マロリー・ワイズ症候群まろりー・わいずしょうこうぐん
マロリー・ワイス症候群は、激しい嘔吐や吐き気によって胃の出口付近(胃噴門部)から食道下部にかけての粘膜が裂け、出血する病気です。主な症状は嘔吐後の鮮血を含む吐血で、アルコールの過剰摂取や妊娠による悪阻、胃の不調などが誘因となります。出血量が多い場合は早急な治療が必要であり、内視鏡による止血が基本となります。
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マロリー・ワイス症候群とは?
マロリー・ワイス症候群とは、胃と食道の境目にある噴門部の粘膜が裂けることで出血を起こす疾患です。嘔吐や強い咳、しゃっくりなどで腹圧が急激に上昇することで、粘膜に縦方向の裂傷(裂創)が生じ、そこから出血します。
名前は、最初にこの病態を報告したマロリー医師とワイス医師に由来します。出血源は粘膜下の毛細血管や小さな動脈であり、多くの場合は自然に止血されますが、出血量が多い場合や止まらない場合には内視鏡的な治療が必要です。
成人に多くみられる疾患で、特にアルコール多飲者や過食嘔吐を繰り返す方、妊娠悪阻のある女性、激しい咳を伴う感染症後などにみられることがあります。軽症から重症まで幅が広く、上部消化管出血の原因のひとつとして重要な病態です。
原因
原因の多くは嘔吐に伴う腹圧の急上昇です。嘔吐やしゃっくり、激しい咳などによって胃の内容物を強く押し戻そうとする力が働くと、胃噴門部から食道下部にかけての粘膜が引き裂かれます。この裂傷が血管にまで及ぶと出血を伴うようになります。
特にアルコールの過剰摂取後や暴飲暴食後に見られることが多く、飲酒による胃粘膜の脆弱化や嘔吐反射の亢進が発症を助長します。また、妊娠悪阻や摂食障害に伴う繰り返す嘔吐、薬の副作用、過剰な胃洗浄処置なども誘因となり得ます。
胃酸の逆流や消化器疾患(胃潰瘍、食道炎など)によって粘膜が弱くなっている場合にも発症リスクが高まります。加齢や既往のある消化管出血も関連することがあり、複数の因子が重なることで発症に至るケースもあります。
症状
最も典型的な症状は「吐血」です。嘔吐や咳のあとに、鮮紅色の血液が混じる吐血が突然起こることが特徴で、これは出血が胃や食道の粘膜表層から発生するためです。黒色便(タール便)を伴う場合もあり、出血量や滞在時間によって変化します。
その他の症状としては、みぞおちの不快感、胸部の痛み、吐き気、全身の倦怠感、めまい、動悸などが見られます。出血量が多い場合には貧血症状が進行し、血圧の低下や失神、さらにはショック状態に陥ることもあります。
高齢者や基礎疾患を持つ人では症状が急激に進行することがあり、嘔吐を繰り返したあとに顔色不良や息切れ、立ちくらみなどが見られた場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。軽症であっても、再出血や見逃しによる重症化に注意が必要です。
診断方法と治療方法
診断
- 問診
症状の確認と出血の既往について
吐血の状況や回数、体調の変化、飲酒歴、嘔吐を引き起こす原因の有無などが詳しく問われます。
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
内視鏡を用いて食道下部から胃噴門部の粘膜を直接観察し、裂傷と出血点を確認することで診断されます。場合によっては、他の消化管出血(胃潰瘍、食道静脈瘤など)との鑑別が必要となるため、内視鏡検査は極めて重要です。
治療
- 経過観察
多くの場合、自然止血により経過観察となりますが、出血が続いている場合は内視鏡的止血術が行われます。止血方法としては、クリップ、電気凝固、局所注射(アドレナリンなど)などが用いられます。重度の出血やショック状態では、輸血が必要となることもあります。 - 薬物療法
止血後は胃酸の刺激を抑えるために、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの内服治療が行われ、粘膜の回復を助けます。安静と食事制限も重要で、症状の再発を防ぐ生活指導が並行して行われます。
予後
マロリー・ワイス症候群の予後は、基本的には良好です。出血は自然に止まることが多く、適切な治療を受ければ重篤な経過をたどることはまれです。ただし、再出血のリスクや、背景にある基礎疾患の影響を受ける場合があります。
軽症例では、胃酸を抑える薬と食事指導のみで経過観察となることが多く、数日から1週間ほどで粘膜は自然に治癒します。重症例では、内視鏡治療に加えて輸血や集中治療が必要なこともありますが、多くの症例で回復が見込めます。
高齢者や循環器疾患、肝疾患などの持病を持つ患者では、低血圧やショックに陥るリスクが高く、予後の管理に注意が必要です。また、繰り返し嘔吐するような状況を防ぐことで、再発のリスクを下げることができます。
予後を良好に保つには、原因の特定と再発防止の生活指導、定期的な診察と検査が重要です。
予防
マロリー・ワイス症候群は、激しい嘔吐や咳による粘膜裂傷が主な原因であるため、予防にはこうした状況を避けることが基本となります。
まず、過度な飲酒や暴飲暴食は避けましょう。アルコールは胃粘膜を傷つけやすく、嘔吐を誘発するため、飲酒の頻度や量を見直すことが大切です。消化不良や胃のむかつきがあるときは、早めに消化器科を受診することで悪化を防ぐことができます。
嘔吐を繰り返しやすい疾患(妊娠悪阻、摂食障害、消化器感染症など)がある場合は、医師の管理のもとで治療を行い、粘膜への負担を軽減します。強い咳が続くときも早めに治療を受け、腹圧の急上昇を防ぐことが望まれます。
日常生活では、食事をゆっくりとよく噛んで摂ること、満腹まで食べすぎないことが胃への負担軽減に役立ちます。胃酸の逆流を防ぐために、食後すぐに横になるのを避け、就寝前の食事は控えるようにしましょう。
関連する病気や合併症
マロリー・ワイス症候群は、単独で発症することもありますが、しばしば他の消化器疾患や全身状態と関連しています。
まず、胃炎や食道炎、胃潰瘍などが背景にある場合、粘膜が脆弱になっており、わずかな刺激で裂傷が起こりやすくなります。また、アルコール性肝疾患との関連も深く、食道静脈瘤などの重篤な出血性疾患との鑑別が必要です。
長期的な吐血が続くことで鉄欠乏性貧血を引き起こすこともあり、慢性的な疲労感や息切れの原因となります。
誤嚥や咳反射の低下によって、内容物が気道に入り誤嚥性肺炎のリスクが高まることもあります。特に高齢者や神経疾患のある方では注意が必要です。
また、精神的ストレスや摂食障害が背景にある場合には、再発を防ぐために心療内科的サポートも検討されます。関連疾患の有無を早期に確認し、総合的な診療体制で対応することが望まれます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「上部消化管出血診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
厚生労働省e-ヘルスネット「吐血」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
国立国際医療研究センター「マロリー・ワイス症候群」(https://www.ncgm.go.jp/)
順天堂医院 消化器内科「上部消化管出血について」(https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/shokaki/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/06/25
- 更新日:2025/06/26
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