十二指腸憩室じゅうにしちょうけいしつ

十二指腸憩室は、十二指腸の壁が袋状に外側へ突出する疾患で、多くは無症状ですが、まれに腹痛や炎症、出血を伴うこともあります。通常は内視鏡検査などで偶然発見され、症状がある場合は薬物療法や内視鏡治療が行われます。

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十二指腸憩室とは?

十二指腸憩室とは、十二指腸の壁の一部が外側に袋状に突出した状態を指します。憩室(けいしつ)は消化管の弱い部分に圧力が加わることで形成され、食道、大腸、小腸などにも見られますが、十二指腸では比較的まれながら一定数存在します。
十二指腸の第2部(下行部)、特にファーター乳頭周囲に好発するとされており、膵管や胆管との関係性から注意が必要な部位です。解剖学的にこの部位は内圧が高く、憩室が形成されやすい構造となっています。
大多数の十二指腸憩室は無症状であり、上部消化管内視鏡検査や造影検査などの際に偶然発見されます。そのため、疾患として扱われないこともありますが、まれに炎症や穿孔、出血、胆道閉塞などの合併症を引き起こすことがあり、これらの症状が出現した場合には積極的な治療が必要となります。

十二指腸憩室の原因

十二指腸憩室は、主に加齢による消化管壁の脆弱化や、慢性的な腸内圧の上昇によって形成される「仮性憩室(粘膜と粘膜下層のみが突出する)」がほとんどです。生まれつき存在する「真性憩室(すべての層が含まれる)」は極めて稀です。
原因として最も一般的なのは加齢であり、50歳以上で頻度が上がるとされています。また、便秘や腹圧のかかる習慣(喫煙、慢性咳嗽、重労働など)、運動不足、脂肪過多の食生活なども腸管の内圧を上昇させ、憩室形成のリスクを高めます。
特に十二指腸下行部(第2部)では、胆道や膵臓と隣接しており、圧力や流動の変化により局所的な壁の弱点が憩室の形成につながります。また、外科手術後の瘢痕や癒着などによっても二次的に憩室が形成される場合があります。
一部では、遺伝的素因や結合組織疾患(マルファン症候群、エーラス・ダンロス症候群など)との関連も指摘されていますが、一般的には後天性の加齢性変化としてとらえられています。

十二指腸憩室の症状は?

多くの十二指腸憩室は無症状で経過しますが、約10~20%の患者で何らかの症状が出現するとされています。もっとも一般的な症状は、上腹部の不快感や膨満感、軽度の消化不良です。これは憩室による腸管の通過障害や、内容物の滞留によって起こると考えられています。
より進行すると、吐き気、嘔吐、背部痛、腹痛などの症状がみられ、特に食後に増強する傾向があります。これらの症状は非特異的であり、他の消化器疾患(胃炎、胆嚢炎、膵炎など)と鑑別が必要です。
憩室内に内容物が長時間停滞すると、炎症(憩室炎)が発生することがあります。憩室炎では、持続的な腹痛や発熱、白血球増加などの炎症所見が現れ、重症化すると穿孔や腹膜炎を引き起こす可能性があります。
また、憩室に隣接する胆管や膵管が圧迫されることで、胆汁うっ滞や胆管炎、膵炎などの合併症をきたすこともあります。とくに乳頭近傍に憩室が存在する場合は、これらの合併症リスクが高くなります。
まれに、憩室内の潰瘍やびらんから出血が起こることがあり、吐血や黒色便(タール便)をきっかけに受診するケースもあります。憩室からの出血は内視鏡的に止血が可能なこともありますが、大量出血や再出血のリスクもあり注意が必要です。

十二指腸憩室の診断方法と治療方法

診断

診断には、まず上部消化管内視鏡(胃カメラ)が用いられます。十二指腸第2部〜第3部にかけて、袋状の突出が認められた場合、憩室と診断されます。内視鏡では形状だけでなく、内部に異常(びらん、潰瘍、出血など)がないかを直接観察できるため、有用な検査です。

