アメーバ赤痢あめーば せきり
アメーバ赤痢は、赤痢アメーバという原虫が大腸に感染して起こる病気です。粘液と血が混じった便(粘血便)や下痢、しぶり腹(何度もトイレに行きたくなる)、腹痛が特徴で、放置すると肝膿瘍(肝臓に膿がたまる病気)など命に関わる合併症を起こすことがあります。早期に診断し、専用の薬で治療すれば多くは改善が期待できます。
目次
⚫︎アメーバ赤痢とは?
アメーバ赤痢は、「赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)」という原虫(げんちゅう:1個の細胞からできた非常に小さな寄生生物)が大腸や肝臓などにすみついて起こる感染症です。
大腸に炎症を起こして下痢や粘血便を生じる「腸管アメーバ症」と、腸から血液に乗って肝臓などへ広がり、肝膿瘍(かんのうよう:膿のたまり)などを作る「腸管外アメーバ症」に分けられます。
日本では、感染症法上の「五類感染症(全数把握)」に指定されており、診断した医師は保健所に届け出る必要があります。以前は海外での感染が中心でしたが、近年は国内での性行為による感染も増えており、注意が必要な感染症のひとつです。
⚫︎アメーバ赤痢の原因
アメーバ赤痢は、赤痢アメーバの「シスト」と呼ばれる殻に包まれた形が口から入ることで感染します。
汚染された水や食べ物
下水処理が不十分な地域では、赤痢アメーバのシストが付着した水や氷、生野菜・果物などから感染することがあります。旅行先や出張先での飲食がきっかけになることがあります。
糞口(ふんこう)感染
手洗いが不十分なまま調理や食事をすると、感染者の便に含まれるシストが手や食器を介して口に入ることがあります。
性行為による感染
肛門周囲への口や手の接触を伴う性行為では、シストが口から入り込んで感染することがあります。日本では、海外渡航歴がないアメーバ赤痢の多くが、この経路と考えられています。男女問わず、性感染症の一つとしても位置づけられています。
⚫︎アメーバ赤痢の症状は?
症状は軽いものから重いものまでさまざまで、まったく症状が出ない「無症状感染」の人もいます。ここでは典型的なパターンを紹介します。
腸管アメーバ症の主な症状
粘血便(ねんけつべん)
ゼリー状の粘液と血が混じった便が出ることが多く、「いちごジャム」「いちごゼリー」のようだと表現されることがあります。
下痢
水様性〜軟らかい便が続きます。量は多くないのに何度もトイレに行くことがあります。
しぶり腹
便意が何度も起こるのに、少量しか出ず、出し切った感じがしない状態です。
腹痛・腹部不快感
下腹部の差し込むような痛みや、鈍い痛み、お腹の張り感が続くことがあります。
⚫︎受診の目安
次のような場合は、早めに消化器内科、一般内科、肛門科などへの受診を検討してください。
- 2週間以上、下痢や軟便が続いている
- 粘液や血が混じる便、いちごジャムのような便が出る
- トイレに頻回に行くのに少量しか出ず、しぶり腹が続いている
- 原因不明の体重減少やだるさが目立つ
- 発熱と右上腹部の痛み、夜間の寝汗が続く
- 海外渡航歴(特に衛生環境の悪い地域)があり、その後から上記の症状が出ている
- 肛門周囲を含む性行為のあとから、下痢や腹痛が続いている
「痔かもしれない」「一時的な胃腸炎だろう」と自己判断して市販薬のみで長期間様子をみると、診断が遅れて重症化するおそれがあります。不安なときは一度相談してみてください。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
アメーバ赤痢の診断には、問診・診察に加えて、便検査、内視鏡(大腸カメラ)、血液検査、画像検査(エコーやCT)などを組み合わせます。
治療の中心は、赤痢アメーバそのものを退治する「抗原虫薬・駆虫薬」です。整腸剤や下痢止めだけでは原因を取り除けず、むしろ症状をこじらせることがあります。特に、原因が分からないままステロイド薬などの強い抗炎症薬を使うと、急激に悪化することがあるため注意が必要です。
▶︎アメーバ赤痢の診断
1)問診・診察
- いつから、どのような便が出ているか(回数、色、粘液や血の有無)
- 発熱、体重減少、夜間の寝汗の有無
- 海外渡航歴、性行為歴、同居人やパートナーの症状などを詳しく伺います
- お腹全体の圧痛や、右上腹部の痛み、脱水の有無などを診察して、全身状態を評価します
2)便検査
- 便を顕微鏡で観察し、赤痢アメーバのシストや栄養型(動き回る形)を探します
- 一度の検査で見つからないこともあるため、数回に分けて検査することがあります
- 施設によっては、便中のアメーバ抗原や遺伝子を調べる検査も行われます
