肺動脈狭窄はいどうみゃくきょうさく

肺動脈狭窄は、肺動脈が先天的または後天的に狭くなることで、血流が制限され右心系に負担をかける疾患です。乳児期から小児期に多く発見され、チアノーゼや呼吸困難が生じることもあります。重症例ではカテーテル治療や手術が必要です。

肺動脈狭窄

肺動脈狭窄とは?

肺動脈狭窄とは、心臓から肺へ血液を送る肺動脈が何らかの原因で狭くなっている状態を指し、血流が妨げられることで右心室に過剰な負荷がかかる疾患です。血液は右心室から肺動脈を通じて肺に送られ、酸素化された後に全身へ供給されますが、この経路に狭窄があると、肺への血流が制限されます。

この疾患は先天性心疾患の一種として知られ、生まれつき肺動脈の弁(肺動脈弁)やその直下、もしくは枝分かれした部分に狭窄があることが多いです。中でも「肺動脈弁狭窄症」が最も一般的で、全体の先天性心疾患の約5〜10%を占めます。

肺動脈狭窄があると、右心室は血液を肺に送るために強く収縮する必要があり、その結果、右心室肥大や右心不全が進行することがあります。軽度の狭窄では無症状のこともありますが、重症例では呼吸困難、チアノーゼ、成長障害などが現れます。

乳児期や小児期に心雑音から発見されることが多く、定期的な心エコー検査により早期診断と治療が可能です。治療には、経皮的バルーン拡張術や外科的弁形成術などが用いられます。

原因

肺動脈狭窄の原因は、大きく先天性と後天性に分けられますが、多くは先天性です。

先天性の原因

  • 肺動脈弁狭窄症:弁の弁尖が肥厚、癒合していて開きが悪い
  • 弁下狭窄:右心室から肺動脈弁に至る流出路が狭くなる
  • 弁上狭窄:肺動脈幹や分枝部分が狭くなる
  • 弁そのものの形成異常(単弁、二弁、無弁)
  • 他の先天性心疾患との合併(ファロー四徴症、Noonan症候群など)

これらは胎児期の心臓形成異常によるもので、出生後の新生児期や乳児期に発見されることが多くなっています。

後天性の原因(まれ)

  • 心内膜炎後の瘢痕形成
  • リウマチ性心疾患や外傷による弁障害
  • 外科手術やカテーテル手技後の瘢痕や再狭窄
  • 肺高血圧症の長期進行に伴う血管変性

遺伝的要因

  • 家族内発症がみられる例や、染色体異常を伴う症候群(Noonan症候群、Williams症候群など)では発症率が高くなることがあります

肺動脈狭窄があると、肺循環が制限され、全身への酸素供給が不十分になります。これにより心肺機能への影響が徐々に顕在化していきます。原因によっては、他の先天性心疾患と併存している場合もあるため、総合的な診断が重要です。

症状

肺動脈狭窄の症状は、狭窄の重症度と患者の年齢により異なります。軽症では無症状のこともありますが、重症例では乳児期から明らかな症状を伴うことがあります。

軽度狭窄の症状

  • 無症状で経過することが多い
  • 健診などで心雑音を契機に発見される場合が多い

中等度〜重度狭窄の症状

  • 労作時の息切れ、動悸:心拍出量が不十分で、軽い運動でも症状が出現
  • 倦怠感、易疲労感:血液の酸素運搬効率が低下するため
  • チアノーゼ(唇や爪の先が紫色):肺への血流不足による低酸素血症
  • 胸痛:右心室にかかる負荷が高くなることで心筋虚血が生じる可能性
  • 浮腫:右心不全が進行した場合、下肢や顔面に浮腫がみられることがある
  • 心雑音:胸骨左縁での収縮期雑音が特徴的

乳児・小児期に特徴的な症状

  • 哺乳不良:呼吸にエネルギーを要するため、飲む力が弱くなる
  • 発育不良:酸素供給不足が原因で身長・体重の増加が遅れる
  • 夜間呼吸困難、頻呼吸:重症例では心不全様の症状が出現

新生児・乳児に見られる所見

  • 哺乳時のチアノーゼ、呼吸促迫
  • 体重増加不良、泣きが弱い
  • 意識レベルの変化:極めて重症な場合、意識消失やけいれんを伴うことがある

これらの症状は、成長に伴って変化する可能性があるため、長期的なフォローと画像診断によるモニタリングが必要です。

診断方法と治療方法

診断

  1. 問診と身体診察
    ・症状の有無、発症時期、心雑音の聴取を行う
  2. 聴診
    ・胸骨左縁第2肋間での収縮期雑音が典型的
    ・雑音の強さと持続時間は狭窄の程度に一致しないこともある
  3. 胸部X線検査
    ・軽度では正常こともあるが、重度では右心室肥大や肺血流の減少像が見られる
  4. 心電図
    ・右室肥大の所見(右軸偏位、V1誘導でR波増大など)
    ・心房負荷や不整脈の評価
  5. 心エコー(超音波検査)
    ・肺動脈弁の構造、狭窄部位の可視化
    ・血流速度の計測による圧較差の推定(ドップラー法)
    ・右心系の肥大や機能評価
  6. 心臓カテーテル検査
    ・正確な圧較差の測定が可能
    ・造影により解剖学的評価を行い、狭窄の位置や長さを把握

