肝炎かんえん

肝炎は肝臓に炎症が起きる疾患で、原因にはウイルス感染、薬剤、アルコール、自己免疫などがあります。急性と慢性に分かれ、進行すると肝硬変や肝がんの原因にもなります。原因に応じた早期の診断と治療が予後改善に重要です。

肝炎

肝炎とは

肝炎とは、肝臓に炎症が起こる状態を指し、肝細胞が破壊されることで肝機能に異常が生じる病態です。原因は多岐にわたりますが、最も一般的なのはウイルス感染による「ウイルス性肝炎」であり、他にもアルコール、薬剤、自己免疫などが知られています。
肝炎は、炎症が急性で一時的に終わる「急性肝炎」と、長期間(6か月以上)持続する「慢性肝炎」に分類されます。急性肝炎は自然に治癒することも多いですが、まれに劇症化し命に関わることがあります。慢性肝炎は持続的な肝細胞破壊を伴い、進行すると肝硬変や肝がんに至るリスクがあるため、早期の発見と治療が重要です。
日本ではB型肝炎とC型肝炎が慢性肝炎の主な原因であり、肝炎ウイルスのキャリア(保有者)に対する検査と管理が進められています。肝炎は無症状で進行することも多く、「沈黙の臓器」といわれる肝臓の特徴から、定期的な肝機能検査が重要とされています。

肝炎の原因

肝炎の原因は大きく「感染性」と「非感染性」に分けられます。感染性では、ウイルス感染が主で、A型〜E型までの肝炎ウイルスが知られています。

  • A型肝炎(HAV):経口感染。生ガキなどの生食、衛生環境の悪い地域で感染。
  • B型肝炎(HBV):血液・体液感染。母子感染、性交渉、注射器の共用など。
  • C型肝炎(HCV):主に血液感染。輸血や注射器の使い回しによる。
  • D型肝炎(HDV):B型感染者にのみ共感染する特殊型。
  • E型肝炎(HEV):経口感染。加熱不足の豚・猪などの肉で感染する例も。

一方、非感染性の原因には以下が含まれます。

  • アルコール性肝炎:大量飲酒による慢性肝細胞障害。
  • 薬剤性肝炎:特定の薬や健康食品に対する肝臓の過敏反応。
  • 自己免疫性肝炎:自己免疫が肝細胞を攻撃する難病指定疾患
  • 脂肪肝炎(NASH):生活習慣病や肥満に関連する非アルコール性肝炎。

また、代謝異常、遺伝性疾患(ウィルソン病、ヘモクロマトーシス)もまれに肝炎の原因となります。原因ごとに治療法が異なるため、正確な診断が治療の第一歩となります。

肝炎の症状は?

肝炎の症状は、炎症の程度や進行度によって異なります。急性肝炎では、ウイルス感染後数週間の潜伏期間を経て、以下のような症状が現れます。

  • 倦怠感
  • 食欲不振
  • 吐き気、嘔吐
  • 右上腹部痛、圧痛
  • 発熱(軽度〜中等度)
  • 黄疸(皮膚や眼球の黄変)
  • 尿の濃染(濃い茶色)
  • 便色の白色化

これらの症状は「風邪のような症状」で始まり、徐々に黄疸などの特徴的な徴候が出現します。A型やE型では自然に治癒することが多いですが、B型やC型は慢性化することがあります。

慢性肝炎では症状が乏しいことが多く、定期検査で肝機能異常を指摘されて初めて気づくケースが少なくありません。進行すると、以下のような症状が出てきます。

  • 全身のだるさ
  • 軽度の黄疸
  • 腹部膨満感
  • 出血傾向(歯ぐきからの出血、あざ)
  • 皮膚のかゆみ
  • 下肢浮腫

肝機能が高度に低下すると、肝硬変や肝不全に至り、腹水、意識障害(肝性脳症)、静脈瘤出血などの重篤な合併症を引き起こします。
肝炎は、進行するまで症状に乏しいことが特徴であり、早期発見には血液検査による肝酵素(AST・ALTなど)の定期的なチェックが不可欠です。

肝炎の診断方法と治療方法

診断

肝炎の診断は、症状の確認と血液検査が中心です。血液検査では、AST(GOT)・ALT(GPT)・γGTP・ALPなどの肝酵素の上昇が見られ、炎症の程度を評価できます。

ウイルス性肝炎が疑われる場合は、抗体検査やウイルスマーカー(HBsAg、HCV抗体など)で感染の有無を確認します。必要に応じて、ウイルス量(HBV-DNA、HCV-RNA)や遺伝子型の測定も行われます。

