膿胸のうきょう

膿胸は、胸腔内に膿がたまる感染症で、肺炎や外傷、手術後の合併症として発生します。発熱や胸痛、呼吸困難などの症状があり、診断には画像検査と胸水検査が用いられます。治療は抗菌薬と胸腔ドレナージが基本で、外科的処置が必要な場合もあります。

膿胸

膿胸とは?

膿胸(のうきょう)とは、胸膜腔(肺を覆う膜の間)に細菌感染によって膿が貯留する状態を指し、「化膿性胸膜炎」とも呼ばれます。肺炎や胸部外傷、手術後の感染が原因となることが多く、適切な治療を行わなければ重篤な全身感染や呼吸不全を引き起こす可能性があります。

膿胸は、胸膜腔に細菌が侵入することで起こり、最初は胸水が無菌性であることが多いですが、次第に感染が進行すると膿性となり、細菌、白血球、死んだ細胞などで構成される膿が胸腔内にたまります。この状態になると抗菌薬のみでは治癒が困難になり、胸腔ドレナージや外科的介入が必要となります。

発症は急性に起こることもあれば、肺炎の治療中や治療後に発見されることもあります。重症例では全身状態が悪化し、敗血症に至ることもあります。

早期に適切な抗菌薬と排膿処置を行うことで治癒が見込まれますが、治療が遅れると慢性化し、癒着や線維化によって呼吸機能に障害が残ることもあります。

原因

膿胸は、主に細菌感染によって胸腔内に膿がたまる疾患であり、以下のような原因が知られています。

主な原因

  1. 肺炎
    ・最も一般的な原因であり、肺炎が胸膜に波及して感染が起こる
    ・特に高齢者や免疫力の低下した患者に多い
  2. 胸部外傷
    ・肋骨骨折や開放創などから外部の細菌が胸膜腔に侵入
    ・刺創や交通外傷に伴うものが典型的
  3. 胸部手術後
    ・肺がん手術や心臓手術後の術後感染として発症
    ・術後の免疫低下やドレーン管理不良が関与
  4. 医原性要因
    ・中心静脈カテーテル挿入時の感染
    ・胸腔穿刺や気管支鏡検査などの処置に伴う細菌侵入
  5. その他
    ・結核性胸膜炎の進行例
    ・食道穿孔、膿瘍の波及など消化器由来の感染
    ・糖尿病や悪性腫瘍など基礎疾患による易感染状態

原因菌

  1. 肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、クレブシエラ、緑膿菌など
  2. 嫌気性菌(口腔内常在菌など)が関与することが多く、特に腔衛生不良や嚥下性肺炎の背景がある場合に多い

膿胸の発症リスクが高い患者では、肺炎治療中でも症状の変化に注意し、胸部画像や胸水の評価を行うことが重要です。

症状

膿胸の症状は、胸腔内に膿がたまることによる呼吸器症状と、全身性の感染症状が主となります。発症の経過や重症度によって症状の強さには差があります。

主な局所症状

  • 呼吸困難:胸膜腔の圧迫により肺の膨張が妨げられ、息苦しさが出現
  • 胸痛:呼吸時に悪化する鋭い痛み。胸膜の炎症による
  • 咳:乾性または湿性の咳。膿性痰を伴うことも
  • 胸部圧迫感:膿がたまることで起こる重苦しい感覚

全身症状

  • 発熱(38℃以上の高熱が多い)
  • 悪寒、寝汗、体重減少
  • 食欲不振、全身倦怠感
  • 寒気を伴う振戦や意識レベルの低下(重症例)

身体所見

  • 患側の呼吸音減弱または消失(聴診)
  • 打診で濁音(膿の貯留による)
  • 呼吸の浅さ、努力性呼吸、頻呼吸

高齢者や免疫抑制患者の特徴

  • 症状が軽度または非典型的(発熱や咳がない場合も)
  • せん妄、ADL低下、食欲不振のみが初発症状であることがある

慢性化した場合の症状

  • 持続的な呼吸困難
  • 胸郭変形、皮膚瘻の形成
  • 慢性疲労、栄養不良

これらの症状があり、胸部X線やCTで胸水が確認された場合には、膿胸を含む感染性胸膜炎を念頭に検査・治療を進める必要があります。

診断方法と治療方法

診断

  1. 胸部X線検査
    ・胸水の貯留による肺野の陰影
    ・自由胸水または被包化胸水(loculated)の確認
  2. 胸部CT検査
    ・膿胸の範囲、膿の性状、被包化の有無を詳細に評価
    ・肺炎や肺膿瘍との鑑別にも有用
  3. 超音波検査(胸部エコー)
    ・胸水の性状(エコー輝度の増加)
    ・中隔形成や被包化の有無を確認し、穿刺位置の判断にも活用
  4. 胸水穿刺・胸水検査
    ・外観:膿性、濁った液体、しばしば悪臭を伴う
    ・グラム染色、培養で起因菌を同定
    ・生化学検査:pH低下(<7.2)、糖濃度低下、LDH上昇
    ・細胞成分:好中球優位

