誤嚥性肺炎ごえんせいはいえん

誤嚥性肺炎は、食物や唾液、胃内容物が誤って気道に入ることで起こる肺炎で、特に高齢者に多く見られます。嚥下機能の低下や意識障害が原因となり、繰り返すことで命に関わることもあります。予防には口腔ケアや嚥下リハビリが重要です。

誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎とは?

誤嚥性肺炎とは、誤って気管や肺に入った食物、唾液、胃液などに含まれる細菌が原因で起こる肺炎のことです。通常、食物は口から食道を通って胃に送られますが、嚥下機能が低下すると誤って気道に流れ込むことがあり、これを「誤嚥」と呼びます。

健康な人でも睡眠中などに微量の誤嚥は起こりますが、咳反射や免疫機能が正常であれば排除されるため、問題にはなりません。しかし、高齢者や脳卒中、認知症などで嚥下機能や咳反射が低下している場合には、誤嚥物に含まれる常在菌が肺に感染を引き起こし、誤嚥性肺炎が発症します。

日本では肺炎による死亡者の多くが高齢者であり、その大半が誤嚥性肺炎と考えられています。加齢による筋力の低下、口腔内の衛生不良、慢性疾患の影響なども誤嚥性肺炎の発症に関与しています。

誤嚥性肺炎は再発を繰り返しやすく、生活機能の低下や長期入院、さらには命に関わることもあるため、早期の発見と予防的介入が重要です。

原因

誤嚥性肺炎の主な原因は、嚥下機能の障害によって飲食物や唾液、胃内容物が誤って気道に流入し、肺で細菌感染を引き起こすことです。以下のような因子が関与しています。

嚥下機能の低下

  • 加齢による筋力の低下(咽頭や喉頭周囲の筋力)
  • 脳血管障害(脳梗塞や脳出血などによる神経麻痺)
  • 神経筋疾患(パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など)
  • 認知症による嚥下指令の障害や注意力の低下

咳反射の低下

  • 高齢者では咳反射が鈍くなり、異物を排除しにくくなる
  • 鎮静薬や睡眠薬の服用による反応低下

口腔内の衛生不良

  • 歯垢や食物残渣に含まれる細菌が誤嚥により肺に到達し感染の原因となる
  • 口腔内ケアが不十分な場合、肺炎の発症リスクが大幅に上昇

胃内容物の逆流

  • 胃食道逆流症(GERD)や食後すぐに横になる習慣などにより、逆流した胃酸や内容物が誤嚥される

これらのリスク因子は複合していることが多く、慢性疾患や全身状態の悪化が拍車をかけるため、総合的な評価と管理が必要です。

症状

誤嚥性肺炎の症状は一般的な肺炎と類似しますが、高齢者や基礎疾患のある患者では非典型的な症状を呈することも多く、注意が必要です。

典型的な症状

  • 発熱(高熱でなく微熱のことも)
  • 咳(特に食後や夜間に多い)
  • 痰(粘性または膿性のことが多い)
  • 呼吸困難、息切れ
  • 全身倦怠感、脱力感
  • 食欲不振

高齢者に多い非典型的症状

  • 明らかな発熱や咳が見られない
  • 元気がない、食事を取らない
  • 意識レベルの低下(せん妄)
  • 尿量の減少、脱水傾向

誤嚥のサイン

  • 食事中や水分摂取時のむせ
  • 声のかすれ、湿った声
  • 喉の違和感、咽頭の痛み
  • 反復する咳や呼吸困難

進行時の症状

  • 呼吸数の増加
  • SpO₂(血中酸素飽和度)の低下
  • 胸部の違和感や圧迫感
  • 発作性の激しい咳込み

誤嚥性肺炎はしばしば慢性的に経過し、症状が軽微なまま経過することもありますが、再発を繰り返すことで体力が低下し、やがて全身状態を著しく悪化させることがあります。

症状の変化がわかりにくい高齢者では、日常の様子(食事量、活気、表情)を注意深く観察することが早期発見につながります。

診断方法と治療方法

診断

  1. 問診と身体診察
    ・嚥下歴、食事中のむせの有無、薬剤使用歴を確認
    ・呼吸音の聴診やSpO₂測定で肺炎の兆候を評価
  2. 胸部X線検査
    ・肺の下部や背側に浸潤影がみられやすい(誤嚥性肺炎の特徴)
    ・他の病変との鑑別に有用
  3. 胸部CT検査
    ・X線で明確でない初期病変の検出に有効
    ・慢性誤嚥性肺炎の診断にも役立つ
  4. 血液検査
    ・白血球増加、CRP上昇、電解質異常などを確認
    ・腎機能、栄養状態(アルブミン値)もチェック
  5. 微生物検査
    ・喀痰培養で原因菌を同定し、感受性のある抗菌薬を選択
    ・血液培養は重症例や敗血症が疑われる場合に実施
  6. 嚥下機能検査
    ・嚥下造影(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)で嚥下障害の有無と程度を評価

