唾液腺腫瘍だえきせんしゅよう
唾液腺腫瘍は、耳の下(耳下腺)や顎の下(顎下腺)、口の中の小さな唾液腺にできる「しこり」の総称です。多くは良性ですが、一部はがん(悪性腫瘍)のこともあります。初期は痛みのないしこりとして気づかれることが多く、顔面神経麻痺や急な増大などがあれば悪性の可能性もあるため、早めの受診が大切です。
目次
⚫︎唾液腺腫瘍とは?
唾液腺腫瘍は、唾液をつくる「唾液腺」にできる腫瘍(できもの・しこり)の総称です。
唾液腺には、耳の前〜下にある耳下腺(じかせん)、顎の下にある顎下腺(がっかせん)、舌の下にある舌下腺(ぜっかせん)の「大唾液腺」と、口の中の粘膜の下に点在する多数の「小唾液腺」があります。
唾液腺腫瘍の約8〜9割は耳下腺と顎下腺に生じ、耳の下や顎の下の「コロッとしたふくらみ」として気づかれることが多いです。腫瘍には良性と悪性(がん)があり、全体としては良性が多いものの、舌下腺や小唾液腺にできる腫瘍は悪性の割合が高いことが知られています。
良性腫瘍の代表は「多形腺腫」や「ワルチン腫瘍」で、ゆっくり大きくなるタイプが多く、悪性腫瘍(唾液腺がん)には粘表皮がん、腺様嚢胞がん、唾液腺導管がんなどさまざまな種類があります。
⚫︎唾液腺腫瘍の原因
唾液腺腫瘍が「なぜできるのか」は、はっきり分かっていない部分も多いですが、次のような要因が関係すると考えられています。
放射線被ばく
過去に頭頸部(頭や首)の放射線治療を受けた方や、職業などで特定の放射線を浴びる機会が多かった方は、唾液腺がんのリスクが少し高くなるとされています。
喫煙・飲酒
特に、耳下腺の良性腫瘍であるワルチン腫瘍と喫煙との関連が指摘されています。また、飲酒も他の頭頸部がんと同様、全体的なリスク因子の一つとされています。
職業性曝露
一部の報告では、ゴム工場・金属加工・木工・印刷業など、特定の化学物質や粉じんへの長期曝露との関連が示されています。
遺伝的素因・その他
明確な「遺伝病」として知られているわけではありませんが、体質や遺伝的な要因が関わっている可能性も考えられます。また、ウイルス感染との関連が疑われているタイプの腫瘍もあります。
多くの方は、特別な原因が見当たらない中で発症しており、「自分の生活が悪かったせい」と自分を責める必要はありません。
⚫︎唾液腺腫瘍の症状は?
唾液腺腫瘍の初期症状で最も多いのは、「ゆっくり大きくなる無痛性のしこり」です。
- 耳の前〜下、頬の付け根あたりがふくらんできた(耳下腺)
- 顎の下にコロッとした固まりを触れる(顎下腺)
- 口の中の上あご・頬の内側・唇の内側などに、豆〜大豆くらいのしこりがある(小唾液腺)
良性腫瘍の多くは
- 痛みがない
- 皮膚や粘膜とよく動く
- ゆっくりと数ヶ月〜年単位で大きくなる
といった経過をとります。
一方、悪性腫瘍(唾液腺がん)の場合は、次のような特徴がみられることがあります。
- しこりが硬く、周囲にくっついて動きにくい
- 短期間で急に大きくなってきた
- じっとしていても痛い、夜間にうずく
⚫︎受診の目安
次のような場合は、早めに耳鼻咽喉科や歯科・口腔外科の受診を検討してください。
- 耳の下や顎の下に、数週間以上続くしこり・ふくらみがある
- 口の中の粘膜(上あご、頬、唇の内側など)のしこりがなかなか消えない
- しこりが徐々に大きくなってきている
- 最近になって硬さが増した、痛みが出てきた
- 片側の顔が動かしにくい(顔面神経麻痺)
- 首のリンパ節の腫れが続く
急に強い痛み・発熱を伴う場合は、唾液腺腫瘍や唾石症など別の病気のことも多いですが、腫瘍が背景にあることもあるため、自己判断に頼りすぎないことが大切です。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
唾液腺腫瘍の診断では
- どの唾液腺にできているか(部位)
- 良性か悪性か
- 周囲への広がりや転移の有無
を調べることが重要です。
一般的には
- 視診・触診(しこりの場所・大きさ・硬さ・動き・顔面神経麻痺の有無)
- 超音波検査、CT、MRIなどの画像検査
- 穿刺吸引細胞診(FNA:細い針で細胞を採って調べる検査)
を組み合わせて診断を進めます。
治療の基本は「手術による腫瘍の切除」です。良性腫瘍でも、放置すると大きくなって周囲を圧迫したり、ごく一部ですが悪性化するタイプもあるため、多くの場合は手術が勧められます。悪性腫瘍では、手術に加えて放射線治療や薬物療法(抗がん剤・分子標的薬・免疫療法など)が検討されます。
⚫︎唾液腺腫瘍の診断
1)問診・診察
しこりにいつ気づいたか、どのくらいのスピードで大きくなっているか、痛みの有無、顔の動かしづらさやしびれ、飲み込みにくさ、声のかすれなどを確認します。喫煙歴・飲酒歴、過去の放射線治療歴、職業なども参考になります。
2)画像検査
- 超音波検査:腫瘍の存在・大きさ・内部の性状(均一か、嚢胞成分があるかなど)を確認するのに有用です。
- CT・MRI:深い部分までの広がり、骨への浸潤、顔面神経や血管との位置関係、リンパ節転移の有無などを詳しく調べることができます。
3)穿刺吸引細胞診(FNA)
細い針を腫瘍に刺して少量の細胞を採取し、顕微鏡で良性・悪性や腫瘍のタイプを推定します。侵襲が比較的少なく、診断の参考になる検査ですが、すべてのタイプを完全に見分けられるわけではないため、画像所見などとあわせて総合的に判断します。
4)手術と病理検査
