胃食道逆流症(GERD)いしょくどうぎゃくりゅうしょう
胃食道逆流症(GERD)は、胃酸が食道に逆流することで胸やけや呑酸(酸っぱいものがこみ上げる感覚)などの症状を引き起こす病気です。食生活や生活習慣が関係しており、放置すると食道の炎症や、場合によっては食道がんのリスクも高まります。早期の対策や適切な治療が大切です。
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胃食道逆流症とは?
胃食道逆流症(GERD:Gastroesophageal Reflux Disease)とは、胃の内容物が食道へ逆流することで、胸やけや呑酸(すっぱい液体が口まで上がってくる感じ)などの症状や、食道の炎症を引き起こす疾患です。
本来、胃と食道の間には下部食道括約筋という弁の役割を持つ筋肉があり、胃酸の逆流を防いでいます。しかし、この括約筋の機能低下や、胃酸の分泌過多、食道の蠕動運動の低下などが原因で、胃の内容物が食道に逆流しやすくなると、GERDが発症します。
GERDは大きく2つの型に分類されます。
- 逆流性食道炎(ERD):食道の粘膜が炎症を起こしている状態
- 非びらん性胃食道逆流症(NERD):症状はあるが、内視鏡で粘膜の炎症が認められない状態
日本では高齢化や食生活の欧米化により、GERDの患者数は年々増加しており、QOL(生活の質)を著しく低下させる疾患のひとつとされています。
胃食道逆流症の原因
GERDの原因は多因子性であり、以下のような要因が関与しています。
下部食道括約筋の機能低下
- 加齢、肥満、妊娠などにより括約筋の圧力が低下すると、胃酸の逆流を防げなくなります。
胃酸分泌の増加
- 高脂肪食や過食、アルコール、喫煙、カフェインなどの摂取により胃酸分泌が増加します。
食道の運動障害
- 食道の蠕動運動が弱くなると、逆流した胃酸が食道内に長くとどまり、炎症の原因になります。
胃の内容物の排出遅延
- 胃の動きが悪くなることで、胃内圧が上昇し、逆流が起こりやすくなります。
食生活や生活習慣
- 就寝前の食事、早食い、脂っこいものの摂取、腹圧を上げる動作(ベルトをきつく締めるなど)も原因になります。
薬剤性
- 一部の降圧薬(カルシウム拮抗薬)、気管支拡張薬、抗コリン薬などは括約筋を弛緩させる作用があります。
また、食道裂孔ヘルニア(胃の一部が横隔膜を超えて胸腔内に出てくる状態)もGERDの重要なリスク因子です。これらの要素が単独または複合してGERDを発症させると考えられています。
胃食道逆流症の症状は?
GERDの症状は多様であり、典型的な「胸やけ」や「呑酸」のほかに、のどや気道などの「食道外症状」も見られることがあります。
主な症状
- 胸やけ:胸の中央部が焼けつくように熱く感じる
- 呑酸(どんさん):胃酸がのどや口まで上がってくる感覚。苦味や酸味を伴う
- 胃もたれ、腹部膨満感:食後に胃が張る感じ
- げっぷ(嚥下空気症)
- 食後の咳や喘鳴:逆流した胃酸が喉頭や気管支を刺激することによる
非典型的・食道外症状
- のどの違和感、咽頭痛
- 声のかすれ(声帯炎)
- 慢性的な咳(特に夜間や朝方)
- 嚥下困難、胸痛
- 非心臓性胸痛:心筋梗塞と間違われることも
日常生活への影響
- 食後や前かがみ姿勢、就寝時に症状が悪化することが多い
- 睡眠障害、集中力低下、ストレスの増加など
NERDとERDの違い
- ERD(逆流性食道炎)は、内視鏡で食道粘膜のびらんや潰瘍が確認されます。
- NERD(非びらん性逆流症)は、内視鏡所見は正常ですが、自覚症状が強い場合もあります。
NERDの患者はストレスに敏感であることが多く、感覚過敏や不安傾向が関連しているとされています。いずれのタイプも生活の質に深く影響するため、症状を軽視せず早めの診断・治療が必要です。
胃食道逆流症の診断方法と治療方法
診断
- 問診と症状の評価
・胸やけや呑酸などの典型症状の有無
・症状が起こる時間帯、誘因、改善因子などを確認します - プロトンポンプ阻害薬(PPI)テスト
・診断的治療法。PPIを1〜2週間服用し、症状が改善するかどうかを評価します - 上部消化管内視鏡(胃カメラ)
・食道粘膜の炎症、びらん、潰瘍の有無を確認
