嚥下障害えんげしょうがい
嚥下障害は、食べ物や飲み物をうまく飲み込めない状態の総称です。むせやすい、食事に時間がかかる、体重が減るなどの原因となり、誤嚥性肺炎や栄養不足につながることがあります。早めに専門医や言語聴覚士による評価・リハビリを受けることが大切です.。
目次
⚫︎嚥下障害とは?
嚥下(えんげ)とは、口に入った食べ物や飲み物を、のど・食道を通して胃まで送りこむ一連の「飲み込む動作」のことです。
この流れのどこかでうまく動かなくなり、「飲み込みにくい」「のどに引っかかる」「むせる」といった状態になることを、まとめて「嚥下障害」と呼びます。
嚥下障害が続くと、
- 栄養不足や脱水
- 食べ物や唾液が誤って気道に入る「誤嚥(ごえん)」
- 誤嚥が原因の肺炎(誤嚥性肺炎)
- 窒息の危険
など、命にかかわる合併症を起こすこともあります。一方で、「年のせい」と思ってがまんしている方も少なくありません。実際には、早めの対応でリスクを減らせることが多い症状です。
⚫︎嚥下障害の原因
嚥下障害の原因は大きく次のように分けられます。
脳や神経の病気
脳梗塞・脳出血などの脳卒中、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経・筋肉の病気では、「飲み込む筋肉」やそれを指令する神経の働きが弱くなり、嚥下障害が起こります。
加齢や全身状態の低下
高齢になると筋力が落ち、舌やのど、体幹の筋肉も弱くなります。その結果、飲み込む力が低下し、むせやすくなったり、飲み込むまでに時間がかかるようになります。病気・入院・寝たきりの期間が長いと、嚥下機能の低下がさらに進みます。
口やのど、食道の病気や手術後
口内炎、咽頭炎、食道炎、食道がん、頭頸部がんの治療後(手術・放射線治療)などで、飲み物の通り道が狭くなったり、痛みで飲み込みにくくなったりします。
⚫︎嚥下障害の症状は?
嚥下障害の症状はわかりやすいものだけでなく、気づきにくいサインもあります。代表的なものを挙げます。
飲食時にむせる・せきこむ
水やお茶などサラサラしたものを飲んだときに、頻回にむせるのは嚥下障害の重要なサインです。
食事に時間がかかる
以前より食事時間が長くなった、一口ごとに何度も飲み込まないといけない、といった変化が見られることがあります。
のどや胸に「つかえる感じ」がある
食べ物がのどや胸のあたりで止まる感じ、重たい感じが続く場合、食道の病気のこともあります。
食後の声が「ガラガラ声」「濡れたような声」になる
飲み込み後に声が変わるのは、のどの奥に食べ物や水が残っているサインの一つです。
⚫︎受診の目安
次のような症状が続くときは、「年齢のせい」と決めつけず、早めに医療機関にご相談ください。
- 食事や水分でむせやすくなった、咳き込みが増えた
- 飲み込みにくさや「つかえ感」が2週間以上続く
- 食事に時間がかかるようになった、途中で疲れて残してしまう
- 原因の分からない体重減少(数か月で体重の5%以上など)がある
特に、
- 強い胸痛や急なつかえ感
- 血を吐く、黒い便が出る
- 呼吸が苦しい、意識がぼんやりする
といった症状を伴う場合は、救急受診も含めて早急な対応が必要です。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
嚥下障害の診療では、
- 「本当に飲み込みの障害かどうか」
- 「どの段階(口の中・のど・食道)でトラブルが起きているか」
- 「命にかかわる合併症や、背景に重大な病気が隠れていないか」
を見極めることが大切です。
そのために、問診・診察に加えて、嚥下機能の検査(嚥下造影検査・嚥下内視鏡検査など)や、必要に応じて内視鏡・CT・MRIなどを組み合わせて評価します。
治療は、
- 原因となる病気の治療
- 食形態や食べ方、姿勢の工夫
- 嚥下リハビリテーション(訓練)
- 必要に応じた薬物治療や手術・経管栄養
などを組み合わせて行います。
▶︎嚥下障害の診断
1)問診・診察
- いつごろから飲み込みにくさを感じているか
- むせるのは水分か、固形物か、両方か
- 体重減少、肺炎の既往、持病(脳卒中・パーキンソン病など)の有無
- 内服中の薬、歯の状態・入れ歯の状況
口の中・舌の動き、のどの反射(「あー」と発声してもらうなど)、声の状態、呼吸音などを診察し、全身状態も確認します。
2)嚥下機能検査
嚥下造影検査(VF:ビデオ嚥下造影検査)
レントゲン透視下で、造影剤を混ぜた飲み物やゼリー・固形物を飲み込んでもらい、口→のど→食道への流れを動画で確認します。どこで停滞しているか、誤嚥があるかを詳しく評価できます。
嚥下内視鏡検査(VE)
細い内視鏡(カメラ)を鼻から入れ、のどの奥を見ながら水や少量の食べ物を飲み込んでもらいます。食べ物の残り具合や、気道に入りそうかどうかなどを直接確認できる検査です。
3)その他の検査
- 必要に応じて、上部消化管内視鏡(胃カメラ)で食道や胃の病気を調べます
- 脳卒中や神経変性疾患が疑われる場合には、頭部CT・MRI、神経学的検査を行います