最終的な確定診断は、手術で切除した腫瘍を詳しく調べる「病理組織検査」によって行われます。ここで初めて、「どの種類の腫瘍か」「悪性度はどの程度か」がはっきりします。
⚫︎唾液腺腫瘍の治療
A. 良性腫瘍の治療
耳下腺腫瘍
顔面神経(顔を動かす神経)が耳下腺の中を走っているため、神経を傷つけないように慎重に腫瘍を取り除きます。多くは耳の前〜下の皮膚を切開し、腫瘍を含む下腺の一部を切除します。
顎下腺・舌下腺・小唾液腺腫瘍
顎の下からの切開や、口の中からの切開で腫瘍を含む唾液腺を摘出します。部位によっては、舌の動きや感覚、唇・頬の形に影響が出ないよう、神経や血管を丁寧に温存します。
B. 悪性腫瘍(唾液腺がん)の治療
手術
がん部分とその周りの正常組織を含めて切除し、必要に応じて首のリンパ節も切除します(頸部郭清術)。顔面神経にがんが入り込んでいる場合は、神経の一部を切除し、再建を検討することもあります。
放射線治療
手術後の再発予防や、手術が難しい場合の治療として行われます。腫瘍の種類や広がりによっては、手術と同等の役割を果たすこともあります。
薬物療法
進行がんや再発例では、抗がん剤・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬などが用いられることがあります。腫瘍のタイプや患者さんの全身状態に応じて選択されます。
C. 機能と見た目のサポート
唾液腺腫瘍の手術は、顔の形や表情、飲み込みや発音などに影響することがあります。そのため
- 形成外科的な再建手術
- リハビリテーション(嚥下・発音・表情筋のトレーニング)
- 口腔ケアとドライマウス対策
などを組み合わせて、生活の質(QOL)をできるだけ保てるよう支援します。
⚫︎唾液腺腫瘍の予後
予後(よご:治療後の見通し)は
- 良性か悪性か
- 悪性の場合、腫瘍の種類(組織型)と悪性度
- 病期(ステージ:大きさと転移の有無)
- 年齢や全身状態
などによって大きく変わります。
良性腫瘍
適切に手術で切除できれば、多くは再発も少なく、生命予後も非常に良好です。ただし、多形腺腫を長期間放置すると、まれに悪性化することが知られており、早めの手術が勧められます。
悪性腫瘍(唾液腺がん)
種類によって性格が大きく異なります。粘表皮がんの低悪性度タイプなどは比較的経過が良い一方、腺様嚢胞がんなどはゆっくり進行しながら遠くの臓器(肺など)に転移しやすい傾向があります。早期発見・早期治療であれば、長期生存も十分期待できます。
⚫︎唾液腺腫瘍の予防
明確に「これをすれば防げる」という予防法はありませんが、リスクを下げる・早期発見につなげるために次の点が大切です。
- 禁煙・受動喫煙を避ける
- 飲酒を控えめにする
- 不必要な放射線被ばくを避ける(医療被ばくは必要性を医師と相談)
- 口の中や首まわりのセルフチェックをときどき行う
- 定期的な歯科・耳鼻咽喉科の受診で、お口と首の健康を確認する
小さなしこりの段階で見つけて対処することが、結果的に「いちばんの予防(重症化予防)」になります。
⚫︎唾液腺腫瘍に関連する病気や合併症
唾液腺腫瘍と関連する主な病気・状態には、次のようなものがあります。
- 唾液腺腫瘍(細菌やウイルスによる炎症)
- 唾石症(唾液腺や導管内の石)
- シェーグレン症候群などの自己免疫性疾患
- 腺様嚢胞がんなど、他臓器にも発生し得る腫瘍
- 手術後の顔面神経麻痺・しびれ・ドライマウス・味覚異常
また、唾液腺腫瘍そのものが悪性の場合、首のリンパ節や肺・骨などへの転移が起こることもあり、治療後も定期的な経過観察が必要です。
⚫︎まとめ
唾液腺腫瘍は耳下腺、顎下腺、および小唾液腺に発生する腫瘍性病変の総称です。その組織型は極めて多彩であり、多くは良性の多形腺腫やワルチン腫瘍ですが、低悪性度から高悪性度までのがん(唾液腺癌)が含まれるため、慎重な鑑別診断が求められます。
臨床的には無痛性の腫瘤として発見されることが多いですが、顔面神経麻痺の合併や急速な増大は悪性を示唆する重要な徴候です。 治療においては外科的切除が基本となります。現在は神経温存手術や再建術の進歩により、機能温存とQOL(生活の質)の維持を両立させた治療計画の策定が可能です。長期持続する腫瘤を認める際は、速やかに専門医による画像検査および病理学的精査を受けることを推奨します。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS「唾液腺腫瘍(耳下腺腫瘍、顎下腺腫瘍など)」
(https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000226/) - 日本口腔外科学会「唾液腺の疾患(唾液腺腫瘍)」
(https://www.jsoms.or.jp/public/disease/setumei_daeki/)
■ この記事を監修した医師
岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック
大阪大学 医学部 卒
東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。
患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。
- 公開日:2026/03/31
- 更新日:2026/03/31
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