特発性間質性肺炎とくはつせいかんしつせいはいえん

特発性間質性肺炎は、原因不明の肺間質の慢性炎症・線維化により、進行性の呼吸機能低下を引き起こす疾患群です。労作時の息切れや乾いた咳が主症状で、治療には抗線維化薬や在宅酸素療法が用いられます。早期診断と専門的管理が重要です。

特発性間質性肺炎

特発性間質性肺炎とは?

特発性間質性肺炎(Idiopathic Interstitial Pneumonias:IIPs)とは、肺の間質(肺胞の壁や血管周囲など)に慢性的な炎症や線維化が生じ、呼吸機能が低下する進行性の肺疾患群です。「特発性」とは明らかな原因が特定できないことを意味します。

この疾患群は日本呼吸器学会およびアメリカ胸部学会により、以下のような病型に分類されています。

  • 特発性肺線維症(IPF)
  • 非特異性間質性肺炎(NSIP)
  • 呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患(RB-ILD)
  • 剥離性間質性肺炎(DIP)
  • 好酸球性肺炎(AEP、CEP)
  • 急性間質性肺炎(AIP)
  • リンパ球性間質性肺炎(LIP)
  • 分類不能型(unclassifiable IIP)

このうち、特発性肺線維症(IPF)は最も頻度が高く、予後も不良とされています。多くの患者では徐々に息切れや咳が進行し、日常生活に支障をきたすようになります。

治療は主に薬物療法や酸素療法で、進行を抑えることが目的となります。完全に治すことは難しいため、早期診断と専門医による包括的管理が必要です。

原因

特発性間質性肺炎はその名のとおり原因が明らかでない疾患群ですが、近年の研究では遺伝的素因や環境因子、免疫異常などが複合的に関与していると考えられています。

確定された原因はないが、以下の因子が関与

  • 加齢:60歳以上の発症が多く、加齢に伴う肺の変性が関与
  • 喫煙歴:特にRB-ILD、DIPとの関連が強い
  • 職業曝露:金属粉塵、有機溶剤、木材粉塵などの長期曝露
  • 慢性ウイルス感染:EBウイルス、ヘルペスウイルスなどの関与が示唆される
  • 胃食道逆流症(GERD):逆流物質が微小に吸入され、肺に炎症を起こす可能性

遺伝的要因

  • テロメア関連遺伝子やMUC5B遺伝子多型との関連が報告されており、家族性肺線維症の存在も確認されている

自己免疫疾患との関連

  • 一部のIIPは自己免疫疾患に類似した臨床像を呈するが、血清抗体が陰性であるため「特発性」とされる

除外すべき原因性間質性肺疾患

  • 膠原病関連間質性肺炎
  • 薬剤性肺障害
  • 放射線肺炎
  • 環境性肺臓炎(過敏性肺炎)

診断時には他の間質性肺疾患を除外し、正確に病型を分類することが、適切な治療選択と予後予測のために不可欠です。

症状

特発性間質性肺炎の症状は、肺の線維化や炎症によってガス交換が障害されることで生じます。病型によって症状の進行速度や重症度に違いがあります。

共通する主な症状

  • 労作時の息切れ(階段や坂道で息が苦しくなる)
  • 慢性的な乾いた咳(非湿性咳)
  • 倦怠感、疲れやすさ
  • 体重減少、食欲不振
  • 微熱、寝汗(急性期や感染合併時)

進行例でみられる症状

  • 安静時にも呼吸困難を自覚する
  • SpO₂の低下(特に運動時)
  • ばち指(指先が丸く太くなる)
  • 胸部圧迫感、呼吸音の異常(聴診でfine crackles)

急性増悪(急激な悪化)

  • 数日〜数週間のうちに呼吸状態が急速に悪化
  • 新たな肺の陰影が出現し、酸素化が著しく低下
  • 発熱、乾性咳の増悪、呼吸不全
  • 死亡率が高く、早期の集中治療が必要

病型別の特徴

  • IPF:緩徐な進行だが予後不良。中年〜高齢男性に多い
  • NSIP:女性に多く、ステロイドが奏効する例がある
  • AIP:急性呼吸不全を呈する重篤な型
  • RB-ILD/DIP:喫煙歴と関連が強く、禁煙での改善が期待される