治療

  1. 抗菌薬治療
    ・肺炎球菌、インフルエンザ菌、嫌気性菌をカバーする抗菌薬(アンピシリン・スルバクタムなど)
    ・重症例では点滴治療が必要
  2. 支持療法
    ・酸素投与
    ・水分・栄養補給(経口または経管)
    ・解熱鎮痛薬、去痰薬、気管支拡張薬などの対症療法
  3. 嚥下機能の改善と食事指導
    ・言語聴覚士による嚥下訓練(口腔体操、アイスマッサージなど)
    ・食事形態の調整(とろみ食、ゼリー食、刻み食など)
    ・経口摂取が困難な場合は経管栄養や胃ろうの検討
  4. 口腔ケア
    ・歯磨き、義歯清掃、口腔内の清拭を徹底し、細菌の繁殖を抑える

治療と並行して、誤嚥を起こしにくい生活環境の整備と、再発予防のための支援体制の構築が重要です。

予後

誤嚥性肺炎の予後は、患者の年齢、全身状態、基礎疾患、治療介入のタイミングによって大きく異なります。特に高齢者では再発を繰り返しやすく、生命予後にも深く関わります。

良好な予後の条件

  • 早期診断と迅速な抗菌薬治療
  • 嚥下機能の改善と適切な食事管理
  • 口腔ケアの徹底

不良な予後のリスク因子

  • 高齢(75歳以上)
  • 慢性疾患(心不全、糖尿病、腎不全など)の合併
  • 低栄養、低アルブミン血症
  • 意識障害、認知症
  • 呼吸器疾患(COPDなど)との併存

重症例では死亡率が高く、肺炎をきっかけにADLが著しく低下し、寝たきりとなるケースも少なくありません。再発を防ぐ取り組みが、予後の改善と生活の質の維持につながります。

予防

誤嚥性肺炎は予防可能な疾患であり、特に以下の対策が重要です。

嚥下機能の維持

  • 嚥下訓練(口腔体操、発声訓練、嚥下運動)
  • リハビリテーションによる全身の筋力維持
  • 栄養状態の改善(低栄養予防)

口腔ケアの徹底

  • 毎日の歯磨き、義歯の洗浄
  • 介護者による清拭や舌ブラシの使用
  • 定期的な歯科受診とプロフェッショナルケア

食事時の工夫

  • 座位での食事、誤嚥リスクの高い食品の調整
  • 一口量を少なく、ゆっくり食べる習慣
  • 食後30分程度は上体を起こしておく

生活環境と全身管理

  • 睡眠薬や鎮静薬の見直し
  • 呼吸器感染症の予防(インフルエンザ・肺炎球菌ワクチン)
  • 口腔乾燥や鼻閉などの要因にも注意

継続的な支援と介入が、誤嚥性肺炎の発症と再発を抑制する鍵となります。

関連する病気や合併症

誤嚥性肺炎は、以下のような疾患と密接に関連し、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。

関連疾患

  • 脳血管障害(脳梗塞・脳出血):嚥下障害の主要原因
  • 認知症:食事中の注意力低下や誤嚥の危険性が増す
  • パーキンソン病:筋力低下と反射の低下による誤嚥
  • GERD(胃食道逆流症):逆流した胃内容物の吸引リスクがある

合併症

  • 再発性肺炎:同一部位の繰り返し発症により慢性炎症が進行
  • 肺膿瘍:肺内に膿のかたまりが形成される
  • 呼吸不全:慢性的な酸素化の障害により、長期酸素療法が必要になることも
  • ADLの低下:入院や栄養不良を契機に、身体機能が著しく低下する

誤嚥性肺炎は、単なる一回の感染症ではなく、身体機能と生活の質全体に大きな影響を及ぼす疾患であるため、医療・介護の連携による包括的な対応が求められます。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。

日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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