聴神経腫瘍ちょうしんけいしゅよう
聴神経腫瘍は、耳から脳へ音やバランス情報を運ぶ神経にできる良性の腫瘍です。ゆっくり大きくなることが多く、片方の耳の聞こえにくさ・耳鳴り・ふらつきなどが主な症状です。早めに耳鼻咽喉科や脳神経外科で相談することで、経過観察・手術・放射線治療など、状態に合った治療方針を選ぶことができます。
目次
⚫︎聴神経腫瘍とは?
聴神経腫瘍は、耳から脳へ「聞こえ」と「バランス」の情報を伝える神経(第8脳神経:前庭蝸牛神経)にできる腫瘍です。多くは「シュワン細胞」と呼ばれる、神経を包む細胞が増えることでできる良性腫瘍で、「聴神経鞘腫」「前庭神経鞘腫」とも呼ばれます。
腫瘍自体は「がん」のように全身へ転移する性質はほとんどありませんが、頭の中の限られたスペースでゆっくり大きくなり、聴神経やバランスの神経、小脳や脳幹(生命維持に大切な部分)を圧迫することで、さまざまな症状を引き起こします。
多くは中年以降(30〜60歳代)に片側の耳に生じます。ごく一部は遺伝性の病気(神経線維腫症2型:NF2)の一部として、両側の聴神経に腫瘍ができることもあります。
⚫︎聴神経腫瘍の原因
聴神経腫瘍のはっきりした原因は、まだわかっていません。現時点で分かっているポイントをまとめると、次のようになります。
多くは「偶然」に起こる良性腫瘍
→ 特定の生活習慣や感染症が直接の原因と証明されているわけではありません。
神経線維腫症2型(NF2)
→ 遺伝子の変化が原因となる病気で、両側の聴神経腫瘍や他の脳腫瘍(髄膜腫など)が複数できることがあります。家族内に同じ病気の方がいる場合は、早めの相談が大切です。
年齢・性別
→ 成人に多く、40〜60歳代で見つかることが多いとされていますが、若年〜高齢まで幅広い年代で起こりえます。性別差は報告によりさまざまです。
なお、携帯電話の使用などとの関連が話題になることがありますが、現時点では「明確な原因」とはいえない状況です。
⚫︎聴神経腫瘍の症状は?
多くの場合、症状はゆっくり進行し、最初は「片側だけの軽い聞こえにくさ」から始まります。典型的な症状は次の通りです。
片側の難聴
→ 片耳だけ聞こえにくい、電話をその耳で聞き取りにくい、ことばがはっきりしない、など。
片側の耳鳴り
→ 「キーン」「ジー」などの音が、主に片方の耳で続く。
ふらつき・めまい・バランスの悪さ
→ 真っ直ぐ歩きにくい、暗いところでふらつく、階段が怖い、など。
頭痛・吐き気
→ 腫瘍が大きくなり、脳や脳脊髄液の流れを圧迫すると起こることがあります。
顔のしびれ・痛み・顔面の動かしにくさ
→ 周囲の三叉神経(顔の感覚)や顔面神経(顔を動かす神経)が圧迫されると生じます。
注意ポイント
- 「年齢のせいの難聴かな」と放置されがちですが、片側だけ進行している難聴や片耳の耳鳴りは要注意です
- めまい・ふらつきは他の耳の病気や自律神経の乱れでも起こるため、自己判断は危険です
⚫︎受診の目安
次のような症状がある場合は、早めに耳鼻咽喉科や脳神経外科の受診を検討してください。
- 片側だけの難聴や耳鳴りが数週間〜数か月続いている
- 聞こえの左右差が急に大きくなった
- ふらつき・バランスの悪さが続き、日常生活に支障が出ている
- 顔のしびれ・痛み・顔面の動かしにくさが出てきた
- 頭痛や吐き気が増え、以前より悪化している
→ まずは耳鼻咽喉科で聴力検査や前庭機能検査を受け、必要に応じて頭部MRIなどを行います。腫瘍が疑われた場合は、脳神経外科や頭頸部外科などと連携して、最適な治療方針を相談します。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