初期は風邪や加齢による体力低下と誤認されることも多く、症状の持続や進行がみられる場合は、早めに呼吸器専門医を受診することが重要です。

診断方法と治療方法

診断

  1. 問診と身体診察
    ・労作時の息切れ、咳、体重減少などの症状
    ・喫煙歴、職業歴、既往歴、家族歴の確認
  2. 聴診所見
    ・fine crackles(捻髪音):吸気終末に聴こえる乾いた音
    ・ばち指の有無
  3. 胸部X線検査
    ・肺底部を中心とした網状陰影、線状影、すりガラス影など
  4. 高分解能CT(HRCT)
    ・IPF:蜂巣肺(honeycombing)や網状影
    ・NSIP:すりガラス影と網状影の混在、下肺優位
    ・病型分類に必須で、画像所見は診断と予後評価の鍵
  5. 呼吸機能検査
    ・拘束性障害(VC低下)、拡散能(DLCO)の低下
    ・進行に応じて酸素飽和度の低下も出現
  6. 血液検査
    ・KL-6、SP-D、SP-A:間質性肺炎の活動性マーカー
    ・自己抗体(抗核抗体、抗Jo-1抗体など):膠原病との鑑別に使用
  7. 気管支鏡検査
    ・BAL(気管支肺胞洗浄液)の細胞診
    ・経気管支肺生検や外科的肺生検で病理学的診断を行うこともある

治療

  1. 抗線維化薬(IIPs
    ・ピルフェニドン、ニンテダニブ:進行抑制に効果あり
    ・副作用(肝機能障害、下痢、光線過敏症)に注意しながら継続投与
  2. ステロイド療法(NSIP、AIPなど)
    ・プレドニゾロンを中心に使用。重症例ではパルス療法も
    ・免疫抑制薬(アザチオプリン、シクロホスファミド)併用例もある
  3. 支持療法
    ・在宅酸素療法(HOT):安静時SpO₂が88%以下で導入
    ・ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌)
    ・呼吸リハビリテーション(運動耐性の改善、QOL向上)
  4. 急性増悪の対応
    ・ステロイド大量投与、抗菌薬、酸素療法、人工呼吸管理などの集中治療

治療は病型に応じて異なり、専門医による診断と長期管理が不可欠です。

予後

特発性間質性肺炎の予後は、病型や診断時の重症度、治療反応などによって大きく異なります。特にIPF(特発性肺線維症)は進行性かつ予後不良の病型として知られています。

予後が良好な例

  • NSIPなどステロイドに反応する病型
  • 早期発見と治療開始により進行を抑制できた例
  • 非喫煙者、合併症の少ない患者

予後が不良な要因

  • IPF(平均生存期間は約3〜5年)
  • 急性増悪の頻発
  • 高齢発症、喫煙歴、低DLCO
  • 肺高血圧症の合併

急性増悪のリスク

  • 風邪や感染、手術、喫煙再開が引き金となる
  • 予後に最も大きな影響を及ぼすイベント

終末期への対応

  • 在宅酸素療法や緩和ケアの導入
  • 必要に応じて人工呼吸器や肺移植の検討(若年・重症例)

長期にわたる通院と多職種連携による包括的ケアが、患者と家族の安心と生活の質の向上に寄与します。

予防

特発性間質性肺炎自体は原因不明であるため、明確な一次予防法はありませんが、発症後の進行抑制と急性増悪の予防が重要です。

喫煙の完全中止

  • 最大の予防策となる。できる限り受動喫煙も避ける

感染症の予防

  • インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの定期接種
  • 風邪や気道感染の早期治療
  • 人混みを避ける、マスク着用、手洗いの励行

環境要因の管理

  • ほこり、カビ、化学物質などの吸入を避ける
  • 自宅の換気と湿度管理

定期的な検査と通院

  • 呼吸機能検査、血液検査、画像検査の継続
  • 症状の変化を早期に察知することが重要

生活習慣の整備

  • 適度な運動、バランスの取れた食事
  • ストレス管理と十分な睡眠

再発と急性増悪を防ぐためには、日常生活の中での小さな配慮が不可欠です。

関連する病気や合併症

特発性間質性肺炎は、肺以外の臓器や全身状態に影響を及ぼす多様な合併症と関連します。

呼吸器系合併症

  • 肺高血圧症:肺血管の線維化により右心負荷が増大
  • 慢性呼吸不全:酸素化障害が進行し、HOT導入が必要
  • 肺がん:IPF患者では肺がんの発生リスクが一般より高い

感染症

  • 肺炎:免疫低下や薬剤による易感染状態
  • 気管支感染:咳や痰の悪化、急性増悪の原因に

薬剤関連副作用

  • ステロイドによる骨粗鬆症、糖尿病、易感染性
  • 抗線維化薬による肝障害、下痢、光線過敏症など

精神・栄養状態の影響

  • うつ病、不安障害:慢性疾患による心理的ストレス
  • 低栄養、サルコペニア:食欲低下と活動量減少の結果

これらの合併症を早期に発見・管理することが、IIP患者の生命予後と生活の質を左右する重要な因子となります。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。

日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。

  • 公開日:2025/07/08
  • 更新日:2025/07/10

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