乳幼児突然死症候群(SIDS)にゅうようじとつぜんししょうこうぐん

乳幼児突然死症候群(SIDS)は、健康に見えた乳児が予兆なく睡眠中に突然死亡する原因不明の疾患です。生後2〜6か月に多く、うつぶせ寝や受動喫煙などがリスク要因とされています。予防には睡眠環境の整備が重要です。

乳幼児突然死症候群(SIDS)

乳幼児突然死症候群(SIDS)とは?

乳幼児突然死症候群(Sudden Infant Death Syndrome:SIDS)は、生後1歳未満の乳児が、健康に見える状態から予兆なく突然死亡し、死亡原因が解剖や検査でも特定できない病態です。主に睡眠中に発生し、日本では1万人に1人程度の割合で報告されています。

SIDSは「診断名」ではなく、死因が特定できないことを条件に診断される「除外診断」です。そのため、感染症や心疾患、窒息、虐待など、他の明確な原因が否定された場合に初めてSIDSと診断されます。

発症年齢は特に生後2〜6か月の間に集中しており、男女比ではやや男児に多いとされています。冬季に多く報告される傾向もあり、季節性や環境因子との関係が示唆されています。

現時点でSIDSの明確な発症メカニズムは解明されていませんが、呼吸調整機構や自律神経の異常、睡眠時の覚醒反応の低下などが関係していると考えられています。育児環境の整備や予防啓発活動が予後の改善に貢献しています。

て発見されることが多く、症状が乏しい例もあれば、突然死を引き起こすこともあります。

原因

乳幼児突然死症候群の直接的な原因は現在も特定されていませんが、複数のリスク因子が組み合わさって発症に至ると考えられています。以下に主な要因を紹介します。

三重仮説(triple risk hypothesis)

  1. 発達中の脳や呼吸中枢の未成熟(生理的脆弱性)
  2. 臨界期(特に生後1〜6か月)にあること
  3. 外的ストレス(うつぶせ寝、過熱、受動喫煙など)

これらの要素が重なることで、乳児の呼吸や循環調整が破綻し、突然死に至るとされています。

仮説上の主なリスク因子

  • うつぶせ寝:気道の閉塞や再呼吸(二酸化炭素の吸い直し)が起こる可能性
  • 睡眠時の温度管理不良:過度な保温により熱ストレスが増加し、自律神経が不安定に
  • 母体の喫煙や飲酒:胎児期からの発育に影響し、自律神経系の成熟に遅れをもたらす
  • 乳児への受動喫煙:出生後も呼吸機能や脳機能に悪影響
  • 早産・低出生体重児:呼吸調整機能や神経系が未熟なため、リスクが高まる
  • 男児:統計的に女児よりやや発生率が高い
  • 人工栄養児:母乳栄養と比較してSIDSの発生率がやや高いとの報告がある

複数の要因が重なることがリスクを高めるため、生活環境の整備が重要です。

症状

SIDSの症状は、基本的に「症状がないまま突然死に至る」という特徴があります。したがって、医療機関を受診する機会もなく、予兆がないまま発見されることが多いです。

典型的な状況

  • 夜間または昼寝中に、呼吸が停止していることに気づき、発見される
  • 発見時には顔色が悪く(チアノーゼ)、無反応な状態である
  • 蘇生を試みても心肺停止状態で、死亡が確認される
  • 室内には外傷や誤嚥、窒息など明らかな事故の痕跡がない
  • 検視・剖検を行っても、明確な死因が特定できない

身体的変化と医学的背景

  • 呼吸中枢や自律神経系の未熟性により、睡眠中の低酸素状態への反応が鈍くなる
  • うつぶせ寝や顔面を布団に埋めた状態では、呼気中の二酸化炭素が再吸入されやすくなる(再呼吸)
  • 再呼吸によって低酸素・高二酸化炭素血症が進行し、呼吸停止・心停止に至る
  • 起きるべき覚醒反応が不十分で、呼吸努力が再開されないことが致死的となる

発症時期と頻度

  • 最も多いのは生後2〜6か月で、全体の約90%が生後6か月未満
  • 夜間の睡眠中に起こることが多く、昼間の抱っこや覚醒中にはほとんど見られない

診断の経緯

  • 死亡後に警察医や病理医による解剖検査が行われ、他の死因(外傷、窒息、感染など)を除外した結果、「SIDS」と診断される

SIDSは症状による診断ができないため、予防策の徹底が唯一の対応手段です。

診断方法と治療方法

診断

SIDSは「除外診断」であり、以下のような手順で診断が確定されます。

  1.  死亡時の状況確認
    ・死亡時の姿勢、衣類、寝具、睡眠環境の確認
    ・発見時間や体温などの生活状況に関する詳細な聞き取り
  2. 他の死因の除外
    ・事故(窒息、溺水、誤嚥など)
    ・虐待(外傷、骨折、内臓損傷など)
    ・感染症(肺炎、敗血症など)
    ・先天性疾患(心臓病、代謝異常など)
  3. 剖検(病理解剖)
    ・全身臓器の肉眼的および顕微鏡的検査
    ・病理検査、毒物検査、ウイルス検査などが行われ、死因が特定できなかった場合にSIDSと診断される
  4. 家族との面談と遺族支援
    ・医療者・警察・児童相談所・福祉関係者による対応
    ・悲嘆ケアや心の支援が重要