一方、内視鏡ではすべての憩室を確認できるわけではなく、特に深部や複雑な構造の憩室は見逃されることもあります。そのため、必要に応じて以下の検査が併用されます。

  • 上部消化管造影(バリウム検査):形態や大きさを視覚的に評価
  • CTスキャン:穿孔や膿瘍形成の有無、他臓器への影響を評価
  • MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影):胆管や膵管への圧迫評価に有用

治療

症状がない憩室に対しては、基本的に治療は不要で経過観察とされます。しかし、症状がある場合や合併症を伴う場合には、治療が必要です。

  • 憩室炎の場合:抗生物質の投与、絶食・点滴治療、重症例ではドレナージや外科的切除も検討
  • 出血がある場合:内視鏡的止血(クリップ、アルゴンプラズマ凝固など)、再出血例では外科的切除
  • 胆道圧迫がある場合:内視鏡的乳頭切開術やステント留置などの処置

まれに憩室が胆道閉塞や膵炎の原因となる場合、根治的に憩室を外科的に切除する手術が選択されます。手術は開腹もしくは腹腔鏡下で行われ、周囲臓器への影響に注意しながら慎重に実施されます。

十二指腸憩室の予後について

十二指腸憩室の予後は、基本的には良好です。無症状のまま一生を終える患者も多く、偶然に発見されても特に治療を必要としないケースがほとんどです。
しかし、症状が出現したり、憩室炎や出血、胆道・膵臓系の合併症が発生した場合には、適切な対応が求められます。早期に治療を行えば、多くの症例で症状は改善し、再発も少ない傾向にあります。
一方で、再発性の憩室炎や頻回の出血例では、入院・手術を繰り返すケースもあり、患者のQOLが低下する可能性があります。特に高齢者や持病を持つ患者では、重症化した場合の回復に時間がかかることもあります。
また、胆管や膵管が圧迫された場合は、黄疸や膵炎といった重篤な状態に至ることもあるため、適切な診断と定期的なモニタリングが重要です。

十二指腸憩室の予防について

十二指腸憩室そのものの発症を完全に予防することは難しいものの、発症や進行を抑えるために腸内環境を整えることが推奨されます。便秘の予防、腹圧を上げない生活習慣の確立が予防に寄与します。

具体的には、以下のような生活習慣が効果的とされています。

  • 食物繊維を多く含むバランスの取れた食事
  • 適度な運動習慣の維持
  • 水分を十分に摂取し、便通を整える
  • 腹部に負担をかける行為(いきみ、重い物を持つなど)を避ける
  • 過度の飲酒や喫煙を控える
  • ストレス管理や十分な睡眠を確保する

また、消化器系の疾患を有する場合には、定期的な内視鏡検査を行うことで、早期の異常発見につながります。症状が軽微でも続く場合には自己判断せず、消化器内科の受診が推奨されます。

十二指腸憩室が関連する病気や合併症

十二指腸憩室は単独でも消化器症状を引き起こしますが、隣接する胆道系・膵臓系の臓器とも密接に関係しているため、さまざまな病気や合併症を引き起こす可能性があります。
とくに注意すべきは、「胆管圧迫による閉塞性黄疸」や「胆管炎」「膵炎」です。ファーター乳頭付近の憩室が胆管や膵管を物理的に圧迫することで、胆汁の流れが滞り、発熱や右上腹部痛、黄疸といった症状が出現します。
また、憩室炎により局所に膿瘍が形成されると、穿孔や腹膜炎に進展することもあります。憩室からの出血はまれですが、消化管出血の原因となることがあり、高齢者では貧血の一因ともなりえます。
一部では、長期にわたる憩室の炎症が周囲組織との癒着や瘢痕を形成し、十二指腸狭窄の原因となることもあります。これにより消化管通過障害が起こり、持続的な嘔吐や体重減少に発展することもあります。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

 日本消化器病学会「消化管憩室症診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/guideline)

 MSDマニュアル プロフェッショナル版「十二指腸憩室」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)

日本内科学会「十二指腸疾患の診療指針」(https://www.naika.or.jp/)

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/06/20
  • 更新日:2025/06/20

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