アルコール性肝硬変あるこーるせいかんこうへん
アルコール性肝硬変とは、長期間の多量飲酒によって肝臓に線維化が進行し、肝機能が著しく低下した状態です。自覚症状が少ない初期を経て、黄疸や腹水、肝性脳症などの重篤な合併症が現れます。禁酒と適切な治療によって進行を抑えることが可能です。
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アルコール性肝硬変とは
アルコール性肝硬変とは、長年にわたる過剰な飲酒により、肝臓の慢性的な炎症が続いた結果として、肝細胞が破壊され、その代わりに線維組織が蓄積して肝臓が硬く変化した状態を指します。これは肝疾患の終末像ともいえる重篤な病態です。
正常な肝臓は柔らかく再生能力が高い臓器ですが、炎症と修復を繰り返すうちに構造が破壊され、血液の流れも妨げられ、さまざまな合併症を引き起こすようになります。アルコール性肝硬変では、禁酒を続けることである程度の肝機能維持が可能なケースもありますが、進行した状態では回復は難しく、肝がんや肝不全への移行に注意が必要です。
肝硬変は、機能が代償されている「代償期」と、症状が顕在化する「非代償期」に分けられ、非代償期になると命に関わる合併症が現れます。
原因
原因の中心は、長期間かつ大量のアルコール摂取です。アルコールの代謝過程で生じるアセトアルデヒドや酸化ストレスが肝細胞を傷害し、炎症と線維化が進行します。
主な原因
- 長期間の過剰飲酒:男性で1日60g以上、女性で40g以上の純アルコール摂取を10年以上継続
- 断続的な大量飲酒:連続飲酒でなくても、一定の量を繰り返すと肝臓に負担
- 飲酒と栄養障害:タンパク質・ビタミン不足が肝の修復を妨げる
- 肥満や糖尿病:アルコールと代謝異常が重なることで線維化が進行
- 遺伝的要因:ALDH2活性が低い人はアルコールによる肝障害を受けやすい
- アルコール性肝炎の反復:肝炎を繰り返すことで徐々に線維化が進行
アルコール性肝障害の軽度段階で禁酒を実践できれば肝硬変への進行を予防できます。
症状
アルコール性肝硬変は、初期には自覚症状が乏しいことが多く、進行とともにさまざまな症状や合併症が現れます。以下は代表的な症状です。
代償期の症状(軽度~中等度)
- 無症状のことが多い
- 倦怠感、疲れやすさ
- 食欲不振、体重減少
- 右上腹部の鈍い痛み
- 皮膚のかゆみ
非代償期の症状(進行期)
- 黄疸:皮膚や白目が黄色くなる
- 腹水:腹部膨満感や呼吸困難の原因にもなる
- 浮腫:下肢を中心としたむくみ
- 出血傾向:鼻血や歯ぐきからの出血、皮下出血など
- 食道静脈瘤破裂による吐血
- 肝性脳症:意識障害、混乱、けいれん、昏睡
女性化乳房、手掌紅斑、クモ状血管腫:ホルモン代謝異常による症状
症状が現れた時点で病気がかなり進行していることが多く、迅速な対応が必要です。
診断方法と治療方法
診断
- 問診:飲酒歴、服薬、家族歴、体重変化、生活習慣など
- 血液検査:AST、ALT、γ-GTP、ビリルビン、アルブミン、PT-INR、血小板数、M2BPGi、AFPなど
- 画像検査
- 腹部超音波:肝臓の萎縮、表面の凹凸、脾腫、腹水の有無
- CT/MRI:肝の構造変化、腫瘍、門脈血流の評価
- FibroScan(エラストグラフィ):肝の硬さ(線維化)を非侵襲的に測定 - 内視鏡検査:食道静脈瘤の有無を確認
- 肝生検(必要時):線維化の程度や肝がんの診断に使用されることも
治療
- 完全禁酒:治療の最重要項目であり、肝機能の安定化や進行抑制に効果がある
- 栄養療法:高エネルギー・高タンパク・ビタミンB群、亜鉛の補給
- 薬物治療:肝保護薬(ウルソデオキシコール酸など)、肝性脳症に対するラクツロース、利尿剤(腹水対策)など
- 食道静脈瘤の予防または止血治療(内視鏡的結紮術など)
- 肝移植:重症例で回復が望めない場合
治療の中心は禁酒と合併症管理であり、定期的な経過観察が必須です。
予後
アルコール性肝硬変の予後は、肝機能の程度と禁酒の可否によって大きく左右されます。代償期で発見され、禁酒を継続できれば長期的に安定した生活を送れる可能性があります。
予後が良好な場合
- 代償期で発見され、禁酒が継続できている
- 栄養状態が良好で、合併症のコントロールができている
- 肝がんや静脈瘤出血のスクリーニングを継続している
予後が不良な場合
- 禁酒が継続できない
- 非代償期に移行している
- 肝がん、静脈瘤破裂、肝性脳症など重篤な合併症を発症している
- 肝移植の適応があるにもかかわらず実施が困難な場合
アルコール性肝硬変は、禁酒と早期治療が予後を左右する決定的な要因です。
予防
アルコール性肝硬変は、原因が明確であるため、予防も比較的実行しやすいとされています。飲酒習慣の見直しが最大の予防策です。
飲酒の管理
- 適正飲酒量を守る:男性で20g/日未満、女性は10g/日未満が目安
- 連続飲酒を避け、週に2〜3日の休肝日を設ける
- 一気飲みや空腹時飲酒を避ける
- 定期的に自身の飲酒量を見直す
生活習慣の改善
- 栄養バランスの良い食事(ビタミン・タンパク質を多く)
- 適度な運動で肝臓脂肪を減らす
- 肥満、糖尿病、高脂血症の管理
- 定期健康診断を受け、肝機能異常の早期発見に努める
特にアルコール性脂肪肝や肝炎を指摘されたことがある人は、肝硬変へ進行しないよう早期から禁酒が必要です。
関連する病気や合併症
アルコール性肝硬変は、さまざまな全身疾患や合併症の引き金となります。以下のような病態に注意が必要です。
肝臓関連の合併症
- 肝性脳症:アンモニア代謝障害による意識障害
- 腹水・浮腫:低アルブミン血症や門脈圧亢進による
- 食道・胃静脈瘤:門脈圧亢進により拡張し、破裂すると出血性ショックを起こす
- 肝がん(肝細胞がん):肝硬変を背景に発症しやすい
- 出血傾向:血小板減少、凝固因子低下により出血しやすくなる
肝外の影響
- 糖尿病:肝機能障害とインスリン抵抗性が関連
- 栄養障害:ビタミン・ミネラル不足
- 骨粗鬆症:長期肝疾患に伴う代謝障害
- アルコール依存症:再飲酒による症状の悪化、生活機能低下
これらの病態を防ぐためにも、肝硬変の段階に至る前の対応と禁酒の徹底が不可欠です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本肝臓学会「アルコール性肝疾患診療ガイドライン」(https://www.jsh.or.jp/)
厚生労働省e-ヘルスネット「アルコール性肝硬変」(https://kennet.mhlw.go.jp/home)
国立国際医療研究センター「肝硬変の診断と治療」(https://www.ncgm.go.jp/)
日本消化器病学会「アルコール性肝障害と肝硬変」(https://www.jsge.or.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/16
- 更新日:2025/07/16
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