超音波(エコー)検査やCT、MRIでは、肝臓の腫大、脂肪沈着、腫瘍などを確認できます。慢性肝炎で線維化の進行度を評価する場合には、FibroScan(肝硬度測定)や肝生検が用いられることもあります。

治療

治療は原因ごとに異なります。

急性ウイルス性肝炎(A型・E型)

自然軽快が多く、対症療法(安静、水分・栄養補給)が基本です。重症例では入院管理が必要です。

B型肝炎

急性では劇症化の危険あり。慢性化した場合には核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビルなど)を用いた抗ウイルス療法を行います。

C型肝炎

直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)により、治癒が可能な時代となりました。90%以上の確率でウイルス排除が可能です。

自己免疫性肝炎

副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)や免疫抑制薬を用いた治療が行われます。

薬剤性肝炎

原因薬剤の中止と支持療法が中心となります。

アルコール性肝炎

禁酒と栄養管理が基本です。重症例ではステロイドが検討されます。

慢性肝炎においては、肝硬変・肝がんへの進行を防ぐことが目標となり、定期的なフォローアップが重要です。

肝炎の予後について

肝炎の予後は、その原因、発症時の重症度、治療開始の早さによって大きく異なります。急性ウイルス性肝炎(特にA型・E型)は多くが自然軽快し、予後は良好です。一方でB型肝炎では、まれに劇症肝炎に進行し、短期間で命に関わることがあります。
慢性肝炎では、ウイルスの持続感染が肝細胞に長期的なダメージを与え、肝線維化が進行します。これが肝硬変へと移行すると、肝がんや肝不全のリスクが高まります。
C型肝炎では、近年のDAAによる治療で治癒が可能になったため、早期の診断と治療により、肝硬変や肝がんへの進展を防ぐことができます。B型肝炎も長期管理により、病態を安定させることが可能です。
非ウイルス性肝炎では、原因(薬剤、アルコールなど)への対応が適切に行われれば、予後は良好ですが、対応が遅れると不可逆的な肝障害を残すことがあります。
いずれにしても、定期的な肝機能チェックと腹部エコー、腫瘍マーカー(AFPなど)の測定が予後管理において重要です。

肝炎の予防について

肝炎の予防には、原因ごとに異なる対策が求められます。

ウイルス性肝炎

A型・B型肝炎にはワクチンがあります。A型は飲食物を通じて感染するため、海外渡航時や衛生環境の悪い地域では、ワクチン接種と食品衛生の徹底が必要です。B型は血液・体液感染のため、母子感染予防、性交渉時のコンドーム使用、医療機器の適切管理が重要です。

C型肝炎はワクチンがないため、感染源(血液)との接触回避が唯一の予防策です。刺青やピアス、歯科治療などでの感染に注意が必要です。

薬剤性肝炎・アルコール性肝炎

不要な薬の長期服用を避け、健康食品も含めて過剰摂取しないことが肝臓を守る鍵です。アルコール摂取は節度を守り、できれば禁酒を心がけましょう。

自己免疫性肝炎

明確な予防法はありませんが、定期的な健診での早期発見が有効です。
生活習慣病の管理(糖尿病、肥満など)も、脂肪肝や肝炎の予防につながります。

肝炎が関連する病気や合併症

肝炎は放置するとさまざまな合併症を引き起こす可能性があります。慢性肝炎が進行すると、肝硬変に至り、さらに肝細胞がん(HCC)を発症することが最も重大な経過です。
肝硬変では、肝臓の構造が破壊され、門脈圧亢進による食道静脈瘤、腹水、脾腫、肝性脳症などの合併症が生じます。これらは生命予後に深く関わるため、早期の介入が必要です。
また、肝炎が原因で全身に及ぶ影響もあります。自己免疫性肝炎では、甲状腺疾患、関節炎、糖尿病など他の自己免疫疾患との合併が見られます。B型肝炎では、腎炎や血管炎などの免疫複合体疾患が発症することもあります。
さらに、慢性的な肝機能低下は薬剤代謝の障害を引き起こし、他の病気の治療にも影響を及ぼすことがあります。したがって、肝炎は単なる肝臓の病気としてだけでなく、全身的な視点で診療が必要です。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

日本肝臓学会「肝炎診療ガイドライン」(https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines)

MSDマニュアル プロフェッショナル版「肝炎」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)

厚生労働省 肝炎対策情報センター(https://www.kanen.ncgm.go.jp/)

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/06/20
  • 更新日:2025/06/20

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