マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群まるふぁんしょうこうぐん/ろいす・でぃーつしょうこうぐん
マルファン症候群とロイス・ディーツ症候群は、結合組織に異常をきたす遺伝性疾患で、大動脈瘤や解離のリスクが高くなります。骨格、眼、心血管系に影響し、遺伝子異常に基づく病態です。早期診断と経過観察が重要です。
マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群とは?
マルファン症候群とロイス・ディーツ症候群は、どちらも遺伝性の結合組織疾患であり、体内の結合組織に広範な異常を引き起こします。これにより、骨格、目、心血管系、皮膚、肺など多くの臓器に影響が及びます。
マルファン症候群は、特に大動脈の病変(拡張や解離)、レンズ脱臼などの眼科的異常、長身や手足の長さなど骨格異常が特徴的です。常染色体優性遺伝形式をとり、FBN1遺伝子の変異が原因で、フィブリリン-1という結合組織の構成要素に異常を生じます。
一方、ロイス・ディーツ症候群は、より重症かつ多様な症状を伴い、TGFBR1またはTGFBR2遺伝子の変異が原因です。マルファン症候群と同様に大動脈病変を起こしますが、より若年での発症や解離リスクが高く、口蓋裂や広範囲な皮膚異常など独自の症状も見られます。
両疾患ともに、身体的特徴から疑われることが多く、遺伝学的検査によって診断が確定されます。重大な心血管合併症の予防が重要であり、定期的な画像診断と予防的治療が必要とされます。
原因
両疾患とも遺伝子変異に基づく先天性疾患であり、結合組織の形成や機能に深く関わるタンパク質の異常が原因です。
マルファン症候群の原因
- FBN1遺伝子(フィブリリン-1をコード):常染色体優性遺伝で、約75%が家族歴あり、残りは新規変異
- フィブリリン-1は結合組織の弾力性を維持するために必要で、大動脈や靱帯、毛様体などに多く存在
- 遺伝子変異によってフィブリリンが正常に機能せず、全身の結合組織が脆弱になる
ロイス・ディーツ症候群の原因
- TGFBR1、TGFBR2、SMAD3、TGFB2、TGFB3など、TGF-βシグナル伝達経路に関わる遺伝子の変異
- TGF-βは細胞増殖、分化、細胞外マトリクスの調整に関与しており、その異常が結合組織の構造と機能に影響
- TGF-βの活性が過剰になることが病態形成の鍵であり、大動脈の異常拡張や皮膚の菲薄化が起こる
遺伝形式
- いずれも常染色体優性遺伝であり、片親が異常遺伝子を持つだけで子に遺伝する可能性が50%
- 新生変異も少なくなく、家族歴のない発症もある
これらの疾患は単一遺伝子異常により発症しますが、その表現型は同じ家系内でも多様であり、同じ変異でも症状の重さが異なる場合があります。
症状
両疾患に共通して、結合組織の異常による多臓器への影響が見られます。症状は出生時から現れることもあれば、思春期以降に顕在化することもあります。
骨格系
- 高身長、細長い四肢(クモ指)、胸郭変形(漏斗胸・鳩胸)、側弯症、関節過可動性
- ロイス・ディーツでは関節脱臼の頻度が高い傾向にあり、早期から骨格異常が目立つ
眼科系
- マルファンではレンズ脱臼(眼内の水晶体がずれる)が特徴的で、視力障害の原因に
- 眼球突出、近視、網膜剥離のリスクもある
- ロイス・ディーツでも視力異常が出るが、レンズ脱臼は比較的少ない
心血管系(最も重篤な症状)
- 大動脈基部の拡張:無症状でも大動脈径が徐々に拡大
- 大動脈解離:突然の胸痛や循環不全を起こし、命に関わる
- 弁膜症(特に大動脈弁、僧帽弁の逸脱や閉鎖不全)もよく見られる
皮膚・顔貌
- 皮膚の菲薄化、ストレッチマーク(線状皮膚萎縮)
- ロイス・ディーツでは特有の顔貌(眼間隔が広い、耳の低位、口蓋裂など)や皮膚の脆弱性が顕著
その他の身体的変化
- 硬膜拡張(脊髄を包む膜が広がる)により腰痛や神経症状が出ることもある
- 呼吸器症状(気胸、肺胞の脆弱化)も一部で報告されている
発症の時期と重症度
- マルファンは思春期以降に顕著になることが多いが、先天的に明らかな異常を示す例もある
- ロイス・ディーツは乳児期からの進行が速く、未治療では早期死亡のリスクが高い
これらの症状は診断の鍵であり、複数の診療科での評価が必要となります。
診断方法と治療方法
診断
- 身体診察
・骨格異常(クモ指、胸骨変形、関節過可動)、皮膚所見、顔貌の特徴を観察
・顔貌や身体比率などをスコア化することで臨床的な疑いを深める - 画像診断
・心エコー検査:大動脈径、弁機能の評価
・CT/MRI:大動脈全体の拡張、解離の有無、脳血管の形態評価
・脊椎MRI:硬膜拡張の評価に有用 - 眼科検査
・細隙灯顕微鏡検査で水晶体の位置を確認
・網膜剥離や近視の程度を評価 - 遺伝子検査
・FBN1、TGFBR1、TGFBR2など関連遺伝子の変異を解析
・確定診断、家族スクリーニング、出生前診断に有用 - 家族歴の聴取
・同様の疾患や突然死の既往がないかを確認
治療
- 心血管管理(最も重要)
・ベータ遮断薬(プロプラノロールなど):大動脈壁への負荷を減らし、拡張進行を抑制
・ARB(ロサルタンなど):TGF-βの活性を抑えることで病態進行を遅らせる - 外科的治療
・大動脈基部が一定径を超えた場合(マルファンでは45〜50mm)、予防的手術を検討
