ブドウ球菌感染症ぶどうきゅうきんかんせんしょう
ブドウ球菌感染症は、主に黄色ブドウ球菌などのブドウ球菌によって起こる感染症の総称です。とびひやできものなどの皮膚感染から、肺炎・心内膜炎・骨髄炎・敗血症、毒素による食中毒や毒素性ショック症候群まで、軽症から重症までさまざまな病態があります。早期の受診と適切な抗菌薬治療が重要です。
目次
⚫︎ブドウ球菌感染症とは?
ブドウ球菌は、顕微鏡で見るとブドウの房のように丸い菌が固まって見えることから名付けられた細菌のグループです。
グラム染色という色付けの検査では紫色に染まる「グラム陽性球菌」に分類されます。
人の皮膚や鼻の中には、ブドウ球菌(とくに黄色ブドウ球菌)が普通に住みついており、多くの場合は害を及ぼしません(常在菌といいます)。しかし、傷口から体の中に入り込んだり、免疫力が落ちているときなどに増えすぎると、さまざまな感染症を引き起こします。
代表的な病気には、次のようなものがあります。
- 皮膚の感染症(とびひ、毛嚢炎、できもの、蜂窩織炎、膿瘍など)
- 乳腺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、脊椎炎
- 肺炎、膿胸、菌血症・敗血症、感染性心内膜炎
- 毒素による食中毒、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、毒素性ショック症候群 など
また、通常の抗菌薬が効きにくい「MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)」もブドウ球菌の一種で、入院中の方や基礎疾患のある方では注意が必要です。
⚫︎ブドウ球菌感染症の原因
ブドウ球菌自体は身の回りに広く存在しますが、次のような状況で感染症を起こしやすくなります。
- 皮膚や粘膜のバリアが壊れたとき
- すり傷、切り傷、虫刺され、手湿疹やアトピーを掻きこわした部位などから菌が入り込みます。
- この部分で菌が増えると「できもの」や蜂窩織炎、手術後の創感染などを起こします。
- 人から人への接触
- 皮膚にブドウ球菌を持っている人と肌が触れ合ったり、タオルや寝具、スポーツジムの器具などを共用することでうつることがあります。
- 糖尿病、慢性腎臓病、がん治療中などで免疫が低下している方
- ステロイドや免疫抑制薬を使用中の方
- 手術後や長期入院中の方では、同じブドウ球菌でも重い感染症につながりやすくなります。
⚫︎ブドウ球菌感染症の症状は?
どの部位に感染するかによって症状は大きく変わります。主なパターンを簡単にまとめると次のようになります。
皮膚
とびひ(伝染性膿痂疹)、おでき(毛嚢炎)、蜂窩織炎、乳幼児の熱傷様皮膚症候群など、赤み・腫れ・水ぶくれ・かさぶた・痛みを伴う症状がみられます。
乳腺・骨・関節
授乳中の乳腺炎、強い痛みと腫れを伴う化膿性関節炎、長く続く骨や背中の痛みを伴う骨髄炎・脊椎炎などがあります。
肺・心臓・血液
発熱・咳・たん・胸痛のある肺炎、発熱や息切れが続く感染性心内膜炎、高熱や悪寒・血圧低下・意識障害を伴う菌血症・敗血症など、命に関わる状態になることもあります。
毒素による症状
食後数時間以内の激しい吐き気・嘔吐・腹痛・下痢を起こすブドウ球菌食中毒や、高熱・全身の発疹・血圧低下などを伴う毒素性ショック症候群など、急激に悪化するタイプもあります。
⚫︎受診の目安
次のような場合には、早めに医療機関の受診を検討してください。
- 発熱が数日以上続き、悪寒やだるさが強い
- 傷や虫刺され、湿疹の周囲が赤く腫れて熱を持ち、強い痛みがある
- 膿が出てくる、赤い線が皮膚に沿って伸びている
- とびひのような水ぶくれやかさぶたが増えている、広がっている
- のどの痛みや咳・たんが続き、高熱や息苦しさを伴う
すでにブドウ球菌感染症やMRSA感染症と診断されている方で、
- 解熱剤を使っても高熱が続く
- 息苦しさが増す、胸痛が出てきた
- 意識がもうろうとする、冷汗・強いふらつきがある
