特発性器質化肺炎とくはつせいきしつかはいえん
特発性器質化肺炎(COP)は、原因不明の慢性肺炎の一種で、乾いた咳や息切れが特徴です。多くはステロイド薬に反応しますが、再発もあり、慎重な経過観察が求められます。
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特発性器質化肺炎とは?
特発性器質化肺炎(COP: cryptogenic organizing pneumonia)は、原因が特定されないまま肺の末梢気道や肺胞に炎症が起き、組織(器質)成分が蓄積されることで呼吸機能に障害をもたらす疾患です。以前は「特発性BOOP(bronchiolitis obliterans organizing pneumonia)」とも呼ばれていましたが、現在は「COP」が広く使われています。
この疾患は間質性肺炎の一種に分類されますが、通常の感染性肺炎とは異なり、抗菌薬に反応せず、経過が長引くのが特徴です。風邪のような初期症状に始まり、咳や微熱が数週間から数か月持続するケースが多く見られます。
レントゲンやCTでは肺に斑状の陰影が見られ、典型的には肺の外側に近い部位に出現する傾向があります。病理学的には、肺胞内に肉芽組織が増殖し、肺胞の構造が部分的に塞がれる「器質化」という現象が確認されます。
原因
特発性器質化肺炎はその名の通り、「特発性」、すなわち明確な原因が見つからない状態を指します。これに対して、明確な誘因(膠原病、薬剤、放射線、感染症など)が判明している場合は「二次性器質化肺炎」と呼ばれます。
COPは自己免疫機序が関与していると考えられており、体内の免疫系が何らかの刺激で肺の組織を攻撃してしまうことで炎症が生じるとされています。ただし、明確なトリガーが見つからないため、診断には慎重な除外診断が必要です。
まれに、COPの発症後に膠原病(関節リウマチや多発筋炎など)が顕在化することもあるため、初診時にはリウマチ因子や抗核抗体、抗ARS抗体などの自己抗体検査が行われます。さらに、職業歴や薬剤の服用歴も重要な診断手がかりとなります。
症状
COPの症状は多くの場合、風邪や軽い肺炎のように始まります。主な症状は乾いた咳、軽度の発熱、呼吸困難、倦怠感、胸の不快感などで、特に咳が数週間以上続くことで受診する例が多く見られます。
乾性咳嗽(痰を伴わない咳)は頑固で、夜間や会話時に強く出現し、患者のQOL(生活の質)を著しく損なうことがあります。呼吸困難は運動時に出現し、進行すると安静時にも息切れを感じるようになります。
COPの病態は、肺胞と細気管支に炎症が起き、その内部に線維化を伴う肉芽組織(器質化物)が蓄積されることで気流が妨げられ、ガス交換効率が低下することに起因します。肺の一部が空気で満たされにくくなるため、呼吸困難が出現します。
また、胸部X線やCT検査では、肺の外側に多発する斑状の浸潤影や、すりガラス様の陰影が確認されることがあり、こうした画像所見は診断のヒントとなります。症状が悪化するまで数週間かかることが多く、「長引く風邪」や「治らない肺炎」として扱われることも少なくありません。
診断方法と治療方法
診断
診断には胸部X線や高解像度CT(HRCT)による画像検査がまず行われます。典型的な所見として、肺の辺縁部に多発する浸潤影や移動性の斑状陰影が見られます。ただし、これだけではCOPと確定できないため、除外診断が重要です。
感染症、悪性腫瘍、膠原病、薬剤性肺炎などを否定するために、血液検査、喀痰検査、自己抗体検査などが行われます。また、気管支鏡検査(BAL:気管支肺胞洗浄液採取、TBLB:経気管支肺生検)により組織検査が実施され、肺胞内の器質化病変が確認されることで最終診断に至ります。
治療
治療の第一選択は副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)の内服です。多くの患者でステロイドに良好な反応を示し、投与開始後数日〜数週間で症状や画像所見が改善します。ただし、ステロイドは副作用(高血糖、骨粗鬆症、免疫抑制など)を伴うため、投与量や期間には注意が必要です。
寛解後も数か月〜1年以上かけて少しずつ減量しながら治療を継続しますが、再発は約30%前後に認められるとされます。再発時にもステロイドが有効なことが多く、早期発見・再治療が予後改善の鍵となります。
予後
COPは、適切に診断され、ステロイド治療が行われれば比較的良好な予後が得られる疾患です。多くの患者が数週間から数か月の治療で臨床的な寛解に達します。
ただし、約3〜4割の患者では数か月〜数年以内に再発を経験し、ステロイドの再投与が必要になります。再発は治療中断や急な減量時、あるいは上気道感染を契機に起こることが多く、治療期間中は慎重な経過観察が必要です。
また、まれにステロイドに反応しにくい難治性の例や、繰り返す再発によって肺が線維化し、不可逆的な換気障害を残す症例も報告されています。そのため、再発を繰り返す患者では慢性の間質性肺疾患としての側面も考慮した長期フォローが重要となります。
予防
COPの明確な予防法は確立されていませんが、再発や悪化を防ぐための生活習慣の見直しや感染対策が重要です。特に上気道感染症(風邪、インフルエンザ、新型コロナなど)は発症や再燃の誘因となりやすいため、日頃からの手洗い、マスク着用、ワクチン接種(インフルエンザ・肺炎球菌)などが推奨されます。
また、禁煙はもちろん、室内の換気やハウスダストの除去、ペットアレルゲンへの配慮も役立ちます。さらに、無理な減薬や自己判断による治療中断は再発の原因となるため、医師の指導のもとで慎重に治療を進めることが大切です。
再発が多い病気であることを理解し、症状がなくても定期的に受診し、CT検査や肺機能検査によるチェックを怠らないことが、予防的管理として重要です。
関連する病気や合併症
COPは、他の疾患と誤診されやすい特徴を持つため、鑑別診断が極めて重要です。代表的な鑑別疾患には、肺がん、肺結核、感染性肺炎、薬剤性肺障害、膠原病関連間質性肺炎などがあります。
また、二次性器質化肺炎として、関節リウマチや多発筋炎などの膠原病、抗がん剤や抗生物質による薬剤性肺障害、放射線照射後の肺障害などが知られており、初診時にはそれらの関連性も調べる必要があります。
COPそのものが特定の合併症を引き起こすことは少ないですが、再発を繰り返す過程で肺が線維化し、間質性肺疾患(ILD)として慢性化する可能性があります。これにより、呼吸機能が低下し、慢性的な呼吸困難や酸素療法が必要となることもあります。
特に高齢者では、肺機能の低下と加齢性の全身状態悪化が合わさり、日常生活動作(ADL)の低下にもつながるため、包括的な診療体制が求められます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 日本呼吸器学会「特発性器質化肺炎」(https://www.jrs.or.jp/)
- 国立国際医療研究センター「間質性肺炎と診療」(https://www.ncgm.go.jp/)
■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。
日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。
- 公開日:2025/07/08
- 更新日:2025/07/10
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