薬物性肝障害やくぶつせいかんしょうがい
薬物性肝障害とは、薬やサプリメントの成分によって肝臓が傷害される病気で、軽度の肝機能異常から重篤な肝炎・肝不全までさまざまな形で現れます。早期発見と原因薬剤の中止が重要であり、自己判断による薬の服用には注意が必要です。
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薬物性肝障害とは
薬物性肝障害とは、医薬品や健康食品、サプリメントなどの成分によって肝臓の細胞が障害を受け、肝機能に異常をきたす病気です。肝臓は薬物の代謝・解毒を担う臓器であるため、多くの薬剤が肝臓で処理されます。その過程で代謝産物が肝細胞に有害な影響を与えることがあります。
薬物性肝障害には、大きく「予測可能型(中毒性)」と「予測不可能型(アレルギー型や特異体質型)」があります。前者はアセトアミノフェンなどの過剰摂取で起こり、後者は少量の服用でも個人の体質により発症します。
発症は服薬直後から数週間、まれに数か月後になることもあり、気づかないうちに進行するケースもあります。自己判断で薬を飲み続けることは避け、異常を感じたら早めの受診が必要です。
原因
薬物性肝障害の原因は多岐にわたり、処方薬や市販薬、サプリメント、健康食品などさまざまな製品が肝障害を引き起こす可能性があります。
主な原因薬剤
- 解熱鎮痛薬:アセトアミノフェン、NSAIDsなど
- 抗菌薬:ペニシリン系、マクロライド系、キノロン系など
- 抗てんかん薬:フェニトイン、カルバマゼピンなど
- 抗うつ薬、抗精神病薬:セルトラリン、オランザピンなど
- 抗がん剤:メトトレキサート、チロシンキナーゼ阻害薬など
- 降圧薬・高脂血症治療薬:スタチン、ARBなど
- 漢方薬や健康食品:防風通聖散、システイン、ダイエット系サプリメントなど
発症の背景因子
- 高齢者:代謝能力の低下
- 多剤併用:薬剤同士の相互作用によるリスク上昇
- アルコール摂取:肝臓への負担を増加
- 基礎疾患:肝疾患や代謝異常を持つ人は注意が必要
原因薬剤の特定が難しいことも多く、慎重な診察と詳細な服薬歴の確認が必要です。
症状
薬物性肝障害の症状は非常に多様で、軽い倦怠感から重度の肝不全までさまざまです。初期は無症状であることも多く、検査で偶然見つかることもあります。
主な症状
- 全身倦怠感、疲れやすさ
- 食欲不振
- 吐き気、嘔吐
- 右上腹部の違和感や鈍痛
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
- 尿が濃くなる、便が白っぽくなる
- かゆみ(胆汁うっ滞が原因)
- 発熱、発疹、関節痛(アレルギー型でよく見られる)
- 意識障害(重症例、肝性脳症)
- 出血傾向(凝固因子の低下による)
自覚症状がないまま肝機能が悪化していることもあり、定期的な検査や自己観察が大切です。
診断方法と治療方法
診断
- 問診:服薬歴(市販薬・サプリも含む)、飲酒歴、家族歴、アレルギー歴を確認
- 血液検査:AST、ALT、ALP、γ-GTP、ビリルビン、アルブミン、PT-INR、好酸球増多(アレルギー型)など
- 肝機能マーカー:M2BPGi、AFPなどを参考にすることも
- 画像検査:腹部エコーやCTで肝腫大、脂肪変性、胆汁うっ滞などの有無を確認
- 肝生検(必要時):病態の鑑別や重症度の評価に役立つ
- 薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST):一部のアレルギー型に有用だが確定診断には至らない
治療
- 原因薬剤の中止:最も重要であり、早期中止により多くは改善
- 対症療法:吐き気、かゆみ、発熱などに対して支持療法を行う
- 入院管理(中等度以上):点滴や肝保護薬の投与、安静の確保
- 重症例ではステロイド治療が行われることもある
- 肝不全例では血液浄化療法や肝移植が検討されることもある
原因薬剤の特定と速やかな中止が、予後を大きく左右します。
予後
薬物性肝障害の予後は、原因薬剤の早期中止と重症度によって大きく異なります。軽度であれば数週間以内に肝機能が正常に戻ることが多いですが、重症例では命に関わる可能性もあります。
予後が良好な場合
- 軽度の肝機能異常にとどまり、薬剤中止後に速やかに改善
- 早期に医療機関を受診し、診断・治療が開始された場合
- 若年者や基礎疾患がない場合
予後が悪化するケース
- 薬剤の継続により肝障害が進行した
- 中止が遅れた場合や、多剤併用で特定が困難だった場合
- 重度の肝炎型、胆汁うっ滞型、劇症肝炎型(肝性脳症や出血傾向を伴う)
- 高齢者、既往に肝疾患のある人、アルコール摂取がある人
定期的なフォローアップと自己判断での薬の使用回避が再発防止につながります。
予防
薬物性肝障害は誰にでも起こり得るため、予防には薬の正しい使用と自己管理が欠かせません。特に市販薬やサプリメントの使用には注意が必要です。
予防策
- 用法・用量を守る:医師・薬剤師の指示通りに服用する
- 不要な薬を飲まない:同じ成分を含む複数の薬を併用しない
- 市販薬・サプリの長期使用を避ける:特に肝代謝に影響を与えるもの
- 飲酒と併用しない:アルコールは肝機能に負担をかけ、薬物の影響を増強する
- 服薬中に体調不良があれば中止して受診する
- 肝疾患の既往がある人は医師に申告する
薬の安全性は使用方法に大きく依存しているため、自己判断ではなく専門家の助言を得ることが大切です。
関連する病気や合併症
薬物性肝障害は、肝機能の低下により全身に影響を及ぼし、以下のような病態や合併症を引き起こす可能性があります。
関連疾患・病態
- 薬剤性肝炎:ALTやASTの著明な上昇と肝細胞壊死を伴う
- 胆汁うっ滞型肝障害:ALP・γ-GTPの上昇と強いかゆみを特徴とする
- 肝性脳症:重症時に意識障害や精神症状を呈する
- 劇症肝炎:急速に肝不全へ進行する致死的な経過をとることがある
- 自己免疫性肝炎類似:免疫応答によって慢性肝炎のような経過をとる場合がある
肝外への影響
- 薬疹、関節炎、発熱:薬剤アレルギーの一環として発症
- 腎障害、膵炎:全身性薬剤反応の一環として合併することがある
- 再発性肝障害:原因薬剤に再び曝露すると同様の肝障害を繰り返す
これらのリスクを避けるためにも、薬剤使用時には慎重な管理と観察が求められます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本肝臓学会「薬物性肝障害診療ガイドライン」(https://www.jsh.or.jp/)
厚生労働省e-ヘルスネット「薬物性肝障害」(https://kennet.mhlw.go.jp/home)
国立国際医療研究センター「肝障害と薬の関係」(https://www.ncgm.go.jp/)
日本消化器病学会「薬剤性肝障害とその対応」(https://www.jsge.or.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/16
- 更新日:2025/07/16
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