非アルコール性脂肪肝炎(NASH)ひあるこーるせいしぼうかんえん

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、飲酒が原因でない脂肪肝(NAFLD)のうち、肝臓に炎症や線維化が進行する重症型です。放置すると肝硬変や肝がんに至る可能性があるため、早期の診断と生活習慣の改善が重要です。

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)とは

NASH(ナッシュ)は、「非アルコール性脂肪肝炎(Non-Alcoholic Steatohepatitis)」の略で、アルコールを原因としない脂肪肝(NAFLD:非アルコール性脂肪性肝疾患)の中でも、肝臓に脂肪の蓄積だけでなく炎症や肝細胞の破壊、線維化が起きている進行型の病態を指します。

NASHは初期段階では単純な脂肪肝(NAFL)と区別がつきにくく、自覚症状も乏しいため見逃されがちですが、進行すると肝硬変や肝がんの原因となることがあります。世界的にもNASH患者は増加しており、特に先進国においては肝移植の原因疾患の一つにもなっています。

日本でも近年、肥満や生活習慣病の増加に伴い、NASHの有病率が上昇しています。診断には画像検査や血液検査だけでは不十分で、必要に応じて肝生検による確定診断が行われます。

原因

NASHは、過剰な脂肪が肝臓にたまり、それに続いて炎症や細胞障害、線維化が引き起こされることで発症します。飲酒量が少ない(男性で1日30g未満、女性で20g未満)にもかかわらず発症することが特徴です。

主な原因・危険因子

  • 肥満(特に内臓脂肪型肥満)
  • 2型糖尿病
  • 脂質異常症(高LDLコレステロール、高中性脂肪)
  • 高血圧
  • インスリン抵抗性:糖や脂肪の代謝が障害され、肝臓に脂肪がたまりやすくなる
  • 運動不足
  • 栄養バランスの乱れ(過剰な糖質・脂質摂取)
  • ストレスや睡眠障害
  • 遺伝的体質:家族歴のある人はリスクが高い

こうした因子が複合的に重なることで、単なる脂肪肝がNASHへと進行します。生活習慣の影響が大きいため、「現代病」ともいわれています。

症状

NASHは初期段階では自覚症状がほとんどなく、多くは健診で肝機能異常を指摘されて発見されます。症状が出る頃にはすでに病気が進行していることもあります。

初期段階

  • 無症状:肝臓には神経がないため、炎症があっても自覚がない
  • 倦怠感、疲れやすさ
  • 右上腹部の重さや違和感
  • 食欲不振、軽い吐き気

進行時(線維化・肝硬変への移行期)

  • 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
  • かゆみ:胆汁の流れが悪くなることで生じる
  • 腹部膨満感:腹水の貯留による
  • 下肢のむくみ
  • 体重減少
  • 意識障害(肝性脳症):重度の場合

NASHは進行性の疾患であり、肝硬変や肝がんが発症するまで気づかれにくいため、肝機能異常が続く場合は注意が必要です。

診断方法と治療方法

診断

  • 問診:飲酒歴、体重変化、生活習慣、糖尿病や脂質異常の有無を確認
  • 血液検査:AST、ALT、γ-GTP、LDH、ALP、血糖、脂質、炎症マーカー(Ferritin、HOMA-IR)など
  • 腹部超音波検査(エコー):脂肪沈着の評価
  • FibroScan(振動式エラストグラフィー):肝の硬さ(線維化)を非侵襲的に評価
  • MRI・CT検査:肝臓の脂肪量や腫瘍の有無を確認
  • 肝生検:確定診断には肝臓の組織を採取して炎症や線維化を直接評価。現在のところNASH診断のゴールドスタンダード

治療

  • 生活習慣の改善が基本
     - 減量:体重の7〜10%減で肝機能改善が期待できる
     - 食事療法:糖質と脂質を抑えたバランスの取れた食事
     - 運動療法:ウォーキングや筋トレなど、週150分程度の運動
  • 薬物療法(必要に応じて)
     - インスリン抵抗性改善薬(ピオグリタゾンなど)
     - 抗酸化薬(ビタミンE)
     - 糖尿病や高脂血症、高血圧の合併症管理

定期的な検査による経過観察も治療の一環です。

予後

NASHは進行性の疾患であり、経過に注意が必要です。早期に発見し、生活習慣を改善することで進行を食い止めることができます。

予後が良好なケース

  • 体重減少と運動習慣の確立により肝酵素や画像所見が改善
  • 糖尿病や脂質異常、高血圧などの併存疾患がコントロールされている
  • 肝線維化が軽度の段階で発見された場合

進行リスクが高いケース

  • 長年にわたって肝機能異常が続いている
  • 肝線維化が進んでいる(F3~F4:肝硬変)
  • 糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームが重度
  • 喫煙や過度のストレス、睡眠障害なども悪化因子

NASHの20~30%は肝硬変に進行し、さらに一部が肝がんを発症するとされます。予後を左右するのは「生活改善を継続できるか」にかかっています。

予防

NASHは生活習慣によって発症・進行することが多いため、日常的な予防行動が極めて重要です。

体重・代謝管理

  • BMIを適正に保つ(25未満が目安)
  • 内臓脂肪型肥満を避ける(ウエスト周囲径の管理)
  • インスリン抵抗性を改善する食事と運動を心がける

食事内容の見直し

  • 糖質と脂質を控えめにし、野菜・魚・大豆製品中心の食事へ
  • 果糖ブドウ糖液糖を多く含む清涼飲料水の摂取を控える
  • 早食いやドカ食いを避け、規則正しく3食を摂る

運動習慣の確立

  • 1日30分程度の有酸素運動を週5日以上継続
  • 筋肉量の維持に向けた軽い筋力トレーニングも有効

その他の予防策

  • ストレスをためない、睡眠時間を確保する
  • 糖尿病や脂質異常症、高血圧の管理を怠らない
  • 年1回以上の健康診断・血液検査を受ける

これらを複合的に継続することが、NASHの発症と進行の予防につながります。

関連する病気や合併症

NASHは肝臓だけの病気にとどまらず、全身の代謝や循環器にも深く関わる疾患であり、以下のような合併症に注意が必要です。

肝臓の進行性疾患

  • 肝線維化:肝細胞が破壊され、線維組織に置き換わる
  • 肝硬変:肝臓の構造が破壊され、再生が不可能な状態
  • 肝がん(肝細胞がん):NASH由来の肝がんが増加傾向にある

生活習慣病との関連

  • 2型糖尿病:インスリン抵抗性が悪化
  • 高脂血症、高血圧:動脈硬化や心血管疾患のリスク上昇
  • メタボリックシンドローム:複数のリスク因子を併存

その他

  • 心血管疾患:心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクが高まる
  • 睡眠時無呼吸症候群:肥満を伴う場合に高頻度で合併
  • 骨粗鬆症:慢性肝疾患によるカルシウム代謝異常が関与

NASHは全身疾患の一部と捉え、早期発見・全人的管理が求められます。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

日本肝臓学会「NAFLD/NASH診療ガイドライン」(https://www.jsh.or.jp/)

厚生労働省e-ヘルスネット「非アルコール性脂肪肝炎」(https://kennet.mhlw.go.jp/home)

国立国際医療研究センター「NASHの診断と治療」(https://www.ncgm.go.jp/)

日本消化器病学会「脂肪性肝疾患」(https://www.jsge.or.jp/)

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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