咽頭癌いんとうがん

咽頭癌は、鼻の奥から食道につながる「咽頭」にできるがんで、上咽頭・中咽頭・下咽頭に分けられます。のどの痛みや飲みこみにくさ、声がれ、首のしこりなどが続く場合は注意が必要で、治療は手術・放射線・抗がん剤を組み合わせて行います。

⚫︎咽頭癌とは?

咽頭は、鼻の奥から食道の入口まで続く、空気と飲食物の両方が通る管状の部分です。上から順に「上咽頭」「中咽頭」「下咽頭」に分けられ、それぞれに発生したがんを、上咽頭癌・中咽頭癌・下咽頭癌と呼びます。これらをまとめて「咽頭癌(咽頭がん)」といいます。
咽頭癌の多くは、咽頭の粘膜にある「扁平上皮」という細胞から発生する扁平上皮癌です。頭頸部(頭と首のあたり)にできるがんの一つで、呼吸・飲みこみ・発声など、生活の質に直結する機能に影響しやすいのが特徴です。

咽頭癌は、早期には自覚症状が少ないことも多く、「のど風邪が長引いている」「最近ずっと声がかれている」「いつの間にか首にしこりがある」といった形で気づかれることがあります。症状が続くときに早めに受診していただくことが、治療の選択肢を広げるうえで大切です。

⚫︎咽頭癌の原因

咽頭癌のはっきりとした原因が一つに決まっているわけではありませんが、発症リスクを高める要因がいくつか知られています。

  • 喫煙
    もっとも重要な危険因子の一つで、長年の喫煙は中咽頭癌・下咽頭癌の発症リスクを高めます。過去の喫煙歴も影響します。
  • 多量の飲酒
    アルコールの多飲は下咽頭癌・中咽頭癌の大きな危険因子で、喫煙と重なるとリスクがさらに高まります。
  • ウイルス感染(HPV、EBウイルスなど)
    ヒトパピローマウイルス(HPV:主にタイプ16)は、中咽頭扁桃(舌根や口蓋扁桃)に発生する咽頭癌の重要な原因として知られています。また、エプスタイン・バーウイルス(EBウイルス)は上咽頭癌の発症と関係しています。
  • 慢性的な炎症や刺激
    慢性の咽頭炎・副鼻腔炎・逆流性食道炎による胃酸の逆流・熱い飲食物・粉じんや化学物質への長期曝露など、咽頭粘膜に繰り返し刺激が加わることが発症リスクになると考えられています。

⚫︎咽頭癌の症状は?

咽頭癌は、がんの位置(上咽頭・中咽頭・下咽頭)によって出やすい症状が少しずつ異なりますが、代表的な症状は次のとおりです。

  • のどの痛み、違和感
    「のどがイガイガする」「片側だけしみる」「魚の骨が刺さっている感じが続く」といった症状が長く続きます。飲みこむときの痛み(嚥下時痛)が強いこともあります。
  • 飲み込みにくい、食べ物がつかえる感じ
    固形物が飲みこみにくい、食事中にむせる、体重が減ってきた、といった形で気づかれることがあります。
  • 声のかすれ、話しにくさ
    中咽頭〜下咽頭に腫瘍が広がると、発声に関わる部位が動きにくくなり、声がかすれたり、話し声が出しづらくなります。

注意ポイント

「風邪だと思って市販薬で様子を見ているうちに時間がたつ」ケースが少なくありません。
のどの症状や声のかすれ、首のしこりなどが3週間以上続く場合は、一度耳鼻咽喉科での確認をおすすめします。

⚫︎受診の目安

次のような症状がある場合は、耳鼻咽喉科(頭頸部外科)や、がん専門医療機関への受診を検討してください。

  • のどの痛み・違和感・飲み込みにくさが3週間以上続く
  • 声のかすれが2〜3週間以上続き、よくならない
  • 血のまじった痰・唾、少量の口からの出血をくり返す
  • 首に固いしこりがあり、数週間たっても小さくならない
  • 片側の耳の痛みや詰まり感が続くが、耳鼻科で耳自体に異常がないと言われた
  • 原因不明の体重減少やだるさが続く

とくに、呼吸が苦しい・横になると息がしづらい・急な出血が止まりにくい、といった症状がある場合は、救急受診を含めて早急な対応が必要です。

⚫︎診断方法と治療方法(全体像)

診断は、問診・視診・内視鏡検査によって咽頭の状態を確認し、がんが疑われれば組織の一部を採取する検査(生検)で確定します。そのうえでCT・MRI・PETなどの画像検査を行い、がんの広がりやリンパ節・他臓器への転移の有無を調べ、病期(ステージ)を決めます。

治療は、

  • 手術(内視鏡的切除や開放手術)
  • 放射線治療
  • 薬物療法(化学療法・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬など

これらを組み合わせて治療を行います。部位やステージ・年齢・全身状態・声や飲みこみ機能をどこまで残したいかなどを総合的に考えて決定します。

⚫︎咽頭癌の診断

1)問診・診察

  • いつから、どのようなのどの症状・声の変化・飲み込みづらさがあるか
  • 喫煙歴、飲酒量、職業歴、過去のがんや治療歴

などをうかがいます。首のリンパ節を触って、しこりの有無を確認します。

2)内視鏡検査(咽頭・喉頭内視鏡)

細いカメラ(ファイバースコープ)を鼻または口から入れて、咽頭の粘膜の状態を直接観察します。表面の凹凸、潰瘍(ただれ)、しこりの広がりなどを確認し、必要に応じてその場で生検を行います。

3)画像検査(CT・MRI・PETなど)

