ダンピング症候群だんぴんぐしょうこうぐん
ダンピング症候群は、胃の手術後に食後の急激な血流変化や低血糖により動悸やめまい、下痢などが起こる状態です。発症時期により「早期型」と「後期型」に分類され、いずれも日常生活に影響を与えることがあります。治療は主に食事療法と生活習慣の調整で、重症例では薬物治療が検討されます。
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ダンピング症候群とは?
ダンピング症候群とは、胃の手術(胃切除や胃の再建術)を受けた人に起こる消化器・循環器症状を中心とした一連の後遺症のことです。
食事を摂ったあとに、未消化の食物や糖質が急速に小腸へ流れ込むことで、体内の血流やホルモン分泌、血糖調節が急激に変化し、不快な症状が現れます。
発症時期により2つに分類されます。
- 早期ダンピング症候群:食後30分以内に発症。動悸、冷や汗、腹痛、下痢、顔面蒼白など。
- 後期ダンピング症候群:食後1〜3時間後に発症。インスリンの過剰分泌による低血糖症状(ふらつき、震え、強い空腹感、意識低下など)。
胃が本来持つ「食物を一時的にため、少しずつ送り出す機能」が失われることが原因で、小腸への急激な負荷が生じる病態です。
原因
主な原因は「胃の構造が手術で変化したこと」にあります。胃の切除や再建によって、胃の貯留機能が低下し、食物が未消化のまま急速に小腸に流れ込むようになります。
早期ダンピングでは、浸透圧の高い内容物が急に小腸に入り、腸内に水分が引き込まれることで血液量が一時的に減少し、動悸、めまい、腹痛、下痢などが生じます。
後期ダンピングは、急激に吸収された糖質に対してインスリンが過剰に分泌されることで低血糖を引き起こすものです。特に甘いものを多く摂ったあとに起こりやすいです。
発生しやすい背景としては以下があります。
- 胃の全摘または大部分を切除
- ルーワイ法などの再建術後
- 胃の通過が早くなるような手術
- 食事内容の偏り(糖質中心、早食い)
ダンピングは手術直後に起こることもありますが、数ヶ月から数年後に発症することもあり、注意が必要です。
症状
【早期ダンピング症候群(食後30分以内)】
- 動悸
- 冷や汗
- 顔面蒼白
- 下腹部痛、腹鳴
- 下痢
- めまい、ふらつき
- 悪心、吐き気
- 全身倦怠感
【後期ダンピング症候群(食後1〜3時間後)】
- 手の震え
- 強い空腹感
- 集中力の低下
- ふらつき、失神
- 意識障害(重症時)
- 頭痛、眠気
早期型は循環動態の急激な変化が中心であり、食後に急激に体調が悪化するのが特徴です。後期型は低血糖による症状が主体で、糖分を摂ることで一時的に改善するものの、再発しやすい傾向にあります。
いずれも食事との関連が明確で、少量・頻回の食事にすることで症状の予防が可能になる場合があります。
診断方法と治療方法
診断
診断は、患者の手術歴と症状から行われます。胃切除や再建術の既往があり、食後に特徴的な症状を繰り返している場合には、ダンピング症候群が強く疑われます。
【検査】
- 75g経口ブドウ糖負荷試験:後期ダンピング(低血糖)を確認するために行う
- 血糖値モニタリング:発作時の血糖変動を把握する
- 心電図や血圧測定:循環動態の変化を記録
- 栄養評価、血液検査:貧血、低タンパク、ビタミン欠乏の確認
治療
【食事療法】
- 1日5〜6回の少量頻回食
- 食事の内容は糖質を控え、たんぱく質と脂質を適度に含める
- 食後30分は安静にし、急な立ち上がりや運動を避ける
- 甘い飲み物、ジュース、炭水化物の多い食品を控える
【薬物療法】
- 後期ダンピングにはα-グルコシダーゼ阻害薬(糖の吸収を遅らせる薬)
- 整腸剤や制吐薬
- 必要に応じて鉄剤、ビタミンB12、カルシウムの補充
症状の重さに応じて内科、栄養士、心理士など多職種連携が重要です。
予後
ダンピング症候群は、食事や生活習慣の見直しによって多くの場合で症状のコントロールが可能です。特に術後早期から食事指導が適切に行われていれば、重症化を防ぐことができます。
早期型は手術後しばらくして自然と軽快することが多い一方、後期型は低血糖を伴うため、再発リスクや転倒・意識消失などによる事故のリスクがあります。
慢性化すると食事への恐怖感や拒食、栄養不足、体重減少などにつながり、生活の質(QOL)が著しく低下することもあります。
適切な管理を続けることで、症状は徐々に改善し、日常生活への支障が減少することが期待されますが、年単位でのフォローが必要な場合もあります。
重症例では、薬物治療や栄養管理、必要に応じて再建術の見直しなど、専門的な介入が必要になります。
予防
ダンピング症候群の予防には、術後の食事のとり方が極めて重要です。胃切除を受けた患者に対しては、退院前から栄養士による食事指導が行われることが望まれます。
【予防的食事法】
- 食事回数を5〜6回に分け、1回量を少なめにする
- 甘い食品や炭水化物を控えめにする
- よく噛んでゆっくり食べる
- 食後30分は横にならず、安静を保つ
- 水分は食事と分けてとる(食事中の水分は少なめに)
また、退院後も体重の変化や症状日誌をつけることで、再発や悪化の兆候を早期に把握できます。
糖質中心の食事は後期ダンピングの誘因となるため、炭水化物とタンパク質、脂質のバランスを重視した献立が推奨されます。
医療機関での定期的な栄養相談や、地域の支援体制の活用も予防と管理に有効です。
関連する病気や合併症
ダンピング症候群は、胃の手術後に生じる「胃切除後症候群」の一部と位置づけられます。とくに胃全摘や広範な幽門側切除を行った患者で発症率が高くなります。
主な合併症には以下のようなものがあります。
- 鉄欠乏性貧血(鉄吸収の障害)
- ビタミンB12欠乏(内因子不足による)
- 低血糖発作(後期ダンピング)
- 骨粗鬆症(カルシウム・ビタミンD吸収障害)
- 栄養障害(たんぱく質・脂質の吸収不良)
- 消化不良・脂肪便
- 社会的孤立(食事への恐怖、不安)
また、頻繁なダンピング症状により心理的なストレスや抑うつ状態がみられることもあります。医師だけでなく、管理栄養士、精神科医、看護師など多職種による包括的な支援が不可欠です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本胃癌学会「胃切除後の栄養管理とダンピング症候群」(https://www.jgca.jp/)
国立がん研究センター「胃手術後の生活と合併症」(https://ganjoho.jp/)
日本消化器病学会「術後障害とその対策」(https://www.jsge.or.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/08
- 更新日:2025/07/09
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