胃・十二指腸潰瘍い・じゅうにしちょうかいよう
胃・十二指腸潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜が胃酸や消化酵素によって深く傷つき、えぐれた状態になる病気です。ピロリ菌感染やNSAIDsの使用が主な原因で、みぞおちの痛みや黒色便、吐血などの症状を伴います。再発しやすい病気ですが、適切な治療と除菌、生活習慣の改善によってコントロールが可能です。
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胃・十二指腸潰瘍とは?
胃・十二指腸潰瘍とは、胃や小腸の最初の部分である十二指腸の粘膜が胃酸やペプシンなどの強い消化液により傷つき、組織の深部までえぐれるように損傷した状態をいいます。
胃潰瘍は胃内に、十二指腸潰瘍は十二指腸球部に最も多く発生します。どちらも同じ病態ですが、年齢層や発症しやすい時間帯に違いがあります。一般に、胃潰瘍は中高年に多く、食後に痛みを感じやすいのに対し、十二指腸潰瘍は若年者にも見られ、空腹時や夜間に痛みが出やすいとされています。
潰瘍は繰り返しやすく、出血や穿孔といった合併症を引き起こすこともあり、放置すれば命に関わる重篤な状態になることもあります。早期発見と継続的な治療、原因への対応が重要な疾患です。
原因
主な原因は「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)」の感染と「NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)」の服用です。
ピロリ菌は胃粘膜に長期間感染し、炎症を引き起こすことで粘膜の防御機能を弱め、潰瘍を形成しやすくします。ピロリ菌感染者のうち、数割の人が生涯のうちに潰瘍を発症するといわれており、再発も多く認められます。
NSAIDsは、関節痛や頭痛などの治療に広く用いられる薬剤ですが、胃の粘膜を保護するプロスタグランジンの生成を抑える作用があるため、長期使用や空腹時の服用で潰瘍を生じることがあります。
その他の要因には、喫煙、過度な飲酒、ストレス、不規則な生活、辛いものの過剰摂取、胃がんや胃ポリープなどの他疾患が関与することもあります。特に高齢者では、複数の薬剤や疾患が背景にあることも多く、慎重な原因検索が求められます。
症状
代表的な症状は「みぞおちの痛み」で、胃潰瘍では食後に、十二指腸潰瘍では空腹時や深夜に痛みが出やすい傾向があります。痛みは鈍い痛みから刺すような鋭い痛みまでさまざまで、食事との関連が症状の手がかりになることがあります。
その他の症状には、胃もたれ、早期飽満感、げっぷ、吐き気、食欲不振、胸やけなどがあります。
潰瘍が進行して出血を伴うと、「黒色便(タール便)」「吐血」「貧血症状(立ちくらみ、顔面蒼白、疲労感)」などが現れることがあります。さらに重症になると、胃や腸の壁に穴が開く「穿孔」を起こし、激しい腹痛や発熱、ショックを伴うことがあります。
高齢者や糖尿病のある人では症状が現れにくく、「無症状」のまま出血や穿孔で初めて発見されるケースもあるため、検診や自覚症状のない人でも内視鏡検査が重要になります。
診断方法と治療方法
診断には、「上部消化管内視鏡(胃カメラ)」が最も有効です。直接潰瘍の位置、大きさ、深さ、出血の有無などを観察でき、必要に応じて組織の一部を採取(生検)して、胃がんなどとの鑑別を行います。
原因の一つであるピロリ菌の有無は、以下の方法で確認します。
- 尿素呼気試験
- 便中抗原検査
- 血清抗体検査
- 内視鏡下迅速ウレアーゼ試験
治療は、「胃酸分泌を抑える薬」と「原因除去」が基本です。薬物療法では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)が広く使用され、潰瘍の治癒を促進します。
ピロリ菌が陽性であれば、胃酸抑制薬と抗生物質の3剤併用による除菌療法を行い、潰瘍の再発を防ぎます。NSAIDsが原因の場合は、薬剤の中止や変更を検討し、併用薬として胃粘膜保護薬を加えることもあります。出血を伴う場合は、内視鏡的止血処置が必要になることもあります。
予後
潰瘍のほとんどは、適切な治療によって数週間から数ヶ月で治癒します。特にPPIやP-CABなどの薬剤により、症状の軽減と粘膜の修復が迅速に進みます。ピロリ菌除菌療法に成功した場合は、再発リスクを大幅に減らすことができます。
しかし、治療後も原因が取り除かれていない、あるいは治療中断や生活習慣が改善されない場合は、再発する可能性が高くなります。NSAIDsの再使用、ピロリ菌の再感染、喫煙や飲酒習慣の継続がリスクを高めます。
一部の潰瘍は「難治性潰瘍」となり、治癒までに時間を要することもあります。また、出血や穿孔などの合併症を経験した患者では、入院治療や外科的対応が必要となり、予後も左右されます。
定期的な内視鏡検査で潰瘍の治癒を確認し、再発予防のための維持療法や生活指導を継続することが、良好な長期予後の鍵となります。
予防
最も重要な予防策は、原因に応じた対処です。ピロリ菌に感染している場合は、早期の除菌治療によって潰瘍の発症および再発を防ぐことができます。
NSAIDsなどの消炎鎮痛薬を服用する必要がある場合は、必要最小限にとどめ、可能であれば胃粘膜保護薬やPPIなどを併用して胃への負担を軽減します。
食生活では、空腹時や就寝前の飲食を避け、香辛料や刺激の強い食事を控えることが勧められます。禁煙と節酒は、胃粘膜への刺激を減らし、再発予防に直結します。
また、ストレスや不規則な生活も潰瘍の悪化因子とされており、十分な睡眠と休養、バランスのとれた食事、適度な運動が重要です。年に1回程度の内視鏡検査での早期発見とフォローアップも予防の一環です。
関連する病気や合併症
潰瘍の主な合併症は、「出血」「穿孔」「幽門狭窄」の3つです。特に出血はもっとも頻度が高く、タール便や吐血、貧血の原因となり、重度ではショックに陥ることもあります。
穿孔は、胃や十二指腸に穴があくことで、内容物が腹腔内に漏れ、急性腹膜炎を起こす重篤な状態です。激しい腹痛や発熱を伴い、緊急手術が必要です。
また、潰瘍が慢性化し、瘢痕化して狭窄を起こすと、「幽門狭窄」になり、食物が通りにくくなって嘔吐や体重減少が見られることがあります。
関連疾患としては、ピロリ菌に起因する「慢性胃炎」「萎縮性胃炎」「胃がん」などがあり、長期的にはがん化のリスクも懸念されます。NSAIDs長期使用に伴う「薬剤性胃炎」も重要な関連疾患です。潰瘍が引き金となって全身状態が悪化することもあるため、早期介入と包括的な管理が必要です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「胃・十二指腸潰瘍診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
国立国際医療研究センター「消化性潰瘍」(https://www.ncgm.go.jp/)
日本ヘリコバクター学会「除菌療法と再発予防」(https://www.jshr.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/07
- 更新日:2025/07/09
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