結核性胸膜炎けっかくせいきょうまくえん
結核性胸膜炎は、結核菌による胸膜の感染で発症する滲出性胸水を伴う疾患です。胸痛や発熱、呼吸困難が主症状で、若年者にも多く見られます。診断には胸水検査と結核菌の証明が重要で、治療は抗結核薬の長期投与が基本です。
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結核性胸膜炎とは?
結核性胸膜炎とは、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって胸膜に感染と炎症が生じ、胸腔内に滲出性胸水が貯留する状態を指します。肺結核に次いで多い結核性病変の一つであり、特に若年成人で比較的頻度が高いとされています。
通常の肺結核が肺実質に限局するのに対し、結核性胸膜炎では結核菌が肺から胸膜腔へ波及することで胸膜に炎症を引き起こします。その結果、免疫応答により胸水が滲出し、胸痛や発熱、呼吸困難などの症状が現れます。
この疾患は、肺結核が明らかでないケースでも単独で発症することがあり、結核菌の存在証明が困難な場合もあるため、診断が難しいことが特徴です。胸水中のADA(アデノシンデアミナーゼ)値や細胞性状(リンパ球優位)などが診断の手がかりとなります。
早期に適切な抗結核薬治療を開始することで予後は良好ですが、治療が遅れると慢性化や癒着性胸膜炎に進行する可能性もあり、注意が必要です。
原因
結核性胸膜炎は、結核菌による感染が胸膜に波及することで発症します。肺結核が胸膜下に存在し、その病巣が破綻することで菌や抗原が胸膜腔に流入し、免疫反応を引き起こします。
原因菌
- ヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)
- 非結核性抗酸菌(NTM)は関与しない
発症のメカニズム
- 初感染後の免疫応答
結核菌の抗原に対して過敏反応を起こし、胸膜に滲出液が貯留する
上記は「結核性アレルギー反応」とも呼ばれ、菌が直接検出されなくても胸水が貯留することがある - 既存肺結核病巣からの波及
肺野に潜在していた結核病巣が胸膜側へ進展し、菌が胸膜に侵入して感染性胸水を形成する
好発年齢と背景
- 若年成人に比較的多く、免疫反応が活発な年齢層での過敏反応による発症が多い
- 高齢者では肺結核の一部として出現することがあり、症状が非典型的なことも多い
リスク因子
- 過去の結核既往
- 免疫抑制状態(HIV感染、ステロイド使用、糖尿病など)
- 集団生活(学校、施設など)での接触歴
発症時には結核菌の検出が難しいため、胸水の生化学的所見や病歴を総合的に評価し、診断を進める必要があります。
症状
結核性胸膜炎の症状は、結核菌による胸膜炎症とそれに伴う胸水貯留によって引き起こされます。初期には非特異的な症状が多く、風邪や他の胸膜疾患と鑑別が難しい場合もあります。
主な局所症状
- 胸痛:吸気時に悪化する鋭い痛み(胸膜痛)。片側性が多い
- 呼吸困難:胸水が肺を圧迫し、呼吸がしにくくなる
- 乾いた咳:胸膜刺激による反射性咳嗽。痰は少ない
全身症状
- 発熱:微熱〜38℃台の発熱。午後〜夜間に強くなることがある
- 寝汗、体重減少、全身倦怠感(いわゆる結核の三徴)
- 食欲不振、倦怠感、軽度の悪寒
聴診・打診所見
- 患側での呼吸音減弱または消失
- 打診で濁音(胸水の存在を示唆)
- 摩擦音(胸膜の擦れ合いによる)
若年者での特徴
- 明瞭な発熱と胸痛が主症状として現れやすい
- 活動性肺結核を伴わないこともあり、画像上は胸水のみで陰影を伴わない場合もある
高齢者での特徴
- 症状が乏しい(無症状のまま胸水のみで発見)
- 呼吸苦、食欲不振、体重減少のみで発症することがある
症状の進行
- 胸水が大量になると、安静時でも呼吸困難を感じる
- 慢性化すれば胸膜肥厚や癒着を起こし、拘束性換気障害の原因となる
これらの症状がある場合には、速やかに画像検査と胸水検査を行い、結核性胸膜炎を念頭に置いた評価が求められます。
診断方法と治療方法
診断
- 胸部X線検査
・片側性の胸水貯留(多くは中等量~大量)
・肺野に異常陰影がないことも多く、単独の胸水所見として出現 - 胸部CT検査
・胸膜の肥厚、肺実質病変の有無、リンパ節腫大などを確認
・微小病変の検出に有用 - 胸水穿刺・胸水検査
・外観:淡黄色透明~やや濁った滲出液
・細胞数:リンパ球優位(90%以上)
・ADA(アデノシンデアミナーゼ)高値:40U/L以上が結核性を強く示唆
・糖濃度:正常~軽度低下
