心室中隔欠損症しんしつちゅうかくけっそんしょう

心室中隔欠損症は、左右の心室を隔てる壁(心室中隔)に穴が開いている先天性心疾患です。血液が左心室から右心室に流れることで肺に負担がかかり、心不全の原因となることがあります。多くは自然閉鎖または手術で治療されます。

心室中隔欠損症

心室中隔欠損症とは?

心室中隔欠損症(しんしつちゅうかくけっそんしょう、Ventricular Septal Defect:VSD)は、左右の心室を隔てている壁(心室中隔)に先天的な孔(あな)が開いている状態を指します。先天性心疾患の中では最も頻度が高く、新生児1000人に3〜5人程度の割合で発生します。

心室は心臓の下部に位置し、左心室は全身に血液を送り出すポンプ、右心室は肺へ血液を送るポンプとして働きます。心室中隔に欠損孔があると、左心室から右心室へ血液が漏れ(左→右シャント)、肺への血流が過剰になり、肺高血圧や心不全の原因となります。

欠損孔の大きさや部位により病態はさまざまで、小さな欠損は無症状のこともあり、自然閉鎖することもあります。一方で、中等度〜大きな欠損では早期から症状が現れ、手術による閉鎖が必要となる場合があります。

心室中隔欠損症は心雑音として出生直後または新生児期に発見されることが多く、心エコー検査によって診断が確定されます。

原因

心室中隔欠損症の原因は明確に解明されていないものの、多くは胎児期の心臓の形成過程における異常によるとされています。以下に主な要因を示します。

胎児期の発達異常

  • 心臓は胎児期に4つの部屋(左右の心房・心室)に分かれる過程で、中隔が正しく形成されないと欠損が残る
  • 心室中隔は複数の組織が合体して完成するため、その融合過程に異常があると欠損が生じる

遺伝的要因

  • 一部の症例では家族内に同様の先天性心疾患があることが知られており、遺伝的背景が関与していると考えられる
  • ダウン症(21トリソミー)やディジョージ症候群(22q11.2欠失症候群)などの染色体異常に合併することがある

環境的要因

  • 母体の妊娠初期の感染(風疹など)、糖尿病、飲酒、喫煙、薬物使用などが心臓の形成に影響を及ぼす可能性がある
  • 放射線被曝やビタミン欠乏なども胎児の発育に影響を与えることがある

孤発性(明確な原因が不明なもの)

  • 大多数の症例は原因が特定されておらず、単発で偶発的に発生する

心室中隔欠損症は単独で発生する場合もあれば、他の心奇形(心房中隔欠損、動脈管開存、大動脈縮窄症など)と合併することもあります。

症状

心室中隔欠損症の症状は、欠損孔の大きさや位置、肺への血流の増加程度によって異なります。新生児や乳児期に症状が現れることが多く、成長発達への影響もあります。

主な症状

  • 心雑音:生後数日〜数週間で聴取されることが多く、最初の発見のきっかけとなる
  • 哺乳不良:哺乳中に疲れやすく、飲みが悪くなる
  • 体重増加不良:エネルギー消費が多く、成長が遅れる
  • 頻回の呼吸器感染:肺血流増加により肺炎を繰り返す
  • 呼吸が早い(頻呼吸):肺血流過多による肺うっ血
  • チアノーゼ:通常はないが、肺高血圧が進行した場合や他疾患合併時に出現
  • 発汗・動悸:特に哺乳時や泣いたときに目立つ

身体的変化の医学的説明

  • 左心室から右心室への血液シャントが生じることで、肺循環に過剰な血流が送られる
  • これにより左房・左室の容量負荷が増加し、心臓が拡大
  • 肺高血圧が進行すると、右心室への負担も増加し、右室肥大や心不全をきたす

欠損孔の位置による違い

  • 膜性部欠損(最も多い):心室中隔の上部に位置し、自然閉鎖の可能性がある
  • 筋性部欠損:心室の下部に位置し、比較的閉鎖率が高い
  • 流出路部欠損:肺動脈への流出路にあり、閉鎖しにくく手術適応となることが多い

発症時期

  • 中等度〜高度の欠損では生後1〜2か月から症状が明らかになる
  • 軽度欠損では無症状のまま経過し、成長とともに自然閉鎖することもある

診断方法と治療方法

診断

  1. 聴診
    ・左胸骨縁沿いに明瞭な収縮期雑音を認める
    ・雑音が強いほど、欠損孔が小さい可能性がある(音の強さと病態の重症度は比例しない)
  2. 心エコー検査(超音波検査)
    ・最も重要な検査。心室中隔に存在する欠損孔の位置と大きさ、血流の流れ(カラードプラ)を可視化
    ・肺動脈圧や心室拡大の有無も評価できる
  3. 胸部X線
    ・心陰影の拡大、肺血流の増加による肺血管陰影の増強が見られる
  4. 心電図
    ・左室肥大または両室肥大の所見
    ・房室ブロックや不整脈の合併の評価
  5. 心臓カテーテル検査(必要時)
    ・肺動脈圧や肺血流/体血流比(Qp/Qs)を正確に測定
    ・手術適応を判断するために行われることがある

