大腸菌感染症だいちょうきんかんせんしょう
大腸菌感染症は、O157などの病原性大腸菌が口から体内に入ることで起こる主に胃腸の病気です。腹痛・下痢・血便などが代表的な症状で、重症化すると腎臓の障害(溶血性尿毒症症候群:HUS)を起こし、命に関わることもあるため、早めの受診と適切な治療が重要です。
目次
⚫︎大腸菌感染症とは?
大腸菌は、健康な人の腸の中にも普通にいる細菌ですが、そのなかには病気を起こしやすい「病原性大腸菌」がいます。特に、O157・O111・O26などの「腸管出血性大腸菌」は、少ない菌の数でも感染して、強い腹痛や血便を伴う腸炎(腸の炎症)を起こすことで知られています。
主な感染経路は、これらの菌に汚染された食品(加熱不十分な肉、生肉、汚染水、十分に洗われていない野菜など)や、患者さんの便が手指や調理器具を介して口に入ることです。家庭や保育園、学校、高齢者施設など、集団生活の場で広がることもあります。
大腸菌は尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎)や敗血症の原因になることもありますが、このページでは、特に一般の方で問題となりやすい「病原性大腸菌による腸の感染症(腸管出血性大腸菌感染症)」を中心に説明します。
⚫︎大腸菌感染症の原因
病原性大腸菌のうち、特に腸管出血性大腸菌は「ベロ毒素」と呼ばれる毒素を出し、腸の粘膜を強く傷つけます。その結果、腸の中で出血や強い炎症が起こり、血便や激しい腹痛につながります。
主な原因は次のようなものです。
汚染された食品の摂取
生肉や加熱不十分な牛肉(ユッケ、レアステーキ、牛たたきなど)、汚染された食材を使った惣菜、生で食べる野菜などが原因になります。
汚染された水や環境
井戸水、川・池の水、家庭内・施設内での調理環境が汚染されていると、そこから感染が広がることがあります。
人から人への感染(二次感染)
患者さんの便に含まれる菌が、トイレ後の不十分な手洗いなどを通じて家族や周囲の人にうつることがあります。特に、オムツ交換時や小児・高齢者施設で注意が必要です。
少ない菌量でも発症しやすい
腸管出血性大腸菌は、他の食中毒菌に比べて少ない数の菌でも発症しやすいことが特徴です。このため、一度感染者が出ると、家庭や施設などで集団発生につながることがあります。
⚫︎大腸菌感染症の症状は?
症状の出方には個人差がありますが、多くの場合、菌が体に入ってから2〜9日(多くは2〜5日)の潜伏期間のあとに症状が出てきます。
よくみられる症状は次の通りです。
- 腹痛(特に「キリキリする」「差し込むような」強い痛み)
- 水のような下痢(その後、血液が混じる血便になることが多い)
- 吐き気・嘔吐
- 発熱(高い熱が出ないこともあります)
- 全身のだるさ、食欲低下
典型的には、最初は水様便が続き、その後、トマトジュースのような血の混じった便が出るようになります。なかには、便のほとんどが血液のように見えるほど重い血便になるケースもあります。
注意したい合併症として「溶血性尿毒症症候群(HUS)」があります。HUSでは、赤血球や血小板が壊されて貧血や出血傾向を起こし、腎臓の働きが急に悪化して尿が出にくくなる病態です。主に乳幼児や高齢者で起こりやすく、意識障害やけいれんを伴うこともあり、命に関わる状態です。
⚫︎受診の目安
次のような症状がある場合は、自宅で様子をみずに医療機関の受診をおすすめします。
- 強い腹痛と下痢が続いている(特に水のような下痢が何度も出る)
- 血便(赤い便・黒っぽい便)が出る
- 吐き気・嘔吐が強く、水分もほとんど取れない
- ぐったりしている、眠りがちで反応が悪い
- 尿の量が少ない、半日以上ほとんど尿が出ていない
- 高齢者や乳幼児で、いつもと様子が明らかに違う
特に「血便+腹痛」がある場合や、脱水(口の中がカラカラ、尿が少ない、めまいなど)が疑われるときは、早めの受診が重要です。乳幼児・高齢者・基礎疾患のある方は、症状が軽く見えても急に悪化することがあるため、早めに相談してください。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
診断は、症状や食事歴の聞き取り(何をいつ食べたか、同じものを食べた人の症状など)と、血液検査・便検査を組み合わせて行います。便の培養検査で腸管出血性大腸菌がいるかどうか、どのタイプ(O157、O111など)かを調べます。
治療の基本は「対症療法(症状をやわらげる治療)」と「脱水の予防・改善」です。重症度や合併症の有無によって、外来での経過観察〜入院治療まで幅があります。HUSなどの合併症が疑われる場合は、早期から専門的な管理が必要です。
⚫︎大腸菌感染症の診断
1)問診・診察
- いつから下痢・腹痛・嘔吐・発熱が出ているか
- 血便の有無
- 最近食べた生肉、加熱不十分な肉、外食・お惣菜、生野菜など
- 同じものを食べた家族や周囲の人の症状
- 基礎疾患(腎臓病、血液疾患など)の有無
2)検査
- 血液検査:脱水の程度、腎機能、炎症反応、赤血球や血小板の数などを確認します。HUSが疑われる場合は、特に貧血や血小板減少、腎機能障害の有無が重要です。