・pH:軽度酸性
・結核菌の検出(塗抹・培養・PCR):検出率は低いが陽性なら確定診断 - 血液検査
・炎症所見(CRP、赤沈)、リンパ球比の評価
・T-SPOT.TBまたはQFT(IGRA):潜在性結核感染の補助診断 - 胸膜生検
・確定診断のために有用。類上皮細胞肉芽腫と乾酪壊死があれば診断確定
・胸腔鏡下生検が標準
治療
- 抗結核薬による化学療法(標準治療)
・初期2か月間:イソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)、ピラジナミド(PZA)
・以降4か月間:INHとRFPの2剤併用
・計6か月間の治療が推奨(症例により延長) - ステロイド補助療法(重症例、炎症強い場合)
・プレドニゾロンを併用し、早期症状改善や癒着予防に用いられることがある - 胸水排液
・大量の胸水や呼吸困難が強い場合に行う
・再貯留を繰り返す場合はドレナージや胸膜癒着術も検討
治療は長期間にわたるため、服薬アドヒアランスの確保と副作用管理が重要です。
予後
結核性胸膜炎の予後は、早期に診断され適切な抗結核薬治療が開始された場合には良好です。特に若年者では治癒が期待できますが、高齢者や免疫抑制状態の患者では注意が必要です。
予後良好の要因
- 早期診断と治療開始
- 若年者で合併症が少ない
- 薬剤感受性が良好な結核菌
予後不良となるリスク
- 治療開始の遅れ
- 高齢、糖尿病、HIVなどの基礎疾患
- 多剤耐性結核(MDR-TB)
- 癒着性胸膜炎や線維化による呼吸機能低下の残存
後遺症
- 胸膜肥厚による拘束性障害
- 癒着により肺の拡張が制限される
- 胸膜石灰化や胸郭変形
治療後も呼吸機能の低下が残る場合があるため、定期的な呼吸機能検査によるフォローアップが望まれます。DOTS(直接服薬確認療法)などの支援体制のもと、完治までの治療継続が重要です。
予防
結核性胸膜炎の予防には、結核全体の予防戦略が基本となります。個人の予防と集団での感染拡大防止がともに重要です。
BCG接種
- 乳児期の定期接種により、重症結核(髄膜炎、粟粒結核など)を予防
- 胸膜炎の発症もある程度予防可能とされる
感染源の早期発見と隔離
- 肺結核患者の早期診断と治療開始が最も重要
- 結核性胸膜炎は感染力が低いが、肺結核を伴う場合は感染源となりうる
潜在性結核感染(LTBI)の治療
- 接触者検診によって感染者を発見し、予防的治療を実施
免疫力の維持
- 栄養、休養、慢性疾患の管理により免疫を高める
- 喫煙や過度の飲酒を避ける
治療中の再発予防
- 処方通りの内服を継続し、中断しない
- 定期的な通院と副作用チェック
これらを徹底することで、結核の再燃や拡大を防ぎ、胸膜炎の発症も抑制できます。
関連する病気や合併症
結核性胸膜炎は結核の一形態であり、さまざまな病態と合併することがあります。以下に主な関連疾患と合併症を示します。
関連疾患
- 肺結核:胸膜炎と同時または経時的に発症
- 結核性リンパ節炎、結核性脳膜炎:全身播種の一部として出現
- 粟粒結核:血行性に多臓器へ広がる重症型
合併症
- 癒着性胸膜炎:治療後に胸膜が癒着し、肺の可動性が低下
- 胸膜石灰化:慢性期に石灰沈着を認めることがある
- 胸郭変形:強い癒着により胸壁が変形
- 拘束性換気障害:肺の拡張が制限される
- 再発性胸水:不十分な治療や免疫低下によって再貯留
治療関連合併症
- 抗結核薬の副作用(肝障害、末梢神経障害、発疹など)
- ステロイドによる感染リスク増加
合併症を未然に防ぐには、適切な初期治療と長期的な管理、そして治療中のフォローアップ体制が重要です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 日本結核病学会「結核診療ガイドライン」(https://www.kekkaku.gr.jp/)
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「結核性胸膜炎」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)
- 厚生労働省 結核予防会「結核の基礎知識」(https://www.jatahq.org/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/16
- 更新日:2025/07/16
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