3)内視鏡検査(大腸カメラ)
- 大腸の粘膜にできた特徴的な潰瘍(火山口様のくぼみなど)を観察します
- 組織を一部採取して顕微鏡で調べることで、より確実な診断ができます
4)血液検査・画像検査
- 血液検査で炎症反応や貧血、肝機能の異常などを確認します
- アメーバ性肝膿瘍が疑われる場合は、腹部エコーやCTで肝臓の中の膿のたまりを確認します
▶︎アメーバ赤痢の治療
A. 基本方針
- 赤痢アメーバに効く薬を用いて、しっかりと病原体を退治します
- 脱水や栄養状態の悪化があれば、点滴や食事指導などで全身状態を整えます
- ほかの腸炎や炎症性腸疾患との見分けが大切で、原因がはっきりするまではステロイド薬などを安易に使わないよう慎重に治療方針を決めます
B. 抗原虫薬・駆虫薬
- メトロニダゾールなどの薬を使って、体内の赤痢アメーバを減らします。通常は1〜2週間程度の内服が行われます
- 治療後も腸管内にシストが残らないように、追加で別の薬を用いることがあります
- 薬は自己判断で中断せず、医師の指示どおりに飲み切ることが重要です
C. 入院治療が必要な場合
- 強い腹痛、高熱、大量の出血がある場合
- 肝膿瘍が疑われる、または確認されている場合
- 高齢の方、持病のある方、全身状態が悪い方では、入院して点滴治療や慎重な経過観察を行う場合があります
⚫︎アメーバ赤痢の予後
適切な薬で治療すれば、多くの方は症状が改善し、日常生活に戻ることができます。一方で、診断が遅れたり治療が不十分だったりすると、大腸の穿孔(穴が開く)や大量出血、アメーバ性肝膿瘍の破裂など、命にかかわる合併症を起こすことがあります。
まれに薬が効きにくい例もあり、その場合は治療法の見直しが必要です。症状が落ち着いたあとも、再発やシストの残存がないか確認するために、医師の指示に従って便検査や経過観察を受けることが大切です。
⚫︎アメーバ赤痢の予防
アメーバ赤痢は、日常生活の工夫や性行為の配慮で、かなりリスクを減らすことができます。
飲食物からの感染予防
- 海外(特に衛生環境が十分でない地域)では、生水や氷、生野菜・果物、生もの中心の屋台などに注意する
- 加熱された料理を選ぶ
- 飲料水は密閉されたボトル水や十分に煮沸した水を利用する
手洗いと衛生
- トイレの後、調理前後、排泄物の処理後は、石けんを使ってていねいに手を洗う
- タオルや歯ブラシ、コップ、食器の共用をできるだけ避ける
性行為に伴う予防
- 肛門周囲への口や手の接触を含む行為では、コンドームやラテックスシートなどの利用を検討する
⚫︎アメーバ赤痢に関連する病気や合併症
アメーバ赤痢が進行すると、次のような病気や合併症を起こすことがあります。
アメーバ性肝膿瘍
肝臓に膿がたまり、高熱や右上腹部痛を伴う病気です。破裂すると腹膜炎や胸膜炎を起こし、緊急の対応が必要になることがあります。
大腸の穿孔・大量出血
重い大腸炎が続くと、腸に穴が開いたり、多量の出血を起こしたりする危険があります。
肺・脳など他臓器への膿瘍
まれですが、肺や脳、皮膚などに膿瘍を形成することがあります。
他の性感染症との合併
HIV感染症や梅毒など、他の性感染症と同時に見つかることもあり、総合的な検査と管理が必要となる場合があります。
⚫︎まとめ
アメーバ赤痢は、赤痢アメーバという原虫が大腸や肝臓に感染して起こる病気で、粘血便やしぶり腹、長引く下痢が特徴です。
汚染された飲食物や性行為を通じてうつり、放置すると肝膿瘍など命にかかわる状態を引き起こすことがあります。
一方で、原因を見つけて抗原虫薬で適切に治療すれば、多くの場合改善が期待できます。
気になる症状が続くときは我慢せず、早めに医療機関に相談して、安心につなげていきましょう。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 厚生労働省「第6 五類感染症 1 アメーバ赤痢」
(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000788517.pdf) - 国立感染症研究所「アメーバ赤痢」
(https://id-info.jihs.go.jp/diseases/a/amoeba/index.html)
■ この記事を監修した医師
赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2026/03/06
- 更新日:2026/03/06
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