マイコプラズマ肺炎まいこぷらずまはいえん

マイコプラズマ肺炎は、Mycoplasma pneumoniaeによって引き起こされる非定型肺炎の一種で、特に若年者に多く発症します。乾いた咳や発熱が主な症状で、比較的軽症ながら長引くことが特徴です。マクロライド系抗菌薬が治療の中心となります。

マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎とは?

マイコプラズマ肺炎とは、Mycoplasma pneumoniae(マイコプラズマ・ニューモニエ)という細菌に分類される病原体によって引き起こされる肺炎です。非定型肺炎の代表的な原因の一つであり、一般的な肺炎と比べて症状が比較的軽く、咳が長引くのが特徴です。

マイコプラズマは細胞壁を持たないユニークな構造の微生物であり、通常の細菌とは異なりペニシリンなどのβラクタム系抗菌薬が効きません。そのため、治療にはマクロライド系やテトラサイクリン系、ニューキノロン系など、細胞壁に依存しない作用機序の抗菌薬が選ばれます。

マイコプラズマ肺炎は、特に小児から青年層(5歳~30歳程度)に多く見られ、学校や職場などでの集団生活を通じて感染が拡大することがよくあります。秋から冬にかけて流行する傾向があり、周期的に大規模な流行を起こすこともあります。

一般的には軽症で入院を必要としないことが多いですが、高齢者や免疫力の低下した患者では重症化することもあるため、注意が必要です。

原因

マイコプラズマ肺炎の原因は、Mycoplasma pneumoniaeという病原体への感染です。この微生物はグラム染色では染色されず、細胞壁を持たないため、通常の細菌培養や抗生物質が効果を発揮しないことが特徴です。

感染経路

  • 飛沫感染(感染者の咳やくしゃみに含まれる飛沫)
  • 接触感染(感染者の手指や汚染された物品を介して)

マイコプラズマは感染力が強く、学校、寮、職場など集団生活の場で一人の感染者が複数人にうつすことがあります。潜伏期間は2〜3週間と比較的長く、自覚症状が出る前から周囲に感染させている可能性がある点も注意が必要です。

感染リスクの高い集団

  • 学童、学生、青年層(10〜30代)
  • 教師や保育士など、子どもと接する職業
  • 閉鎖環境で生活している人(寮、施設など)

マイコプラズマ感染によって、気道粘膜に付着・侵入し、炎症を引き起こします。気道における免疫反応により、過剰な免疫応答が気管支や肺の炎症を助長し、咳や発熱などの症状が出現します。

症状

マイコプラズマ肺炎の症状は、通常の細菌性肺炎に比べて軽度〜中等度で進行することが多いですが、咳が長引くことが特徴的です。

主な症状

  • 乾いた咳(痰を伴わない):最も顕著で、2〜3週間以上続くこともある
  • 発熱(37〜39℃):急激に上がるよりも微熱から始まることが多い
  • 頭痛、倦怠感、筋肉痛、寒気などの全身症状
  • のどの痛みや声枯れ
  • 胸痛(咳をした際に痛むことがある)
  • 食欲不振

進行した場合

  • 咳が激しくなり、眠れないほどになる
  • 軽度の呼吸困難
  • 気道の過敏性が長く残ることで、肺炎治癒後も咳が続くことがある(遷延性咳嗽)

非呼吸器症状

  • 中耳炎(特に小児)
  • 皮疹(紅斑、多形紅斑など)
  • 関節痛
  • 脳炎、脊髄炎(重症例でまれに合併)
  • 溶血性貧血や心筋炎などの免疫反応に起因する合併症

マクロライド耐性菌に感染した場合

  • 発熱や咳が長引く傾向にあり、治療の効果が出にくい
  • 耐性菌は特に小児で高い割合が報告されている

マイコプラズマ肺炎は風邪との鑑別が難しいこともありますが、「咳が2週間以上続く」「微熱が続く」「抗生物質が効かない」といった特徴が見られた場合には早めの医療機関受診が推奨されます。