▶︎嚥下障害の治療
A. 初期対応(まずやること/基本方針)
- 誤嚥や窒息の危険が高い場合は、食事形態をすぐに見直す(とろみをつける、きざみ食を避ける など)
- 肺炎や重い脱水・栄養低下がある場合は、入院治療や点滴・経管栄養を検討する
- 過度に食事を制限するのではなく、安全と「楽しさ」のバランスをとる
まずは、生命を守りながら、その人にとって無理のない食事方法を一緒に探していきます。
B. リハビリテーションと環境調整
嚥下訓練
言語聴覚士やリハビリスタッフの指導のもとで、舌やくちびる・頬・のどの筋肉を鍛える体操、声を出す練習、飲み込みのタイミングを合わせる練習などを行います。
姿勢や食べ方の工夫
椅子に深く腰かけて少し前かがみになる、あごを軽く引いて飲み込む、きちんと座って食べるなど、姿勢の工夫だけでも誤嚥リスクが変わることがあります。
C. 原因疾患に対する治療・手術
- 食道がん・食道狭窄などがある場合は、内視鏡的治療や外科手術が検討されます
- 重い誤嚥が続き、経口摂取(口からの食事)が難しい場合には、経鼻胃管や胃ろうなどの経管栄養を併用しながら、安全な範囲で経口摂取を残す方法もあります
⚫︎嚥下障害の予後
- 脳卒中の直後や、一時的な炎症・手術後などでは、リハビリと時間の経過により嚥下機能がある程度回復することが期待できます
- 一方で、進行性の神経難病や高齢による全身の衰えが背景にある場合は、完全に元の状態に戻ることが難しいこともあり、「どう付き合っていくか」を考えることが大切になりま。
- 誤嚥性肺炎を繰り返すと、全身状態が徐々に悪化し、長期的な生命予後にも影響すると報告されています
- 嚥下障害そのものは完全に治らなくても、適切な食形態・姿勢・口腔ケア・リハビリにより、「安全に、できるだけおいしく食べる」ことを目標に、生活の質を保つことが可能です
⚫︎嚥下障害の予防
完全に防げない場合も多いですが、次のような取り組みが予防や悪化防止につながります。
- バランスの良い食事と適度な運動で、全身の筋力を保つ
- 毎日の口腔ケア(歯磨き・うがい・入れ歯の清掃)を丁寧に行う
- よく噛んで、急がずゆっくり食べる習慣をつける
- 食事中はテレビやスマホに気を取られすぎず、飲み込みに集中する
- 喉の違和感やむせが増えたら早めに相談し、嚥下体操・口腔体操などを取り入れる
若い世代でも、極端な早食い・ながら食べ・不規則な生活が続くと、将来の嚥下機能に影響するとされています。早いうちから「よく噛む・正しい姿勢で食べる」ことを意識しておくと安心です。
⚫︎嚥下障害に関連する病気や合併症
誤嚥性肺炎
食べ物や唾液、胃液などが気道に入ることで起こる肺炎です。高齢者では症状が目立たず、重症化してから見つかることもあります。
栄養障害・脱水
食事や水分が十分にとれないと、筋力低下や免疫力低下が進み、さらに嚥下障害が悪化する悪循環に陥ります。
窒息
食べ物が気道をふさぐと、窒息の危険があります。特に、餅・パン・団子・こんにゃくゼリーなどは注意が必要です。
体力の低下・寝たきりの進行
食事量の減少や肺炎を繰り返すことにより、活動量が下がり、寝たきりに近づいてしまうこともあります。
⚫︎まとめ
嚥下障害は、「飲み込みにくい」という一見小さな変化から始まり、栄養不足や誤嚥性肺炎、生活の質の低下へとつながることがある大切なサインです。
高齢の方だけでなく、脳卒中や神経の病気、手術後など、さまざまな状況で起こり得ますが、早めに気づいて相談することで、リスクを減らしながら「食べる楽しみ」を守ることができます。
食形態・姿勢・リハビリ・口腔ケアといった工夫を組み合わせることで、その人に合った安全な食事方法を一緒に探していくことが可能です。
「前より飲み込みにくい」「むせやすい」と感じたときは、一人で我慢せず、医療機関や専門職に相談してみてください。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- たぶち耳鼻咽喉科「嚥下障害の原因・検査・治療について」
(https://www.tabuchi-jibi.com/dysphagia/) - 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
(https://www.jsdr.or.j)
■ この記事を監修した医師
岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック
大阪大学 医学部 卒
東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。
患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。
- 公開日:2026/03/31
- 更新日:2026/03/31
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