  • CT:頸部や胸部のリンパ節・臓器への広がりを確認します。
  • MRI:咽頭周囲の軟部組織への浸潤を詳しく評価します。
  • PET-CT:他の部位への転移や、重複がん(別の部位のがん)の有無を調べる際に用いられることがあります。

4)病理検査(生検)

内視鏡または手術で採取した組織を顕微鏡で観察し、がんの種類や悪性度を評価します。中咽頭癌ではHPVとの関連を調べるためにp16染色などが行われることがあります。

⚫︎咽頭癌の治療

A. 早期咽頭癌の治療

  • 内視鏡的切除
    早期で浅い病変では、口から入れる内視鏡や専用の器具で腫瘍を切除する方法が選択されることがあります。声や嚥下機能を保ちやすい点が利点です。
  • 放射線治療
    咽頭のがんは放射線が効きやすいことが多く、早期病変では放射線単独で治癒が期待できる場合もあります。通院で1日1回の照射を数週間続ける治療が一般的です。

B. 進行咽頭癌の治療

  • 外科的切除
    病変が広く、深く侵入している場合には、咽頭の一部または広い範囲を切除する手術が行われます。必要に応じてリンパ節郭清(首のリンパ節の切除)も行います。進行した下咽頭癌では、喉頭(声帯を含む声の器官)も一緒に切除する「下咽頭喉頭全摘術」が必要になることがあります。
  • 化学放射線療法(CRT)
    放射線治療と抗がん剤を同時に行う方法で、進行咽頭癌の標準的な治療の一つです。手術を行わず、あるいは手術の規模を小さくしながら根治を目指せる場合がありますが、口内炎・嚥下障害・血液障害などの副作用が出やすく、全身状態の評価が重要です。

C. 再発・転移咽頭癌の治療

  • 化学療法(抗がん剤)
    シスプラチンやフルオロウラシルなどの薬剤を組み合わせた治療が行われます。
  • 分子標的薬
    GFR(上皮成長因子受容体)を標的とした薬(セツキシマブなど)が、放射線治療との併用や再発・転移例で用いられることがあります。

⚫︎咽頭癌の予後

予後(治りやすさ・経過)は、

  • がんの部位(上・中・下咽頭)
  • 発見されたステージ(早期か進行期か)
  • HPV陽性かどうか(中咽頭癌)
  • 全身状態や他の病気の有無

などによって大きく変わります。

一般に、早期発見・早期治療ができれば、治癒を目指せる可能性は高くなります。一方で、進行した段階で見つかった場合や、再発・転移を伴う場合は、治療が長期にわたり、完治ではなく「病気と付き合いながら生活の質を保つこと」を目標とすることもあります。

中咽頭癌の中でもHPV陽性タイプは、HPV陰性タイプに比べて比較的予後が良いことが知られていますが、喫煙歴が多い場合などは必ずしも良好とは言えません。
治療後も、再発や二次がん(別の部位のがん)が出てこないかを確認するために、定期的な通院・検査が重要です。

⚫︎咽頭癌の予防

完全に防ぐことはできませんが、次のような生活習慣の見直しが、咽頭癌を含む頭頸部がん全般の予防につながると考えられています。

  • 禁煙・減煙
    たばこは咽頭癌の大きな危険因子です。禁煙は、がん予防だけでなく、心臓病や肺の病気の予防にもつながります。
  • 節度ある飲酒
    大量の飲酒は下咽頭癌・食道癌などのリスクを高めます。飲酒量を控えめにし、「休肝日」を設けることも大切です。
  • HPVワクチン
    子宮頸がんの予防で知られるHPVワクチンは、HPV関連中咽頭癌のリスク低下にもつながる可能性が示唆されています(ただし、現時点で「咽頭癌予防」を目的とした承認ではありません)。
  • 口腔ケア・定期受診
    歯みがき・歯科受診で口腔内を清潔に保つことや、慢性的なのどの症状が続く場合に早めに耳鼻咽喉科を受診することは、早期発見につながります。

⚫︎咽頭癌に関連する病気や合併症

  • 上咽頭癌・中咽頭癌・下咽頭癌以外の頭頸部がん
    口腔癌、喉頭癌、鼻・副鼻腔癌、甲状腺癌など、同じ領域に発生するがんを合併することがあり、全身的なチェックが大切です。
  • 食道癌・胃癌など
    アルコール・喫煙の影響を強く受ける領域では、「フィールド癌化」といって、食道や胃など他の消化管にもがんができやすくなることがあります。
  • 嚥下障害・誤嚥性肺炎・栄養障害
    がんそのものや治療の影響で飲みこみが難しくなり、誤嚥(食べ物や唾液が気道に入ること)による肺炎や体重減少・栄養不良が問題になることがあります。
  • 口腔乾燥・味覚障害・甲状腺機能低下など
    放射線治療や化学療法の副作用として、口の渇き、味覚の変化、甲状腺機能低下症などが起こることがあります。

⚫︎まとめ

咽頭癌は、鼻の奥から食道につながる「咽頭」にできるがんで、上咽頭・中咽頭・下咽頭に分けられます。のどの痛み・違和感、飲みこみにくさ、声のかすれ、首のしこりなどが続くときは、早めの受診が大切です。

治療は、手術・放射線・薬物療法を組み合わせて行い、機能温存と根治のバランスを個別に考えます。
禁煙・節度ある飲酒・早期受診を心がけることで、咽頭癌の予防・早期発見につながります。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック

大阪大学 医学部 卒

東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。

患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。

  • 公開日:2026/03/31
  • 更新日:2026/03/31

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