- 便検査(培養検査):便を培養して腸管出血性大腸菌を検出し、血清型(O157など)や毒素型(ベロ毒素の種類)を調べます。
- 必要に応じた追加検査:腹痛が強い場合や他の病気との区別が必要なときは、腹部エコー・CTなどの画像検査を行うことがあります
⚫︎大腸菌感染症の治療
A. 初期対応(まずやること/基本方針)
- 安静と水分補給:水や経口補水液などでこまめな水分補給を行い、脱水を防ぎます。飲めない場合や重度の脱水が疑われる場合は、点滴による補液を行います。
- 食事:急性期は無理に固形物をとらず、胃腸にやさしい流動食やおかゆなどから少しずつ再開します。
B. 抗菌薬の扱いについて
腸管出血性大腸菌感染症では、抗菌薬(抗生物質)の使用がHUSのリスクに影響する可能性が指摘されており、一般的に「むやみに抗菌薬を使わない」方針がとられます。状況によっては使う場合もあるため、医師が個々の状態を見て慎重に判断します。
C. 合併症への対応
- HUSが疑われる場合:小児科・腎臓内科などで、輸液管理、輸血、透析療法が必要になることがあります。
- けいれんや意識障害がある場合:集中治療室での管理が必要となることもあります。
D. 回復期の管理
- 症状が治まってきたら、少しずつ普段の食事に戻していきます。
- しばらくは便の検査を続け、菌が排泄されなくなったことを確認する場合があります(保育園・学校・施設勤務など、周囲へうつすリスクが高い場合など)。
⚫︎大腸菌感染症の予後
多くの方は、数日〜1週間ほどで腹痛や下痢が改善し、後遺症なく回復します。軽い症状で済む人や、ほとんど症状が出ない「不顕性感染」の人もいます。
一方で、乳幼児や高齢者、基礎疾患のある方では、HUSや脳症などの重い合併症を起こすことがあり、命に関わることもあります。HUSは腸管出血性大腸菌感染症の患者さんの一部(約数%〜1割程度)で起こるとされており、その場合の死亡率は数%とされています。
早期に医療機関を受診し、脱水の予防・治療や合併症の早期発見ができれば、予後は大きく改善します。「血便が出た」「子どもが急にぐったりしている」など、気になる症状があれば早めの受診が安心です。
⚫︎大腸菌感染症の予防
大腸菌感染症の予防には、「食中毒予防」と「二次感染を防ぐ生活習慣」が重要です。
食品は十分に加熱する
腸管出血性大腸菌は熱に弱く、75℃で1分以上加熱すれば死滅するとされています。肉は中心部までしっかり火を通し、生肉や加熱不十分な肉(レア、ユッケ、生ハンバーグなど)は避けましょう。
生で食べる食品の取り扱い
生野菜や果物はよく洗い、まな板・包丁は生肉と使い分けるか、よく洗ってから使います。
手洗いの徹底
トイレの後、おむつ交換の後、調理前後、食事の前には、石けんと流水でしっかり手を洗いましょう。特に子どもと接する方や、介護をしている方は、こまめな手洗いが大切です。
冷蔵・保存方法に注意
調理済みの食品はなるべく早く食べ、長時間室温に放置しないようにします。弁当や作り置きは、十分に冷ましてからフタをし、冷蔵庫で保存します。
⚫︎大腸菌感染症に関連する病気や合併症
溶血性尿毒症症候群(HUS)
腸管出血性大腸菌感染症の合併症として知られ、貧血・血小板減少・腎障害を特徴とします。むくみ、尿量減少、出血斑、けいれんや意識障害がみられることがあります。
急性腎障害
HUSの一部として腎臓の機能が急激に低下し、透析が必要になることがあります。
脳症
HUSに伴ってけいれんや意識障害を起こすことがあり、集中治療が必要になることがあります。
家族内・施設内での二次感染
一人の患者さんから、家族、保育園・学校、高齢者施設などの集団に感染が広がることがあります。感染者の早期発見と、トイレ・手洗いなどの感染対策が重要です。
⚫︎まとめ
大腸菌感染症は、汚染された食品や水を介して発生する消化器感染症です。多くは一過性の胃腸炎症状で推移しますが、腸管出血性大腸菌(O157など)の場合、重篤な合併症であるHUS(溶血性尿毒症症候群)を引き起こす可能性があるため、慎重な経過観察を要します。
特に乳幼児や高齢者においては、重症化のリスクが高く、早期の診断と適切な水分補給(脱水対策)が不可欠です。
予防においては、食品の十分な加熱処理や二次汚染の防止、手指衛生の徹底が極めて有効ですので、下痢や腹痛といった症状が持続、あるいは悪化する場合は、安易な自己判断を避け、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- byomie 疾患情報 vol.6「免疫・膠原病・感染症」大腸菌感染症 ほか(byomie.com+1)
- 厚生労働省「腸管出血性大腸菌Q&A」(厚生労働省+1)
■ この記事を監修した医師
赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2026/03/03
- 更新日:2026/03/03
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