴が開く「穿孔」が起こると、突然の激しい腹痛、腹膜炎、発熱、吐き気、意識障害など、命に関わる状態に至ることがあります。
したがって、NSAIDsを使用している人で消化器症状が出た場合や、明らかな出血兆候がある場合は、ただちに医療機関を受診する必要があります。
診断方法と治療方法
NSAIDs潰瘍の診断には、上部消化管内視鏡(胃カメラ)が最も確実です。内視鏡により、潰瘍の位置(胃または十二指腸)、大きさ、深さ、出血の有無、周囲の粘膜の状態などを直接観察することができ、他の疾患(胃がんなど)との鑑別にも役立ちます。
出血を伴っている場合には、内視鏡下で止血処置(クリッピング、注射、凝固など)が行われることもあります。また、ピロリ菌の有無を調べるために、迅速ウレアーゼ試験や便中抗原検査、尿素呼気試験などが行われます。
治療の基本は、「NSAIDsの中止または変更」と「胃酸分泌抑制薬の使用」です。PPI(プロトンポンプ阻害薬)やP-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)が使われ、潰瘍の治癒を促進します。
NSAIDsの継続がどうしても必要な場合は、胃粘膜保護薬やPPIを併用し、できるだけ低用量・短期間の使用が望まれます。併せて、原因薬剤の見直しや、併用薬との相互作用の確認も重要です。
予後
NSAIDs潰瘍は、早期に発見され適切に治療されれば多くの場合で数週間〜数ヶ月で治癒します。特に、NSAIDsの中止と胃酸分泌抑制薬の併用によって、潰瘍の改善は良好です。
しかし、NSAIDsの継続使用が避けられない場合や、出血・穿孔をきたした重症例では、治療が長期化したり再発を繰り返すこともあります。高齢者や複数の基礎疾患を有する患者では、重篤な合併症によって入院や手術が必要になることもあります。
ピロリ菌陽性であれば、除菌療法を行うことで潰瘍の再発率が大幅に低下し、長期予後の改善が期待されます。
治療後も定期的な内視鏡検査によるフォローアップが必要で、特に出血歴のある患者では、PPIを長期服用して再発を予防するケースもあります。全身状態を含めた包括的な管理が、良好な予後を得るためには不可欠です。
予防
NSAIDs潰瘍を予防するには、NSAIDsの使用を必要最小限にとどめることが基本です。どうしても使用が必要な場合は、以下の予防策を併用します。
1. 胃酸抑制薬の予防的併用:PPIやP-CABの服用により、胃酸の攻撃を抑えて潰瘍発生を防ぎます。
2. NSAIDsの見直し:低用量で効果が得られる薬剤への変更や、COX-2選択的NSAIDs(セレコキシブなど)を選択することで、胃への影響を軽減します。
3. ピロリ菌の除菌:感染がある場合は除菌を行い、潰瘍リスクを下げます。
4. 併用薬の整理:ステロイド、抗血小板薬、抗凝固薬との併用はリスクを高めるため、使用可否を慎重に検討します。
また、禁煙・節酒、規則正しい食生活、空腹時の薬剤服用を避けるなどの生活面での工夫も重要です。定期的に内視鏡検査を受け、早期発見・早期対応に努めることが、重症化を防ぐ鍵となります。
関連する病気や合併症
NSAIDs潰瘍の主な合併症は「出血」「穿孔」「幽門狭窄」です。最も多いのは出血で、黒色便や吐血、重度の貧血、さらには出血性ショックに至ることもあります。
穿孔は潰瘍が胃壁や腸壁の全層を貫通する状態で、急激な腹痛、腹膜炎、敗血症を引き起こし、命に関わるため緊急手術が必要です。
また、潰瘍が慢性化し、治癒過程で瘢痕化が進むと、胃の出口が狭くなる「幽門狭窄」や「排出障害」を生じ、嘔吐や体重減少につながることもあります。
関連疾患として、NSAIDsによる「薬剤性腸炎」「小腸潰瘍」「大腸出血」など、消化管全体に障害が及ぶ可能性もあります。特に慢性疾患や抗凝固療法中の患者では、NSAIDs潰瘍が重症化しやすく、全身管理が重要となります。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「薬剤性消化管障害ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
国立国際医療研究センター「薬剤性胃腸障害とNSAIDs」(https://www.ncgm.go.jp/)
日本ヘリコバクター学会「NSAIDsと潰瘍管理」(https://www.jshr.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/07
- 更新日:2025/07/09
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