診断は、まず耳鼻咽喉科で「聴力検査」や「平衡機能検査」を行い、片側の難聴のタイプやバランスの状態を調べます。そのうえで、必要に応じてMRI(磁気共鳴画像)やCTで腫瘍の有無・大きさ・場所を詳しく評価します。小さい腫瘍はMRIでないと分かりにくいこともあります。
治療は、腫瘍の大きさ、増える速さ、症状の強さ、年齢や全身状態、残っている聴力などを総合的に考えて決めます。主な選択肢は次の3つです。
- 定期的な経過観察(MRIによるフォロー)
- 手術による腫瘍摘出
- ガンマナイフなどの定位放射線治療(ピンポイント照射)
どれが「正解」というより、「その人の状況に最も合うバランス」を専門医と一緒に考えていくイメージです。
▶︎聴神経腫瘍の診断
1)問診・診察
- いつ頃から、どのような聞こえにくさや耳鳴りがあるか
- めまい・ふらつき・頭痛・顔のしびれなどの神経症状がないか
- 家族歴(家族に同じような病気や神経線維腫症がないか)
2)耳の検査(聴力・平衡機能)
- 純音聴力検査:どの音の高さ・大きさが聞こえにくいかを調べます
- 語音明瞭度検査:言葉の聞き取りやすさを評価します
- 前庭機能検査:眼振検査や姿勢・歩行のテストなどで、バランス機能を確認します
3)画像検査
- 頭部MRI(造影MRI):聴神経腫瘍の診断の中心となる検査で、耳の奥〜小脳橋角部という場所にある腫瘍の大きさ・形・周囲との関係を詳しくみます
- CT:骨の構造や大きな腫瘍の状態の把握に用いられますが、小さい腫瘍はMRIの方が分かりやすいとされています
4)必要に応じた追加検査
- ABR(聴性脳幹反応):音に対する脳幹の反応をみて、聴神経や脳幹の機能を間接的に評価します
- 遺伝学的検査:若年発症や両側性、他の腫瘍を伴う場合には、NF2など遺伝性疾患の可能性を検討します
▶︎聴神経腫瘍の治療
A. 小さな腫瘍・症状が軽い場合(まずの方針)
経過観察(待機療法)
- 腫瘍が小さく、聴力もある程度保たれていて、症状が軽い場合には、すぐに手術せず「半年〜1年ごとのMRI」と「症状の変化のチェック」で様子を見ることがあります
- 高齢の方や、全身のご病気がある方では、負担の大きい手術よりも「経過観察」が適している場合もあります
B. 腫瘍が大きい・増大傾向がある・症状が進んでいる場合
手術による摘出
頭蓋骨を開けて腫瘍を取り除く治療です。腫瘍の大きさや場所により、さまざまなアプローチ(経中頭蓋窩法、後頭蓋窩法など)が選ばれます。
定位放射線治療(ガンマナイフなど)
手術のように切らずに、細かい放射線を一点に集めて腫瘍に照射する方法です。腫瘍を「ゼロ」にするというより、「これ以上大きくならないようにする」ことが主な目的です。
C. 回復期とその後の生活
- 片側の聴力が失われても、反対側の耳の聴力が保たれていれば日常生活は十分可能なことが多い一方で、音の方向が分かりにくい、騒がしい場所での会話がつらいなどの不便さが残ることがあります
- バランス障害は、リハビリテーション(前庭リハビリ)により少しずつ脳が適応していくことが多いです
治療法にはそれぞれ長所・短所があり、「どれが一番良いか」は腫瘍の状態と患者さんの希望によって変わります。治療前に、専門医から十分な説明を受け、納得したうえで方針を決めることが大切です。
⚫︎聴神経腫瘍の予後
聴神経腫瘍の多くは良性で、適切な時期に治療を行えば生命予後(寿命)そのものは良好とされています。一方で、聴力やバランス機能への影響は残りやすく、「命の危険を避けること」と「生活の質(QOL)をどこまで保つか」のバランスが重要です。
小さな腫瘍で長年ほとんど大きくならない例もあれば、比較的早く成長する腫瘍もあり、個人差があります。定期的な画像検査で「腫瘍の動きを見ていくこと」が、予後を左右する大切なポイントです。
手術や放射線治療後も、耳鳴りや片側難聴、軽いふらつきが続くことがあります。必要に応じて補聴器の調整、耳鳴りのカウンセリング、リハビリテーションなど、多職種でサポートしていきます。
