エコノミークラス症候群えこのみーくらすしょうこうぐん
エコノミークラス症候群は、長時間同じ姿勢を続けることで足の静脈に血のかたまり(血栓)ができ、それが肺に詰まって肺塞栓症を引き起こす病気です。航空機内に限らず、車中泊や災害時の避難所生活などでも発症することがあり、命に関わることもあります。日常生活で予防できる病気であるため、正しい知識を持ち、早めの対策が重要です。
エコノミークラス症候群とは?
エコノミークラス症候群とは、医学的には「静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)」に分類され、主に「深部静脈血栓症(DVT)」と「肺塞栓症(PE)」の2つの状態から構成されます。DVTでは、主に下肢(ふとももやふくらはぎ)の深い静脈内に血のかたまりである血栓が形成されます。この血栓が血流に乗って肺まで移動し、肺動脈を詰まらせると、肺塞栓症を引き起こします。
このような病態が、特に航空機のエコノミークラスのように長時間、狭い座席に座って動けない状況で多く発生したことから、「エコノミークラス症候群」という名称が広まりました。現在では、飛行機だけでなく長時間のバス移動、車中泊、さらには災害時の避難所などでも発症することがわかっており、日常生活に潜むリスクとして広く注意喚起されています。
高齢者、肥満のある人、妊娠中・産後の女性、がん治療中の方、下肢の外傷後や手術後などは特に発症しやすい傾向があります。座位で過ごす時間が長い現代社会において、誰もが注意すべき疾患です。
原因
主な原因は、長時間同じ姿勢を続けることによる血流の停滞です。下肢の静脈には「筋ポンプ作用」と呼ばれるメカニズムがあり、歩行や足の運動により血液が心臓に押し戻される仕組みになっています。しかし、狭い空間で足を動かさずに座り続けると、このポンプ機能が低下し、静脈内に血液が滞りやすくなります。結果として、血栓が形成されるリスクが高まります。
加えて、飛行機内の乾燥やアルコール摂取、カフェインの過剰摂取などにより脱水状態になると、血液の粘度が上がり、凝固しやすくなります。また、遺伝的な要因によって血栓ができやすい「血栓性素因」を持つ人もおり、プロテインCやSの欠乏、抗リン脂質抗体症候群などの血液疾患が背景にある場合もあります。
その他、経口避妊薬の使用や女性ホルモン補充療法、がんの影響、長期臥床、心不全、静脈瘤などの基礎疾患も、血栓形成のリスク因子になります。複数の要因が重なったときに発症リスクが飛躍的に上昇するため、医療者によるリスク評価が重要です。
症状
まず、深部静脈血栓症の段階では、ふくらはぎや太ももに痛みや腫れが見られることが多く、熱感や赤みを伴う場合もあります。足の一部にだけ症状が現れることが一般的で、両足同時に発症することは稀です。立ち上がったときや歩行時に違和感や重だるさを感じる人も多く、深部静脈が閉塞すると皮膚の色が暗くなったり、冷感を覚えたりする場合もあります。
一方、肺塞栓症に進行した場合は、全身症状が急激に現れます。呼吸困難、胸の痛み、動悸、発汗、頻脈、咳、血の混じった痰(喀血)などが見られ、重症例では失神やショック、呼吸停止を起こすこともあります。急激な症状変化は命に直結することがあり、迅速な対応が求められます。
特に注意すべきは、「足の痛みや腫れが数日続いたあと、急に呼吸困難や胸痛を起こす」パターンです。この経過をたどる場合、すでに血栓が肺に到達している可能性があり、救急搬送が必要です。エコノミークラス症候群は軽症から重症まで幅が広いため、早期発見と受診行動が大切です。
診断方法と治療方法
診断
診断の第一歩は、リスク因子の有無と自覚症状の確認です。長時間の移動歴、下肢の腫れや痛みの有無、突然の息切れや胸痛の出現などが問診で確認されます。
画像検査としては、下肢の静脈超音波検査(下肢エコー)が最も一般的です。非侵襲的で痛みがなく、リアルタイムに血栓の有無や血流の状態を確認できます。肺塞栓症が疑われる場合は、造影CT(肺動脈造影CT)が行われます。また、血液検査ではDダイマーという項目が上昇していれば、血栓がある可能性が高まります。
治療
治療の基本は、抗凝固療法です。急性期にはヘパリンの注射や、内服薬のダビガトラン、アピキサバンなどのDOAC(直接経口抗凝固薬)が使用されます。重症例や呼吸不全を伴う場合は、血栓溶解薬を点滴で投与したり、カテーテルで血栓を取り除く血栓除去術が行われることもあります。
長期的な治療としては、再発予防のために抗凝固薬を数ヶ月以上続ける必要があります。外来での管理や通院の継続が重要です。
