肺炎随伴性胸膜炎はいえんずいはんせいきょうまくえん

肺炎随伴性胸膜炎は、肺炎に伴って胸膜腔に炎症と胸水が生じる状態で、胸痛や呼吸困難が加わることが特徴です。悪化すると膿胸に進展することもあるため、抗菌薬治療と胸水管理が重要です。重症例ではドレナージや手術が検討されます。

肺炎随伴性胸膜炎

肺炎随伴性胸膜炎とは?

肺炎随伴性胸膜炎(Parapneumonic Pleural Effusion:PPE)とは、細菌性肺炎に伴って胸膜腔に液体(胸水)が貯留し、胸膜に炎症を生じた状態を指します。軽度の炎症性胸水から膿胸(Empyema)に進展する重症例まで幅広い病態を含みます。

通常、肺炎は肺実質(肺胞)に限局しますが、炎症が肺の外側にまで波及すると、隣接する胸膜にも影響を及ぼし、胸膜腔に滲出性の胸水が貯まります。この胸水は、炎症細胞やタンパク質を多く含み、時には細菌が直接存在することもあります。

肺炎随伴性胸膜炎は、肺炎患者のおよそ20〜40%に発生しうるとされ、多くは抗菌薬治療で改善しますが、胸水の性状や量、感染の有無によっては外科的処置が必要となる場合もあります。

病態の進行により、無菌性の単純性胸水から、細菌感染を伴う膿性胸水(膿胸)へと移行することがあるため、早期診断と適切な治療選択が重要です。

原因

肺炎随伴性胸膜炎は、肺炎に伴って胸膜に波及した炎症によって引き起こされます。最も多い原因は細菌性肺炎であり、その原因菌と病態の進行によって治療方針が変わります。

主な原因菌

  • 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)
  • インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)
  • 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
  • 嫌気性菌(口腔内常在菌など)
  • クレブシエラ、緑膿菌などのグラム陰性桿菌(特に入院中や基礎疾患を持つ患者)

病態進行に関する分類

  • 単純性随伴性胸水(Uncomplicated PPE)
    ・滲出性の無菌性胸水で、抗菌薬単独で改善する
    ・pHは正常または軽度低下、糖濃度は正常
  • 複雑性随伴性胸水(Complicated PPE)
    ・胸水内に細菌が存在するか、免疫細胞の活動による胸水性状の変化がある
    ・pH<7.2、糖濃度低下、LDH上昇がみられる
    ・抗菌薬だけでの治癒が難しく、ドレナージが必要となることも
  • 膿胸(Empyema)
    ・胸水が膿性となり、膿が明らかに貯留する状態
    ・治療にはドレナージまたは手術が不可欠

肺炎随伴性胸膜炎は、これらの3段階で進行し、特に複雑性胸水や膿胸への進展を防ぐためには、早期の介入が重要です。

症状

肺炎随伴性胸膜炎は、肺炎の症状に加えて胸膜炎や胸水による特徴的な症状が出現します。症状は炎症の程度と胸水の貯留量により異なります。

主な局所症状

  • 胸痛:吸気時に悪化する鋭い痛み(胸膜痛)
  • 呼吸困難:胸水が増えることで肺が圧迫され、息苦しさが出現
  • 咳:痰を伴うこともあるが、乾いた咳も多い
  • 胸部圧迫感:肺が十分に膨らまないことによる

全身症状

  • 発熱:38℃以上の高熱を伴うことが多い
  • 悪寒、倦怠感、食欲不振
  • 体重減少(慢性化した場合)

聴診所見

  • 患側の呼吸音の減弱または消失
  • 摩擦音(pleural rub):胸膜の炎症による音
  • 打診で濁音を呈する(胸水貯留部位)

進行により見られる症状

  • チアノーゼ(低酸素血症による)
  • SpO₂の低下
  • 仰臥位での呼吸困難(重力により胸水が肺を圧迫)

小児や高齢者での注意点

  • 典型的な症状が出にくく、全身状態の悪化で気づかれることも
  • 高齢者ではせん妄や食欲不振が初期症状となる場合がある

肺炎随伴性胸膜炎では、通常の肺炎に比べて胸痛や呼吸苦が強く出現する傾向があり、これらの症状が持続する場合には画像検査での精査が必要です。

診断方法と治療方法

診断

  1. 胸部X線検査
    ・胸水による肺野の陰影消失、肺の圧排
    ・側臥位撮影で自由胸水か被包化胸水かを評価
  2. 胸部CT検査
    ・少量の胸水や被包化胸水の描出に有用
    ・肺炎の範囲や膿胸の有無も評価可能
  3. 超音波検査(胸部エコー)
    ・胸水量や内部構造(中隔形成、隔壁、膿の貯留)を視覚化
    ・胸水穿刺のガイドとして用いられる
  4. 血液検査
    ・白血球増加、CRP、プロカルシトニン(細菌感染の指標)
    ・アルブミン低下、腎肝機能障害の合併の有無
  5. 胸水穿刺・胸水検査
    ・外観(淡黄色、血性、膿性)
    ・細胞数、糖、LDH、pH、グラム染色・培養
    ・悪性細胞の有無(がん性胸膜炎との鑑別)