- 腫れや痛みが急に悪化した場合は、敗血症や深部感染に進行している可能性があるため、早急な再受診が必要です。
急な激しい胸痛、強い呼吸困難、意識障害、立てないほどの血圧低下などは、救急受診のサインです。自己判断で様子を見すぎず、救急要請も含めて速やかに医療機関を受診してください。
⚫︎診断方法と治療方法(全体像)
診断は
- 症状と診察所見
- 血液検査や尿検査
- 細菌検査(グラム染色・培養)
- 必要に応じた画像検査
などを組み合わせて行います。
治療の中心は抗菌薬(抗生物質)ですが、膿がたまっている場合には切開・排膿、感染源になっているカテーテルや人工物の抜去など、「原因を取り除く治療」も非常に重要です。重症例では入院して点滴治療や集中治療を行います。
⚫︎ブドウ球菌感染症の診断
1)問診・診察
- 発熱の経過(いつから・どのくらいの熱か)
- 傷や皮疹の有無、広がり、膿の有無
- 咳・たん・胸痛・息切れ、腹痛・下痢、関節や骨の痛み
- 手術歴、カテーテルや人工関節などの有無
- 糖尿病や腎臓病、がん治療中などの基礎疾患の有無
診察では、皮膚の赤み・腫れ・膿、関節の腫れと可動域、心音・呼吸音、血圧や脈拍、意識状態などを全身的に確認します。
2)血液・尿検査
- 炎症反応(CRP)、白血球数、肝機能・腎機能を調べ、全身の状態を把握します。
- 敗血症が疑われる場合は、血液培養を複数回行い、血液中に菌がいないか調べます。
- 尿検査で尿路感染の有無を確認することもあります。
3)細菌検査
- 膿、喀痰(たん)、のどぬぐい液、尿、血液などを採取し、グラム染色で「グラム陽性球菌らしいかどうか」を確認します。
- その後、培養で菌の種類(黄色ブドウ球菌かどうかなど)を特定し、薬剤感受性試験で「どの抗菌薬が効きやすいか」「MRSAかどうか」を調べます。
4)画像検査
- 胸部レントゲンやCTで肺炎や膿胸の有無を確認します。
- 骨髄炎や関節炎が疑われる場合は、MRIや骨シンチなどで詳細を評価します。
- 感染性心内膜炎が疑われる場合は、心エコー検査で心臓弁の状態を確認します。
⚫︎ブドウ球菌感染症の治療
A. 抗菌薬治療
- 軽い皮膚感染やとびひなどでは、ペニシリン系やセフェム系などの内服抗菌薬が使われることが多いです。
- 肺炎、骨髄炎、心内膜炎、敗血症など中等症〜重症の場合は、入院して点滴の抗菌薬を使用します。
- MRSAなど耐性菌が疑われる、もしくは検査で確認された場合には、専用の抗MRSA薬を使うことがあります。
抗菌薬は、症状が軽くなっても自己判断で中断せず、医師の指示通りの期間きちんと服用することが大切です。途中でやめると菌が生き残り、再発や耐性菌の原因になります。
B. 感染源のコントロール
- 膿瘍(うみのたまり)は、切開して外に出す「切開排膿」が必要なことが多く、これをしないと抗菌薬だけでは治りにくいことがあります。
- 感染源と考えられるカテーテルや点滴ルート、人工関節などは、主治医と相談のうえ、抜去・交換を検討します。
C. 全身管理
- 敗血症や重症肺炎では、点滴による水分補正、血圧を保つ薬、酸素投与、場合によっては人工呼吸など、集中治療が必要となることがあります。
- 糖尿病や心不全、腎不全などの持病がある場合は、そのコントロールも並行して行います。
D. 再発予防・生活上の注意
- 傷は清潔に保ち、必要な範囲でガーゼや絆創膏で保護します。
- 自己判断で市販の抗菌薬軟膏や飲み薬を長期間使い続けることは避け、悪化や長引きがあれば受診しましょう。
- やバランスのよい食事など、基本的な生活習慣も再感染の予防に役立ちます。
⚫︎ブドウ球菌感染症の予後
軽い皮膚感染症やとびひなどは、適切な治療とケアにより、数日〜1〜2週間程度で改善することが多いです。
一方で
- 敗血症
- 感染性心内膜炎
- 骨髄炎
- 重症肺炎
- 毒素性ショック症候群
などは、治療が遅れると命に関わることがあります。また、骨の変形や心臓弁の障害などの後遺症が残る場合もあります。