予後
適切なタイミングで治療を開始すれば、予後は比較的良好です。深部静脈血栓症の段階で発見されれば、肺塞栓症への進行を防ぐことができます。しかし、肺塞栓症まで進行してしまうと、急激な呼吸障害や循環不全を起こし、死亡リスクが大きくなります。
特に高齢者、がん患者、既往歴のある人は重症化しやすく、入院期間が長引いたり後遺症が残ることもあります。治療後でも、静脈弁の損傷により「ポストスロボティック症候群(PTS)」を発症する場合があり、慢性的な足の腫れや色素沈着、潰瘍などの皮膚症状が長期にわたり続くことがあります。
再発予防のためには、薬物療法の継続だけでなく、生活習慣の見直しも不可欠です。特に再発リスクが高いと判断された場合は、長期にわたる抗凝固療法が行われることもあります。医師の指示に従い、定期的な通院と血液検査を継続することが予後改善の鍵となります。
予防
予防の基本は「長時間同じ姿勢を避けること」です。飛行機やバス、車内などで移動中は、1〜2時間ごとに足を動かすか、立ち上がって軽く歩くようにしましょう。座席のスペースが狭く動けない場合でも、足首を上下に動かしたり、膝を曲げ伸ばししたりすることで血流が改善されます。
弾性ストッキングの着用も有効です。これは静脈を圧迫することで血液の流れを促進し、血栓の形成を予防します。医療機関で適切なサイズの指導を受けて購入しましょう。
また、水分補給は非常に大切です。機内や車内では脱水になりやすいため、カフェインやアルコールは控えめにし、こまめに水を飲むようにしましょう。足を組まず、座る姿勢もなるべくゆったりと保つよう心がけましょう。
避難所や災害時にも同様の予防が必要です。狭いスペースや簡易ベッドで過ごす際も、定期的に足を動かし、水分を取ることが重要です。医療スタッフが巡回し、啓発活動を行うことも予防につながります。
関連する病気や合併症
エコノミークラス症候群の代表的な合併症は、肺塞栓症です。血栓が肺動脈に詰まると、急性の呼吸困難や胸痛、低酸素症、ショック状態を引き起こし、適切な処置がなければ致命的になります。
また、治療後にはポストスロボティック症候群が慢性的に続くことがあり、足の腫脹や静脈瘤、皮膚の色素沈着、潰瘍などの症状が日常生活に支障をきたすこともあります。
血栓性素因がある人では、脳梗塞や心筋梗塞など他の動脈系の血管疾患のリスクも高くなります。また、がん患者ではがんの種類によっては血栓症のリスクが非常に高く、がん治療と並行して予防的な抗凝固療法が必要とされるケースもあります。
女性では、妊娠・出産・経口避妊薬の使用がリスクとなることがあるため、医師による適切な指導が求められます。家族歴に血栓症のある方も、将来的な予防策を検討すべきです。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
国立循環器病研究センター「肺血栓塞栓症」(https://www.ncvc.go.jp/)
厚生労働省「災害時のエコノミークラス症候群対策」(https://www.mhlw.go.jp/)
■ この記事を監修した医師
石見 成史医師 いしみ内科・心臓内科クリニック
大阪医科大学 卒業
父、祖父の代より60年以上、地元の健康を守るお手伝いをしてきました。
今まで循環器内科を専門として、心不全、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)、不整脈、下肢閉塞性動脈硬化症(足の痛みや、足の傷など)を主に治療してきました。
これからは父が行ってきた診療に加え、胸の症状(動悸、息切れ、胸の痛みなど)、足の症状(足の痛み、傷など)などで困ることがあればいつでもご相談ください。
2011年3月 大阪医科大学卒業
2011年4月 大阪大学医学部付属病院 初期研修医
2012年4月 大阪府立急性期・総合医療センター(現大阪急性期・総合医療センター) 初期研修医
2013年4月 大阪大学医学部付属病院 循環器内科 入局
2013年4月 大阪府立急性期・総合医療センター(現大阪急性期・総合医療センター) 心臓内科
2016年4月 JCHO星ヶ丘医療センター 循環器内科
2019年7月 大阪南医療センター 循環器内科
2021年1月 医療法人 石見医院 継ぐ
- 公開日:2026/02/17
- 更新日:2026/02/17
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