唾液腺炎だえきせんえん
唾液腺炎は、耳の下や顎の下などにある唾液腺に炎症が起こる病気です。細菌やウイルス感染、唾石(だせき)による唾液の流れの低下、口の渇きなどが原因となり、耳や顎の下の腫れ・痛み・発熱がみられます。多くは適切な抗菌薬や対症療法で改善しますが、強い痛みや高熱がある場合は早めの受診が大切です。
目次
⚫︎唾液腺炎とは?
唾液腺炎は、唾液をつくる「唾液腺(だえきせん)」に炎症が起こった状態をまとめて指す病名です。
唾液腺には、耳の前〜下にある耳下腺(じかせん)、顎の下にある顎下腺(がっかせん)、舌の下にある舌下腺(ぜっかせん)などがあります。ここに細菌やウイルスが入り込んだり、唾液の流れが悪くなったりすると、腫れや痛み、発熱などの症状が出ます。
原因や経過によって
- 細菌感染による「化膿性唾液腺炎」
- おたふく風邪などの「ウイルス性唾液腺炎」
- 慢性的に腫れを繰り返す「慢性・反復性唾液腺炎」
- 自己免疫性疾患に伴う唾液腺の炎症
などに分けられます。
⚫︎唾液腺炎の原因
唾液腺炎は、いくつかの要因が重なって起こります。主な原因は次のとおりです。
細菌感染(化膿性唾液腺炎)
口の中の細菌が唾液の通り道(導管)から逆流して入り込み、炎症を起こします。口腔内が不衛生な状態や、唾液が少なくなっている状態で起こりやすいとされています。
ウイルス感染(おたふく風邪など)
流行性耳下腺炎(おたふく風邪)のウイルスや、他のウイルスにより耳下腺などが腫れることがあります。小児に多いですが、大人がかかると強い痛みや発熱を伴うこともあります。
唾石症や狭窄による唾液の流れの低下
唾液腺や導管の中に石(唾石)ができる唾石症や、生まれつき・炎症後の狭窄があると、唾液がうまく流れず、炎症を起こしやすくなります。
口の渇き(ドライマウス)や生活習慣
脱水、長時間の口呼吸、喫煙、一部の薬(利尿薬・抗うつ薬など)による口の渇きがあると、唾液の量が減り、細菌が増えやすくなります。
⚫︎唾液腺炎の症状は?
症状は、原因(細菌・ウイルス・慢性)によって少しずつ異なりますが、代表的なものは次のとおりです。
- 耳の下(耳下腺)、顎の下(顎下腺)、舌の下(舌下腺)周囲の腫れ・痛み
- 押さえると痛い、口を開けにくい、噛むと痛い
- 発熱、だるさ、頭痛などの全身症状
- 口の中の唾液の出口から膿(うみ)が出ることがある
- 口の中が粘つく、口臭が強くなる
細菌性の急性唾液腺炎では、片側に強い腫れと痛み、発熱を伴うことが多く、唾液の出口から膿が出ることもあります。
おたふく風邪などウイルス性の場合は、両側の耳下腺がふくらんだように腫れ、数日〜1週間ほど症状が続きます。慢性的な唾液腺炎では、強い痛みは少ないものの、軽い腫れや違和感が繰り返し出ることがあります。
⚫︎受診の目安
次のような症状がある場合は、耳鼻咽喉科や歯科・口腔外科などの受診を検討してください。
- 耳の下や顎の下が急に腫れて痛い
- 食事や噛む動作のたびに、同じ場所が腫れて痛む
- 発熱やだるさを伴う腫れが数日続いている
- 口の中の唾液の出口から膿が出る、口臭が強い
とくに
- 高熱(38度以上)
- 強い痛みで飲食や水分摂取がつらい
- 首の広い範囲まで腫れが広がっている、息苦しい
といった場合は、重い細菌感染や深部の炎症に進んでいる可能性もあるため、早めの受診が重要です。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
診断は
- 症状の出方(片側か両側か、食事との関係、発熱の有無など)の聞き取り
- 顔や首、口の中の腫れ・赤み・圧痛の確認
- 必要に応じた画像検査(超音波・CTなど)と血液検査
を組み合わせて行います。
治療は、原因や重症度によって異なりますが
- 細菌性:抗菌薬(抗生物質)、鎮痛・解熱薬、うがい・口腔ケア
- ウイルス性:安静と水分・栄養補給、解熱鎮痛薬などの対症療法
- 唾石が原因:場合により唾石除去や唾液腺の手術
- 慢性・自己免疫性:口腔の保湿、人工唾液、基礎疾患の治療
などが行われます。
⚫︎唾液腺炎の診断
1)問診・診察
いつから腫れ・痛みがあるか、片側か両側か、食事との関係、発熱やだるさの有無、持病や内服薬(口が渇きやすくなる薬)の有無などを詳しく確認します。触診で、耳の下・顎の下・舌の下の腫れや硬さ、痛みを確かめます。
2)口腔内の観察
唾液の出口(耳下腺・顎下腺・舌下腺の開口部)を観察し、赤み、膿の排出、唾液の量や性状などを確認します。唾石症が疑われる場合は、舌の裏や頬の粘膜を注意深く観察します。
3)画像検査
)画像検査
超音波検査(エコー)は、唾液腺の腫れの程度や、内部の膿瘍(膿のたまり)、唾石の有無を調べるのに有用で、痛みも少ない検査です。必要に応じて、X線やCTなどで、より詳しく腫れの範囲や原因を評価します。
4)血液検査など