早期に受診し、原因菌や薬剤感受性に合った抗菌薬をできるだけ早く開始することが、予後を良くする上でとても大切です。
⚫︎ブドウ球菌感染症の予防
ブドウ球菌は身の回りに広く存在するため、完全にゼロにすることはできませんが、次のような工夫で感染リスクを減らすことができます。
手洗い・うがいなど基本的な衛生習慣
- 外出先から帰ったとき、トイレの後、食事や調理の前後には、石けんと流水での手洗いを心がけましょう。
- 咳やくしゃみが出るときはマスクやハンカチで口と鼻をおおい、飛まつを周囲に飛ばさないようにします。
傷のケアを丁寧に
- すり傷や切り傷は、水道水でよく洗い流して汚れを落とし、清潔なガーゼや絆創膏で保護します。
- 赤み・腫れ・痛み・膿が出てくるなど変化があれば、早めに受診を検討してください。
タオルや衣類の共用を避ける
とびひが疑われるときや皮膚感染症があるときは、家族間でもタオル・寝具・衣類の共用を避け、こまめに洗濯しましょう。
食中毒対策
調理前の手洗い、十分な加熱、調理後はなるべく早く食べる、長時間室温で放置しないといった基本的な食中毒対策が、ブドウ球菌食中毒の予防にも役立ちます。
基礎疾患のコントロール
糖尿病や慢性腎臓病などがある場合は、定期的な診察と薬の内服を守り、血糖・血圧などを安定させることで、重症感染症のリスクを減らせます。
病院内での感染対策
- 入院中や医療機器(点滴、カテーテル、人工関節など)が入っている方は、医療者から説明される注意点を守ることが大切です。
- 面会時には、手指消毒やマスク着用など、病院のルールに従うことで院内感染のリスクを下げられます。
⚫︎ブドウ球菌感染症に関連する病気や合併症
皮膚・軟部組織の病気
- 伝染性膿痂疹(とびひ)
- 毛嚢炎、せつ・よう(おでき)
- 蜂窩織炎、丹毒
- 皮下膿瘍、術後創感染
深部感染症
- 乳腺炎
- 化膿性関節炎
- 骨髄炎、脊椎炎
- 肺炎、膿胸
- 感染性心内膜炎
毒素による病気
- ブドウ球菌食中毒
- ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群
- 毒素性ショック症候群
重い合併症
- 菌血症、敗血症、敗血症性ショック
- 心不全、腎不全、呼吸不全
- 多臓器不全、播種性血管内凝固(DIC)など
これらは、早期診断と適切な治療によって大きく予後が変わります。「ただのできもの」「ただの風邪」と軽く見ず、気になる症状が長引く・強くなるときは早めに相談することが大切です。
⚫︎まとめ
ブドウ球菌感染症は、身近な細菌であるブドウ球菌が原因となる感染症の総称で、軽い皮膚感染から命に関わる敗血症・心内膜炎まで幅広い病態があります。
傷口の赤みや腫れ、膿、発熱、息苦しさ、強いだるさなど「いつもと違う症状」が続くときは、早めに受診することが大切です。
診断にはグラム染色や培養検査を用い、結果に応じた抗菌薬や外科的処置、全身管理を行います。
手洗い・傷のケア・食事や医療機器の衛生管理、抗菌薬の正しい使用が、ブドウ球菌感染症の予防と重症化予防につながります。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「ブドウ球菌感染症」
(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/13-) - MSDマニュアル家庭版「黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症」
(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/16-)
■ この記事を監修した医師
赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2026/03/03
- 更新日:2026/03/03
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