・Barrett食道(食道粘膜の胃粘膜化)などの合併症のチェックも行います - 食道pHモニタリング
・24時間にわたって食道内の酸の逆流を記録
・主にNERDの診断に用いられます - 食道内圧検査
・食道の蠕動運動や下部食道括約筋の圧力を測定
治療
- 薬物療法(第一選択)
・PPI(プロトンポンプ阻害薬):胃酸分泌を強力に抑制。最も効果的
・H2ブロッカー:PPIに準じて使用。軽症例や追加治療に
・粘膜保護薬(アルジネート、スクラルファートなど):食道粘膜の防御力を高める
・消化管運動促進薬(モサプリドなど):食道や胃の蠕動を促進 - 生活習慣の改善
・食事は就寝2〜3時間前までに済ませる
・脂肪分や香辛料、アルコール、カフェインなどの摂取を控える
・体重を減らす(肥満は大きなリスク因子)
・ベルトやガードルなどの腹圧を高める服装を避ける
・頭を高くして寝る(上半身を10〜20cm程度傾ける) - 外科的治療(薬物抵抗性の場合)
・腹腔鏡下噴門形成術(Nissen法など)
・下部食道括約筋の圧力を高め、逆流を防ぐ
・薬が効かない重症例や薬の副作用が問題となる場合に適応
治療は段階的に行われ、症状のコントロールが得られれば、維持療法へと移行します。
胃食道逆流症の予後について
胃食道逆流症は命に関わる病気ではありませんが、長期的に放置すると生活の質(QOL)が大きく低下し、合併症を引き起こすこともあります。
良好な予後
- 多くの患者で、薬物療法と生活習慣の改善により症状が軽快または消失します
- PPI治療により、約80〜90%の患者で症状の改善が認められます
再発しやすい疾患
- 薬を中止すると再発するケースも多く、維持療法が必要になることがあります
- 慢性化すると、薬の継続的な服用が必要になることも
注意すべき合併症
- Barrett食道:食道粘膜が胃型に置き換わる状態で、食道腺がんのリスクが高まる
- 食道狭窄:炎症を繰り返すことで食道が細くなり、食事が通りにくくなる
これらの合併症を防ぐためにも、定期的な内視鏡検査と医師の指導に基づく治療継続が重要です。
胃食道逆流症の予防について
GERDの予防には、胃酸の逆流を引き起こしにくい生活習慣の維持が基本です。
日常生活での予防策
- 食後すぐに横にならない(少なくとも2時間は立位または座位)
- 就寝前の飲食を避ける
- 体重を適正に保つ(BMI 22前後)
- 高脂肪食、香辛料、チョコレート、柑橘類、アルコール、カフェインを控えめに
- 禁煙:喫煙は下部食道括約筋を緩め、逆流を促進する
- 衣類は腹部を締めつけないものを選ぶ
ストレス管理
- ストレスも症状を悪化させるため、適度な運動や趣味でのリフレッシュが重要です
これらを習慣づけることで、GERDの発症予防や再発の抑制に効果が期待できます。
胃食道逆流症が関連する病気や合併症
GERDは、消化器疾患だけでなく、他の臓器や症状とも関連することがあります。
消化器関連の合併症
- Barrett食道:慢性的な胃酸逆流により食道粘膜が胃粘膜様に変化。食道腺がんの前がん病変とされ、定期的な内視鏡検査が必要
- 食道狭窄:炎症によって食道内径が狭くなり、嚥下困難を招く
- 出血、潰瘍:重症の逆流性食道炎にみられる
呼吸器系への影響
- 慢性咳嗽(長引く咳)
- 気管支喘息の悪化
- 咽頭炎、喉頭炎、声がれ
- 睡眠時無呼吸症候群との関連も指摘される
心疾患との鑑別
- GERDによる胸痛は心筋梗塞と類似することがあり、心疾患との鑑別診断が重要です
GERDは慢性的な経過をたどることが多く、合併症を未然に防ぐためにも早期の介入と継続的な管理が求められます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
MSDマニュアル プロフェッショナル版「胃食道逆流症」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)
厚生労働省 e-ヘルスネット「GERD」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/06/20
- 更新日:2025/06/20
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