治療

  1. 抗菌薬治療
    ・肺炎に準じた初期治療(肺炎球菌、インフルエンザ菌、嫌気性菌など)
    ・培養結果に基づいた薬剤選択へ切り替え
    ・膿胸進展時には長期間(2~6週)の抗菌薬投与が必要
  2. 胸水排液
    ・胸水の量が多く呼吸困難が強い場合や、感染性胸水と判断された場合には穿刺またはドレナージ
    ・超音波ガイド下での安全な穿刺が推奨される
  3. 胸膜癒着術
    ・再貯留や慢性化の予防目的で癒着剤を注入
    ・反復する胸水例や被包化例では選択肢となる
  4. 外科的治療
    ・被包化膿胸や多房性膿胸、ドレナージ無効例では胸腔鏡下膿胸掻爬術が行われる
    ・胸膜剥皮術などが必要となる場合もある

適切な治療選択のためには、画像・検体評価を基に病期を正確に判断し、内科的・外科的治療を柔軟に組み合わせる必要があります。

予後

肺炎随伴性胸膜炎の予後は、胸水の性状や感染の有無、患者の全身状態、治療開始のタイミングによって大きく異なります。早期に診断され、適切な抗菌薬とドレナージが行われれば、多くの場合で完治が可能です。

良好な予後の条件

  • 単純性胸水であり、抗菌薬単独で改善した例
  • 早期にドレナージが行われた膿胸例
  • 基礎疾患がなく、免疫状態が良好な患者

予後不良の要因

  • 高齢者、免疫抑制状態(がん、糖尿病など)
  • 被包化膿胸や多房性膿胸で外科的治療が遅れた場合
  • 多剤耐性菌や嫌気性菌の関与による治療難航
  • 低栄養状態の患者(アルブミン低下)

後遺症の可能性

  • 胸膜肥厚や肺機能の制限
  • 慢性膿胸化(まれ)

早期の対応と多職種連携による包括的治療が、肺炎随伴性胸膜炎の予後を改善する鍵となります。

予防

肺炎随伴性胸膜炎は肺炎の合併症であるため、肺炎そのものの予防と早期対応が重要です。以下に主な予防策を示します。

肺炎の予防

  • インフルエンザ、肺炎球菌ワクチンの定期接種
  • 手洗い、うがい、マスクなどの基本的感染対策
  • 喫煙の中止(気道防御機能の改善)

免疫力の維持

  • 適切な栄養摂取と水分補給
  • 基礎疾患(糖尿病、心疾患など)のコントロール
  • 十分な睡眠とストレス管理

肺炎発症後の早期対応

  • 風邪症状が続く場合は早めに受診
  • 胸痛、呼吸困難、発熱が持続する場合は画像検査を検討
  • 抗菌薬の自己中断を避け、処方通りに内服する

予防と早期治療によって、重篤な胸膜炎への進展や合併症を回避することが可能です。

関連する病気や合併症

肺炎随伴性胸膜炎は、他の呼吸器疾患や全身状態に影響を及ぼす可能性があります。以下に主な関連疾患と合併症を示します。

関連疾患

  • 肺炎(特に細菌性肺炎)
  • 膿胸:随伴性胸膜炎の重症型
  • 肺膿瘍:肺実質内に膿がたまり、胸膜に波及することがある
  • 結核:結核性胸膜炎との鑑別が重要

合併症

  • 胸膜癒着、胸膜肥厚:肺の可動性が低下し、拘束性障害を残す
  • 慢性膿胸:被包化された胸水が慢性的に残存する
  • 再膨張性肺水腫:ドレナージ後に急速に再膨張すると発生するリスクあり
  • 敗血症、多臓器不全:膿胸がコントロールできない場合の重篤な合併症

治療関連合併症

  • 穿刺に伴う気胸、出血、感染
  • 胸腔鏡手術後の瘢痕形成、術後疼痛

これらの病態を念頭に置きながら、早期介入と経過観察を徹底することが合併症の回避と予後改善につながります。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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