・弁温存大動脈基部置換術(David法)などが行われる - 定期検査
・6〜12か月ごとに心エコー検査、MRI、CTで大動脈径と弁機能を評価
・成長期にはより頻回の観察が必要 - 眼科的対応
・レンズ脱臼や近視に対する視力補正、必要時の手術
・定期眼科フォローアップ - 整形外科・リハビリ
・側弯や胸骨変形に対する装具治療や外科手術
・筋力強化や関節安定化を目的とした運動療法 - 遺伝カウンセリング
・家族計画、妊娠出産に関する説明と支援
・出生前診断や家族へのスクリーニングの実施 - 生活指導
・激しい運動やコンタクトスポーツの制限
・妊娠中の心血管リスクに対する専門管理
診断後は、複数診療科の連携による長期的な管理が必要です。
予後
マルファン症候群の予後
- 近年、ベータ遮断薬や外科手術の進歩により予後は大きく改善
- 大動脈基部の拡張に対する早期介入により、平均寿命は一般人に近づきつつある
- ただし、未治療や診断遅延では若年期の大動脈解離による突然死のリスクが高い
ロイス・ディーツ症候群の予後
- マルファンよりも進行が早く、乳幼児期からの大動脈解離リスクが高いため、予防的治療がより重要
- 大動脈径が小さい状態でも解離を起こすため、積極的な手術介入が検討される
予後改善の要因
- 早期診断と定期フォロー
- 心血管合併症への薬物+外科的治療
- 家族内スクリーニングによる無症候性例の発見と予防
社会生活・QOL
- 診断と治療を受けた患者の多くは、日常生活・就学・就労に制限なく生活可能
- 身体的特徴や視力障害に対する理解と支援も重要
予後の鍵は「早期発見と継続管理」であり、医療体制の整備が生命予後に直結します。
予防
両疾患とも遺伝性であり、完全な予防は不可能ですが、発症リスクの低減と早期診断による予防的治療が可能です。
家族歴の把握と検査
- 家系内に高身長や大動脈疾患のある人がいれば、早期の遺伝カウンセリングと心エコーが推奨される
妊娠前の相談
- 診断確定例では、出生前診断や着床前診断の選択肢についてカウンセリングを受ける
運動・生活指導
- 激しいスポーツ(バスケットボール、体操など)は避ける
- 妊娠・出産は心血管への負荷が高いため、専門管理が必要
薬物療法による発症予防
- 家系内に確定例があり、軽度の心血管変化がある場合には、若年期から薬物療法を検討する
教育と啓発
- 学校・職場での理解促進、急変時対応のための周囲への情報共有
二次予防に重点を置いた長期管理が、生命・生活の質を守る基本となります。
関連する病気や合併症
両疾患は結合組織の異常により、以下のような多岐にわたる合併症を引き起こします。
心血管合併症
- 大動脈基部拡張、大動脈解離(最重篤)
- 大動脈弁閉鎖不全、僧帽弁逸脱症(心不全の原因となる)
眼科合併症
- レンズ脱臼、強度近視、網膜剥離
- 視力障害による学業・日常生活への支障
整形外科的合併症
- 側弯症、胸骨変形、関節過可動、扁平足
- 成長に伴って機能障害や疼痛が悪化することもある
神経系合併症
- 硬膜拡張:腰痛や坐骨神経痛様の症状を呈する
- 重症例では脊髄圧迫症状が出現することも
呼吸器合併症
- 自然気胸、肺嚢胞、睡眠時無呼吸症候群のリスク増加
皮膚・口腔の合併症
- 皮膚の菲薄化、ストレッチマーク、口蓋裂、歯列異常など
これらの合併症は全身に及ぶため、循環器、整形外科、眼科、遺伝診療科などの連携が重要です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本循環器学会「大動脈疾患診療ガイドライン」(https://www.j-circ.or.jp/)
日本マルファン協会 (https://www.marfan.jp/)
MSDマニュアル プロフェッショナル版「マルファン症候群」「ロイス・ディーツ症候群」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)
Orphanet(希少疾患情報)(https://www.orpha.net/)
■ この記事を監修した医師
石見 成史医師 いしみ内科・心臓内科クリニック
大阪医科大学 卒業
父、祖父の代より60年以上、地元の健康を守るお手伝いをしてきました。
今まで循環器内科を専門として、心不全、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)、不整脈、下肢閉塞性動脈硬化症(足の痛みや、足の傷など)を主に治療してきました。
これからは父が行ってきた診療に加え、胸の症状(動悸、息切れ、胸の痛みなど)、足の症状(足の痛み、傷など)などで困ることがあればいつでもご相談ください。
2011年3月 大阪医科大学卒業
2011年4月 大阪大学医学部付属病院 初期研修医
2012年4月 大阪府立急性期・総合医療センター(現大阪急性期・総合医療センター) 初期研修医
2013年4月 大阪大学医学部付属病院 循環器内科 入局
2013年4月 大阪府立急性期・総合医療センター(現大阪急性期・総合医療センター) 心臓内科
2016年4月 JCHO星ヶ丘医療センター 循環器内科
2019年7月 大阪南医療センター 循環器内科
2021年1月 医療法人 石見医院 継ぐ
- 公開日:2026/02/17
- 更新日:2026/02/17
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