治療

  1. 抗菌薬治療
    ・原因菌に応じた抗菌薬を投与(嫌気性菌、MRSAなどをカバー)
    ・治療期間は通常3〜6週間と長期になることが多い
    ・経口薬への切り替えは状態安定後に行う
  2. 胸腔ドレナージ
    ・閉鎖式ドレーンを用いた排膿が基本
    ・持続吸引をかけて排液の促進を図る
    ・ドレナージ後も胸腔内洗浄を行うことがある
  3. 胸膜癒着術(プレウロデーシス)
    ・胸水再貯留予防に施行
    ・タルクや抗生剤、ミノサイクリンなどを用いる
  4. 外科的治療
    ・胸腔鏡下膿胸掻爬術(VATS):ドレナージ無効例や多房性膿胸に適応
    ・胸膜剥皮術(デコルチケーション):慢性化して線維化した膿胸に対して施行
  5. 栄養・支持療法
    ・栄養不良予防のための栄養管理
    ・水分・電解質バランスの調整、疼痛管理、リハビリの併用

膿胸は早期の診断と排膿処置が鍵であり、抗菌薬単独では治癒困難なことが多いため、外科的アプローチも視野に入れて対応することが求められます。

予後

膿胸の予後は、発見の早さ、病原菌の種類、患者の基礎疾患、治療の適切さによって大きく左右されます。適切な抗菌薬とドレナージが行われれば多くの症例で治癒が期待できますが、遅れると重篤化します。

予後良好の要因

  • 早期診断と適切なドレナージ実施
  • 抗菌薬に対する感受性が良好な菌種
  • 基礎疾患が少なく、免疫力が保たれている患者

予後不良の要因

  • 高齢者、糖尿病、がん、免疫抑制状態など
  • 診断・治療の遅れにより膿胸が慢性化
  • 多剤耐性菌の感染
  • 再発を繰り返す症例

後遺症

  • 胸膜癒着による拘束性換気障害
  • 慢性膿胸化(胸郭変形や皮膚瘻)
  • 肺機能の低下と呼吸不全

死亡率

  • 未治療では高率で敗血症や多臓器不全に至る可能性あり
  • 外科的介入を適切に行えば予後改善が期待できる

全身管理と感染制御を含めた多職種連携が、膿胸の予後を左右する重要なポイントです。

予防

膿胸の予防は、主にその原因となる肺炎や外傷、医療行為後の感染管理に重点が置かれます。以下に主な予防策を示します。

肺炎の早期治療

  • 肺炎の治療中に胸痛や呼吸困難が悪化した場合は早期に胸水を評価
  • 重症肺炎では定期的な画像フォローアップ

外傷後の感染予防

  • 開放性胸部外傷では創部の適切な消毒と管理
  • 骨折などに伴う肺損傷への早期対応

術後管理

  • 心肺外科手術後はドレーン管理の徹底
  • 術後発熱や白血球増加がある場合は早期に膿胸を疑う

口腔衛生と誤嚥防止

  • 高齢者では嚥下性肺炎からの膿胸を予防するため、歯科的ケアと嚥下訓練を推奨

生活習慣の改善

  • 喫煙の中止
  • 適切な栄養摂取と体力の維持

原因となる感染症への対処と併せて、全身状態を整えることが膿胸の予防につながります。

関連する病気や合併症

膿胸は単独で発症することもありますが、多くの場合、他の疾患の合併症として発症し、さまざまな病態と関連します。

関連疾患

  • 細菌性肺炎:最も頻度が高く、治療中の悪化により膿胸へ進展
  • 結核性胸膜炎:治療が不十分な場合に膿胸化することがある
  • 肺膿瘍:隣接する感染病変から胸膜へ波及
  • 食道穿孔:内容物の胸腔漏出による膿胸

治療関連のリスク

  • 中心静脈カテーテル感染
  • 胸腔穿刺、生検後の感染
  • 術後感染(特に心臓・肺手術)

合併症

  • 慢性膿胸(線維化、癒着)
  • 胸膜石灰化
  • 拘束性換気障害
  • 敗血症、多臓器不全
  • 再膿胸:治癒後の再感染による

外科的治療の合併症

  • 術後出血、気漏、創感染
  • 胸郭変形や呼吸機能低下

これらの合併症を予防・早期発見するためには、治療中の経過観察と多職種チームによる管理が重要です。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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