診断方法と治療方法

診断

  1. 問診と身体所見
    ・長引く乾いた咳の有無、発熱の経過、学校や職場での感染の有無などを確認
    ・聴診では、ラ音や中〜高調のクラックルが聴かれることもある
  2. 胸部X線検査
    ・びまん性または片側性の浸潤影(肺の白い影)を確認
    ・比較的軽度の症状でもX線で異常が見られることがある
  3. 血液検査
    ・白血球数は正常〜軽度増加
    ・CRPやLDHが軽度〜中等度に上昇することがある
  4. マイコプラズマ抗体検査
    ・ペア血清法(初回と2週後の抗体価の上昇を確認)
    ・迅速診断キット(イムノクロマト法)でIgMを検出することも可能
  5. PCR検査(核酸増幅検査)
    ・咽頭ぬぐい液や喀痰からマイコプラズマDNAを検出
    ・高感度・高特異度で、近年では広く使われるようになってきている

治療

  1. 抗菌薬治療
    ・第一選択:マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)
    ・マクロライド耐性例:テトラサイクリン系(ドキシサイクリン)、ニューキノロン系(レボフロキサシン)を選択
    ※小児ではテトラサイクリン・ニューキノロンの使用に制限があるため、耐性例では慎重な判断が必要です
  2. 対症療法
    ・解熱鎮痛薬、咳止め、去痰薬などを併用し症状の緩和を図る
    ・水分補給と安静も重要
  3. 入院治療の適応
    ・高熱が持続、脱水、呼吸困難、重篤な合併症のある場合
    ・家庭での管理が困難な小児・高齢者

治療の経過に注意し、発熱や咳が長引く場合は薬剤の変更や精密検査を検討することがあります。

予後

マイコプラズマ肺炎は、一般的に予後良好な肺炎の一つとされています。特に若年者では重症化することは少なく、適切な抗菌薬治療により1〜2週間で改善することがほとんどです。

良好な予後の例

  • 早期に診断・治療が開始された場合
  • マクロライド感受性菌による感染
  • 基礎疾患のない若年者

注意が必要なケース

  • マクロライド耐性菌による感染(日本では小児で高率)
  • 治療開始の遅れや自己判断による中断
  • 高齢者や免疫抑制状態、慢性呼吸器疾患のある人では重症化することがある

後遺症や再発

  • 治癒後もしばらく咳だけが残る「遷延性咳嗽」が見られることがある
  • まれに胸膜炎や気管支拡張症が残ることも

治療中は薬の内服を最後まで続け、無理な外出や運動は控え、安静を保つことが回復への近道です。再発予防のためにも、免疫力を維持する生活習慣が重要です。

予防

マイコプラズマ肺炎にはワクチンが存在しないため、日常生活の中での感染予防が中心となります。

感染予防対策

  • 咳エチケット(マスクの着用、手で口を覆う)
  • こまめな手洗いと手指消毒
  • 換気の良い空間で過ごす
  • 人混みや密閉空間での長時間の滞在を避ける

感染者が身近にいる場合

  • 感染者の咳が直接かからないように距離を保つ
  • 食器やタオルなどの共用を避ける
  • 症状のある人との接触後は速やかに手洗いを行う

自己管理と生活習慣

  • 十分な睡眠、栄養バランスの取れた食事、適度な運動によって免疫力を維持する
  • 体調不良を感じたら無理をせず早めに受診する

感染力はそこまで強くないとされていますが、閉鎖環境では集団感染が起こりやすいため、予防意識が大切です。

関連する病気や合併症

マイコプラズマ肺炎は軽症で済むことが多い一方で、以下のような病態や合併症と関連することがあります。

呼吸器関連の合併症

  • 気管支炎、気管支喘息の悪化
  • 胸膜炎:胸痛や胸水を伴う
  • 気管支拡張症:繰り返す炎症によって慢性的な気道拡張が残る

免疫反応による非呼吸器合併症

  • 皮膚症状:多形紅斑、Stevens-Johnson症候群など
  • 神経症状:脳炎、脊髄炎、ギラン・バレー症候群などの神経合併症(まれ)
  • 血液異常:溶血性貧血、血小板減少症など
  • 心血管合併症:心筋炎、心膜炎など

小児での特徴的な合併症

  • 中耳炎、副鼻腔炎
  • 熱性けいれん

特にマクロライド耐性菌による感染例では、症状の遷延や重症化がみられるため、合併症の早期発見と対応が求められます。適切な治療と経過観察が重症化を防ぐ鍵となります。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。

日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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