⚫︎聴神経腫瘍の予防
現時点で、「これをすれば聴神経腫瘍を確実に防げる」という方法は分かっていません。
ただし、次のような点を意識することで、「早期発見」につなげることはできます。
- 片側だけの難聴・耳鳴りを放置しない
- めまい・ふらつきが続く場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診する
- NF2などの遺伝性疾患が疑われる家族歴がある場合は、早期に専門医に相談する
早めに受診し、必要な検査を受けることが、重い合併症を防ぐうえで大切な「予防」にあたります。
⚫︎聴神経腫瘍に関連する病気や合併症
神経線維腫症2型(NF2)
両側の聴神経腫瘍や、脳・脊髄・末梢神経に複数の腫瘍ができる遺伝性疾患です。若年で両側性の聴神経腫瘍が見つかった場合などに疑われます。
小脳・脳幹の圧迫
大きくなった腫瘍が小脳や脳幹を圧迫すると、歩行障害やふらつきの悪化、まれに生命にかかわる状態になることがあります。
顔面神経麻痺・三叉神経障害
手術前の腫瘍そのもの、あるいは治療の影響で、顔の筋肉が動かしにくい・顔がしびれるなどの症状が出ることがあります。
水頭症
腫瘍が脳脊髄液の通り道をふさぐと、頭蓋内圧が上昇し、頭痛・吐き気・意識障害などを起こすことがあります。
他の小脳橋角部腫瘍
髄膜腫や顔面神経鞘腫など、同じ場所にできる他の腫瘍との鑑別が必要になることがあります。
⚫︎まとめ
聴神経腫瘍は、ゆっくり進行する良性腫瘍で、多くの場合は時間をかけて治療方針を選ぶことができます。
片側だけの聞こえにくさや耳鳴り、ふらつきが続く場合、「年のせい」と決めつけずに早めに相談することが大切です。
現在は、経過観察・手術・放射線治療など、状況に応じた選択肢が整っており、多くの方が生活を続けながら病気と付き合うことが可能です。
不安な症状があるときは、一人で抱え込まず、耳鼻咽喉科や脳神経外科の専門医に遠慮なくご相談ください。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS「聴神経腫瘍(耳鼻咽喉科)」
(https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000560/) - clinicalsup.jp「聴神経鞘腫」
(https://clinicalsup.jp/jpoc/handout/1885/1885.html)
■ この記事を監修した医師
岩野 圭佑医師 西梅田シティクリニック
大阪大学 医学部 卒
東京大学教養学部イギリス科卒業後、株式会社DeNAで新卒採用業務、Terramotors株式会社で営業・広報・採用業務に従事。
大阪大学医学部医学科に学士編入し卒業後、兵庫県立西宮病院で初期研修を修了。
大阪市立総合医療センター、大阪大学医学部附属病院にて耳鼻咽喉科・頭頸部外科医として研修した後、大手美容内科に転職し院長として勤務。
令和7年1月、兵庫県芦屋市に『芦屋駅前皮フ科ビューティクリニック』を開設。
患者様を第一に考え、一般皮膚科・美容皮膚科のクリニックを経営するとともに、大手美容内科の院長として長年の経験を蓄積。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医時代には悪性腫瘍の手術や病棟管理を数多く担当し、現在も非常勤で救命救急科医師として医療現場で勤務。
医療機関の開業支援やM&A仲介、人材紹介といった医療ビジネスにも積極的に取り組み、医療の質とアクセス向上を目指している。
- 公開日:2026/03/31
- 更新日:2026/03/31
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