発熱が強い場合や、糖尿病・免疫低下がある場合には、炎症の程度(白血球・CRPなど)、全身状態を確認するために血液検査を行うことがあります。ウイルス性が疑われる場合には、必要に応じてウイルス検査を行うこともあります。
⚫︎唾液腺炎の治療
A. 初期対応(まずやること/基本方針)
安静と十分な水分・栄養
脱水を防ぎ、唾液の流れを保つため、水分をこまめにとり、食べやすいものを少量ずつ摂るようにします。
口腔ケア
うがい薬や水でうがいをして口の中を清潔に保ちます。歯みがきもできる範囲で行い、細菌の増殖を抑えます。
痛み・発熱のコントロール
解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)で痛みや熱を和らげます。市販薬を使用する場合も、長引くときは医療機関で相談してください。
B. 医療機関での治療
抗菌薬(抗生物質)
細菌性唾液腺炎が疑われる場合、飲み薬や点滴で抗菌薬を投与します。炎症が強い場合は、数日間点滴治療が必要になることもあります。
ウイルス性への対症療法
おたふく風邪などウイルス性唾液腺炎では、ウイルスを直接やっつける薬はあまり使われず、解熱鎮痛薬や安静、水分補給などの対症療法が中心になります。
原因へのアプローチ
唾石症が原因で炎症を繰り返す場合は、唾石の摘出(口の中からの切開・内視鏡・必要に応じて唾液腺摘出など)を検討します。自己免疫性の病気が背景にある場合は、その病気に対する治療が重要になります。
C. 回復期の管理と再発予防
- 症状が落ち着いてきても、しばらくは強いマッサージや熱いお風呂・飲酒を控え、炎症の再燃を防ぎます。
- 口腔ケアや水分摂取、禁煙など、生活習慣を整えることが再発予防につながります。
⚫︎唾液腺炎の予後
適切なタイミングで抗菌薬や対症療法を行えば、多くの急性唾液腺炎は数日〜1週間ほどで改善します。ウイルス性唾液腺炎も、多くは自然経過で軽快します。
しかし、治療が遅れたり、重い糖尿病・免疫低下などがある場合には、炎症が広がって膿瘍(膿のたまり)や深頸部感染症といった重い合併症につながることがあります。慢性唾液腺炎となると、軽い腫れや口の乾燥が長く続き、生活の質に影響することもあります。
⚫︎唾液腺炎の予防
完全に防ぐことは難しいですが、次のポイントは予防や再発防止に役立ちます。
- こまめな水分補給で口の渇きを防ぐ
- よく噛んで食べ、唾液の分泌を促す
- 毎日の歯みがき・うがい・定期的な歯科受診で口の中を清潔に保つ
- 喫煙を控え、飲酒もほどほどにする
- 合わない入れ歯や当たる歯を放置せず、歯科で調整してもらう
- 口の渇きが続く場合は、早めに医療機関へ相談し、薬や基礎疾患を見直す
これらは、唾液腺炎だけでなく、むし歯や歯周病、口臭などの予防にもつながります。
⚫︎唾液腺炎に関連する病気や合併症
唾液腺炎と関連する病気・状態には、次のようなものがあります。
- 唾石症(唾液腺や導管の中に石ができる病気)
- 流行性耳下腺炎(おたふく風邪)
- 反復性耳下腺炎
- シェーグレン症候群(強い口の乾燥を伴う自己免疫疾患)
- 唾液腺腫瘍(良性・悪性)
- 深頸部感染症、膿瘍、敗血症(重症の細菌感染)
耳の下や顎の下の腫れが長く続く場合や、硬いしこりとして触れる場合は、腫瘍など別の病気が隠れていることもあるため、自己判断せず専門医の評価が重要です。
⚫︎まとめ
唾液腺炎は、細菌感染やウイルス感染、あるいは唾石等による導管の閉塞を背景に、唾液腺体に炎症が生じる疾患です。主な症状として、耳下腺や顎下腺の腫脹、疼痛、開口障害、発熱などが挙げられます。
多くの症例では、適切な抗菌薬の投与や対症療法、十分な補液、口腔ケアによって速やかな快復が期待できます。しかし、適切な介入が遅れると膿瘍形成や周囲組織への炎症波及を招くリスクがあるため、臨床的な兆候を認める際は早期に専門医を受診することが肝要です。
良好な口腔衛生環境の維持と、唾液分泌を促す適切な水分摂取は、再発防止の観点からも極めて重要です。気になる症状がある場合は、一人で抱え込まず速やかにご相談ください。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 日本口腔外科学会「唾液腺の疾患(唾液腺炎・唾石症など)」
(https://www.jsoms.or.jp/public/disease/setumei_daeki/) - ユビー病気のQ&A「唾液腺が腫れているという症状はどんな病気に関連しますか?」
(https://ubie.app/lp/search/swollen-salivary-gland-s1845)
■ この記事を監修した医師
赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2026/03/31
- 更新日:2026/03/31
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