治療

SIDSは突然発症し、多くは自宅で死亡した状態で発見されるため、治療介入ができるケースはほとんどありません。そのため、以下の対応が主となります。

  1. 応急処置
    ・発見時に心肺蘇生法(CPR)が試みられることがある
    ・ただし蘇生が成功する割合は非常に低い
  2. 家族への支援
    ・ショック状態にある家族への心理的ケアが不可欠
    ・社会的な偏見や自責の念に対する支援も必要
  3. 医療・行政の対応
    ・解剖実施後の病理結果に基づき、正式な診断と死亡届の提出
    ・遺族説明・グリーフケアを含む包括的支援体制が求められる

SIDSは確定診断が非常に難しく、医療と行政の連携が重要となる疾患です。

予後

SIDSは突然の死亡であるため、一般的な「予後」という概念はあまり適用されません。しかし、再発リスクや遺族への影響など、周囲の対応において考慮すべき点があります。

再発の可能性

  • SIDSは一度発症すると死亡率が極めて高く、多くは救命に至らない
  • 兄弟児への影響や再発は稀ですが、念のため家族内のスクリーニングや育児環境の見直しが行われる

遺族の精神的影響

  • 子どもの突然死は親に深い喪失感と罪悪感を与える
  • 家族が自らを責めるケースが多いため、心理的ケアが非常に重要
  • カウンセリングやSIDS支援団体によるグリーフケアが有効

社会的支援の必要性

  • 医療機関、保健所、児童相談所、福祉事務所との連携が求められる
  • 葬儀や行政手続きのサポートも必要

法的・行政的対応

  • SIDSは不明死に分類されるため、警察の関与が必要となることが多い
  • 遺族が過度な詮索や疑念に晒されないよう、行政の丁寧な対応が必要

SIDSの予後管理とは、遺族と社会がどう向き合うかという視点で考える必要があります。

予防

SIDSの完全な予防法は存在しませんが、発症リスクを減らすために有効とされる行動がいくつかあります。

仰向け寝の徹底

  • うつぶせ寝はSIDSの最大のリスク要因とされる
  • 乳児を寝かせる際は必ず仰向けにする

適切な寝具と寝室環境

  • 柔らかすぎる布団や枕、ぬいぐるみは避ける
  • 顔が布団に埋まらないようにする
  • 過度な厚着や暖房の効きすぎに注意

母乳育児の推奨

  • 母乳には呼吸調整機能や免疫力を高める効果がある
  • 母乳育児はSIDSのリスクを低下させるとされる

喫煙の回避

  • 妊娠中の喫煙、受動喫煙は大きなリスク要因
  • 家族全体で禁煙環境を整えることが重要

同じ部屋での就寝(同じベッドではなく)

  • 夜間の変化に気づきやすくなる
  • 添い寝よりも、ベビーベッドを同室に置くのが望ましい

これらの予防策は、保健指導や出産後の母子支援活動を通じて広く啓発されています。

関連する病気や合併症

SIDSそのものは独立した死因ですが、以下の疾患や状況との鑑別や関連が重要とされます。

窒息・窒息死

  • 布団や寝具による窒息、口や鼻の閉塞などと鑑別が必要
  • 虐待による窒息の可能性も除外される必要がある

感染症

  • 急性呼吸器感染や敗血症など、急性に死亡する疾患と区別する必要がある

心疾患

  • QT延長症候群、ブルガダ症候群など、遺伝性不整脈疾患が隠れていることがある
  • 心筋炎や先天性心疾患も否定すべき

代謝性疾患

  • 脂肪酸代謝異常などの先天性代謝異常が急死の原因となることがある

てんかん・発作性疾患

  • 乳児てんかんや無呼吸発作の既往がある場合、注意が必要

虐待・ネグレクト

  • 外傷や骨折などの証拠がある場合は慎重な調査が必要

SIDSの診断はこれらを丁寧に除外することによって成立するため、医療・行政の協力体制が欠かせません。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

 厚生労働省「乳幼児突然死症候群(SIDS)対策」(https://www.mhlw.go.jp/)

MSDマニュアル プロフェッショナル版「乳幼児突然死症候群」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)

日本SIDS・乳幼児突然死予防学会 (https://www.sids.gr.jp/)

■ この記事を監修した医師

鄭 賢樹医師 てい小児科クリニック

近畿大学 医学部 卒

守口敬仁会病院で消化器外科医として研鑽を積んだのち、りんくう総合医療センター救命診療科で外傷・集中治療に従事。在宅医療専門クリニック「グリーングラス」では訪問診療に携わり、大手美容皮膚科・医療痩身クリニックでは美容医療の経験も重ねてきた。急性期医療から慢性疾患管理、美容領域、さらには在宅医療に至るまで、幅広い分野を経験。

2024年より「てい小児科クリニック」に赴任。小児科を長年支えてきた父の志を受け継ぎながら、内科、美容皮膚科、医療痩身、訪問診療を新たに導入し、地域に寄り添う“人生まるごと”の医療を提供することを目指している。

モットーは「医療を介して地域と絆でつながる」こと。
そして、「患者さま以上に、患者さまの健康を想う」こと。
日々の診療の中で、「今日も、あなたの“これから”を支えたい」という想いを胸に、子どもから高齢者まで、すべての世代の健康を全力で支える医療に取り組んでいる。

  • 公開日:2025/09/19
  • 更新日:2025/09/19

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