治療

  1. 自然閉鎖の期待
    ・小さな欠損孔(特に筋性部)は年齢とともに自然に閉鎖することが多く、経過観察となる
    ・定期的な心エコーと成長評価を行う
  2. 内科的治療(対症療法)
    ・心不全症状のある乳児では、利尿薬、ACE阻害薬などで心負荷を軽減
    ・栄養管理や感染予防も重要
  3. 外科的手術
    ・中等度〜高度の欠損や、心不全、体重増加不良が続く場合には手術が必要
    ・心肺バイパス下での欠損孔閉鎖術が標準
    ・近年ではカテーテルによる閉鎖(デバイス閉鎖)が適応となる例もある
  4.  感染性心内膜炎の予防
    ・未修復または手術後6か月以内は、抜歯などの処置前に抗菌薬予防投与を行うことがある

治療の選択は、欠損の大きさ、心機能、年齢、成長状態などを総合的に判断して決定されます。

予後

心室中隔欠損症の予後は、欠損孔の大きさや位置、合併症の有無、治療の時期によって大きく異なりますが、早期に適切な対応がなされれば良好な経過をたどることが多いです。

良好な予後のケース

  • 小さな欠損孔の場合、多くが自然閉鎖するため経過観察で十分
  • 成長や運動機能に問題がない場合がほとんど

治療介入後の予後

  • 外科的閉鎖手術の成功率は非常に高く、手術後のQOL(生活の質)も良好
  • 学童期以降は通常の生活・運動が可能となる

予後不良の因子

  • 大きな欠損孔で心不全が進行していた場合
  • 肺高血圧症が固定化している例(エイゼンメンジャー症候群)
  • 不整脈や伝導障害(特に術後の房室ブロック)を合併した例

長期的管理

  • 手術後でもまれに再開孔や弁障害が起こる可能性があり、定期的なフォローが必要
  • 感染性心内膜炎の予防のため、口腔衛生の徹底も大切

多くの患児が通常の成長発達を遂げられる疾患であり、早期診断・治療が予後を決定づけます。

予防

心室中隔欠損症そのものの予防は難しいものの、妊娠前後の環境要因の管理や、早期発見・合併症の予防が重要です。

妊娠中の母体管理

  • 感染症(特に風疹)の予防と予防接種
  • 糖尿病や甲状腺疾患の適切な管理
  • アルコール、喫煙、薬物使用の制限
  • 葉酸を含む栄養バランスのとれた食生活

出生後の早期診断

  • 新生児期の聴診と心エコーによる早期発見
  • 家族歴がある場合は、出生前診断や出生後の心エコーで確認

合併症の予防

  • 感染性心内膜炎の予防のため、歯科受診時の管理と口腔衛生
  • 呼吸器感染の予防(ワクチン、手洗い)

成長中のフォローアップ

  • 定期的な心エコーによる経過観察
  • 運動制限や日常生活の注意点は主治医と相談

早期の医療介入と家族の理解・協力が予防と管理の鍵となります。

関連する病気や合併症

心室中隔欠損症は単独でも発生しますが、他の心疾患や合併症と関連することがあり、以下の病態に注意が必要です。

肺高血圧症

  • 左→右シャントによる過剰な肺血流により、肺動脈圧が上昇
  • 長期化すると血管リモデリングが進行し、右心不全を引き起こす

心不全

  • 左心室や右心室に過剰な負荷がかかり、心拡大や心機能低下が進行する
  • 呼吸困難や哺乳不良、浮腫などが現れる

感染性心内膜炎

  • 欠損孔周囲の血流乱流により、細菌が付着しやすくなる
  • 手術前後や歯科処置前の予防的抗菌薬投与が必要な場合がある

心房中隔欠損症との合併

  • 複合心奇形の一部として存在することがあり、手術方針に影響

大動脈弁閉鎖不全

  • 欠損孔が流出路に近い場合、大動脈弁の支持構造に影響を及ぼし逆流を生じることがある

伝導障害・不整脈

  • 特に術後に房室ブロックなどの電気的合併症が出現することがある

これらの合併症を予防・管理することが、長期的なQOL向上と予後改善につながります。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

日本小児循環器学会「先天性心疾患診療ガイドライン」(https://jspccs.jp/)

MSDマニュアル プロフェッショナル版「心室中隔欠損症」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)

厚生労働省 e-ヘルスネット「先天性心疾患」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)

  • 公開日:2025/06/26
  • 更新日:2025/06/26

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