治療

  1. 軽症の場合
    ・無症状かつ圧較差が小さい場合は経過観察
    ・定期的な心エコーで狭窄の進行を評価
  2. カテーテル治療(経皮的バルーン肺動脈弁形成術)
    ・狭窄部にバルーンカテーテルを挿入し、拡張して血流を改善
    ・特に弁性狭窄で有効。再狭窄の可能性もあるため、長期フォローが必要
  3. 外科手術
    ・バルーン治療が難しい場合や再狭窄例では外科的治療が行われる
    ・弁形成術、弁置換術、狭窄部の切除と再建などがある
    ・複雑心奇形との合併がある場合は根治術が必要
  4. 内科的管理
    ・心不全症状がある場合は、利尿薬やACE阻害薬などの薬物治療が行われる
    ・感染性心内膜炎予防のための抗菌薬投与(ハイリスク例)

治療は患者の年齢、重症度、解剖学的構造に応じて選択されます。

予後

肺動脈狭窄の予後は、狭窄の程度、治療時期、合併症の有無によって大きく左右されます。早期に診断・治療された場合、良好な長期予後が期待されます。

予後良好の例

  • 軽症で無症状のまま経過する症例
  • 乳幼児期にバルーン形成術が成功した症例
  • 単独性の肺動脈弁狭窄で外科治療後に再狭窄のない場合

注意が必要な例

  • 中等度〜重度で右心負荷が強い場合
  • 複雑な先天性心疾患との合併例(ファロー四徴症など)
  • 外科治療後の再狭窄や右心機能低下の残存

長期的なリスク

  • 右心不全、心房細動などの不整脈
  • 肺高血圧の進行
  • 成長期における再治療の必要性

QOLへの影響

  • 運動制限、学業や社会活動への影響が出ることがある
  • 治療成功後は、ほとんどの患者が通常の生活を送れる

フォローアップ

  • 術後・処置後も長期的な心エコーと心電図のフォローが必要
  • 感染性心内膜炎予防の観点からも定期通院が推奨される

現代の医療では多くの症例で良好な予後が期待でき、成長・発達への影響も最小限にとどめることが可能です。

予防

肺動脈狭窄の予防は、先天性疾患であることが多いため、発症自体を完全に防ぐことは困難です。しかし、進行を防ぐための二次予防と、合併症対策は可能です。

一次予防(発症予防)

  • 特発性の予防は難しいが、妊娠中の母体の健康管理(葉酸摂取、感染予防)が先天性心疾患のリスクを下げる可能性あり

二次予防(進行・合併症予防)

  • 定期的な健診や新生児スクリーニングによる早期発見
  • 心雑音の精査、家族歴の確認による高リスク児の早期診断

治療後の再発・再狭窄の予防

  • 心エコーによる定期的フォローアップ
  • 運動制限の要否を適切に判断
  • 心不全症状や不整脈への早期対応

感染予防

  • 感染性心内膜炎の予防(歯科治療時の抗菌薬投与など)
  • 呼吸器感染症の予防(インフルエンザ・肺炎球菌ワクチン)

生活指導

  • 家族や教育機関への疾患理解の共有
  • 心理的支援や社会的なサポートも含めた包括的ケア

早期診断と適切な医療連携が、病状の安定と生活の質の向上につながります。

関連する病気や合併症

肺動脈狭窄は単独で存在する場合もありますが、多くの症例で他の心疾患や全身性疾患と関連しています。以下に代表的な関連疾患と合併症を示します。

先天性心疾患との関連

  • ファロー四徴症
  • 心室中隔欠損症(VSD)
  • 大動脈転位、肺動脈閉鎖症
  • Noonan症候群、Williams症候群などの染色体異常を伴う疾患

心臓への合併症

  • 右心室肥大
  • 右心不全(末梢浮腫、肝腫大)
  • 不整脈(心房性・心室性)
  • 心房中隔開存(PFO)や卵円孔開存による右左シャント

血行動態の異常

  • 肺血流の減少による酸素化障害
  • 全身の低酸素症、チアノーゼ
  • 運動耐容能の低下

再狭窄や血栓形成

  • バルーン治療後の再狭窄
  • 人工弁使用時の血栓リスク

社会的影響

  • 小児の成長発達の遅れ、学業・就労への支障
  • 家族の介護負担、医療費負担

肺動脈狭窄は心肺循環に大きな影響を与える疾患であり、関連病態の包括的管理が必要です。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

日本小児循環器学会「先天性心疾患診療ガイドライン」(https://jspccs.jp/)

MSDマニュアル プロフェッショナル版「肺動脈狭窄」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)

国立成育医療研究センター「先天性心疾患の診療」(https://www.ncchd.go.jp/)

■ この記事を監修した医師

石見 成史医師 いしみ内科・心臓内科クリニック

大阪医科大学 卒業

父、祖父の代より60年以上、地元の健康を守るお手伝いをしてきました。
今まで循環器内科を専門として、心不全、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)、不整脈、下肢閉塞性動脈硬化症(足の痛みや、足の傷など)を主に治療してきました。
これからは父が行ってきた診療に加え、胸の症状(動悸、息切れ、胸の痛みなど)、足の症状(足の痛み、傷など)などで困ることがあればいつでもご相談ください。

2011年3月 大阪医科大学卒業
2011年4月 大阪大学医学部付属病院 初期研修医
2012年4月 大阪府立急性期・総合医療センター(現大阪急性期・総合医療センター) 初期研修医
2013年4月 大阪大学医学部付属病院 循環器内科 入局
2013年4月 大阪府立急性期・総合医療センター(現大阪急性期・総合医療センター) 心臓内科
2016年4月 JCHO星ヶ丘医療センター 循環器内科
2019年7月 大阪南医療センター 循環器内科
2021年1月 医療法人 石見医院 継ぐ

  • 公開日:2026/02/17
  • 更新日:2026/02/17

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