胃切除後症候群いせつじょしょうこうぐん

胃切除後症候群は、胃がんや潰瘍などで胃を部分的または全部切除した後に起こるさまざまな不調を指します。主に食後に現れる動悸やめまい、下痢などの「ダンピング症状」をはじめ、栄養吸収障害や貧血も見られます。手術後の食事指導と長期的なフォローが予後を左右するため、医療チームによる包括的支援が必要です。

胃切除後症候群とは?

胃切除後症候群とは、胃の一部または全部を切除した後に生じる一連の後遺症的な症状や体調不良の総称です。手術自体は成功していても、その後に起こる消化・吸収機能の低下や体内環境の変化により、さまざまな不定愁訴が現れます。

主に胃がん、胃潰瘍、GIST(消化管間質腫瘍)などの手術後に見られ、手術方法(幽門側切除、胃全摘、再建法の違い)や残胃の大きさにより症状の出方や程度が異なります。

代表的な症状に「ダンピング症候群」があり、食後すぐに動悸、めまい、下痢などの症状が出る早期型と、食後1~3時間後に低血糖を起こす後期型があります。

また、貧血、体重減少、栄養失調、腸管運動異常など多彩な症状が現れるため、術後の長期的な管理と食事療法が欠かせません。

原因

この症候群の原因は、胃切除により消化・吸収機能が急激に変化することによります。胃は食物の貯留、分解、少しずつ小腸へ送る役割を持っていますが、その機能が失われると以下のような変化が起こります。

  • 食べ物が急激に小腸へ流れ込む(ダンピング)
  • 胃酸や消化酵素の分泌量減少による消化不良
  • ビタミンB12や鉄、カルシウムなどの吸収低下
  • 術後の胃の大きさ縮小により摂取量が減少
  • 腸内の浸透圧変化による下痢や腹痛

再建法(ビルロートI、ビルロートII、ルーワイ法など)の違いにより、症状の出やすさが異なることも知られています。

また、手術によって迷走神経が切断されると、胃腸の動きやホルモン分泌に影響を及ぼし、食後の不快感や排便異常などが起こりやすくなります。

時間の経過とともに改善する症状もありますが、慢性化する場合もあり、個別対応が必要です。

症状

胃切除後に見られる代表的な症状には、以下のようなものがあります。

  • ダンピング症状(早期型):食後すぐに起こる動悸、めまい、冷や汗、腹痛、下痢
  • ダンピング症状(後期型):食後1~3時間後に起こる低血糖によるふらつき、動悸、手の震え、強い空腹感
  • 胃もたれ、食欲不振、膨満感、食後の不快感
  • 便通異常(下痢または便秘)
  • 体重減少
  • 貧血(鉄欠乏性、ビタミンB12欠乏性)
  • 骨粗鬆症(カルシウム・ビタミンDの吸収障害)

症状は手術の内容や再建法、患者の体質によって異なりますが、複数の症状が同時に現れることが多く、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。

特に、後期ダンピングでは低血糖症状が突然現れることがあるため、対処法の理解と準備が必要です。

診断方法と治療方法

診断

診断は、患者の症状と手術歴から総合的に行われます。明確な診断基準があるわけではありませんが、以下の手順で確認されます。

  • 問診:症状のタイミング、頻度、食事との関係
  • 身体診察と体重変化の把握
  • 血液検査:貧血、低血糖、栄養状態の確認
  • 75g経口ブドウ糖負荷試験:後期ダンピング症状の確認に有用
  • 内視鏡や画像検査:再発や狭窄、再建部位の確認

治療

治療の基本は「食事療法」です。食後症状を防ぐための指導として、以下のような方法がとられます。

  • 1回の食事量を減らし、1日5~6回に分けて食べる
  • 糖質の多い食べ物を避ける(後期ダンピング予防)
  • 食後はしばらく横にならず、ゆっくりと休む
  • よく噛んで食べる
  • たんぱく質と食物繊維を意識的に摂る

必要に応じて薬物療法(制吐薬、消化管運動改善薬、血糖調整薬)や栄養補助食品の導入、ビタミンB12の補充(注射など)も行われます。

予後

胃切除後症候群は、多くの患者で手術後1~2年のうちに症状が安定することが期待されます。食事内容や生活リズムが整えば、徐々に日常生活に支障がなくなるケースも多く見られます。

一方で、ダンピング症状や栄養障害が強い場合には、長期にわたって治療と観察が必要です。特に後期ダンピングやビタミン・鉄欠乏性貧血などは、数年単位で継続的な管理が求められます。

術後すぐは体重が急激に減ることもありますが、徐々に摂取量や栄養バランスが整うことで安定していく傾向があります。適切なフォローを受ければ、仕事や家庭生活を問題なく継続できる人も多いです。

医師、栄養士、看護師など多職種によるサポートを受けながら、患者自身も自己管理を意識することで、長期予後は良好に保てる可能性が高まります。

予防

胃切除そのものを予防することは難しいですが、術後にこの症候群を防ぐためには、適切な生活管理と医療支援が重要です。

  • 術後早期からの食事指導:退院前後に栄養士の指導を受け、食事の回数・内容・量を調整する
  • 体重や症状の記録:毎日の体重変化や症状を記録し、早期対応につなげる
  • 鉄、ビタミン、カルシウムの補給:不足しやすい栄養素を積極的に補う
  • 定期検査:血液検査や内視鏡、画像診断で再発や合併症を早期発見
  • 運動:筋力維持や消化機能促進に役立つ軽い運動を継続する

また、退院後に孤立しないよう、地域の医療・介護・支援制度を活用しながらフォロー体制を整えることも予防につながります。

体調の変化に気づいたら、すぐに医療機関に相談することが、合併症や長期的悪化を防ぐポイントです。

関連する病気や合併症

胃切除後症候群は、他の消化器疾患や代謝異常とも関係しやすく、次のような病気や合併症を伴うことがあります。

  • ダンピング症候群(早期・後期)
  • 鉄欠乏性貧血(鉄の吸収低下)
  • ビタミンB12欠乏症(内因子の欠如による)
  • 骨粗鬆症(カルシウム・ビタミンD不足)
  • 胆石症(術後の胆嚢運動低下による)
  • 消化不良、脂肪便(膵酵素不足を伴うことあり)
  • 低血糖(特に後期ダンピングで顕著)
  • うつ状態、不安障害(長期的なQOL低下による)

また、再建部位での狭窄や逆流、腸閉塞といった外科的合併症が発生することもあります。精神面への影響も軽視できず、倦怠感や無気力、社会活動への参加制限が見られることもあります。

このため、身体・精神の両面からの包括的な支援と長期的なフォロー体制が必要です。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

オンライン診療を受ける

クラウドドクターは24時間365日対応。

現在の待ち時間

3

クラウドドクターの
オンライン診療

クラウドドクターのオンライン診療

クラウドドクターでは、問診内容を元に全国から適したドクターがマッチングされ、あなたの診療を行います。診療からお薬の処方までビデオ通話で受けられるため、お忙しい方にもおすすめです。

  • 24時間365日
    いつでも診療OK
  • 保険診療が
    ご利用可能
  • お近くの薬局やご自宅で
    お薬の受取り可能

■ 参考・出典

日本胃癌学会「胃切除後症候群診療ガイドライン」(https://www.jgca.jp/)

国立がん研究センター「胃がん術後の生活と合併症」(https://ganjoho.jp/)

日本消化器病学会「胃の再建と術後管理」(https://www.jsge.or.jp/)

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/08
  • 更新日:2025/07/09

即時、あなたに適した
ドクターをマッチング

現在の待ち時間

3