食道・胃静脈瘤破裂しょくどう・いじょうみゃくりゅうはれつ
食道・胃静脈瘤破裂は、肝硬変などで門脈圧が上昇した結果、食道や胃の静脈がこぶ状に膨らみ、それが破裂して大量出血を起こす状態です。突然の吐血や黒色便が現れ、短時間でショック状態に陥ることもあり、命に関わる緊急疾患です。早急な内視鏡による止血と、出血の再発を防ぐ長期的な管理が不可欠です。
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食道・胃静脈瘤破裂とは?
食道・胃静脈瘤破裂とは、肝硬変や門脈圧亢進症によって形成された食道・胃の静脈瘤が破れ、急激な消化管出血を引き起こす重篤な状態です。
静脈瘤は、肝臓への血流が障害されることで門脈系の圧力が上昇し、その血液が別の経路に逃れる過程で、食道下部や胃の上部の静脈が異常に拡張した「こぶ」のような血管に変化したものです。このこぶ状の静脈瘤は、壁が非常に薄く、圧力の変化やわずかな刺激で破裂し、大量出血を起こします。
静脈瘤自体は無症状でも、破裂すれば生命に関わる重大な合併症となります。破裂後の出血は一気に進行するため、迅速な診断と治療介入が生死を分ける鍵となります。
特に肝硬変が進行している場合、血小板の減少や凝固因子の低下によって出血傾向があり、止血が困難になりやすいため、早期の予防と管理が極めて重要です。
原因
破裂の原因は、門脈圧の異常な上昇により形成された静脈瘤にかかる圧力が限界を超えることにあります。特に次のような要因が、破裂の引き金になることがあります。
- 急激な腹圧上昇(嘔吐、咳、排便時のいきみなど)
- 血圧上昇
- 過度のアルコール摂取
- 食物や胃液による直接的な機械的刺激
また、瘤の「形状」と「大きさ」も破裂リスクに影響します。特に「赤色徴候(赤い斑点、赤い盛り上がりなど)」を伴う静脈瘤は破裂しやすいとされています。
肝硬変が進行し、肝機能が著しく低下している場合には、血液凝固因子の産生が障害され、出血が止まりにくくなることも要因のひとつです。さらに、すでに一度破裂を起こした患者では再発リスクが高く、注意が必要です。
感染や薬剤、脱水による循環動態の変化が破裂を誘発することもあり、慢性肝疾患の全身管理も重要な予防要素となります。
症状
破裂すると、まず突然の大量吐血(鮮紅色または暗赤色)が起こります。多くは前触れなく発症し、嘔吐物に血液が混じることで患者自身や家族が異変に気づくケースが多いです。
吐血に続いて、血液が腸内に流れ込むことで「黒色便(タール便)」が現れることもあります。これは胃酸や腸液によって血液が分解されて黒くなるためで、進行例では貧血や便失禁を伴うこともあります。
全身症状としては、血圧低下、動悸、立ちくらみ、めまい、冷汗、顔面蒼白、倦怠感、息切れ、意識障害などが急速に現れ、出血量が多い場合にはショック状態に陥る危険があります。
症状は数時間以内に急激に悪化するため、出血が疑われる場合は、ただちに救急要請し、入院・治療体制のある医療機関での対応が求められます。
診断方法と治療方法
診断は症状と身体所見から迅速に疑いを持ち、まず「緊急内視鏡検査(上部消化管内視鏡)」が行われます。内視鏡により出血源を特定し、静脈瘤の破裂部位を確認します。吐血の直後で胃内に血液が多く残っている場合は、洗浄しながら慎重に観察を進めます。
検査と同時に、治療も開始される「診断的治療」が原則で、止血処置としては次のような方法が用いられます。
- 内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL):破裂部に輪ゴムで瘤を縛って止血
- 内視鏡的硬化療法(EIS):瘤に硬化剤を注入し、血流を遮断
止血が困難な場合には、以下のような手段も検討されます。
- バルーンタンポナーデ(食道内にバルーンを挿入し圧迫)
- 経頸静脈門脈体循環シャント術(TIPS)
- 外科的止血術
また、並行して大量輸血、補液、抗菌薬投与、血圧管理、凝固因子補充などの集中治療が必要です。原因となる肝疾患の状態把握も重要であり、全身管理が必須となります。
予後
静脈瘤破裂は致死的な合併症のひとつであり、出血量が多い場合は短時間で死亡に至ることもあります。初回出血時の死亡率は約20〜30%、再出血時にはさらに高まると報告されています。
止血に成功した場合でも、約60〜70%の患者が1年以内に再出血を経験するとされており、初回治療後の再発予防が予後を左右する鍵となります。
また、予後は肝臓の機能にも強く依存します。Child-Pugh分類でC判定(最も重度)の患者では、止血後の多臓器不全、感染症、肝性脳症などを合併しやすく、入院後の死亡率が高くなります。
長期的には、肝疾患の管理、定期的な内視鏡による瘤の再評価、予防的な再処置(EVLの継続など)が推奨されます。
重症例では、TIPSや肝移植が根本的な治療手段となり、適応がある患者では積極的に検討されるべきです。予後改善には、早期発見・迅速な対応と、再発予防を含めた多角的なアプローチが必要です。
予防
最も重要な予防策は、「破裂前に静脈瘤を見つけ、事前に処置を行うこと」です。そのためには、肝硬変や門脈圧亢進症の診断を受けている患者は、定期的な上部内視鏡検査(半年~1年ごと)を受けることが推奨されます。
瘤が発見された場合、破裂リスクが高いものに対しては、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)などの予防的治療が行われます。EVLは外来でも実施可能な処置で、安全かつ有効な予防手段です。
加えて、非選択的β遮断薬(プロプラノロールなど)を内服することで門脈圧を下げ、瘤の進行と破裂リスクを軽減できます。
日常生活では、重い物を持つ、強くいきむ、便秘を放置する、無理な咳き込みなど腹圧を上げる行動を避けることが推奨されます。肝疾患の進行を抑えるための禁酒、適正な栄養管理、ウイルス肝炎の治療も予防の一環です。破裂を防ぐには、疾患の総合的なコントロールが必要です。
関連する病気や合併症
食道・胃静脈瘤破裂は、肝硬変に起因する門脈圧亢進症の代表的な合併症であり、そのほかの門脈圧関連病態と密接に関連します。
たとえば、「腹水」「脾腫」「食道狭窄」「肝性脳症」「腎機能障害」などが同時にみられることがあり、複数の臓器障害が絡み合うことで予後が悪化します。
破裂後には「出血性ショック」「多臓器不全」「吸引性肺炎」「播種性血管内凝固(DIC)」などの生命を脅かす合併症が起こり得ます。特に高齢者や重度の肝機能障害がある場合は、感染症(敗血症など)への進展にも注意が必要です。
また、破裂後の治療による合併症として、「食道潰瘍」「瘤の再出現」「内視鏡処置による出血」なども挙げられます。肝疾患の全体像を見据えたうえで、静脈瘤破裂だけでなく関連合併症の予防と対策が求められます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「門脈圧亢進症診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
日本肝臓学会「肝硬変に伴う食道胃静脈瘤」(https://www.jsh.or.jp/)
国立国際医療研究センター「食道・胃静脈瘤破裂」(https://www.ncgm.go.jp/)
厚生労働省e-ヘルスネット「肝硬変・門脈圧亢進」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/06/25
- 更新日:2025/06/26
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